浦和ハナコは言付ける   作:浅笠紗々

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Ⅸ/枝分かれ(1)

 彼女たちの背後には、狐耳の少女もいた。首根っこを掴んで、猫でも捉えるみたいに――皆を運んできたのだろう。

 

「うろちょろしていましたので、間違えて捕まえてしまいました」

 

「しゃーっ!」

 

「振っておいてなんですが、今そのノリに付き合う元気、ありませんので……」

 

 疲れ切った顔で、彼女は首を離す。ショートカットの少女が、敵意満々で威嚇する。

 

「……とまあ、そういうことです。相手の陣地に攻め入るのですから、文字通り猫の手でも借りたいところではありませんか? あなた様」

 

 話は聞いていた――と。そういうことらしい。

 

 ならば問題はない。彼女の言っていることは正しいのだ。

 

 基本的な戦力はほとんど鎮圧戦に駆り出されている。この場に残っているのは、ほぼハナコくらいのモノだ。

 

「それは全くその通り。じゃあ君たち、行けるかな?」

 

「はいっ!」

 

 快活に、少女は言った。元気満々、これならば問題もないだろう。

 

 首だけを動かしてリンを見ると、タイミングを見計らったように口を開く。

 

「先生。どうやら敵の本拠地は――シャーレのようですね」

 

「シャーレ?」

 

「先生が働いていた場所です」

 

 リンが画面を出す。ここから離れてはいるが、歩いていけない距離ではない。

 

「――成程。『貴方のいるべき場所で』、か……私が働いていたって言うんなら、間違いなくそこだろうね」

 

 面倒な言葉遊びを好む女だ。

 

 いや、どっちかというと子どもっぽい――か?

 

「私も行きますよ」

 

「……ハナコ」

 

「後方支援程度しか出来ませんけど――それでも、猫の手でも、なのですよね?」

 

「うん、頼もしいよ」

 

 わざわざ言ってくれなくとも、もうすっかりハナコは俺の中での戦力だったのだけれど。

 

 あえて確認したかったところもあるのだろう。

 

「えっと、君は……」

 

「狐坂ワカモと申します」

 

「うん、ワカモ。よろしく――」

 

「――昔は先生の愛人をやっておりました」

 

「ぶふっ!?」

 

「うふふっ、冗句(じょうく)ですわ」

 

 嬉しそうに、彼女は言う。なんと言うか、この子は抜け目がないというか。

 

 少し咳き込んで息を整えていると、私の腕をハナコがぎゅっと握った。

 

「――おや、随分と血色がよくなりましたね、ハナコさん」

 

「正妻枠は良いのですか?」

 

「愛人関係の方が、燃えませんか?」

 

「……一理ありますね」

 

「うふふっ、そうでしょうそうでしょう」

 

 よくわからないことを話していた。

 

 あんまり深く考えない方が良さそうだったので、あんまり深く考えないでおく。

 

「ともかく! 時間もないし、すぐにでも行こう!」

 

「先生、お待ちください」

 

「……ぐぇ」

 

 部屋を飛び出そうとした俺の首根っこを、リンが掴む。いつの間にここまで来ていたのか。

 

「所在が不明になっておりましたのでこちらで回収していましたが――これは元々先生のモノです」

 

 そう言って、何か板状のモノを渡す。

 

「……タブレット?」

 

「シッテムの箱。連邦生徒会長の置き土産です。先生にしか扱えない不思議なオーパーツですが――活用してください」

 

「うん、ありがとう」

 

「……では、行ってらっしゃい。今回こそ、誰も不安にさせずにお帰りください」

 

「じゃあ、行ってくるねリンちゃん!」

 

「だから、誰がリンちゃんですか!」

 

   〇

 

 そのまま流れるように、俺は皆を連れて外に出た。俺はまともな戦力にならないから、実際に戦えるのが五人。手数は圧倒的に足りていない。

 

 ――ならば、電撃戦が望ましいか。一瞬で終わらせて一瞬で無血開城。これだ。

 

 ゲヘナ学園から一歩外に出ると、そこは死屍累々の状態となっていた。地面には大量の弾痕と、気絶した生徒。壊れたオートマタの破片が散らばっている。

 

「……誰かが、ここで守っていた?」

 

 丁度ゲヘナに入ってこないように、ラインを引いたかのような状態だ。その場に倒れ伏す誰一人として、ゲヘナ学園の土を踏めている者がいない。

 

 意図的に――それを敵に、示唆するように。

 

「……厄介なお姫様に頼まれたモノですから」

 

 そう言って、ワカモは笑った。

 

 ……本当に、頼もしい子だ。

 

「それより先生、義足の調子はどうですか?」

 

「悪くない。痛みもほとんどないよ」

 

 ミレニアムサイエンススクールの開発だという、歩行支援機械。それを借りることが出来た。ノアという子が急いで送ってくれたのだ。

 

 丁度俺の足にぴったりとハマるカタチで、使い心地は悪くない。少々装飾がごてごてしており、若干下品な気がするくらいだが、俺の中の男の子の部分が断固としてそれが必要なのだと告げていた。

 

 歩くだけならばほとんど労力もかからない。片足のみの使用にも関わらず、左右での違和感もほぼない。こんなに素晴らしいモノを付けられるならば、もう一回くらい怪我をしてみたいものだ。

 

 ……まあ、そんなことを言えばまたハナコが泣いてしまうかもしれないので、秘密だけど。

 

「松葉杖を突いていくんじゃあ示しもつかないしね」

 

「先生、先に言っておきたいことがあるのですが」

 

「えっと――イヴ。何かな」

 

「本当に、ごめんなさい!」

 

 がば、と彼女は急に頭を下げた。そのまま、新聞部の二人も頭を下げる。

 

「えっ、えっ――何!? いきなり!」

 

「この度は私の妹が大変粗相を致してしまいまして……謀ったわけではないとはいえ、私共も先生には迷惑をかけてしまい……」

 

「い、いやいや。いいんだよ、別に。気にしてないから」

 

「それは先生が全部記憶を忘れているからで……! いや、でもそんなことを言ったらまあ今の先生にこんなことを言っても仕方ないのではありますが……!」

 

「落ち着いて落ち着いて」

 

 興奮する彼女を宥める。彼女自身でも、あまり整理がついていないみたいだった。

 

「……じゃあ、私の記憶が戻ったら、その時にまた言ってほしいな。今の私が許しても、君たちにとって贖罪にはならない気がするでしょ?」

 

「……」

 

 言葉を咀嚼するイヴ。

 

 そうしていると、後方から少女――マカがやってきて、イヴの頭を叩いた。

 

「いたぁっ!」

 

「そうします」

 

「君が答えるんだ……」

 

 そのままイヴの首根っこを掴むと、無理矢理前に向けさせる。すなわち――シャーレの方だ。

 

「行きましょう先生。時間、ないんですよね?」

 

 マカの言葉に頷いて、俺達はぞろぞろと歩き始めた。

 

   〇

 

 シャーレまではしばらくかかる。一直線に行っても、数十分はかかってしまう。特に、徒歩ということもあってか更に時間が掛かってしまうだろう。

 

 だが、焦ってはならない。着実に、安全に――進んでいかなくては。

 

「――先生、止まってください!」

 

「ハナコ!? 何かあった?」

 

「……誰か、います」

 

 閑静な住宅街。その曲がり角で、ハナコは全員を静止した。

 

 塀に隠れるように、少しだけ顔を出す。その瞬間、何か身の毛のよだつ違和感があって、俺は思いっきり顔を戻した。

 

「――!」

 

 直後、俺の顔があった位置に、何かが突き刺さっていた。

 

「……今、撃たれた?」

 

 しかし音はなかった。銃口が自分に向けられているのは確かに確認した。でも、音がなかったのだ。

 

 それでも、結果としてブロック塀が抉れている。間違いなく、弾丸が触れたことによる衝撃はあった。だというのにも関わらず、結果だけがそこに残っている。

 

 ――途方もないほどの、悪寒。

 

「――そこにいたのか、先生」

 

「……っ」

 

「ここで待ってりゃ先生が来るって言われたからさ。正直半信半疑だったんだけど――いや、正解だったな。急がば回れ――ってやつかぁ?」

 

 腰まではあろう長い髪。真っ赤な制服に身を包んだ――やはり、俺の知らない少女。

 

 道路を塞ぐように――俺達を待ちわびるように。彼女は立っている。

 

「君、名前は!?」

 

「アタシに名前なんざねぇよ。強いて呼ぶんなら――『第五人災(Distorter Fifth)』から……フィフスって呼んでくれ」

 

「フィフス……!」

 

 さっきベアトリーチェの言っていた、お抱えの精鋭か。

 

 こんなところで待っているとは――厄介な。いや、こんなところだから、か。

 

 シャーレまでの一直線の道。そこを封鎖するのは当然だろう。

 

 これはベアトリーチェにとってゲームみたいなモノなのかもしれない。だとすれば、最短の道ほど妨害を敷くはず。

 

「『天災保有者』ではないにせよ……何か、特別なチカラがあるみたいですね。どうしますか?」

 

「ここを通らないとシャーレまでは遠回るしかないし――遠回りするとしても、彼女と追いかけっこになる可能性もある」

 

 俺達を待ち受けていたということは、ここで仕留めるか、あるいは疲弊させるためだろう。ならば、この道から外れたとしても、彼女が追いかけて来る可能性は大いにある。追いかけっこになればハンデがあるのは、負傷者である俺を抱えているこちら側だ。

 

「……」

 

 妙案はある。しかし、それを実行するのは、少しばかりの覚悟がいった

 

「――私が行きましょう」

 

 だからか、あるいは自然とその発想に行きついたのか――ワカモが一歩前に出た。

 

「音のない弾丸。身に覚えがあります」

 

「……っ」

 

 瞬間、ハナコが息を飲む。

 

「――もしかして、私たちを襲った……!?」

 

「かも、しれません。あの時、誰にも襲撃音が聞こえなかったのは――もしかすると、彼女の仕業かもしれません」

 

「……ワカモさん。貴方は仇討ちのために、殿をやるつもりなんですか?」

 

「それもあります。し、どうせ誰かが彼女を引き付けなければならないのでしょう。であれば私が適任です」

 

「――待て、ワカモ。君はさっきまで、ゲヘナを守ってくれていたんじゃないのか? まだ疲労も残っているはずじゃ――」

 

 俺の言葉を、ワカモが止めた。にっこりと笑うだけで、俺はもう何も言えなくなってしまう。

 

「――では、癒してくださいまし?」

 

「……えっと……?」

 

「私の疲労を、一撃で癒す方法がありましょう」

 

 じろり、とハナコが睨む。俺じゃなくてワカモを睨んでほしい。

 

 少し戸惑って、それでもゆっくり、ワカモに手を伸ばす。彼女はちょっとだけびくりと肩を揺らして、でもそれを無理矢理止めた。

 

 ぽん、と彼女の頭に触れて、それを撫ぜる。

 

 柔らかな頭髪が、気持ち良い。

 

「……よく、頑張ってくれたね」

 

「……♡♡♡」

 

「ああ、人語を忘れている」

 

「いつものことですよ」

 

「人語は常に忘れないでほしいな」

 

 嬉しそうに目を細める。これだけ喜んでくれれば、恥を忍んで頭を撫でた甲斐もあったというモノだ。

 

「あ、そうだ」

 

「? なんでございましょう?」

 

「もし元気に帰ってきてくれたら――今度は今のより長く、褒めるよ。約束する」

 

「♡♡♡♡♡」

 

「これまでにないほどの忘却」

 

「先生、先生。私も褒めてくださいね」

 

「マカまで!? えっと、まあ、うん……」

 

「先生……あの、私も……!」

 

「折角なので私もお願いします!」

 

「……ぐぇ」

 

 ずぶ、とハナコの指先が脇腹に突き刺さった。

 

 ……痛い。口で言ってくれたらいいのに。

 

 思い切ってハナコの方を見ると、わかりやすく頬を膨らませていた。

 

 可愛い。今すぐ撫でてやろうか。

 

「――先生に癒してもらえたので、もうひと頑張り出来そうです。では、私はここで食い止めますから、先生たちは迂回を」

 

「うん、任せたよ」

 

 最早彼女を止めることは、俺なんかには出来ないだろう。任せると言ったからには、彼女を信用するしかない。

 

 この場にいる俺が信用しなくて、一体誰が彼女を信用するというのか。

 

「では、行ってください。くれぐれもご自愛くださいね」

 

「ワカモこそ、健康第一だよ!」

 

 彼女に声をかけて、この場を任せる。

 

 ワカモは遮蔽物から飛び出した。敵の――フィフスの視線が集中する。その隙に、俺達も道を迂回していく。

 

「――おお、ようやっと出てきたかい。殿たぁ随分と大役じゃないか」

 

「観客がいては、あまり派手な手品も披露できませんから」

 

「……アタシもそろそろ暇してたところでね、丁度体が動かしたかったんだよ」

 

「それは奇遇ですね。私も丁度肩が凝っていて――ああ、でもマッサージの予約には間に合いそうです」

 

「予約?」

 

「今晩の予約に、間に合いそうです」

 

「――――ハ、言うねぇ。流石災厄の狐、言葉も強いが――戦闘も強いのか、アタシに見せてくれよ――――!」

 

「――不良生徒代表、狐坂ワカモ。我が意志は、先生の願いを叶えるため――!」

 

   〇

 

 ワカモと別れて道を迂回すると、すぐに兵に囲まれてしまった。

 

 先ほどの市街地鎮圧戦の残党か――あるいは、このタイミングの俺達を狙う伏兵か。

 

 大方、あの場所で迂回を選ぶのは向こうも想定していたのだろう。だから、二番目に選びうる経路に敵を配置してきた。

 

「せ、先生! どうしますか!?」

 

「イヴ。実戦は初めて?」

 

「あまり戦ったことはなくて――」

 

「――そうか。じゃあ私の指示に従って」

 

「……」

 

「マカとセイも協力してくれる?」

 

「……今更断る意味もありませんから」

 

「も、勿論……です!」

 

「オッケー。じゃあここを攻略し――」

 

 ――――どぉおおん!

 

「……」

 

 そう言い切る寸前、周辺に集まっていた兵士が弾け飛んだ。どうやら爆発物が投擲されたようである。

 

 あるモノは配線を露出させながら破片が弾け飛び、またある者は変な悲鳴をあげながら気絶した。

 

「……私の指示、いらなくなっちゃったな……」

 

 少し気が抜けて、俺は音の方を見る。

 

「先生! 大丈夫?」

 

「……えっと、ヒナ?」

 

 真っ白の髪に、真っ黒な角。彼女は――戦車からひょっこり顔を出すと、私に向かって話しかけた。

 

 砲台からは煙が登っている。そうか、戦車か。キヴォトスって戦車も車道を走るんだ……。

 

 一々驚いていたらいよいよキリがなさそうだ。

 

「そう、空崎ヒナ。本当はゲヘナだけで解決したかったけど、すぐ動かせる戦車がトリニティにしかなかったから救援要請を」

 

「――私は阿慈谷ヒフミです! 補習授業部所属――ハナコちゃんの友達です、先生!」

 

 同じキューポラから、栗色の髪の少女が頭を出した。

 

 ぎゅむ、とヒナの体が潰される。

 

「話は聞いたわよ、先生! ハナコも、格好つけすぎなんだから!」

 

「コハルちゃん……!」

 

「……助けに来たぞ先生!」

 

「……ちょっと、今は私がいるんだから、無理に押し込まないで――……ちょっと!? 分かった、代わる、代わるから押さないで欲しい……!」

 

 もう二人、中に誰かがいるらしい。今はヒナとヒフミが顔を出しているから、声しか聞こえてはこないが。

 

 ヒナがもぎゅもぎゅされ、慌てふためくさまはとても可愛かったので、もう少し見ていたい気持ちになった。

 

「と、とにかく……先生も新聞部も乗ってほしい」

 

「クルセイダーちゃんでシャーレまでかっ飛ばしますよ!」

 

「めっちゃ頼もしい子たち……」

 

 どうやら少し頭が麻痺していたみたいで――これまで、上手く事態が飲み込めていなかったみたいだった。

 

 しかし彼女たちの言葉で、助けに来てくれたことが分かって、綺麗に言えないけれど、少しだけ、感極まってしまった。

 

 よくわからないけれども嬉しさが勝って、何故だか少しだけ涙が出そうになってしまいそう。

 

 恥ずかしさを逸らすようにハナコを見る。

 

「……良い友達を持ったね」

 

「誰の生徒だと思っているんですか?」

 

   〇

 

 戦車――クルセイダーちゃんに乗り込んで、一直線でシャーレまで駆ける。途中何度か残党とエンカウントしたものの、砲撃で吹っ飛ぶか慄いて逃げるかだったので、楽に進むことが出来た。

 

 ……流石戦車。塹壕戦を終わらせただけのことはある。

 

「――先生、そこを曲がればすぐシャーレですよ!」

 

「案外早かったね」

 

「クルセイダーちゃんの前に敵はいません! パンツァーフォー!」

 

「ハンドル持つと性格変わるタイプ?」

 

 車内の空間は思ったより狭くて息苦しい。全員で九人も詰め込まれているのだ。致し方あるまい。

 

 すぐに戦車は止まった。どうやら、もう目的地についたみたいだった。

 

 しかし凄惨な光景のシャーレを前にして、少し雰囲気が落ち込む。

 

「……先生、シャーレの玄関が酷いことになってます」

 

「随分と散らかしてるみたいね。お行儀の悪い」

 

「一体誰がこんなことを。先生の大切な場所なのに……許せない」

 

「まるで入れないからって銃で無理矢理ぶち破ったみたいね……」

 

「きっとシャーレに入るために強行突破したのでしょう」

 

「すいません私たちのせいで……」

 

「部長、これは流石に玄関を破壊した奴が悪いと思う」

 

「私も、そう思う……」

 

 ガラスが散乱し、あたり一面に飛び散っている。

 

 なんとなく何故か、ほんの少しだけ心当たりがある気がしたけれど、きっと気のせいだと思った。

 

「ともかく、降りよう。戦車のままじゃシャーレには入れないし」

 

「ですね」

 

 全員で戦車から降りる。少々手こずりはしたが、なんとか降りられた。左手が負傷しているというのは、案外面倒だ。

 

「先生、大丈夫?」

 

「問題ないよ。心配してくれてありがとう、ヒナちゃん」

 

「……ちゃん、は止めて」

 

「可愛いと思ったけど……ダメなら止めるね?」

 

「……」

 

「……」

 

「たまになら良い」

 

 そう言うと、ヒナはつかつかと歩き出す。

 

 なんだこの生物。こんなに可愛いイキモノがいるのか? キヴォトスには……。

 

「――――あらら、案外早いのですね」

 

「――っ!」

 

 咄嗟に、ヒナが銃を構える。

 

 俺も心に針を刺すように、意識を切り替えた。

 

「お初にお目にかかります。(わたくし)は『人災保有者』が一人、『第六人災(Distorter Sixth)』――『消費』。呼ぶときはシックス、と」

 

 カールした金髪な胸元まで。絢爛な衣装に身を包んだ少女が、俺達の逃げ場を奪うように道に現れた。

 

「先生、先に行って。ここは私が」

 

「お一人で務めるおつもりですか? 『天災保有者』でもない貴方が?」

 

「……っ!」

 

 

「――そうです! ヒナさんは、先生と一緒に登る側です!」

 

 

「……っ、ヒフミ……!?」

 

 ヒフミはそう言って、俺達を庇うように立つ。補習授業部の二人も同様に、壁になるように聳え立つ。

 

「そうよ! 貴方……ただでさえ凄く強いんだから! 先生についていってあげて!」

 

「ここは私たちが食い止める。安心してくれ、私は結構強い」

 

「ハナコちゃんも、先生をお願いします!」

 

「……っ!」

 

 確かに彼女たちの意見は正しいのだろう。ヒナの戦闘は先ほどの鎮圧戦で確認済みだ。

 

 だからこそ――カードとして切るならば、それは今ではない。

 

 ヒフミの意見は正しい。だけど――。

 

「行きますよ先生!」

 

 ハナコは俺の腕を取って、前に進んだ。

 

「で、でも……!」

 

「ヒフミちゃんがあれだけ言ってくれたんです! だからここは――進まないといけないんです!」

 

「――っぁ、分かった、分かったよ! 補習授業部のみんな、ここは任せた!」

 

「うん、任せてくれ」

 

 白い少女が胸を張る。

 

 そのままヒナとハナコ、新聞部と共にシャーレに駆け出す。

 

「――お涙頂戴、ですわね。仲間のために命を投げうつとは……映画化すれば興行収入一位は間違いありません!」

 

「私たちの物語は映画とかドラマとか、フィクションじゃない。例え全てが虚しいとしても、何もかもが幻想だとしても――今を精一杯生きる私たちの物語は、私たちにとって真実で本物だ」

 

「そもそも死ぬと決まってるわけじゃないし! アンタなんかけちょんけちょんにしてやるんだから! 見てなさい、私たちのいざという時の結束力!」

 

「――そうです! 今はちょっと一人足りていませんが……補習授業部、今日の活動を始めましょう!」

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