頼れる仲間はみんな目が据わってる   作:佐渡ヶシマシマ

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話数の記載を少々変更しました。


五話(裏)・責任と、その所在

 

 

 オレは最初から、間違えてたんだ。

 

 

 冒険者になると言われたとき、周りからは反対された。

 だがオレたちは無鉄砲に飛び出した。

 村の悪ガキを相手取り、いじめられっこを助けるために戦う正義の味方。

 幼馴染の三人組で、俺らは本当の英雄になるんだって。

 

 チームの名前は『一番星』。

 オレたちは、ずっと一緒に輝き続けるはずだった。

 

 

(オレのせいだ)

 

 宝箱を見つけたオレが、二人を呼んだから。

 ダンジョンに潜れるようになって、そこそこ回数を積んでこなれてきて、モンスターどもを殺すことにも慣れてきて。受付さんと仲良くなったりして、だんだん自信をつけてきて。

 そんな最中に『ご褒美』とばかりに、ひっそりと隠されていた宝箱。

 胸が踊った。だから思い出に、三人で同時に開けようって。

 

 

 ……ダンジョンにも詳しい学者の息子で、故郷に美人の彼女がいるセージは、今も『癒やし手』の治療室でスライムのガキを上から下からひりだし続けている。

 ……出っ歯でスケベ野郎だけど、気さくで曲がったことは嫌いなチャイブは、ぶくぶくに膨らんだ身体から膿のような母乳を垂れ流している。

 

 あんな浅い階層にあるはずない、治療の困難な罠。

 オレは、オレだけが、蠢く触手の中に呑み込まれる寸前に助け出されて。

 目が覚めた時には俺の身体はやたらと重く、傍に控えていた癒やし手の人に重苦しい顔をされながら、さっきの話を聞かされていた。

 

 目の前が真っ暗になった。嘘だと叫びたかった。

 なのに口から漏れる声は小さく、そして聞き覚えがないくらいカワイイ声で、なのにそれが『自分の声だ』という自覚を伴って理解できる。

 気持ちが悪かった。これだけメチャクチャなことになっているのに、それを自然に呑み込めてしまう自分が、気持ち悪かった。

 

 

 そうして、大体三日くらい癒やし手の元で検査やら投薬やら術による回復やらを終えて、オレはふらふらと自分たちの宿に戻って。

 宿のおかみさんや、近くに泊ってる冒険者や職人さんなんかに、辛いくらい優しくしてもらって。

 すっからかんの部屋は少し埃が溜まっていて、いつもみたいに部屋の隅に立てかけてあるあいつらの武器と、姿見に映った自分の姿が目に入って。

 

 堪えきれなくなって、空が白むくらいになるまで泣いた。

 

 

 オレ以外の二人が助かってほしかった。

 あそこでオレも、自分が自分だとわからなくなるぐらいになっていれば、こんな思いをしなくてよかった。

 だって、こんな事態になったのは、全部オレのせいだから。 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 泣き腫らした目のまま、翌朝ギルドに向かう。

 

 俺たちのパーティーが活動を休止することを伝え、俺は治療費を稼ぐために別のパーティーに雇ってもらえるようにすること。

 向かった先のギルドの中で、自分に突き刺さる様々な視線。

 

 何があったか悟って、同情するもの、見下すもの。

 何があったかはわからずに、興味を持つもの、下心を見せるもの。

 

 胸の奥がぐちゃぐちゃだった。

 世界が丸ごとひっくり返って、全てが敵に思えた。

 

「大丈夫ですか」

 

 そんな中で、声を掛けてきた人間がいた。

 

 ……何度も、このギルドで顔を見たことがある。そして、ついこの間にも見たことがある。

 陰気な黒い髪に赤い目。はじめて遠巻きに見た時から、死神みたいだと思っていた冒険者。

 その実、このギルドだけじゃなくダンジョンの周囲に発展している街の中で『救出者』なんて呼ばれている人間。

 

 オレたちが憧れた、冒険者。

 オレを救った、冒険者。

 

「君は、」

 

 そんな男が、オレの顔を見て、表情の動きは小さいくせに、雄弁に後悔と謝意を浮き上がらせる。

 それがあまりにも小物じみていて。咄嗟にオレは声を漏らしていた。

 

「どうしてだよ」

 

 言ってはいけないとわかっていても、止められない。

 行き先のなかった感情が。全く身のない正統性を導いて、勝手に喋り出すみたいに。気がついたら、オレは叫んでいた。

 

「どうしてオレの仲間を助けてくれなかったんだ! オレより先に、どうして!!」

 

 恨み言だ。

 難癖とも言えない、八つ当たりだ。

 自分でやっていながら、罪悪感で臍の奥がぐずぐずと痛む。

 当然、こんなバカをやったオレの事を恩知らずだとか、そういう風に怒ってくれる。

 そう思っていたのに。

 

 だが彼は、ただ深々と頭を下げるのだ。

 

 

「すまない。もう少し、早ければ。――言っても遅いとはわかっている。だが謝らせてほしい。すまなかった」

 

 

 オレはたじろいだ。

 そいつは有名人で、ダンジョンの最下層に到達したこともある実力者で、多くの冒険者を助け出してきた人格者で。

 そんな人が、まだまだ新人の、それも自ら下手を打った自分に頭を下げている。

 

 理解できなかった。

 自分で責めた癖に、頭はこんがらがっていた。

 無能を糺され、無礼を指され、そして自分は冒険者失格だと罵られる、そのはずだったのに。

 そうである、べきなのに。

 

「……君の仲間の治療に役立つことがあったら、協力する。何か困っているなら言ってほしい」

 

 謝意を込めながらそう言って歩み寄ってくる、彼が。

 なにか得体のしれないようなものに見えて。

 彼の差し伸べたその手を弾き、俺は背を向けて、人を突き飛ばしながら逃げ出した。

 

 

 またオレは間違えた。オレは、やってはいけないことをした。

 行き場のない迷路の中にいるみたいに、走って、走って、走って。

 

 

 見覚えのない狭い路地の奥で、蹲り、息を切らすと同時に自分の頬がまた涙でぼろぼろと濡れていることに気付いた。

 

 どうしてあんなことをしてしまったのか。

 あんなことを言いたかったわけじゃないのに。

 助けてもらったことに、お礼を言うだけでよかったのに。

 

 そんなことを思いながら、心の奥底ではわかっていた。

 

 憧れの人に詰られることで、自分が楽になりたかった。自分が無能だと、自分より格上の人間に裁かれることで「仲間のあいつらを助けられなかったことは仕方なかったんだ」と言い訳ができるから。

 助かったことにお礼を言ってしまえば、自分だけが助かったことを安堵していると考えていた気がして怖かった。それが感謝の言葉よりも、刺々しい文句のような怒りの台詞を先走らせた理由になんてならないのに。

 ただ不安が体の内側から皮膚を突き破ってしまいそうで、どうにか吐き出したかった。そんなことをしたところで、起こしてしまった失敗も、行き詰った現在も、何も変わらないのに。

 

 もう、自分が自分でわからない。

 オレはオレなのか。

 しゃがみ込む時に太腿と胸板の間に挟まるデカい塊。床に散らばったガラス片の中に映る、男のときならドンピシャにタイプな美少女。

 

 ……自分が自分ではなくなってしまったような不快感と違和感。頭が、おかしくなりそうだった。

 

 

「おいおいおい、こんなところでどうしたんだァ?」

 

 はっと気付いて振り返れば、そこには数人のガラの悪そうな男たちがオレを見ていた。奥まった路地の入口を塞ぐような形で陣取った奴らを、俺は顔を伏せながら押しのけてこの場を去ろうとする。

 しかし、彼らはそれを許さずに、俺の腕を掴んできた。

 

「はな、っせよ!!」

 力いっぱい振り解こうとするが、びっくりするくらいに力が入らない。

 絶望する。力は、腕っぷしだけが、オレの取り柄だったというのに、それさえもオレからなくなってしまったことに気付いて。

 

 

「……はぁーん」

 

 それを見て、察したような顔をしたそのチンピラみてぇな男は、眉を上げる。

 

「まぁ、そこの店で話をしようや」

 

 逆らうことも出来ず、半ば連行されるように場所を変える。

 

 どこか薄暗いその酒場で、そのガラの悪い男たちは自分たちも冒険者であり、同時に他所のダンジョン街からこちらに移籍したばかりだという話をした。

 

 見てくれは確かにひどく荒れていて、第一印象の通りチンピラ同然だが、奴らが帯びている装備は確かにかなり高値なのがオレからみてもはっきりしていて、実力自体は疑いようがなかった。

 ここは奢りだと云う奴ら。胡散臭くは感じたが、癒やし手の療養所から通して今まで、碌に食事を取れていなかったことに気付く。

 

「食わなきゃもたねぇぞ~? なんてったって、冒険者は身体で稼ぐんだからよぉ」

 

 ……そう言われ、出された食事を食べる。

 暖かい食事を口の中で噛み締めるたびに、『おいしい』と思うたびに、生きている、生き残ってしまったという実感がまた涙を呼び起こした。

 

 そして、初対面だというのに彼らにぼろぼろとこれまでの事を話してしまう。

 

 失った仲間の事。彼らを治すための治療費を稼がねばならず、パーティーの行く当てもない。

 自分のものじゃないように感じられる体。

 憧れの人に吐いてしまった無礼。

 不安、恐怖、それから、それ、から?

 

 

 ブレる視界、頭がぐわんぐわんと揺れる。思考が真っ白に、いや、滲んで薄れていくような。

 

 

 最後に、聞こえてきたのは、男たちのがやがやとした声だった。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「ヒュウ、マジか。イチコロじゃねえかよ。流石はボスの用立てくれたモンだ」

 

「まだ終わってねえ。一日一回飲まし忘れんなよ。十日かそのくらいの辛抱だからな」

 

「しっかしちょろいガキだぜ。頭は軽いくせにデケェ乳だなオイ、元は相当デブだったりしたのかぁ?」

 

「その辺考えねー方が良いぞ、勃たなくなる」

 

「ハハ、ちげぇねえや。……しっかしどんなきめぇ野郎でもクソがつく美人にして吐き出してくれるなんざ、ダンジョン様々だぜ。田舎から出てきたばっかりで実力もねえクソガキなんざ、どうせ童貞だろ。こうしてオンナになりゃ、さぞ締まりも――」

 

「気が早ぇんだバカ、味見はボスのお許しが出てからだ」

 

「チッ、仕方ねぇ。さーて、どうやって言いくるめっかなっと――」

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 その後オレは彼らから全てを聞いた。

 

 オレを助けてくれたのは彼らで、自分たちは騙されていると。

 

 他のダンジョン街でもそれなりに罠に掛かる人間や、助け出される人間はいた。そしてそうやって罠から人を助けることを活動の目的とする冒険者も。

 それにしたって、こんなに数が多いことはない。それなのにこの街では『救出者』なんて持て囃されている人間がいる。それはなぜか?

 件の『救出者』とやらが、わざと人を罠にかけているからだと。そしてそれをさも今通りがかりましたとばかりに助け出しているからだと。

 

 あんな浅い階層に、あんな罠が置いてあったのも。

 仲間たちがあんな目に遭ったのも。全部、そいつらのせいだと。

 

 

 そういうことだったのかと、天啓を受けた。

 真実を教えてくれた彼らに深く感謝すると共に、これまでそんな人間に憧れていた自分が恥ずかしくなった。

 

 そうだ、それなら仕方がない。

 オレは、何も間違っていなかったんだ。オレはただの被害者だったんだ、と。

 

 頭が酷く痛む。罠に掛かった後遺症だと、彼らからもらう薬を飲む。

 そのたびに頭が軽くなり、そして気持ちも落ち着いた。

 同じくらいにこの不愉快でたまらなかった身体が自分に馴染んでいくように感じられる。

 

 気分がよかった。

 何も考えなくていい事も。他人に失敗の責を投げつけていられることも。楽で。

 

 そうだ、オレは、何も間違えていない。

 

 

 ギルドに向かい、『ボス』という彼らのリーダーの命令を受けて、ダンジョンに潜る。

 自分が前に出て、バケモノを引き寄せている間に味方がきっちりと敵を倒してくれる。魔石を稼いで、金を稼ぐ。そうすることで、仲間への治療費を稼ぐ。

 わざわざ宿に戻ることもないから、彼らの宿に間借りして。朝になって。身体が重くて。でも薬を飲めばよくなって、ダンジョンに行って。

 それが、オレのやるべきこと。そして、それから……それから?

 

 

 ……頭痛。

 何か、忘れているような。何か、何か。

 

 

「クソ、思い出しただけでもムカつくぜ。仕事にケチをつけるだけじゃねえ、報酬も渋りやがって」

「荒れるなよ。そのうち態度も変わるさ」

 

 なんで、オレはここにいる?

 なんでオレはこいつらと、ダンジョンにいる?

 

「あ? 何ぼーっとしてんだ、さっさと……」

「待て、お前、今日の分はどうした?」

「ハァ? そりゃお前――」

 

 何を、何を言っている?

 

 オレは、一体。

 

 

 気付いたとき、俺はダンジョンの床に引き摺り倒されていた。口を手で覆われ、反射的にもがいても振り払えない。

 

「オイ、言っただろ!! 手を付けるのは……」

「るっせえな! もうこうなったら、逆らえないようにここでヤっちまえばいいだろ!?」

 

 困惑した頭の奥から、溢れ出すように戻る記憶。

 

 自分がしたこと、されたこと。

 そして向けられている怪物と同じ目つき。

 想像の付く、未来。

 

 

 もがく、暴れる。嫌だ、嫌だと。首を振る。

 

「おとなしく、しやがれ!」

 恫喝と共に、服が破られる。薄っぺらい布地の下に必死で押し込めた変化の象徴である女の身体が、嫌が応にも剥き出しになる。

 それだけで、芯から震えあがる。じゃばと、股の間が生暖かくなる。

 

 

 なんて、弱いんだ。

 仲間たちがあんな目に遭った時、変わってやれればと思った。それが思い上がりだと今更になって分かった。

 いざこうして間近に自分が窮地に陥った時、誰でもいいから助けてほしいと願ってしまっている。

 

「おとなしくしてろよ、へへへ、なぁに、すぐにヨガらせてやるから……」

 

 オレは最初から、間違えてたんだ。

 『何か』になりたくて、英雄なんてあやふやなものにあこがれて。大事な友人を巻き込んで。

 

 オレは――。

 

 

「ほが」

 

 目を、見開いた。

 

 間抜けな声。

 下劣な笑みを浮かべた男の頬が、太い鉄矢によって反対側まで貫通する姿。

 

 ぎゃひぃとか、ほげあ、とか。もう人間の言葉とは言えないようなものを上げながら、オレに圧し掛かり押さえつけていたそいつは転がりながらのたうち回る。

 

「な、なンィ」

 

 もう一人いた奴も、突然のことに驚き固まっている間に、突然現れた男によって後ろから締め上げられた。

 ぐぶぶ、と唾液を口の端から漏らしながら抵抗するが、その腕は決して離れることはなく。やがて白目を剥き、腕を離されれば前のめりに倒れ込む。

 たった瞬き数回の間に、恐怖を抱いた男たちは崩れ落ち、そして

 

 

「ふぃ~、オッサンに無理させんなよなぁ。まあ、今は女だから美女には、か? まあいい」

 首と指を鳴らしながら、やれやれとばかりに呟く。

 

 確か、この人は。

 あの人と。オレがひどい台詞を吐いて、こいつらの言われるがままに、侮蔑の視線と舌打ちをした、あの人と一緒にいた。

 

 

「おうガキ」

 

 見下すように、紫色の眼差しがオレを見る。

 

「テメェは馬鹿で、底抜けの間抜けだ」

 真正面から、その人はオレを罵る。

 

 突然現れて、暴漢から助けてくれて、そしてその上で馬鹿にしてくる。

 もう頭が追い付かない。呆けるオレに、もう一度呆れるように頭を振って。

 

 何か言葉を言うこともなく、その『女の人』はオレを抱えて、来た道を戻った。

 お姫様抱っこで、戻った先。転がるチンピラみたいな男ども。折られた武器と歯が鮮血に混ざって地面に飛び散っているし、その身体には所々に棘のように鉄矢が深々と突き刺さっている。

 

「ククラータ、大丈夫だったか」

 

 拳を返り血で汚して、足元の痛めつけた男を跨いで近づく。

 ……その姿は見紛うことなく、死神のそれだった。

 

 

「どうだった」

「薬らしいものだと、こういうのを持ってた。わかるか?」

「……間違いねえよ。催淫剤に譫妄を誘発する毒に、他にも諸々だ。胸糞悪ィ」

 

 彼らの話は言葉少なでわかりにくい。しかし、大体の内容は、わかる。

 オレがどうしてこいつらと一緒にいたのか。記憶の中にひっかかっている与太話というか、陰謀論をさも真実かのように信じてしまったのか。他にも、思い当たる節が、ある。

 

「おいおい俺の腕の中で吐くのは勘弁してくれよ」

 喉奥からせり上がる感触にえずくと、苦笑いで冗談めかすククラータと呼ばれたひと。

 

 

 状況は、未だに掴めていない。

 混乱の真っ最中だ。それでも、わかりきっていることはいくつもある。

 この人たちが、オレをもう一度助けてくれたこと。そんな相手にオレはこいつらの思惑通りに無礼な態度を取り続けていたこと。

 そして、この土壇場になってもおたおたしている自分が、どれだけ無能かということも。

 

「あ、あの」

 

 声が情けなく震える。言おうとした言葉が、涙をこらえる引きつりに重なってうまく出てこない。

 

 

「オレ、ごめん、なさい、おれっ」

 

 何を言えばいい?

 ありがとうと言えばいいのか? そんな言葉で片付けられるような恩じゃないのに。

 ごめんなさいと言えばいいのか? しでかしたのは赦されるほど甘いことじゃないのに。

 あ、う、あ。縺れた言葉を縺れ続けたままに、口の中で転がしていると。

 

「テメェは馬鹿で、底抜けの間抜けだ」

 

 それを遮るように、ククラータさんは言う。先程の繰り返しになるような台詞を。

 

「自分可愛さの行動には罪悪感。自己犠牲には怯えきって踏み出せない。そんなもんは、どんな人間だって抱えてる当たり前の弱さなんだよ。無ェ奴はそれを超える覚悟を持ってるか、ぶっ壊れた人間だ」

 

 説教じみていて、刺々しい言葉の中に在るのは、慰め。

 

「過ちを犯さない人間はいない。それでも、生きてかなきゃいけねえんだよ」

 

 ……そう言って、オレを地面に降ろす。

 向き合う先に立つのは、黒髪の男。

 背が縮んだせいで、僅かに見上げなくてはいけなくなった、憧れだった人。

 

 

「――オレは、情けない、冒険者なんです」

 

 懺悔の様に。

 

「オレは、間違えてばっかりで。お礼を言えばいいのに、失礼なことを、言って。仲間を、助けたいのに、こんなことになって」

 

 だから。

 

「オレは、これから、どうしたら」

 

 自分の弱さに涙を流す。どうしようもなくなった過ちに涙を流す。

 情けない。

 涙をこらえるのもせいっぱいになりながら、言えたのはそこまでで。

 こんな、寄りかかった甘えた言葉しか、出てこない。なんて、オレは。

 

 

「情けないのは、俺もだ」

 

 静かに、彼は告げた。

 

「仲間を救えなかった。それなのに、そのあとも俺は彼らの力がなきゃ、動けない。君を助けることも出来なかった。君が何をされたか知ることもできなかったんだ」

 

 見上げた彼の目線は、オレをここまで運んできたククラータさんに向けられている。けっと、後ろで悪態をつく声が聞こえた。

 そうだ、よく思い出せ。オレが初めて見た彼の仲間は、皆男だった。それがある日、全員目を引く綺麗な女の人達になっていた。それは、つまり。

 

(この人も、オレと同じ――?)

 

「後悔も、自分への諦観も、少しだけわかるつもりだ。けれどそれは決して、君の悲しみの慰めになんてなりはしないだろう。それが、俺は苦しいし、悲しい。自分と同じ思いをする人間なんて、いてほしくない」

 

 だから、と。膝を折り。目線を、合わせて。ほんの僅かに。或いは、縋るように。

 彼は。俺の憧れた冒険者、黒髪のカイトはこう言ったのだ。

 

 

「だから、ほんの少しで良い。俺に、君を手助けさせてくれないか?」

 

 

 

 

 

 

 オレはここでまた、間違える。

 

 抱き続けた憧れが、まったく別のものにすり替わったことに気付かずに。

 オレは彼の言葉に、頷いてしまったんだから。

 

 

 

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