頼れる仲間はみんな目が据わってる   作:佐渡ヶシマシマ

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十四話・対話、タイム

 

 

 アスタが、先に鍛錬を切り上げ去った背中を見つめ。そのまま庭の只中に座り込んだ俺は、陽が高くなりじりじりと肌を刺すようになるまで、動けなかった。

 

 頭の中に反響し続ける、アスタの言葉。

 

 ――君を愛しているからさ。

 

 ……赤の魔女が現れた時よりも、混乱している。

 これまで仲間たちと会話を進めることで、己と向き合えてきたはずが、突然もっと広く、そしてもっと深い悩みの広間に投げ出されたかのような。

 

 

 だが、いい加減そうしてもいられないと立ち上がり、拡げたままの武器を集めて抱え、家に戻った時。

 

「あっ、カイトさん」

 

 リビングにあたる大部屋で、右往左往するタイムがそこにはいた。

 どうしたのかと声を掛けると、彼はええと、と少し口ごもると、代わりに出入り口を指さした。別に特に荒らされていたりする様子はないが、扉が半開きになっているのには気付いた。

 

「さっき受付のラネーさんがものすごい剣幕でやってきたんすよ」

「……あぁ」

 

 すっかり、忘れていた。

 ギルドには俺がダンジョンで倒れ、癒やし手のところに担ぎ込まれた時から足を運べていない。ラネーさんにも心配を掛けてはいけないから、早く事情を説明しなければとは思っていたが、そうこうしている間に赫の魔女の件があり、先送りになっていた。

 

 一応タイムやアスタ、ククラータ、フィグたちから事情は聴いていたと思っていたのだが、思い返すと彼らもこの期間をつかってそれぞれ互いに話をしていたのだろう。ということはつまり、彼女に事情を詳細に語る機会が全くなかったということで。

 

「それで、今日と言う今日こそは事情を聞かせてもらいますって言ったラネーさんに、引きずられるみたいにして全員が連れていかれちゃって……今、オレだけ残されたって感じっす」

 

 状況は理解できた。まずは仔細を伝えてくれたことに感謝を述べ、そして続けざまに頭を下げた。

 

「驚かせてすまない。それに、ここ数日、俺たちの一党の内々の問題に付き合わせてしまったことも、改めて詫びさせてくれ」

 

 すると彼は、気の抜けたようにぽかんと口を開けた後、呆れたように肩を竦めて見せた。

 

「大丈夫っすよ、謝らなくたって。もうお腹いっぱいっす」

 

 そう続けた彼はそのままテーブルに腰掛けるとそのまま頬杖を突く。

 

「でも、カイトさんが申し訳ないって言うなら、オレともお話しましょうよ。皆さんも出かけちゃったわけですし」

 

 ――してやったり、そんな風な笑みで俺を見つめるタイム。

 彼はなんだかんだ狡猾な部分がある。というか、かなりある。

 

 とはいえ、彼の言葉に少し俺は魅力を感じていた。

 

 彼は、何度か口にした通り俺たちの一党の外に身を置く人間だ。

 俺はどうしても、内側の視点しか持たない。だからこそ、彼の言葉は重要ではないかと。

 

 そう考えた俺は、彼の向かいにある椅子に腰かけるのだった。

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 最初こそ肩肘を張っていたが、別に腹の探り合いや何かをするわけじゃない。

 始まったのは、本当に何気ない世間話だ。

 

 タイムの生い立ち。

 近隣でダンジョンが発生したこともあり栄え始めた村の出身で、兄が二人、弟が一人、妹が二人。やんちゃだった彼はいじめられた弟を助けたことを契機に、いじめっこと対峙しては仲間を増やした少年時代。

 両親からの反対を押し切り村を出て、物語に出てくるような輝かしい武勇を立て、人々の役に立つ英雄となるため冒険者となり、今に至ると。

 

「つっても、まあ色々ありましたし。オレも実家にそろそろ顔出してこないとなあ。気が重いっす」

 笑うしかない、といった様子で頭を掻いたタイムだったが、おどけた様子の彼。

 また、俺は唇を噛み締めようとしている。眉と眦を下げようとしている。

 

 彼に『死にそうな顔』だと評される顔を、しようとしていると。

 

 俺にそんな資格はない。

 彼の苦しみに寄り添えるわけでもなければ、それを解消することも出来ない。だというのに勝手に苦しみを分かち合っているかのような表情をする資格など、俺にはないのだからと。

 

 

「――また、カイトさんその顔っすね」

 

 

 頬杖をつきながら、こちらを見つめるタイムから、危惧していた台詞が飛んでくる。引き締めたはずの顔が、平静を装っていた顔が、やはりどうしても歪んでいたらしい。

 謝罪も出ずに、歯を食いしばる俺にタイムは不服そうに手の支えにしている頬の逆を膨らせて、唇を突き出しながら言うのだ。

 

「なら次は、カイトさんの話も聞かせてくださいよ」

 

 自分のことを語るたびに不必要に俺が背負い込むのなら、という発想なのだろう。

 退屈で、聞き心地のいい話じゃないだろうが求められた以上は応えねばならないだろうから。

 

 墓守の物置で目覚めて育ち、アスタと村を出たこと。

 冒険者として歩む中で仲間たちと出会ったこと。

 彼らが罠に掛かる瞬間を目の前にしておきながら届かなかった手と、ここまでに至る経緯。そして仲間たちと改めて向き合った中で気付いた、自分の愚かさ。

 何よりなお彼らの好意を受け止めることも、飲み込むことも出来ずにいる自分。

 

 それを、包み隠さずにすべて話した。

 タイムはその話を聞き、頬杖をつくのを早々にやめたかと思うと、途中から腕を組みながら目を閉じ、何かを考え続けている。

 

 嘲笑ってくれたらまだ、救いがある。

 そんな半ば投げやりな俺の態度が表に出ていたのか、それとも彼が腕を組みながら考え続けていた結果がついに出たのか。神妙な面持ちのままだったタイムが沈黙を割った。

 

 心の底から、困惑した表情で。

 

「いや、カイトさんこれなんか絶対勘違いしてるっすよ」

「――勘違い?」

 

 タイムの言葉をそのまま繰り返す。

 

 これまでの話の中でそんな要素があったとは思えない。自分が語ったことは今まで起きたことの羅列でしかないのだから。

 

 仲間たちに向き合っていなかったこと。

 それを直してしまえば問題は解決すると、安易な合点をしたこと。

 だが、話せば話す程浮き彫りになる自分の間違いを突き付けられたこと。

 だというのに、アスタから自分は周りに愛されていたと言われたこと。

 こんな自分を愛してくれていたと、気付けないこと。気付けなかったこと。

 

 そのすべてに、一体何の勘違いがあると。

 

 

 待て。

 

 

 何か、いや、また。

 俺は、何かを、見て見ぬふりをしていないか?

 

 

 

 

 アスタが語った、彼自身やフィグやククラータの、俺に未だついてきてくれる理由を列挙された。彼自身の事を除き、全てアスタの言葉の中の仮定でしかないとはいえ簡単に一個二個以上の理由を見つけ出すあたりアスタは人のことを良く見ていると思うが。

 

 だが、そうだとしても。そうでないとしても。

 俺の愚かさが。俺の未熟さが。その加点を超えていたのなら。俺はとっくに、見限られているのではないか?

 

 そもそも、三人とも話している中で女になったことを後悔している人間はいなかった。フィグについては言わずもがな、アスタも一切気にする様子がないし、ククラータに至っては若返りの延長線上のように語っている。

 気にしているのは、俺だけだ。

 

 いやそもそも、俺がこの対話を通して自らの中に抱いた問題を、いくつも見つけては頭を抱えたくなるこの過ちを、彼らに咎められたことが一度としてあっただろうか?

 

 

 

 ――勘違いをしている。

 ならば、この話の問題が、別にある。

 

 

 

 そもそも、俺が彼らを戻すことに固執していたのはなぜだ?

 最初は、彼らの精神を想ってだった。身体の変化は否応なしに精神を引っ張り、自己矛盾によって心を壊すことは、周知の事実だったから。

 

 でもそもそも四六時中彼らと共にいる俺なら。害意や敵意、感情の乱れを感じ取れる俺が傍にいたならば。そういった不調は真っ先に感じ取れたはずだ。だが、彼らからそういう心の均衡が著しく乱れた感覚を受けたことは一度としてない。

 

 なのに、固執し続けた。それはなぜだ?

 答えは、決まっている。自分のためだ。

 

 俺は自分の弱さを、失敗を、どうにかして贖いたかった。彼らが罠に掛かる瞬間を見過ごし、反応できなかったその罪を清算するには、彼らを元に戻すほかないと。

 そうして失態を取り戻すことで、俺は正しく、そして善くあり続けて――。

 

 

 

 いや、ちょっと待て。

 

 何か、違う。

 

 

 

 

 どうして俺は正しくあることに固執している?

 そもそも俺は、自分が十全で万能だなんて驕ったことは一度としてない。

 

 アスタは、俺にはないものを幾つも持っていた。

 剣の才能。話術や技術、世間の常識。それに人と関わり惹き付ける魅力を持っている。

 

 フィグにも、同様に俺では持ちえない才能や能力を幾つも持っている。

 真っ先に挙げられるのは魔法の力。ダンジョンの構造や棲む魔物の知識、アイテムの価値を図る技術も有していた。

 

 ククラータに関しては、俺にできないことをしてもらうため仲間になってもらった。

 人を癒やし治すための知識と技術。大人としての人生経験。そしてその上で語られる言葉と心の支えとして。

 

 彼らの力なくして、今の自分はいない。俺は彼らに支えられてこそ、生きていられるし戦えると思っている。それは紛れもない本心だ。

 そんな風に助けてもらってきたからこそ、助けられてきたからこそ、自分が彼らに恩ではなく仇を返してしまったと気持ちが膨れ上がった。どうにかしないと逸った。それは、間違いない部分ではある。

 

 しかし、しかしだ。

 

 だとしたら今の今まで、ダンジョンに潜る中で彼らを連れて行くのはおかしくはないか?

 力を貸してくれた彼らを危険に晒して失敗を雪ごうとするのは、これまでの意思とは真逆の行動、本末転倒と言えるのではないか?

 

 

 

 考えろ。向き合え。

 どうして、どうして俺は、彼らを付き合わせてまでダンジョンに潜った?

 どうして、俺は彼らに何か問題が起こる前から、彼らを元に戻したいと願った?

 どうして、俺は、正しくあろうと。善くあろうと。そんなことに、拘った?

 

 

 きっとこれまで考えていたことの全てが、本心だ。

 だが同時にククラータの言葉が思い返される。

 

(人間は一個一種の感情だけで動いてるわけじゃない。私欲も善意も悪意も、全部が全部混ざり混ざって、俺たちは動いてるんだ)

 

 ならば、俺は何かを見落としているのだろう。

 これまで語った言葉よりも大きく重い、何か、大切な部分を。

 

 

 

 

 ……大切?

 

 

 

 

「そう、か」

 

 そうだ。

 大切だったんだ。

 

 簡単な話だった。

 

 仲間たちを連れて歩いたのは、もう自分の元から離れて欲しくなかったから。自分が手を放してしまわないように、手の届かないところにいて欲しくなかったから。子供が大事なものを肌身離さず抱き締めるように、なくしてしまうのが怖かった。

 

 失敗を取り返すことに拘泥し続けたのは、そうしなければ――彼らに、失望されると思ったから。リーダーとして、仲間を守れないようでは務まらない。それが俺が言いだした役目でなくとも、果たせないとしたら、俺はもうリーダーではいられない。彼らと同じ関係では、いられない。それが怖かった。

 

 どうしてそこまで、恐れるのか。怖がるのか。

 

 当たり前だ。

 俺は――彼らの事が、何よりも大切だったから。

 

 そんな彼らに。

 あの寒々しい墓場で、父親になってくれると思った男から向けられた、あの寒々しい眼差しを向けられることを想像したら。

 

 耐えられなかった。

 

 俺を救ってくれた、アスタも。

 俺を信じてくれた、フィグも。

 俺を支えてくれた、ククラータも。

 

 家族よりも、友人よりも、深いつながりだった彼らを、失いたくなかった。

 ただ、それだけだった。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「あの、カイトさん」

 

 思考が固まり、自分が何から目を逸らし続けていたのか。今までの愚行の根幹にどういう感情があったのか。それを理解した。

 

 そして、それをタイムに話して。

 

 

「あらためて、情けない、と」

 

 

 正直なところ、自分の本当の気持ちは理解した。

 だとしても結局自分が自分の為に誰かを助けようとしていたことにはかわりない。彼らを罠から助け出せなかったことも、一方的な視点と勝手な決断に、大切な仲間たちを振り回してしまったことも完全にゆるぎなくなってしまったのだから。

 

 そんな俺に、タイムは苦笑いを浮かべた後に、視線をふと自身の手元に落とした。

 

 

「――カイトさんが他の皆さんと話しているとき、()()たちに会ってきたんですよ」

 

 仲間。彼がそう呼ぶということは。

 癒やし手の所で療養を行っているという、彼の本来のパーティーメンバー。昔から同じ村で育ち、家出同然の形で故郷を飛び出した彼について来た、気心の知れた大切な友人だという二人の人物。俺は、話の続きを待つ。

 

「カイトさんもあってた、あのサルビーさんだかって人が来てからかなり回復したみたいで。んで、話したんですよ」

 

 無意識に、唾を呑む。

 タイムの仲間たちも又、彼と同じように本来の性別を奪われている。特に、罠に掛かって苗床の寸前にまで身体を変えられていたという。

 そんな相手と相対して。立ち上がり、動き、そして別の一党で冒険者を続けている彼に、果たして、どんな言葉を掛けるのか。

 無意識に、肩が強張る。

 

 しかし、彼が語り出した内容は耳を疑うものだった。

 

「故郷に美人の彼女がいる、頭のいいセージの話したっすよね。村に居たその彼女ってのが、実は家々で結婚を決められてた相手で。んでその娘、女の子が恋愛対象だったらしくって――人間として尊敬できるセージが女になった、これで万事解決! みたいなこと言われたらしいっす。微妙な顔してましたが、なんかまんざらでもなさそうっすよ。見舞いのはずが惚気聞かされて散々っす」

 

 開いた口が塞がらない。

 

「もう一人、女好きのスケベ野郎のチャイブってやつもいて。そいつは、美人になった自分でも捗るし、なんだかイケメンでも興奮するようになったから滅茶苦茶お得だとかほざいてて。本当、逞しすぎて若干ひいちゃったっすよ、マジで」

 

 もっと口をあんぐりさせられた。

 

 意図していたものとは全く違う、いや、予想の範疇を回転しながらカッとんでいく彼の仲間たちの反応に、俺はどう言葉を返していいのかもわからずにただ驚愕のままアホ面を晒し続けることしかできず。

 

 顔を上げ、俺の顔を見たタイムは少し噴き出すと、そのまま再び頬杖を突いた。

 

 

「二人とも、オレだけが助かったことを責めたりなんてしなかったっす。オレが今、カイトさんと一緒に冒険者をしてると言ったらすげー羨ましがられたっすよ。サイン貰ってこいとか、すぐ戻るから待ってろとか、そんなばっかで」

 

「……逞しいんだな」

 

 捻りだした、何とも言えないその言葉に、再びタイムは噴き出すと、今度は抑えることもなくけらけらと笑い出す。

 

「ほんと、ほんとにっすよ! こっちはメチャメチャ覚悟して行ったのに、神妙な顔してどうした? なんていわれるもんだから、もう!」

 

 ひとしきり、そうやって笑ってから。眦の涙を拭って。彼は微笑む。

 亜麻色の瞳。淡く、けれど眩い光を持ったその瞳。受付で掴みかかられたときよりも、ダンジョンの中で、下衆から手を出される前に助けられた時よりも、ずっと、ずっと明るい。

 

「大丈夫っすよ、カイトさん」

 

 タイムは、そう言う。

 アスタも。フィグも。ククラータも。同じように言った。『大丈夫』と。

 

「何が、大丈夫なんだ?」

「だいたいのことは、っすよ」

 

 そう言いながら、指をさしてくる。

 

「カイトさんが悩みも、他の皆さんの事も。心配したり、警戒したり、それは大事で必要なことかもしれねえっす。でも、世界ってのはこれで案外どうにでもなったりしてくれるもんっすから」

 

 だから。

 

「自分を許してあげても、大丈夫なんじゃないっすか?」

 

 ……自分を、許す。

 

 これまで俺は自分を責め続けてきた。

 実際にやってしまった行いは、もう取り返しがつかない。それでも『大丈夫』と言われ続けている。

 

 自分が許されているのかはわからない。

 自分が愛されているのかもわからない。

 自分が皆を大切に思う俺自身のこの気持ちを愛と呼んでよいのかも、わからない。

 

 けれど、それでも。

 

「――そう、だな」

 

 

 彼の言葉に、素直に頷くことができるくらいには、なれている。

 こんなことを、前進ととらえていいのかという想いはあるが。それでも。

 

 前よりも、もっと蟠りなく。そして真っ直ぐに。大切な仲間たちの事を見つめられる気がする。

 

 

「ありがとう、タイム。君のお陰だ」

 

 そういうと、満足げに歯を見せて笑った彼は、そのまま何かを思い出したように手を打つと、椅子から立ち上がった。彼はそのまま、腰掛けたままの俺の傍に歩み寄る。

 

 どうしたのだろうか。俺も僅かに椅子を引き、立ち上がろうとするが。

 

「ちょちょ、座っててくださいっす」

 

 そう言って、彼は俺を無理やり押しとどめた。

 どうしたのだろうか。焦っているような、或いは緊張しているのだろうか?

 

「――前に、言ってたじゃないっすか。好意を、肌身で感じられれば、って」

 

 確かに、言った。

 見張りの時の話だ。あの時は、随分不躾なことを言った気がする。

 

「あの時は」

 

 すまない。そう口にするより先に。

 

 彼の顔が、重なった。

 

 

 ……何が起こったかわからないまま、呆然とタイムを見上げると、彼はすぐに顔を背けてしまった。

 何をされたかは、わかった。

 

 頬、というかほぼ口元への口付け。

 勢いが良すぎてぶつかる音がした。痛くはなかっただろうかと心配するより早く、早口でまくし立てるようにタイムは告げた。

 

「どうすか、これで伝わったんじゃないっすか!?」

 

 不思議な心持ちのまま、ただ、反芻する。

 

 スキンシップ。

 確かに、悪意や害意が攻撃という形で襲ってくるのなら、好意はこうやって伝えればいい。

 親愛も、友愛も、それ以外のものも。伝えられる方法は、言葉以外にもいくらでもあるのだ。

 

 待て。ちょっと待て。

 

 なら、もしかすると。あれなのか?

 

 アスタが俺の頬を掴んで真正面から見つめたり、頭を抱き締めたりするのは、そういうことなのか?

 フィグが腕を抱き締めたり、あるいは話し合いの後は手を繋いでいたのもそいうことなのか?

 ククラータが膝枕の姿勢でいてくれたり目覚めるまでそばにいてくれたのは、そういうことなのか?

 

 点と点が線になると同時に。心臓がまた不可解な音を立てる。

 速く、熱く打ち鳴らし、顔の表面が浮き上がるようにして音頭を増していく。

 

 わからない、何も確定していない。だが、これは。俺の『これ』は、なんなんだ。

 

 

 だが。きっと、そうかもしれないと、思う事には意味がある。

 タイムも、きっと俺に親愛、友愛を板いてくれていたからこそ、俺にヒントをくれた。そして、こうして踏み込んだ態度で示してくれたに違いない。

 

 

「……何から何まで、ありがとう、タイム」

 

 そう伝えると。

 彼は、髪で顔を防ぐようにしながらも。照れくさげに、微笑を向けるのだった。

 

 




次回、第一部最終回です。
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