浦和ハナコは言付ける   作:浅笠紗々

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伍/『Unwelcome School』

 ゲヘナ学園新聞部、彼女たちが懲罰房から出たその日――当然のように、クロノススクールの者たちが寄ってたかって彼女たちに様々なことを問いかけた。

 

「先生に襲われたというのは事実なのか」

 

「その怪我は銃によるものなのか」

 

「先生の真実とは」

 

「事件の真相とは何なのか」

 

 様々な疑問がぶつけられ、初め彼女たちは口を開かなかった。距離の詰め方が急だったのもあるだろう。部員の一人が怖がり、副部長が記者たちを遠ざけるように指示。部長もある程度の距離は保ってほしいと述べ、渋々記者たちは半歩退いた。

 

 彼女たちも、不安だったのだ。幾ら記者と言えど、皆もまだ子ども――大人という存在が自分たちを攻撃したという事実は、彼女たちにとっても充分恐怖を産むモノだった。

 

 記者が怖がれば、それを見ている者にも恐怖は波及する。キヴォトスに困惑が広がっていたのは、そういう原因もあるだろう。ニュースを見れば、クロノスの記者たちが恐る恐るこの話題を繰り出し、無意識に視聴者の恐怖を煽ってしまったのだ。

 

 認知的不協和。本人の間に幾つかの認知があり、その何れかが矛盾してしまう場合、ストレス――つまり不協和を起こす認知的な現象である。

 

 今回の場合で言えば、先生という頼れる存在がある。しかし、その先生は生徒を襲ったことがあるらしい。この二つの情報(認知)には先生が頼れない存在であるかもしれない、矛盾が生じる。故に、ストレスを生じやすくなってしまうのだ。

 

 だからこそ――彼女たちの毅然とした態度を受け、記者たちには小さな安堵が芽生えていた。

 

 どうやら、新聞部の面々はそうではないらしい。堂々とした態度で、何にも恐れていない。恐慌状態にある人間は、動じない者が輝いて見える。

 

 最早彼女たちの言葉を遮ることなど出来ない。それは太陽に逆らうようなことであって――つまり、無意味なことだから。

 

 それからゆっくり、大きく深呼吸したかと思うと――部長、政島イヴは言った。

 

「――――私は」

 

「大人が嫌いです」

 

「大人は、高慢で、礼儀知らずで、気分屋で」

 

「子どもを搾取の相手だと思い、それが間違っていないと考えており」

 

「なんでもかんでも自分の思い通りに子どもを操れると思っている」

 

「彼らの言葉に従えばつけ上がり、嫌がれば年長者を振りかざす」

 

「バカだと、幼稚だと、浅慮だと」

 

「言われたくもないような言葉で子どもを責め立てる無神経さ」

 

「私はハッキリ言って」

 

絶壁(、、)です」

 

 滔々と彼女は語る。これまでの鬱憤を晴らすように。

 

 大人への悪意を強く持ち、その溢れんばかりの憎悪をまるで抑え込まず。

 

 全てを吐き出すように、彼女は続ける。

 

「今回の事件でわかったでしょう? 大人とはこういうモノなのです」

 

「少しでも逆らえばすぐに牙を剥く」

 

「自分の立場が揺るぐとわかればすぐに手を打つ」

 

「そんな先に産まれたからというだけで偉いみたいな」

 

「そんな先に産まれたからというだけで凄いみたいな」

 

「そんな大人が嫌いです」

 

「だから……この学園都市に大人など不要だと、私は考えます」

 

「作りましょう。私たちだけの居場所を」

 

「トリニティのゲヘナの成せなかったエデン条約を」

 

「新しい、子どもたちだけのカタチで」

 

「もう一度、初めから!」

 

「――――このキヴォトスの、エデン条約を!」

 

 そう、彼女は言った。

 

 現場の記者は彼女の剣幕に何も言えなかった。あまりにも強い宣言に、言葉が出なかった。口を動かすことはおろか、言葉を考えることすら出来なかった。

 

 政島イヴは最後と言わんばかりに――力強く、締めくくる。

 

「――――さあ、始めましょう? 子どもたちの新たな楽園(エデン)を」

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