ゲヘナ学園新聞部、彼女たちが懲罰房から出たその日――当然のように、クロノススクールの者たちが寄ってたかって彼女たちに様々なことを問いかけた。
「先生に襲われたというのは事実なのか」
「その怪我は銃によるものなのか」
「先生の真実とは」
「事件の真相とは何なのか」
様々な疑問がぶつけられ、初め彼女たちは口を開かなかった。距離の詰め方が急だったのもあるだろう。部員の一人が怖がり、副部長が記者たちを遠ざけるように指示。部長もある程度の距離は保ってほしいと述べ、渋々記者たちは半歩退いた。
彼女たちも、不安だったのだ。幾ら記者と言えど、皆もまだ子ども――大人という存在が自分たちを攻撃したという事実は、彼女たちにとっても充分恐怖を産むモノだった。
記者が怖がれば、それを見ている者にも恐怖は波及する。キヴォトスに困惑が広がっていたのは、そういう原因もあるだろう。ニュースを見れば、クロノスの記者たちが恐る恐るこの話題を繰り出し、無意識に視聴者の恐怖を煽ってしまったのだ。
認知的不協和。本人の間に幾つかの認知があり、その何れかが矛盾してしまう場合、ストレス――つまり不協和を起こす認知的な現象である。
今回の場合で言えば、先生という頼れる存在がある。しかし、その先生は生徒を襲ったことがあるらしい。この二つの情報(認知)には先生が頼れない存在であるかもしれない、矛盾が生じる。故に、ストレスを生じやすくなってしまうのだ。
だからこそ――彼女たちの毅然とした態度を受け、記者たちには小さな安堵が芽生えていた。
どうやら、新聞部の面々はそうではないらしい。堂々とした態度で、何にも恐れていない。恐慌状態にある人間は、動じない者が輝いて見える。
最早彼女たちの言葉を遮ることなど出来ない。それは太陽に逆らうようなことであって――つまり、無意味なことだから。
それからゆっくり、大きく深呼吸したかと思うと――部長、政島イヴは言った。
「――――私は」
「大人が嫌いです」
「大人は、高慢で、礼儀知らずで、気分屋で」
「子どもを搾取の相手だと思い、それが間違っていないと考えており」
「なんでもかんでも自分の思い通りに子どもを操れると思っている」
「彼らの言葉に従えばつけ上がり、嫌がれば年長者を振りかざす」
「バカだと、幼稚だと、浅慮だと」
「言われたくもないような言葉で子どもを責め立てる無神経さ」
「私はハッキリ言って」
「
滔々と彼女は語る。これまでの鬱憤を晴らすように。
大人への悪意を強く持ち、その溢れんばかりの憎悪をまるで抑え込まず。
全てを吐き出すように、彼女は続ける。
「今回の事件でわかったでしょう? 大人とはこういうモノなのです」
「少しでも逆らえばすぐに牙を剥く」
「自分の立場が揺るぐとわかればすぐに手を打つ」
「そんな先に産まれたからというだけで偉いみたいな」
「そんな先に産まれたからというだけで凄いみたいな」
「そんな大人が嫌いです」
「だから……この学園都市に大人など不要だと、私は考えます」
「作りましょう。私たちだけの居場所を」
「トリニティのゲヘナの成せなかったエデン条約を」
「新しい、子どもたちだけのカタチで」
「もう一度、初めから!」
「――――このキヴォトスの、エデン条約を!」
そう、彼女は言った。
現場の記者は彼女の剣幕に何も言えなかった。あまりにも強い宣言に、言葉が出なかった。口を動かすことはおろか、言葉を考えることすら出来なかった。
政島イヴは最後と言わんばかりに――力強く、締めくくる。
「――――さあ、始めましょう? 子どもたちの新たな