【ヘブバン×武装錬金】SunLight from the Memories   作:亜蘭作務村

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【業務連絡】2022/8/12 サブタイトル変更しました。


【Day 01】
第01話 パピヨンパークに潜む怪①


 それは、まだ豊後(ぶんちゃん)の時間が止まる前。私達が悪のマッドサイエンティストとその使い魔なんかでなく、ただの友達でいられた時代()

 豊後(あの子)がまだ私を()()()()()と呼んでくれていた、あの頃――。

 

 蝶々の楽園の裏側、暗くて怖いあの場所で、私達は"アイツ"に出会ったんだ。

 

『いつか、オレもあの人みたいになるんだ。皆を守れる立派な"ギゼンシャ"に!』

 

 全てが終わった後、"アイツ"はそう言って笑っていた。ちょっと前まで泣きべそかいてたのが嘘みたいに、馬鹿みたいに目をキラキラさせて。

 だけど、その時"アイツ"が見ていたのは今ここじゃないずっと遠く(未来)で、目の前にいる私達じゃなくて。

 それが無性に気に入らなくて、売り言葉に買い言葉で言ってしまったのだ。

 

『――なるわ、なってやるわよ! 世界を滅ぼすくらいの、とびっきりの悪のマッドサイエンティストに!』

 

『止められるものなら止めてみなさいよ、"ギゼンシャ"!』

 

 それは私の中に今も焼きついて離れない、お日様みたいな山吹色(サンライトイエロー)の思い出……。

 

 

 


 

 セラフ部隊第31C部隊部隊長、山脇・ボン・イヴァールは、世界征服を企む悪の天才マッドサイエンティストである。

 彼女の敵は、(彼女を差し置いて)世界に破壊と殺戮を振り撒く敵性地球外生命体『キャンサー』である。

 山脇は戦う。忠実なる彼女の使い魔、豊後弥生とともに。己の野望、自らの手で世界を滅ぼすため。その妨げとなるキャンサーを駆逐するために。

 そんな山脇と、彼女が率いる31C部隊に、新たな任務が下されるのであった――。

 

 

 

【午前01*1 学園基地・司令官室】

 

「緊急の、偵察任務?」

 

 下された指令を、山脇は思わずオウム返しに訊き返した。字面だけを見れば別段可笑しな話ではない。が、それが31C部隊(自分達)に回されるというのは中々珍しい。

 脳裏に浮かぶのは「威力偵察」の四文字。かつての大規模作戦(オペレーション・ベガ)の折、作戦本番に先んじて31A部隊と30G部隊が協同して周辺地域の威力偵察を行ったと聞く。それと似たような任務(もの)だろうか。

 

「偵察と言うと、以前31Aが30Gと行ったという威力偵察の類でゴザルか?」

 

 同じ内容(こと)を想像したらしい、31Cの忍ばない方の忍者こと神崎アーデルハイド隊員の質問に、部屋の主にして学園基地の総責任者、手塚咲基地司令官は首を振って否定する。

 

「いいえ、今回31C(あなた達)にやって欲しいのは文字通りの偵察。或いは調査と言い換えてもいいわね」

 

「調査任務……」

 

 困惑を深める山脇達に、手塚は任務の具体的な説明を始めた。曰く、軍の無人探査機(ドローン)が旧銀成市で異空間の門(ワームホール)に酷似した反応を検知したらしい。

 ワームホール技術は全容の解明こそされていないが、対キャンサー特殊武装『セラフ』など、一部は実用化されている。山脇達にとっても馴染み深い技術(テクノロジー)である。

 

 だが件の地域は付近に一般居住区(ドーム)もなく、野営地からも離れた完全な非人類勢力圏。戦略的にも要地とは言えず、過去にセラフ部隊を派遣した記録もなければ、今後もその予定はない。

 では今回確認されたワームホール反応は何か? セラフ部隊ではない以上、最も疑わしい可能性は一つ――キャンサーである。

 

「成程な。もしワームホールを操る新種のキャンサーなぞ現れたとなれば、あのフラットハンド並かそれ以上の脅威となるのは間違いない。原因究明を急ぐのは当然だな」

 

「……ですが、こんな時こそ焦らず慎重な対応が必要ではないでしょうか? 未知のキャンサーの可能性があるならなおのこと、無策で飛び込むのは危険かと」

 

 手塚の説明に理解を示したのは、稀代の魔術師を自称する薬学の天才、天音巫呼隊員。一方、恋愛大好き占星術師、桜庭星羅隊員は、早計な戦力投入への懸念を訴える。

 

「そうね、桜庭さんの意見も正しいわ。でも今回は場所が問題でね、迂闊に偵察部隊を送り込むこともできないのよ」

 

「銀成市に何かあるのですか?」

 

 どこか歯切れの悪い手塚の物言いに、31Cの忍ぶ方の忍者にして売店(ショップ)店員の達人、佐月マリ隊員が首を傾げる。手塚は苦々しそうに表情を歪めつつ答えた。

 

「銀成市は、何も昔から今みたいに放置されてた訳ではないの。過去には一帯の地域の解放やドームの建設も計画され、調査のために何度か人員を派遣したこともあるわ。だけど――」

 

 結果は調査隊の全滅。それも何の成果も得られぬままにである。

 当時の軍司令部はセラフ部隊の派遣も検討したが、これ以上の人材の喪失を厭い、また当該地域が戦略的な重要性は低いこともあり、結局は計画を断念。

 その後、触らぬ神に祟りなしとばかちに、軍の銀成市への接触(アクション)はドローンによる最低限の偵察のみに留められ、そのまま現在に至るという。

 

「本来ならば31Aに任せるべき任務だと思うわ。だけど――」

 

「31Aは次の大規模作戦(オペレーション)前準備(しこみ)大忙し(てんやわんや)、31B、30Gはまだ再編成中。今、動ける部隊で一番()()なのが31C(私達)、ってことでしょ?」

 

 手塚の弁明(ことば)を先回りして遮り、山脇は大きく息を吐いた。まるで肺の空気とともに胸の中の感情も全て押し出すかのような、長い長い溜息だった。

 そして顔を上げ、手塚を真っ直ぐに見据える。その表情は既に、覚悟を決めた戦士の顔だった。

 

「――いいわ、やってやろうじゃない! 31C(私達)だって、最初は本気でA部隊(エース)を狙ってたし、今も31A(あいつら)に負けてやるつもりはないわ。こんな任務(こと)で怖気づいていられるもんか!」

 

 強張りそうな顔を無理矢理笑わせ、山脇は威勢よく啖呵を切る。虚勢であるのは明白だったが、手塚は敢えて指摘せず、「そう」と満足そうに頷くだけに留めた。

 その時、それまで沈黙を貫いていた31C部隊最後の部隊員、豊後が不意に口を開いた。

 

「ところで山脇様、こいつは一体誰なんでゲス? さっきから偉そうにして生意気でゲス!」

 

 と、豊後は手塚を見上げて唇を尖らす。その瞬間、司令官室はしんと静まり返った。誰もが居た堪れないように豊後から視線を逸らす。その上官相手にあるまじき暴言に呆れて――ではない。

 

「……そう。もう()()()()()なのね」

 

 溜息交じりに零れた手塚の呟きに、豊後は不思議そうに首を傾げた。

 重苦しい沈黙の中、隊員(なかま)達の縋るような視線をひしひしと背中に感じながら、山脇は大きく咳払いした。そしてすっかり作り慣れた()()()()()()で豊後を見下ろし、口を開く。

 

「豊後。()()()は司令官の手塚、私達の上官よ。()()()はね」

 

 先刻までとは打って変わったような不遜な態度で、山脇は豊後の問いに答える。まさかの無礼者第二号と化した山脇に、しかし口を挟む者はいない。否、()()()()()()()()のだ。

 今の彼女は『31Cの山脇部隊長』ではない、『豊後のための山脇様(悪のマッドサイエンティスト)』なのだから。

 

「私達は世界を滅ぼす前に、あの邪魔なキャンサーどもを滅ぼすために、セラフ部隊に潜り込んだ。そこまでは分かってるわね?」

 

「はいでゲス! 敵の敵は敵なんでゲス!」

 

「その通りよ。そして手塚(こいつ)は、そのセラフ部隊の司令官。だから私も今は従ってやってるし、あんたも取り敢えず言うこと聞いときなさい」

 

「でも山脇様、何だか負けた気がして悔しいでゲス!」

 

「安心なさい。従ってやってるのはあくまで表向きの話。裏では勿論、反逆の準備をコシ担々(虎視眈々)と準備中よ!」

 

「おおっ、何だか辛くて凄そうでゲス! 流石は山脇様!」

 

 絵に描いたような悪役の会話――と本人達は思っているのだろうが、傍から聞いたその内容(なかみ)は実に稚拙で支離滅裂。まるで子供の()()()()()である。

 だが、それも当然だった。少なくとも豊後の認識の上では、自分達の置かれた現在の状況はまさしく子供のごっこ遊び――『マッドサイエンティストごっこ』の真っ最中なのだから。

 

 豊後と山脇は幼馴染である。幼い頃は、どこにでもいる普通の友達だった。

 だがある日、二人で始めた『マッドサイエンテイストごっこ』で遊んでいる途中でキャンサーに襲われたあの日から、二人の関係は狂った。

 キャンサーの攻撃で、豊後は一命こそ取り留めたが重い記憶障害を負った。キャンサー襲撃の直前を起点として、それ以降の記憶が一定の周期で*2全て忘却(リセット)されるようになったのだ。

 どれだけ思い出を積み重ねても、どんなに人間関係を広げても、刻限(リミット)になれば全て元通り。

 豊後の時間は止まったまま。いつまでも終わらない遊びの時間の中に、たった独りで永遠に取り残されているのだ。

 

 そして山脇は、豊後と遊びを続ける道を選んだ。理由はもう憶えていない。遊びをやめさせる勇気がなかったためかもしれないし、或いはやめさせようとはしたが失敗したのかもしれない。

 きっかけは何であれ、山脇はあの日以来、豊後と二人だけの閉じた世界で生きている。

 あの日に始めた偽りの関係のまま、山脇は悪のマッドサイエンティスト、豊後はその使い魔として。そお苦痛たるや如何なるものか、本人以外には想像もできまい。

 

 だからこそ、他の31C部隊員や、手塚達軍司令部、そして二人の事情を知る他の一部の者達も、二人の関係に口は出さないし、二人の間に割り込みもしない*3

 茶番にしか見えない二人のやり取りも、その実、山脇が考えに考え抜いた先に生み出した妥協案。豊後の世界を壊さぬまま、現実と折り合いをつけて生きるための儀式(セレモニー)と知っているから。

 

「それで、山脇さん。出撃前に()()()()()は必要かしら?」

 

 会話がひと段落したのを見計らい、手塚が山脇に声をかけた。懸念するのは豊後のことである。

 一定期間ごとに記憶や経験が忘却(リセット)される豊後が、それでもセラフ部隊員として戦っていけるのは、彼女の類稀な運動能力と抜群の感性(センス)によるものが大きい。

 また、たとえ記憶は失っても、訓練や実戦によって身体が覚えた動きまでは失われないことも分かっている。そういう意味では、豊後もまた成長しているのだ。

 それでも、記憶の忘却(リセット)の直後は任務の前に、セラフの扱いや部隊での立ち回りを確認する()()()の時間を取ることにしている。手塚が問うているのは、その時間の要否である。

 

「不要よ。()()()なら司令室(ここ)に来る前にもう終わらせてるわ」

 

 山脇の返答に手塚は「そう」と頷き、予想外に長くなってしまった作戦説明(ブリーフィング)のまとめに入る。

 

「それじゃあ、お願いね。場所は旧銀成市郊外、パピヨンパーク跡地。目的は正体不明のワームホール反応の原因の特定。無理はせず、可能な限り情報を持ち帰ることを最優先とすること。――31C、出撃せよ!」

 

「「「「「「了解(でゲス)(でゴザル)!」」」」」」

 

 手塚の号令に、山脇達は声を揃えて応答した。

 

*1
AM08:30~AM10:30の時間帯

*2
正確には、深い眠りにつくたびに。天音の魔法薬により、現在では一定の期間、記憶を保持できるようになった。

*3
ただし一緒になって遊んだりはする。




お読み頂きありがとうございます。
武装錬金クロスと題しつつ、武装錬金キャラが全く出てこない不具合……。
多分次回には登場できると思います。
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