分割したのにこの字量、もしや馬鹿かな?
ガーネットさんから、冒険者になるといい。
そう言われた僕は、冒険者を目指すことにした。
目指すも何も、ほとんど準備は彼女にしてもらったのだけど。
彼女と同じ、つばの広い帽子を貰って。
少し長いけどとても触り心地のいい杖を貰って。
彼女が着ているのと似ている、綺麗な服をもらって。
冒険者になるために、ガーネットさんの弟子だと名乗っていいことになって。
そして、お屋敷にいた多くの男の子たちに見送られ、ぼくは街へと向かった。
馬車に揺られて辿り着いた大きな街はまぶしくて、ものものしくて、そして人混みがすごかった。うっかりすればぺしゃんこになりそうなくらいに。
ガーネットさんに言われた通りの目印を探して回って、見つける。三日月を横倒しにしたような形に、剣が刺さったみたいなエンブレム。
ダンジョンに挑む人たち、冒険者を支援するギルドと言われる組織。ここに来れば、ぼくも冒険者になれると。
中に入ったぼくを、沢山の人がじろじろと見つめる。
それは別に気にならなかった。受付のひとに話をして、ぼくも冒険者になりたいと伝える。
けれど、その受付のひとはそれを止めようとした。
なんでも、「女の子には荷が重い」とか「必ず後悔する」とか。
自分が女の子の格好をしていたせいで、なにか勘違いをさせてしまったようだ。少しだけ嬉しかったけれど、本当のことを言わなければ冒険者にはなれないらしい。
そこでぼくが男であると伝えると、今度は書類に走らせていたペンが止まり、疑うような、あるいは正気を疑うような目を向けられる。
どうやらガーネットさんが言っていた通り、ぼくはどこかしらおかしいのかもしれない。とはいえ、こんなときどうしたらいいのかも教えてもらった。
自分は赫の魔女の弟子だから、戦うことはできる。そう話す。
そうしたら、ギルドの人たちに連行されて牢屋にいれられた。
焼きごてを押し付けられながら尋問でもするのだろうか、せっかくの服が汚れたり傷付けられたら嫌だなと思いながら数日そこで過ごした。
時折兵隊みたいな鎧をつけた人や、ギルドのエンブレムがついた腕章をつけた人に話をされたが、乱暴されるでもなく開放された。
ガーネットさんの言いつけの通り、ぼくの格好は赫の魔女が自分にあたえた指令というか命令というか、そういうものが原因であると伝えて、冒険者になったのは修行の一環だと言う。
嘘は良くないと思ったが、もし正直にダンジョンの特定の罠を受けたくて来た、なんて言ったら冒険者になんてさせてもらえなかっただろうししょうがない。
こうして、ぼくは晴れて冒険者になることができたのだ。
けれど、ここで問題が起きる。
一人でダンジョンに潜っては帰ってこず、それを探しに潜った冒険者がまた帰ってこない、という事態が増えたために、単独でダンジョンに挑む行為は禁止だと言われてしまったのだ。
つまり、ぼく一人で罠にかかって女の子になる、というのが難しいということになる。
しかもぼくが名乗った『赫の魔女の弟子』というのが信じられていないらしく、全然仲間に入れてもらえない。
たくさんの人が所属しているチームにも、少数精鋭みたいなチームにも売り込んでみたが、全然だめだった。
当然冒険者として働けなくては、お金が稼げない。
いくらか持たせてもらったお金ももう尽きかけていた。ギルドの建物の中で声を掛けてもらえるのを待ったりしてみてもだめ。ひどいときは野菜を投げ付けられそうになった。
つい魔術で防いでしまったら、剣とか槍とかを向けられてしまい、迷惑かと思って出てきてしまって。
泊まっていた宿にも迷惑がかかりそうで、魔術で木の上に木の葉と枝でベッドを作って眠るようになった。
それでもご飯を食べるにはお金がいる。空腹だけは魔術でもどうしようもない。
途方に暮れて、ふと見れば。
肌をたくさん見せる服を着た女の人たちが男の人の手を取って、建物の中に消えていく姿を見つけた。
気になってついていけば、お花とも石鹸とも違う不思議な匂いがたちこめる場所。夜の遅い時間なのに、どこもかしこも賑やかな場所。
……ここなら、ダンジョンに入れるようになるまで、お金が稼げるのだろうか。そう思ったが、ぼくはすぐに振り返った。
ぼくは女の人じゃないから。
まだ、ぼくはみにくいままだから。
そう思って、またいつもの木の上に戻ろうとしたとき。
強い力で、ぼくは裏路地に引きずり込まれた。
◆ ◆ ◆
「おい、こいつか?」
「この目立つカッコ、間違えるわけがねぇ」
気付けばぼくは硬い地面に押し付けられ、声も出せないよう口元を覆われている。魔術は不思議なことばを唱えなければ使えない。簡単に、ぼくは完全に抵抗の手段を失ってしまった。
「しっかし、ほっせえ身体だな。こいつほんとに男か?」
「確かめてやろうぜ、服の一枚二枚より身柄のほうが高く売れらぁ」
取り落とした杖、軽くなってしまったお金の入った袋が目の前で取り上げられる。同時に、ぼくのスカートが破かれる音がした。身を捩ろうとしても、力が弱いせいで抵抗だとも思われない。
「――マジで男かよ、ケッ、使えねえ」
……呟かれた言葉に、ぼくは身体を動かすのもやめた。
そうだ。
ぼくは、だめなんだ。
魔術を教えて貰って、冒険者になって、好きな服を着て。
何かを身に着けても、何を身に纏っても、結局。
ぼくは、
「何してるんだい、君たち」
ふと、自分の上から少し離れたところで、さわやかな声が聞こえた。
「なんだテメェ、すっこんでろ」
「そうもいかないな、僕の
ぼくの荷物を拾っていた男の声が離れ、さわやかな声に近付いていくのと同時に。
身体を抑え付け口を固く塞いでいた腕がほどけて、目の前に白目を剥いた男の人の顔が倒れ込む。驚いている間に、誰かがぼくの身体を抱き上げた。
「もういいぞ、アスタ」
「なっ、ふざけんなテメ、がボァ!?」
突然広くなった視界、抱き上げられたぼくが見たのは。
夜闇のような髪の男の人が、ぼくを抱えていること。そして、ぼくを拾った男の人に食ってかかろうとした襲ってきた方が、背の大きな金髪の男の人に地面に叩き付けられる姿。それもぼくがやられたような押さえ付けて取り押さえるような感じじゃなくて、頭から固い地面に思いきりぶつけて砕くような力強さだった。
「――アスタ、殺してないよな?」
「まさか。君に危害を加えようとしたから、少し力が入っただけだよ」
「俺の方が、少し無防備過ぎたか。悪い、助かった」
黒い髪の男の人は、ぼくを抱えたままさわやか声の男の人と話している。
彼らは、誰で。なぜ、ぼくを捕まえていた人たちをやっつけたのだろうか。
わからない。なので、聞いてみることにした。
「あの、すい、ません」
「そうだ、怪我はないか?」
視線を落とす、ぼくを抱えたままの黒髪の人。
……陽が沈む瞬間のような、赤い瞳は、心底心配そうな眼差しで、ぼくを見る。
何かを、聞くよりもわかりやすいその目が、なんだか、おかしかった。
ともかく、怪我がないこと、服が破れられてしまって代わりがない事を伝える。その間に『アスタ』と呼ばれたさわやかな声の人はぼくを取り押さえていた人たちを縛って、誰かを呼んでくると言ってその場を離れてしまった。
その間に、ぼくは彼らが泊っている宿へと連れてきてもらい。
そこで……ぼくは、黒髪の人に自分の身の上を話した。
もちろん、ガーネットさんから言われた通りに、格好の事は師匠の言いつけであると嘘をついたし、ところどころ本当の事は言わずに。
でも、その黒髪の人は不思議だった。
ぼくの両親の話をすれば毛が逆立つくらいに憤り。
ぼくを助けてくれたガーネットさんの話をすれば、ほっとしたような息を漏らし。
ぼくが魔術を教えて貰った時の話をすればまた拳を握って怒りを堪えて。
ぼくは今ダンジョンに行きたいという話をすると、少しだけ考えるように手を組んで、すぐにそれを解いた。
「俺は、さっきの金髪の――アスタという彼と二人で冒険者をしている。もし君がよかったら、俺たちと一緒に仕事をしないか」
彼は、そんな風に言ってくる。
正直な話、それはとても嬉しい事だった。行く先が見えなかったぼくの本当の目的が、突然叶う寸前の状態にまで近づいてきたから。
でも、同じくらいわからない。
裏路地で、身ぐるみを剥がされたぼく。弱そうに見えるだろう。
魔術を使えるという話も、まだ魔術も見せていないのに信じてくれる。
正直、変だ。
だからぼくは素直にそう言って尋ねる。
「どうしてぼくを信じるんですか? 何も証拠なんてないのに」
すると彼は、目を丸くして、同時に首を傾げた。
「……困っているなら助けるし、嘘にも理由はあるだろう。道理や規範に反するなら、その時はその時だ」
――とても、変な人だなと思った。
だから、きっと。
きっとぼくの目的を達成するのに、ちょうどいいと思った。
簡単に騙されてくれるだろうと思った。
「――なら、ぼくも、あなたを信じてみます」
そしてぼくは、彼の差し伸べてくれた手を、掴ませてもらうことにした。
◆ ◆ ◆
それからぼくは、黒髪の人、カイトさんと。さわやかな人、アスタさんと一緒にダンジョンに潜ることになった。冒険者ギルドの人たちはみんな驚いていたし、ぼくから少し離れたところでアスタさんやカイトさんにぼくのことを何か色々と言っているようだったけれど、どちらもすごく怒っていた。
不思議だった。自分の事でもないし、大体本当の事なのに。
ともかく、ぼくは念願のダンジョンにやってきた。
これでぼくもみにくいからだを捨てられる。そう思うとうきうきした。
した、のだが。
「この先に居る。スライム――だな、酸を撒く」
「罠だ。宝に飛びついたら何かが起こるだろう。壁と床を爆薬で吹き飛ばしておく」
「そっちの部屋は嫌な感じがした、やめよう」
「その道は多分行き止まりだ。奥に行ったら敵が湧いてくるタイプだろう、戻ろう」
……全然罠に掛からなかった。掛からせてもらえない。
リーダーだというカイトさんはものすごく勘が鋭いせいで、でてくる魔物も罠も全部見抜いて先んじて解決してしまう。
最初はすごいと思ったが、後半からはだんだん怖くなってきた。
それをアスタさんはひたすらすごいと思っているみたいだし、なんならうっとりしている様子さえある。
ぼくの目的が目の前にやってきたと思ったのに、ものすごい勢いで離れていくような感じだった。
とても悲しいし、とてもつらかった。
でも同時に、彼らとダンジョンの中に入るたびに驚きがあった。
魔術で怪物をやっつけたりしたとき、アスタさんもカイトさんも目を丸くしてぼくを褒めてくれた。
その日はぼくの分のお給料が二人より多かった。
よくわからないアイテムを見つけたとき、それの詳細を紐解く魔術を使ったら余計にびっくりして、ぼくをものすごく褒めて、その日はぼくの好きなものを食べようと言ってくれた。
特に好きな食べ物はなかったから、一応デザートにクッキーを貰った。
それに、不思議なことはまだある。
ぼくがお給料を貰って、服を買いに行った時。街中でへんな鎧を着た男の人に声を掛けられて困っていたら、カイトさんが突然現れて助けてくれた。
それ以降、ぼくが買い物に行こうとするときには、カイトさんかアスタさんがついて来てくれて。ぼくが、女の子の服を買いに行こうとしても、二人は何も言うことはなかった。なんなら、その時はふたりともぼくを女の子として扱ってくれた。
なんだか、少しむずむずした。同じくらい、その嘘はぼくのこころがちくちくした。
ぼくは二人にたくさん嘘をついた。
ガーネットさんのお屋敷の事は全然正直に話していないし、当然ぼくの目的のことも嘘っぱち。女の子の服を定期的に買いに行くのも、ガーネットさんのせいということで乗り切り続けている。
それでも、二人はずっとぼくに正直だった。
カイトさんは魔術を使う戦力としても褒めてくれる。ダンジョンの内外で彼の判断を誤らせようとやってみたドジのふりも、全部本気で心配して、対策も考えてくれる。……嘘なのに。
逆に、全部嘘だと気付いているアスタさんは注意するし、げんこつしたり、頭をがっちりつかんで締め上げたりとかして、本当に潰れたりするかと思ったこともあった。けれど、ダンジョンの中で襲ってくる怪物から守ってくれたり、優しくしてくれるのにはかわらない。
へんな人たちだった。
みにくいぼくを、助けてくれる。
みにくいままで、受け入れてくれる。
どうしても、その理由がわからない。
なのに、ぼくは。どうしようもなく、胸がむずむずする。
うれしくて、きもちわるくて、なきそうなくらいに痛い。
そんな、ある日のこと。
もう一人、ダンジョンに一緒に潜る仲間を勧誘するために向かったアスタさんとカイトさんが、お酒を飲んで帰ってきたことがあった。
気分が悪そうにしながらも、立つこともままならなくなっているアスタさんを抱えて帰ってきたカイトさん。アスタさんはカイトさんにスライムみたいにへばりつきながら、うわ言の様にカイトさんの名前を呼びながらべしょべしょに蕩けた笑顔を浮かべていた。
ぼくも手伝って、ごねるアスタさんを引き剥がして私室に隔離。責任感が切れてふらふらしだしたカイトさんをどうにかこうにか彼の部屋に行くのを手伝った。
「……ありがとうフィグ、迷惑を掛けて、すまない」
ベッドに一度座ってから、すぐに体を横にしてしまうカイトさん。
普段は困ったり、戸惑ったりする姿も珍しくないが同じくらいに警戒心も強いカイトさんが、その日は珍しく弱った姿を見せていて、ぼくは驚いた。
今度こっそりダンジョンでお酒を飲ませれば、ぼくも罠にかかれるかも。
そう思ったが、すぐにやめた。
別にぼくはカイトさんやアスタさんを危険にさらしたいわけじゃないと考えたから。
……自分勝手な目的を果たすために仲間に入れてもらったはずが、いつの間にか行動の指針が彼らを中心に回るようになっている。
ずっと前からわかっていたが、ぼくはどんどん変化している。
変に、なっている。
その自分が、どうにも、気持ちが悪くて。
彼が弱った、隙を突いた。
「あの、カイト、さん」
お酒を飲んで、警戒や気遣いの弁の緩んでいるだろうカイトさんに、訊ねる。
「カイトさんから、見て。ぼくは、どんな、顔をしているんですか?」
舌が乾く。喉の奥がからからになって、少し鼻の奥がツンとする。
真っ黒に塗りつぶされた、醜いぼくの本当の姿。
それをきっと彼は知っている。
だから、もしみにくいことを彼が保証してくれれば。ぼくは彼を嫌いになれる。
優しい彼が嘘をついたら、ぼくのみにくさを保証でき、ぼくの初心を思い出せる。
ぼくは、そうすれば。このちくちくや、むずむずから逃れられる。
そう思って。
「どんな、って」
戸惑うような、声音。わざわざ重いだろう身体を持ち上げて、ぼくを、沈む寸前の陽が放つ光のような。ぼくを助けてくれた時とかわらない、真っ赤な瞳で、見つめて。少し、躊躇う様に何度か口を開いては、閉じて。
「気分を、害したらすまない」
ああ、やっぱり。
ぼくは、――。
じくと。一等強い胸の痛みが、喉から心臓を斜めに穿った。
「綺麗だと、思う」
「――え?」
予想と、違う。
どうして? ぼくは、みにくいんじゃ。
「磨いた木目のような透き通った茶色の髪。若葉のような深い緑色の瞳。最初助けた時も、襲われているのは少女かと思ってしまった。格好のせいもあったのだろうが、その、すまない」
いや、どうして、どうして謝るの。
「その恰好は、師匠に命じられているんだろう。なら、少女と見間違えたとか、
しまった、という顔をする、カイトさん。
「す、まない」
縮こまって、沈む声音と、伏せられる顔。下げられる頭。
思わず立ち上がった僕と比例して、その姿はとても小さく見えた。
でも、そんなことよりも。
鈍い痛みが取り去られて、かわりに心臓に訪れた激しい熱と、自分の身体の奥を打ち鳴らす、どごどごという重い音。
「~~~~~~、っ」
世界が壊れてしまいそうな音と熱。
頭が真っ白になったぼくは、カイトさんの部屋を飛び出した。
自室に飛び込んだぼくは、杖を抱き。帽子を被って、座り込む。
鳴りやまない激しい音に、それがようやく自分の心臓から鳴っていたことに気付く。
……部屋の端に、布を掛けたまま置いてあった化粧台。
衣装を買うぼくに、必要だろうとカイトさんが贈ってくれたもの。鏡の中の自分の顔が見られないとは伝えられずに、とてもうれしいと、嘘を言った。
お酒なんて飲んでいないのに、ふらふらになった足取りで、それに近付いて。
ずっと掛けてあった、布を、外した。
そこに映っていたのは。
何から何まで紅潮して、鼻の頭なんか腫れてるみたいに真っ赤になって。
理由もわからない涙で潤みきった、緑色の目をして。
急いで走ったせいでぐしゃぐしゃになった、亜麻色のぼわっとしたくせ毛をした。
……そんな、
◆ ◆ ◆
その日から、ぼくは人の顔の見分けがつくようになった。
アスタさんはカッコいい顔立ちで、まるで王子様みたいだった。買い物で隣を歩いていてもらったとき、女の人の視線が気になったのはそのせいだった。
カイトさんたちがお酒を飲まされたり、色々あってようやく仲間になってくれたというククラータさんは、髭が生えてだらしない顔。でも、多分清潔にしたらかっこよさそうだった。
そして、カイトさん。
眠たげな三白眼、固い表情。でも、笑いかける顔がとっても優しくて、穏やかで。怒るのは自分より他人のためで、だから余計に凛々しくて、雄々しくて。
……そんなこんなで、ぼくは彼をじっと見つめることが増えた。
けど、その日を境に、カイトさんはぼくに距離を空けるようになった。
考えれば当然だ。ぼくの嘘のせいで、ぼくは『女性扱いをさせられている』ということになっている。その話題に不用意に触れた――そう思い込んだ優しい彼が、ぼくに気を遣いはじめるのは、想像の範囲内だった。
だから、ぼくはそれを利用した。
買い物には積極的にカイトさんについてきてもらった。荷物持ちをしようとでも思っていたのだろうが、そんなつもりはないと言った。そうすると彼はまた買い物に付き合ってくれた。
ダンジョン内で罠に掛かったり怪物に襲われたりした人を助けて、そのあと気が沈んでいる彼を積極的にギルドに迎えに行った。
ぼくには色々な目線が突き刺さったが、そのあとカイトさんがぼくの手を取ってくれたりするのがたまらなく嬉しかった。けど、触れ合うこともぼくを傷つけると思っているのかすぐに離してしまう。それは少し寂しい。
ドジのふりは続けた。最もそれは、彼にもっと触れて、近づくための口実になった。アスタさんからの注意がより力強くなったのは、仕方がないことだと割り切る。痛いけど。
ぼくはもう、女の子にわざわざなりたいとなんて思わなくなった。
それよりも、カイトさんに可愛いと思われ続けたいと思う方が、よほど強い願いになった。
褒めて欲しい。そう言うようにしたが、彼はダンジョンでの活躍ばかりを褒めて、あの日以降ぼくを可愛いとは言ってくれなくなった。
だから、女の子の身体になる罠に掛かったときは、チャンスだと思った。
男のぼくには言えなくても、女のぼくになら。
男のぼくにできないことでも、女のぼくになら。
でも、違った。
優しいカイトさんは、ぼくらが罠に掛かったことを自分のせいだと思い込んで、ずっと、ずっと、ずっと悲しい顔をしている。
笑ってくれても、怒りが顔を出しても、何もしていない時でさえ。彼の表情には悲しみが滲むようになった。
そんなことはないと。怒っても、憎んでも、恨んでもない。感謝しているくらいだと。そう言いたい。
でも、言えない。ぼくは、あまりにも嘘をついてしまった。彼をだまし続けてしまったから。
彼はきっとぼくらを男の身体に戻すだろう。戻してしまうだろう。
難しいことだろうけど、彼はきっと成し遂げるだろう。ぼくはそう思っている。
そして、ぼくはそれを手伝う。助ける。それが、ぼくのついた嘘の罰だから。
だから、
だから、少しだけ強引に、少しだけわがままになる。
そしてこの夢から覚めたら、全部の嘘を彼に伝えて、この思いも全部吐き出そう。
嘘つきで、自己中心な、みにくいぼくを脱ぎ捨てて。
そうしてやっと、まっすぐに。ぼくは彼に、恋をするんだ。
――たしかにこれは、疼く性があるといえるだろう。
ガーネットさんの先見の明は、すごかったんだなあ。
ガーネット「いやそれは知らないけど」