〝ワンダーランド〟観察記録 作:C&CJ社
次元。それは三次元とか、四次元とか言われる、世界や存在の
三次元とは我々の住むこの宇宙のこと。
四次元とはそんな我々の住む宇宙───空間が、過去から未来にかけての時間の方向に限りなく積み重なったもの。
五次元はその四次元という『時間』が、さらに限りなく並列して存在している次元。
それはつまり、三次元という本のページ一切れが無限に集まって一つの本……四次元となり、その本がさらに無限に並べられた書店……五次元となり……というような構造。
またはその書店そのものが無限に立ち並ぶ街そのものである六次元。そんな街が無限に存在する国そのものである七次元。
こうした構造が、それこそ無限に連なっている。
それは、宇宙の構造にして本性の一つであった。
相も変わらず地道な観察を続けていたかと思えば、今日の研究所は珍しく慌ただしい様相だった。
それもそうだろう。ワンダーランドの存在が、高次元にシフトしかけていたからだ。
「定点カメラ消失しました! 丸一日分の映像記録が全ロスト!」
「危険だからカメラと記録は回収しなくていい! それより高次元にシフトする『ワンダーランド』の影響を受けて『こちら側』まで大規模な時空変動が起きないよう早急に防御するんだ!」
「『ワンダーランド』のシフト速度急激に上昇! 次元階層の上昇限界が測定できません!」
「慌てるな! 今までもそうだったように『ワンダーランド』は我々の存在する宇宙とは異なる構造の時空間であって、直ちに影響は出な……」
ガグンッ! と、施設の設備がかろうじて倒れたり壊れたりしないギリギリほどの、震度で計れば四から五ほどの揺れがモニタールームを襲う。
瞬間、それまでモニタールームのコンピュータが高速で演算し弾き出していた、ワンダーランドの次元上昇に伴う時空変動の値が再び安定する。
まるでそれまでの事態がなんでもなかったかのように時空に安寧が取り戻される。
「……終わった……のか……?」
「そのようですね……しかしまた一体何故……」
ワンダーランドの上昇した次元は、既に無限に到達していた。
というより、ワンダーランドは我々の知る時間や因果の概念を超越した存在であるため、「既に到達していたという事実」を、ようやく現実も認識し、追い付いたと表すべきか。
とにかく、元から人間の観測可能な領域の外側に存在していたワンダーランドは、より人類の理解の外へと行ってしまったということである。
そもそも、ワンダーランドを理解しようということ自体が愚かだったのかもしれない。
人類の既知の概念のことごとくを超えた先のものの、そのかろうじて「未だ人類の既知の概念に接触している部分」を切り取って見ようとしただけなのだ。
そしてその部分すら正確な観測ができるか怪しい状況になった。
とはいえ、人類も全く研究の手筈が整っていないわけでもない。
ワンダーランド研究の副産物として観測された『女王』との接触により生まれた、人類側の超常にして、いわゆる超能力者『アリス』が居る。
想像、夢と現実世界の架け橋となる、想像を現実に変え、現実を想像に変える力。
それはまさに、夢の世界だとか、架空の世界だとか、そういった実在しないはずの世界を確固たる現実にすること。
より正確に言うなら、元よりそういう世界は現実に存在こそしていた。ただ、夢の側からは現実に干渉できても、現実の側からは夢に干渉できなかったのだ。
それを現実側から干渉できるように、夢と現実を隣り合わせたことこそが、『アリス』の能力者の功績だったのである。