浦和ハナコは言付ける   作:浅笠紗々

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03/忠告

「さて、先の聴聞会の結果によってミカのティーパーティー除名が確定したわけだが……我々にもその後継人を多少なりとも選ぶ権利はある。あくまでも公的には諸々様々な面倒臭い手続きを踏むわけだが、ともかく私たちにも多少なりともミカの後釜を選ぶ権利があるわけだ。そこで、今日はそれについて色々話をしたいと思い君たちを招集した」

 

「セイアちゃん話長すぎてよくわかんないんだけど、つまり~?」

 

「よし、話がわからないミカのためにわかりやすく文字にしてやろう。丁寧に全部ひらがなで書けば満足かい?」

 

「そうしてよ。古臭い言葉遣い、私は読めないからさ~☆ ルビも振って、あ、でもレ点とかダメだよ?」

 

「あ、あの……喧嘩はですね……」

 

 トリニティ総合学園、ティーパーティー。その場に私たちはいた。

 

 中央にはびっくりするほどのお菓子――クッキーやミニケーキ、キャンディなんかが並べられている。皆の手元にはティーカップが置かれており、やはりこれがなくてはティーパーティーとは呼べない。たかだか四名のためかと思うと、やや贅沢すぎる量だ。

 

 喧嘩っ早い二人を止めるため、案の定ナギサさんは今しがた飲もうとしたティーカップを置いて、おろおろしながら仲裁に入る。私としては気が気ではないが――二人の調子を見るに、これが普段通りなのだろう。

 

 とすればこの光景はきっと彼女たちの日常で――取り戻すことの出来た平穏なのだろう。

 

「そうだよミカ。客人もいるのだから少しは楚々としたまえ」

 

「喧嘩売ってきたのはそっちじゃん。私はいつでも買うよ?」

 

「お二人とも、その辺に。ハナコさんが驚いていらっしゃいますよ」

 

 ――不意に、三人の視線が私に向いた。少しだけどきりとするけれど、物怖じしてはいけない。

 

「お久しぶり――ですね。皆さん。浦和ハナコです」

 

「うん、知ってるよ~。その節はお世話になっちゃったね」

 

 ミカさんが普段通りのテンションで受け答える。横に座ったセイアちゃんに小突かれて、頭を撫ぜる。ほのかにナギサさんが笑ったから、私も釣られてしまった。

 

「――それで。ハナコが私の招待を受けてくれるというのは珍しい。何か心変わりでもあったのかな?」

 

 確かに、私はこれまでも何度かティーパーティーのお誘いを受けてはいたが、補習授業部があるだとか、色々な用件を小出しにして断り続けていた。

 

 だから彼女たちからすれば――これは意外なことだったのだろう。それは勿論、私にとってもそうだったのだけれど。

 

「……ハナコは聡いから気付いているだろう。ティーパーティーの抜けた穴――これを埋めるためには、君の力が必要だと。そのために、君を呼んでいることを」

 

「ええ。なんとなくではありますが」

 

「……」

 

「ハナコさん、私たちは貴方に、無理強いするつもりはありません」

 

 ナギサさんが、申し訳なさそうな顔で言う。

 

「断ってくださって結構です。シスターフッドの方でも忙しいでしょう。ですから――そうですね、今日は文字通りのお茶会として……ハナコさん以外で、ミカさんの穴を埋めるアイデア出しに付き合って頂ければと思います」

 

 本当に、この人も丸くなったものだ。

 

 ミカさんも、セイアちゃんも――すっかり丸くなってしまった。そう言ってしまえば言葉は悪いのだろうけれど、そう言うしかない。人が人を疑い、誰も信じられなかったかつてのトリニティ――そう思えば今の状況はとても素敵で、甘くて。

 

 ――だから、なのだろう。

 

「うんうんっ。優秀そうな子がやってくれないと、私も安心して出ていけないからね」

 

「全くだよ。少しは頭の回る理知的な子をだね――」

 

「――――新聞部のシャーレ取材を手助けしたのは皆さんですね?」

 

「――――――――」

 

 瞬間、時間が静止(とま)った。ナギサさんは手を止めて、ミカさんは目を細めて、セイアちゃんはにこりと笑った。

 

「……急にどうしたの? 今はそんなこと関係ないじゃん。それに、なんで私たちが角のついた子たちの手助けなんて――」

 

「――ゲヘナ学園の、とは言っていません」

 

「あ」

 

「あら、カマをかけたつもりでしたが……まさか本当だったとは」

 

 ミカさんを同席させたのは失策だっただろう。とはいえ、名目上はティーパーティーにまつわる議題なのだから、彼女を呼ばないわけにもいかない、か。

 

「……ハナコ。仮にそうだとして――君に何か問題があるのか?」

 

「私にはありませんが先生にはあります」

 

「……イマイチ要領を得ない答えだね。その心は?」

 

「先生が少しでも被害を被る可能性があるのは見過ごせません、ということです」

 

 きり、とミカさんの目が鋭く尖った。

 

「どういうこと? ハナコちゃん。場合によっては私もそっち側に立つことになるけど」

 

「私の推論が多くなってしまうので……確定した情報でないことは先に言っておきます。ですが、怪しいことが多すぎると思っただけです」

 

「怪しいって?」

 

 身を乗り出す。少々行儀が悪いが、今はそれを告げるタイミングではなさそうなので放っておくことにする。

 

「ここに、先日取材に来た新聞部と同行していた――ゲヘナ学園風紀委員長のヒナさんと先生の会話が記録されています」

 

 ぽて、と机の上にUSBメモリを置いた。皆の視線が集まる。

 

「盗聴器を仕掛けた……ということですか?」

 

「ええ。少々淑女らしくはありませんけどね」

 

「ハナコさん、それは流石に――」

 

「――いや、いい。ナギサも少し冷静になってほしい。ハナコの勘はよく当たる(、、、、、)。続けてほしい」

 

「……」

 

「では続きを。内容をかいつまんで説明しますと、何やら新聞部の子たちは取材のため、学力を不正を疑うほどに上昇させたとのことです」

 

「それは別になんてことないんじゃない? 確かにカンニングは良くないけど、別に先生に不利益があるってわけじゃ――」

 

「――ミカさん。少々話は逸れますが……人を信じるということは、どういうことかわかりますか? 何を以て、人は人を信用するのでしょうか?」

 

「……それは、わかんない。私に難しいこと聞かないでよ」

 

「ミカさんらしいですね」

 

「――でも。それでも、信じようとする。それが人を信じるってことなんじゃないのかな」

 

 その言葉を、それこそ信じるように――ミカは言いながら頷く。本当に素敵な人だな、と思う。こうも素直な子に、私もなれていたら――と、羨むほどに。

 

 けれど、その思考は今の私の証左に他ならない。私は誰彼問わずに信じられるほど――多分、人が出来ていないのだ。

 

「私はね、ミカさん。信じることとは疑うことである(、、、、、、、、、、、、、、、)――と、信じてやまないのです」

 

 再び静止。すぐさま私が続ける。

 

「例え話をしましょうか……ナギサさん」

 

 私はポケットに手を突っ込んだ。それから握りこんで、彼女の前に両手を差し出した。

 

「今、この手の片方にはキャンディが入っています。どっちだと思いますか?」

 

「えっと……では、右にしましょうか」

 

「とすると私から見て左側。こっちですね?」

 

 手を開く。残念ながら、その中は空っぽだ。

 

「ではミカさん、どうぞ」

 

 そう言って、彼女に右手を伸ばす。

 

「やった~……あれっ?」

 

 けれど、手を開いても中には何も入ってはいない。彼女は虚空で手をにぎにぎとしている。

 

「今貴方たちは盲目的に私の言うことを信じたでしょう。『こう言っているのだから、浦和ハナコのポケットにはキャンディが入っていて、それはどちらか片方の手に収められている』と」

 

 私はもう一度ポケットに手を突っ込んで、握りしめ、今度はセイアちゃんの前に差し出した。

 

「さて――――今度はどっちの手に入っているでしょうか?」

 

「……」

 

 セイアちゃんがじっと黙ってしまう。眉は困っていて、ああ、少しやりすぎたな、と思った。

 

「……なんて。ごめんなさい、驚かすつもりはなかったのです。しかし、危機感くらいはあってほしいと思っただけなのですが――」

 

「――左だ」

 

「……え?」

 

「私から見て左、つまりハナコの右手。そこにはキャンディが入っている」

 

「……」

 

 彼女の前で、右手を開く。すると、そこには一個のキャンディが置かれていた。

 

「えっ!? 凄い、セイアちゃんなんで!?」

 

「このティーパーティーにキャンディは置かれているから、おそらくそれを使ったのだろうと考えた。しかし、キャンディを自然に取ろうとすれば、ティーカップを置いた後の動作でひょいと取ることになるだろう。でなければ不自然だからね。そうすればキャンディを持っているのは彼女の利き腕である右手だ――その後右手で取ったキャンディを左ポケットに移すのは不自然すぎる。だから、右のポケットに入っていると考えるのが最も合理的だ」

 

「まるで物語の探偵のようですね……」

 

「凄い凄い!」

 

「流石ですね、セイアちゃん」

 

 しかし、セイアちゃんはそれでも、暗い表情を浮かべる。そうだ、今の私に答えを叩きつけられるということは――。

 

「――だが、話の筋では君の勝ちだ。確かにそうだ――私は今、間違いなく君を疑った(、、、)よ。そうして考えて、先の理屈が合理的だと信じた。盲目的に信じていれば、私は『何も入ってはいない』と答えていたかもしれない」

 

「セイアさん……」

 

「確かにゲヘナの子にテスト勉強仕込んだのは私だ。そして、彼女たちの目的も知っている」

 

 あっけらかんと、諦めたように、彼女は言った。すっかり降参、といった態度だった。

 

 ……別に、打ち負かすようなつもりだったわけではないけれど、物事が綺麗に運ばれてくれて良かった。

 

「取材というのは私たちからすれば建前でね――彼女たちとはとある点で意見が合致したんだ」

 

 一瞬、セイアちゃんは周囲に目配せする。ナギサさんもミカさんも、小さく頷いた。

 

「その、とある点――というのは?」

 

「――――先生を退任させること(、、、、、、、、、、)、さ」

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