頼れる仲間はみんな目が据わってる   作:佐渡ヶシマシマ

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五話・ルーキー、タイム

 

 酒場で色々あったその、すぐ翌日。

 あれだけ酒を呑んでいたのに二日酔いもなしでピンピンしているククラータに急かされるようにして、アスタと俺は冒険者ギルドまでやってきた。

 

 

 目的はふたつ。

 最近浅い階層ばかりをわずかに探索してそのまま即脱出していたが、その中で獲得した戦果の換金ないし受け取りについて。

 そして、散々ククラータに言われていた、一党のリーダー役職の変更だ。

 

 冒険者がダンジョンに潜るために作る一党は、大人数で『団』のように数十人規模のところもあれば、俺たちの様に数名がチームを組んでいるところまで様々。

 人数の多い所のリーダー、頭目ともなれば、利益の分配からメンバーの風紀是正に管理、そのほか諸々裏であくせくしなければいけないだろう。ギルドから定期的に求められる書類仕事なんかも最終的な判はリーダーが押さなくちゃいけない。

 人のトップに立つのなら、責任は付きまとう。それがいかに危険を冒すのが仕事、などと言われる冒険者であろうとも、だ。

 

 とはいえ少人数の中の代表者、みたいなリーダーである自分たちのようなところなら、その責任も少ない。そもそも自分たちのパーティは誰か一人がトップということもなく、全員でそれぞれ役割を分担している。リーダーが変わったところで、精々ギルドに足を運ぶ回数が増えるくらいで済むだろう。

 

 そのため、何度かククラータとアスタ、そこに俺が組み込まれる形で何度か話し合いはあった。

 俺よりも、アスタをリーダーとして登録し直すべきである、と。

 

 正直最初はむしろ、俺もアスタをリーダーにした方がいいんじゃないかと言う側だった。

 アスタは子供の頃とは違い、今は物をはっきりと言う人間だ。物腰は柔らかく穏やかなやつだが、芯はまっすぐで毅然としている。見た目にも華があるし、背も高いし、そもそも鍛え方が違う。第一印象でナメられることはまずない。

 そこは体の性が変わっても同じだった。

 けれど、今の状態のアスタにそういうことをさせるのは気が進まない。責任を負う仕事なら、せめて俺が受け持ちたい。そう言って俺は当初の言葉を翻して、ククラータの提案を断ってきた。

 一方のアスタはどうかというと、彼は俺がリーダーであるべきだと思っているらしく、ククラータの言葉には決して頷かなかった。それは、あの罠にかかる前と後とで変わらずだ。

 そのせいで、というべきか。そのお陰で、というべきか。

 俺はずっと、この一党のリーダ-を務めていた。

 

 しかし、どうやら昨日はなにかをククラータがアスタに吹き込んだらしく、アスタが意見を翻して自分がリーダーをやると言いだしたのである。

 正直、何を言ったのかは見当がつかない。だが、頑なになったアスタは全く譲ろうとしない。

 そうなったら、もう俺が折れるしかなかった。

 

 ギルドにつくと、受付で諸々の段取りについて相談する。

 正直報酬に関しては慣れたものだ。相手をしてくれている受付の人も顔見知りなこともあり、話はすぐにまとまる。リーダーの変更についても驚かれたが、書類の書き方から手続きの流れまで丁寧に教えて貰えた。

 

 しかし、いくらとんとん拍子とはいえどうしても時間はかかる。

 ここ最近、治療法探しを目的としたダンジョンの探索はここ最近足踏みしっぱなしだ。今日もダンジョンには潜れそうもない。

 

 

 いけない、また暗い顔をしそうになる。

 そう思い、眉を揉んでいる最中だった。

 普段から静かというわけでもないがやがやしたギルドの空気を、別種の大声が塗り替える。

 

 

「ざっけんじゃねえ! なんだこのしみったれた額はよぉ!?」

 

 ドスン。という振動と共に、サインを書こうとしていた机が揺れた。

 当然、そこで書類を書いていた俺はというと、線が思いきり書類の上を滑ってしまう。

 

 見れば、同じ横列のテーブルで受付に食ってかかっている人間がいる。奇抜な髪形にじゃらじゃらと耳に穴を空けて提げた装飾品。この辺りではあまり見なかったタイプの冒険者だ。

 

 正直に言ってしまえば、無駄なことをしている。そう思った。

 

 冒険者の数は多い。間口の広さは必然ああいう人間も冒険者に成れるということでもある。だが、一方でギルドの職員というのはああいう人間を相手にすることが多い仕事ということだ。

 特に受付というのは、怪物を腕っぷしで狩るような腕利きを、対面で相手にする仕事。胆力があり、そして万が一の際に問題が起こらないようにできる人間だけが務まるのだ。

 

 冒険者が一人凄んだところでどうにもなるまい。実際、わざとらしく備品の椅子を蹴倒し苛立ちを表現しながらも、その男の裁定は覆らなかったようだ。

 

 

「ったく、ここ最近はああいうバカが多いな。噛み付く相手を選べないもんかね」

 やれやれと、ジジ臭い台詞を吐きながらぼりぼりと頭を掻くククラータ。

 サインが歪んでしまった書類を燃やし、新しい書類を用意しながら受付の人も溜息をもらす。

 

「別のダンジョンで大きく儲けて、拠点をこちらに移した一党がいるんですよ。とはいえその手並みはあまり綺麗なものとは言えないみたいで、うちとしても少し困っていて」

 愚痴っぽいその言葉を言い終えて、『忘れてくださいね』などと微笑む。

「ラネーさんも気苦労も多いでしょう、お疲れ様です」

 そう言って、傍にいたアスタが微笑む。相変わらず、星でも散りそうなくらい眩しい笑顔だ。

 

「忘れて下さいと言ったのに、もう」

 冗談めかして言いながらも、テーブルで面と向き合う俺には、少しだけ真剣な顔になる。

 

「……これから少しだけギルド職員としてではなく、ひとりのラネーとしてお話します」

 

 曰く、先程の連中はギルド側からしても目をつけるくらいには悪い噂を聞く相手。

 証拠が掴めている事柄も、ギルドが出している最低限の規定をスレスレで躱すようなものばかり。

 厳罰に足るようなものがなく、精々注意と罰金でどうにか切り抜け続けている。

 

「皆さんも、重々お気をつけください。彼らだけではなく、彼らによって触発されてしまう別の悪意にも」

 

 言わんとしていることは、わかる。何を心配しているのかも。

 

「もう俺は、間違えません」

 

 そうだ。あの時とは、違う。

 俺は間違えない。優先順位をはき違えない。そして、もう俺は。

 

「おい」

 ククラータに言われて、はっとすれば。

 手元にあった書類には深々とペン先が突き刺さり、溢れたインクが滲んだ円形を作り出していた。

 

「あらら、雑談に気を取られ過ぎましたね」

 そう言って苦笑いを浮かべ、代わりの書類を用意するので少し待っていてくださいねと奥に引っ込むラネーさん。……間違えないと言った矢先にこれか、と自嘲が乾いた笑いとなって口の端から漏れる。

 

 俺はまだまだだ、そう思った矢先。

 

「あ」

 

 その姿を見かけ、反射的に立ち上がる。

 

 オレンジに近い赤っぽい髪色。フィグより少し高いくらいの背丈に、腰から提げた大振りな剣。アスタが両腰につけているのと長さは大差がないが、体格の違いかより長く見える。

 

 ついこの間、ダンジョンから救出した、奇しくも一党のリーダーだった少年。

 名前は、確かタイム。

「彼だね。君に恩知らずな台詞を吐いたというのは」

 と、気付けば俺の隣に立っていたアスタはそう厳しい言葉を放つ。

 

 ……待ってほしい。

 

「誰から聞いたんだ、その話」

 昨日ククラータに話を聞いて貰った時にギルドで少し気が滅入ることがあった、ということは話した。だがそれ以上のことは言っていない。

 探るように振り返ってみるが、ククラータは腕を組んで片方の眉を持ち上げた。

 

「あのなぁ、お前に付いて来て、同じようなことは何べんもあっただろうが。つかそれなりにデカい声でのやりとりだったそうじゃねえか。ちょっとそのへん歩いてた冒険者から話聞けたくらいだぞ」

 

 どうやら耳に入れないように済まそうという俺の判断が甘かったらしい。

 

「アスタ」

「わかってるよ、君はそんなことを望まない」

 

 アスタは柔和に微笑む。けれどアスタが苛立っていることは明白だった。

 確かに俺もアスタを罵られたら怒るだろう。アスタだけじゃない、仲間たちの事を悪し様に言われたら、俺自身をどうこうと言われるより遥かに怒りがこみ上げる。箍が切れたら、自分を制御できるかにも自信が持てない。

 だから嫌だったんだ、仲間たちにこのことがばれるのは。

 俺と同じ思いをしているなんて高望みかもしれないが、聞いていて気持ちのいい話じゃないだろうから。

 

 そんな風に騒いでいると、向こうにもこちらの存在に気付いたらしい。

 

 亜麻色の瞳が、憎しみと怒りを纏って俺をねめつける。そして、舌打ちと共には離れた人込みに向かっていく。

 

「すまないカイト。やはり彼女とは少し話をしないといけないらしい」

「やめてくれ、アスタ。もう彼とは話はした後だ。だからもういいんだよ」

 

 笑顔のまま拳を握るのをやめてほしい。

 怒ってくれるのは嬉しいが、これは仕方のない事なんだ。

 

「お節介が過ぎるだろ、カイトよ。テメェの不始末で罠にかかって、仲間諸共ひでぇ目に遭って、なんで助けた相手に当たんだ」

 

 呆れ口調で語るククラータ。その声はアスタや俺のものよりも大きく、わざと向こうに聞こえるんじゃないかというくらいだ。きっと、わざとやっている。

 思っている以上にククラータも怒ってくれているんだろう。けど、それを言っちゃいけない。

 

「……なら余計に俺が、『()()()()』何かを言う筋合いなんてないだろう?」

 

 そう言えば、二人は口を閉じた。

 こちらは別にわざと大きい声なんて出していない。向こうに聞こえて、恩着せがましくなるのさえ失礼だ。

 

「彼の仲間の状態はひどかった。俺がもう少し早く気付けていれば、すぐに冒険者を続けるくらいはできたかもしれない。彼自身も被害者なんだ。()()()()()()()()()()俺に刺々しく当ったとしても、それは」

「君は何も悪くない」

 仕方がない。そう言おうとした俺の言葉を打ち消すようにアスタが割り込む。

 いや、と言葉をつづけようとした俺の頬を片手で掴み、真正面に立った。元々身長の差がかなり大きいのに、今日はひどく距離が近い。そのせいで、半ば抱き合うようにな格好になっている。

 

「君は、何も」

 歯の奥を食いしばる、ぎりという音が聞こえる。……アスタもまた、何かをこらえるように。

 

 すまない。俺のせいで。

 そう言おうとした最中だった。

 

 

 

「おお? 無能なリーダー様が元チームメンバーとお外でお盛んかよ。良いご身分だなぁ?」

 

 割って入ってくる、知らない声。

 見れば、そこには先程受付で暴れていた人間と近い見た目の人間が立っていた。

 耳につけた飾りと、見るからに金のかかった指輪と武器。そのくせ防具らしきものは見えず、気取った格好をしている辺り……あのアクセサリーが、何かしらの防御力を持つダンジョン産の技術が使われた品なのだろう。

 観察していると、男たちはげらげらと笑いながら言葉を続ける。

 

「その上でウチのパーティーのメンバーに熱視線とは、欲深いねぇ」

 

 ……ウチの、パーティー?

 僅かに違和感を覚えたその台詞の直後、近づいて来た先程の少年……だったタイムは、彼らの隣に並び立つ。そして、俺を煽ってきた面々の一人がワザとらしく肩を組んだ。

 

「そ。友達で仲間で、あんたが助けられなかった奴らの治療費を稼ぐために、一時的な加入ってワケ。お前どうやら昨日コイツに粉かけようとしてたみたいだったからな、ご愁傷様ァ~」

 

 舌を出し、不必要に喧嘩を煽るような台詞を吐く男たち。

 

 

「そうか。それで、何か?」

「ハァ??」

 

 素っ頓狂な顔をする男たちに、俺は首を傾げた。

 

「いや……そっちに加入したことを報告してくれるのは義理堅いと思うが。俺も、そこの彼を無理に引き抜くつもりなんてなかった。だから、残念でしたと言われる筋合いがない」

 

 正直、そいつらはやめておいた方がいいとは思う。だが、選んだのは彼自身だ。

 なら口出しをするのは失礼だ。つまり、何か言う必要はない。

 気分はよくないが、まあ、しいて言うならおそらくは俺を煽るのが目的なのだろう。それにどんなメリットがあるのかは知らないが、乗ってやる必要もない。

 

「ケッ、ンだよ。行くぞタイム。どうやらここいらで噂になってる冒険者サマは、言い返す度胸も仲間を守る甲斐性もねぇ、タマなしの雑魚だったみてぇだな」

 

 最後まで女々しく罵倒を並べていたが、結局ぞろぞろと連中は去って行った。

 

 

 ……だが、ひっかかる。

 いや、先程の連中が俺を罵倒していたことはどうでもいい。正直ぐうの音も出ないくらいに本当のことだ。

 

 問題なのは、そのあとだ。去った後だ。

 

 何か、嫌な感じがする。

 未だに人の悪意に疎い俺が、胃の奥にむかつきを覚えるくらいに。

 

 

「アスタ、ククラータ」

 

 声を掛ける。もう見る前からわかってる。

 ククラータは表情がころころ変わるくせに本気で怒ってるときは本当に静かになる。アスタの方は、笑顔のままなのはいいが、額に青筋が浮いている。というか。俺の頬に当てていた手が震えていた。

 先程の通りだ。俺は自分が詰られるならともかく、仲間が悪し様に言われるのは気に入らない。

 きっと二人もそうなのだろう。いや想像の倍、いや五倍くらい憤ってくれているのが嬉しくもあり怖くもあるが。

 

 今は、ひとまず置いといて。

 

 

 

「手を貸してくれないか」

 

 

 

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