頼れる仲間はみんな目が据わってる   作:佐渡ヶシマシマ

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日刊ランキング入りしていました、目ん玉ひん剥きました。

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多数の誤字報告にも感謝しております。乱文で申し訳ありません、ご協力ありがとうございます。

更新頻度はお察しですが、何卒お付き合いくだされば幸いです。


三話・魔法使い、フィグ

 

 今日も今日とて、俺たちはダンジョンへと潜る。

 先頭は俺、カイト。次いでアスタ、そして並ぶようにしてフィグ、そしてククラータが続くいつもの陣形だ。

 

 

 ダンジョンの内部の様相は様々だ。煉瓦造りの天井、壁、床が延々続く場所から、洞窟そのものといった場所、珍しい所だと床や壁が鏡張りになっているダンジョンなんてものもあるという。

 だが基本的に統一されていることもある。

 まばらだが、内部には何かしらの光源が存在すること。内部は迷路のように入り組んでいること。階段や穴による上下の『層』が存在し、下層へと降りていくほどに貴重で奇妙な性質を持つ物品が多く手に入るが、同時に危険度も増すこと。

 

 そして、変わらないことがもう一つ。

 

「――シッ」

 

 短く息を吐いて足を止める。

 手にしたカンテラの灯りを消し、腰に下げると屈みこむ。俺の様子に気付いたアスタは剣を抜き、その後ろでフィグは短杖を、ククラータは手甲を構えた。

 

 ……耳をすませば聞こえてくる、呼吸の音。

 理性のない獣の放つ荒いが一定のそれとは違う、『押し殺す』意図が見える不自然な息遣い。

 ダンジョンの壁面に延々と続く、誰がつけたのかもわからない消えない蝋燭、その火が不自然に消えた曲がり角の先に、間違いなく()()

 

 巻いたベルトに括った小袋の中から、黒い粉の入った瓶を取り出す。そして、後ろに立つフィグに目配せをすれば、言葉がなくとも杖を前に向けてくれた。

 ……手にした瓶を、暗闇に向かって投げると同時に、背後からは鮮明なのに聞き取れない、くぐもった詩のような台詞が聞こえてくる。

 

―ταλαντεύεταιάνεμος

 

 地下深く、窓もないはずの空間に吹く風。足を取られるほどでもないが無意識に顔を隠そうとしてしまうくらいのそれは、俺が手から離した瓶を攫い曲がり角の奥へと叩き付ける。ばり、と脆い硝子が割れる冴えた音と、風によって巻き上がる中の粉。

 一秒と絶たずに、薄暗い通路の奥から「ギャ、ギャ」と喉が裂けているかのような悲鳴を上げながら、子供くらいの背丈をしたこびとが飛び出してくる。

 こびと、というと少々愛らしく聞こえたかもしれないが――その肌は薄暗い緑色、充血して飛び出した瞳に潰れたような顔立ち、尖った耳。薄汚れた体には襤褸さえ纏わず、体格に見合った貧相で薄汚い生殖器をぶら下げている。

 

 俺の投げた目潰し瓶の中身をしこたま吸ったのだろう、視界も嗅覚も完全にやられ耳障りな声で鳴き散らし、目の前の壁に頭から突っ込むその小人の脚をボウガンで射ち、動きを鈍らせてから首をナイフで突き殺す。

 大体そのくらいになれば、フィグの放った術の風は止み、巻き上げられた目潰しの粉霧も収まっている。再びカンテラの灯りを着ければ、今さっきトドメを刺したのと大差ない状態で怪物たちが転がっていた。

 

 アスタと手分けをして一匹一匹始末しつつ、フィグとククラータには死体を検分してもらう。

 万が一、服さえ着ないはずの怪物が。装飾品や、金属製の武器を持っていたのならば、くまなく近くを捜索しなくてはならない。

 

 

 ダンジョンに例外なく共通する要素。それは、このような怪物たちが迷路の中に棲み付いているということ。

 先程の群れをつくっていた醜悪な緑肌の小人は、ゴブリンと呼ばれる怪物だ。数が多く、悪知恵は回るも品性は存在せず、頻繁にダンジョンから溢れ出しては人里に被害をもたらす。

 そのほかにも、豚の頭と肥満体の人体に馬並みの性欲を足したような半人半獣、オーク。

 男女も構わず盛り、飢えれば喰らう狼にも似た巨躯の獣、ライカン。

 金属や繊維のみを溶解するくせに人体には多種多様な気色の悪い効能を発揮する粘液生命体、スライム。

 

 挙げていけばキリがないほど、危険で悪意に満ちた怪物たちが無数に存在するのだ。

 奴らはダンジョンの中では決して飢えず、全く性質の違う生き物でありながら、その大半が縄張りを争ったりしない。むしろ率先して協力し、侵入者に対して総出で襲い掛かる。

 一方で彼らはごく一部の例外的な種類を除いて、全員が雄。彼らはダンジョンに侵入してきたり、外から引き摺り込んだ存在を使って繁殖する。

 

 ダンジョンから生まれた怪物たちもまた、示し合わせたかのように繁殖に特化した気分の悪くなる能力を無数に持ち合わせている。

 一方で怪物の体内には『魔石』なる奇妙な鉱物が埋まっており、ダンジョン産の道具などを使う際のエネルギーとして活用され、小さくても買い取ってもらえる冒険者の稼ぎの一つだ。

 

「……カイト」

 

 ククラータに名前を呼ばれる。苦い顔をしながら、一匹のゴブリンの死体を顎でしゃくった。

 近づこうとするフィグをアスタが制し、俺が近づき見れば。

 他のゴブリンより一回り大きいその死体は、写真の入っているのだろう小さなロケットのついた、銀の球を繋ぎ合わせたような鎖を()()()()()()()()()()

 

「今日はこの階層で足止めだ、ったく」

 

 愚痴のようにワザとらしく大声で言ったククラータのその台詞には、拭いきれない怒りが滲んでいた。

 

 今日も、ダンジョンの中では悲劇が生まれる。

 それでも、人々の中に密接に絡むようになった遺物の燃料として、魔石を狩り続けなくてはならない。

 

 危険であっても、死ぬよりひどい結末を迎えることになったとしても。

 冒険者は、危険を冒し続けなくてはならないのだ。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 陽がまだ高いうちにダンジョンから抜けた。戦果は少なかったが、抱えてきたもののせいで身体よりも精神のほうがどっと疲れている。

 事の報告の為に冒険者の互助組織であるギルドに向かい、色々と手続きを済ませるとギルドの前でフィグが一人で待っていた。

 

 冒険者が出入りするギルドの門の傍で杖を抱き、エナン帽で顔を隠しながら時折顔を上げてきょろきょろと様子を窺っている。その周囲に人は寄り付かず、それなりに込み合う道に大きく穴ができたような様子だった。

 

「フィグ」

 声を掛けると、こちらをすぐに見つけ、駆け寄ってくるフィグ。

「だ、大丈夫でしたか、カイトさん」

 大きく丸い、子供のような眼差し。濃い翠色の瞳は、いつも不安そうだが今回は一層その影が濃い。

 安心させるように、言葉を。

 

「俺は何もしていない」

 

 見つけた冒険者は、四人。皆俺とアスタが村を飛び出したのと同じ頃ぐらいの若手だ。

 少なくとも、全員命はある。今はそれが救いだと信じるしかない。

 

「……行こう」

 周囲からの視線の中に混ざった幾つかに睨めつけて、フィグの手を取ってギルドの前から足早に離れることにする。幸い、一々掻き分けずとも人が勝手に避けてくれるぶん楽だ。

 

 できる限り早く。けれど歩幅をフィグと離しすぎて引き摺ったり引っ張り過ぎないように。

 通りを一つ二つ変えれば、商店が立ち並ぶ辺りに辿り着いた。人々の賑わいは先程以上で、その趣も違う。こちらに一々注意を向けてくる人間もいない。

 

「あ、の」

 ぽそ、と。消え入りそうな声に、はっとする。

 

 慌ててフィグの手を放し、謝る。つい固く手を握ってしまっていたらしい。転んだり、息を切らしている様子がなかったまではよかったが、気が急いていたせいで無遠慮だったかもしれない。

 

 深く俯いたせいで、帽子のつばでその表情を窺うことができない。

 片手で杖を抱き、空いたもう一方の手で、動きやすそうな丈の短いスカートの裾近くを掴んでいる。どうやらダンジョンから出て、少し着替えたらしい。

 

 彼に合わせるように目を伏せる。

 あの罠に掛かったにも関わらず、外見的容姿が一番変化がないのはフィグだ。

 だがわざわざ()()を確認しようとする気はさらさらない。彼にとってそれは、最も触れがたい繊細な領域だ。

 

 

 ――フィグは、複雑な出自だ。

 ダンジョンから見つかる様々なアイテム。その中には、書籍や紙の束と言った形で奇妙な文献が見つかることがある。基本的に意味不明な記号の羅列にもみえるそれらを解読し、知識として会得することで理外の力を操る存在、魔術師。

 彼は幼少の頃に、問題のある両親から虐待を受けていた最中、ある魔術師に拾われ弟子として育てられた。

 

 五指に入る強大な力を持ち、ダンジョンの最奥を複数回踏破したとされる逸話を持つと共に、時に人や国に仇為す行為も厭わない危険人物。

 赫の魔女、ガーネット。それこそ、彼の親代わりにして師。

 弟子を取ったことなどない、とまで言われる彼女の弟子を自称するフィグには、多くの人間が疑いの目を向けてきた。それは、彼の格好にも原因がある。

 

 彼は少年でありながら、女装を自ら行っていた。それは師に課せられた使命であると、彼は語った。

 然しそれを知らぬ冒険者にとって、多くの人間がダンジョンの内で望まぬ姿に変えられる中でそのような格好を自ら行うのは、自分たちの末路を揶揄する嘲りとも、ダンジョンの危険性を理解していない愚かさの象徴ともとられた。

 

 結果として。

 彼は冒険者として正式にギルドから登録を受けてなお、ダンジョンに挑むこともままならなかったという。

 

 その扱いが、村での俺やアスタと被り俺たちは彼を仲間に誘った。

 彼は、かの伝説とも天災とも語られる魔女の弟子という自称を裏切らない活躍で、俺たちを助けてくれた。それは今日も例外ではない。

 

 

 

 そんな彼を、俺は守れなかった。

 俺が気付くべきだった、それを、気付けなかった。

 

 未だに最早装うだけではなく、彼は本当に女性に変わってしまった。使命として与えられ、今なお着続ける彼の姿に、胸の奥が痛む。

 

 どうして俺は、足踏みをしている? 自分の仲間以外の人間を助ける必要など、あるのか?

 その油断が、この危機を招いたことをまだ学んでいないのか?

 こんなことをしている場合では、早く、早く彼らを元に戻さなければ。

 

 自分を内側からちくちくと責め立てる声が聞こえる。幻聴でもない、ただの焦りに過ぎないというのに。

 

 

「カイト、さん」

 

 ……手を、握られる。

 いや正確には袖の端を、摘まむ様にして。フィグは一歩俺に近付き、顔を上げていた。

 

「ぼく、お役に立てていましたか?」

 どこか、自信なさげに問いかけるその言葉に、返す言葉などひとつだ。

 

「お前がいなければ、今日のゴブリンを倒すのにも苦戦したはずだ。それだけじゃない。いつも、助けられている」

 だから俺は。そう言おうとしたその言葉を遮るように、彼は笑う。

 柔らかく、いくらか幼く見えるその顔立ちで、どこか大人びた優しい笑顔で。

 

「なら、大丈夫です。ぼくは、頑張れますから」

 

 だから、そう言って。摘まんでいた袖から手を放し、杖を脇に抱えて両手で手を掴む。

 彼を掴んで引っ張ってしまった、左の手を固く握った。

 

 

「だから、もっとぼくにも頼ってくださいね。仲間、ですから」

 たどたどしいその言葉は、どこか切実なものを感じさせる。

 彼がどんな思いでその台詞を選んだのかは、わからない。だが俺の弱気が、俺の中の何かを、見透かされたような気がしたのは、きっと気のせいではないのだろう。

 

 俺がしでかした過ちのせいで、今がある。

 その清算に仲間を頼るのは間違いだと思うし、それは今でも変わらない。

 

 だが、仲間を置き去りにするのは、違う。

 

「――ああ、わかった」

 

 頷く俺に、フィグは笑顔で応える。

 先程までの穏やかなモノとは違い。照れくさげに口角を溶かして、鼻頭を赤らめながら。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 この日は、二人で足りないものや朝食のための買い物をして帰ることにする。

 

 他愛もない話に花を咲かせ、フィグにも繰り返し日ごろの感謝を伝えた。

 

 

 ……それは、いいのだが。

 杖を片手に持っているのはさておき、手を繋ぐだけじゃなく、腕に抱き付くような格好になるのは、なぜなのだろうか。

 

 とはいえ、今日はハードだった。ギルド前で受けた視線の事もある。

 フィグも参っているのかもしれないと、深くは詮索をせずにいることにした。

 

 

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