ただいまにさようなら 作:Interdiu
「さしあたり、ゴーレムのコアを造る際の技術を使うことができるでしょう」
今後の指針についてのマイスの問いを受けて、オンドルファは予め考えてあったらしく、早速机の上に陣を引き、その上に半ば透きとおった紫色の立方体を浮かび上がらせてみせた。
その造形に、マイスは見覚えがあった。
村の北でときおり駄々をこねている、あの骨の怪物が胸のうちに秘める本体と、良く似ている。
「このコアのなかに、あなたの記憶のつらなりを転写する。
そうして、そのなかで不自然に切断されたり、組み替えられたりした痕跡を探していく。
前述のとおり、たぶんその痕跡には一定の法則性が見られるはずです。
首尾よくその法則を見つけられたなら、その法則通りに逆算して元に戻せるような魔術数式をひねり出し、その数式をコアに適用する。
そうして、あなたは今のあなたと以前のあなたのモデルケースとを同時に手にすることができる。
あとは選ぶだけです」
「選ぶ?」
「ええ。
あなたは可能性を手にすることができる。
ネイティブドラゴンが行った施術をもう一度繰り返すこともできるし、以前の施術をキャンセルして、元通り記憶を取り戻すこともできるでしょう。
二つのうちどちらを選ぶのかは、あなたの自由。
ただし、良く考えてくださいね。
ヒトとはあらゆる面で柔軟な存在ではあるけれど、無機質な数式のように後腐れなく足し引きができるわけではありません。
どちらの場合にせよ、取り返しのつかなくなる部分はあるのですから」
オンドルファは二本の指を立てて、それぞれを反対の手で指さしながら続けた。
「仮に施術を重ね重ね行うとなれば、いずれあなたの中に残っている過去の記憶は、もはや蘇らせるに足るだけの確かさを失ってしまい、永遠に取り戻すことはできなくなってしまうでしょう。
また、もう一つの選択肢、あなたが以前のあなたを取り戻すとなれば、それはさしずめ、過去と今、ふたつのあなたが一堂に会し、お互いの妥協点を共に探り合うことになるはずです。
それはあなたにとって、いわば事件です。
その事件が果たしてあなたにどんな精神的影響を与えることになるのか、誰にも分からない」
マイスは、神妙な表情で聴き届けた。
すべては墓石のように確からしく厳かな事実だと彼は思う。
何年もの昔に忘れ去られた過去の世界は、それでも今もなお同じ場所で、苔むしてひっそりと佇み続けている。
それがそこにある以上、伸るにせよ、反るにせよ、いつかはその前に立たなければならない。
マイスはそのことを知っている。
決められているとか、定められているだとか、そういったわけではなくて、ただひたすら彼はそのことを、知っていたのだった。
「そうですね、オンドルファさん」
やがてマイスは、決意と諦めが入り交じった顔つきで、自分自身に向かって言い聞かせるように呟いた。
「僕は、選ばなければいけないらしい。
考えてみることにします。
いずれ決められると思います。
きっと。きっと」
オンドルファは、そんな彼のことを無表情のまま見つめ、やがて目を細めると、小さく頷いた。
「それでは、早速----」