ただいまにさようなら 作:Interdiu
「これも、想像ですけどね」
しばし沈黙したマイスへと呼びかけるように、オンドルファは続けた。
「あの偉大で疫病神な守り神様は、あなたにある種の手術を施したのではないでしょうか。魔術的、かつ外科的な手術をです」
「手術、ですか?」
マイスは驚いて、小さくはっとする。
「いったい、どんな?」
「ええ。
手術という言葉からはかけ離れて聞こえる微細な世界での話ですが、他に言いようもありません。
おそらく内実はこのようなものだったと思います。
まず、ある一定のパターンで記憶に働きかける魔術式を組む。
働きかけの内容は、あなたの持つ記憶の中での特定のつらなりを、一定の間隔でぶつ切りにしてしまうこと。
記憶の繋がりというものは膨大で、多岐に渡り、またスパゲティのようにこんがらがっていますから、いかなネイティブドラゴンと言えど手作業でひとつずつこなすのには無理があるはずです。
その点術式として組んでしまえば、一定のパターンに従って自動化することが出来て便利がいい。
ただ、このやり方の場合だと臨機応変な処置というのができませんから、あなたから記憶を奪い去るにあたって、大なり小なりトラブルの火種を抱え込むことになってしまう」
「その火種が煙を吹いた、というわけですか。
今の僕の症状は」
「おそらくは」
オンドルファは、ほっそりと白い人差し指を立ててみせた。
「推測と、事実とは、わりあい簡単に辻褄を合わせることができますよ。
仮に絶たれていたところが偶然もう一度繋がりを持ったとします。
すると、その繋がりから見てひとつ前に絶たれたところから、ひとつ次に絶たれたところまでの限定的な記憶だけが蘇ってしまう。
今、マイスさんが置かれている状況というのは、このケースではないかと思います。
ひどく大きな記憶の切れ端が無造作に脳裏に浮かんでいて、それが馴染みのないものだから、尚更目について、日常生活に大いに支障が来されている」
なるほど、とマイスは頷く。
オンドルファは小さくため息をついて一息入れると、唇の端に苦笑いを浮かべてそのままで続けた。
「今のようになってしまう可能性は、高くはなかったろうけれど、かといってそう低いわけでもなかったことでしょう。
ネイティブドラゴンと言えど、万能ではありません。
いつ偶然絶たれたところがもう一度繋がりを持つかだなんて、誰にも分かりはしません。
神ならぬ人の身ゆえにと言いますが、ヒトと龍の違いだなんて、ヒトと神との違いに比べればほんの取るに足らない差でしかないのですから。
どこかしらで妥協は必要とされる。
作物の実りを願うように、これ以上は運を天に任せる、というね。
あなたもよくご存知のとおり、それは、やむを得ないことだと言えます」
もっとも、あなたにとってみれば、勝手にいい加減な仕事をされてしまったということで、ずいぶんな話だということには変わりないのですが。
オンドルファは据わりの悪い同情の顔つきでそう呟き、一通り終わった。