【ヘブバン×武装錬金】SunLight from the Memories   作:亜蘭作務村

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【業務連絡】2022/8/12 サブタイトル変更しました。


第01話 パピヨンパークに潜む怪②

【午前01*1 学園基地・ヘリポート】

 

 学舎裏手の屋外発着場(ヘリポート)。発進待機状態で並ぶ何機もの輸送ヘリ*2を背に、小柄な女性士官が一人、山脇達(第31Cセラフ部隊)を待っていた。七瀬七海作戦参謀である。

 

「お疲れ様です。31Cは本日は7号ヘリでの出撃となります」

 

 こちらへどうぞ、と人形じみた無表情、淡々とした口調で誘導する七瀬に、山脇達は大人しく続く。一見不愛想な態度の裏に、優しさや気遣いが確かにあることに気づいたのはいつだったか。

 七瀬は手塚司令官の腹心だが、仮想訓練施設(アリーナ)の管理や任務前後の細々とした雑務も担当しており、セラフ部隊との関わりも意外と深い。

 任務の時は、七瀬に「行ってらっしゃい」と見送られながら出撃し、帰投したら七瀬が「お帰りなさい」と出迎えてくれる。それがセラフ部隊の日常(ルーティーン)だった。

 

「山脇さん」

 

 案内された輸送ヘリに搭乗しようとした矢先、七瀬が山脇を呼び止めた。七瀬とセラフ部隊の関わりは意外と深い。が、七瀬から隊員個人へ声をかけるのは、実は珍しい。

 山脇は七瀬を振り向き、口を開く――前に、まずは目で語り合う(アイコンタクト)

 

(他の部隊員は?)(先にヘリに乗ってくれて構いません)

 

 振り返り、先に搭乗するよう部隊へ手振り(ジェスチャー)で指示を出す。再び七瀬へ顔を向け、山脇は漸く口を開いた。

 

「んで? 何かあったの?」

 

「……こちらを」

 

 訝しげな表情で尋ねる山脇へ、七瀬は士官服のポケットから何かを取り出し、差し出した。鈍い金属光沢を放つ、銀灰色の()()()()()()()()()六角形の塊だった。

 

「何これ?」

 

 差し出された謎の塊を取り敢えず受け取ったが、七瀬の意図が分からず、山脇はますます首を傾げた。やはり金属でできているらしく、片手で握れる大きさの割にはずしりと重い。

 

「『お守り』です。司令官より、危険な任務になるとお聞きしたので。大切な物なので、後で必ず返して下さいね?」

 

「ふぅん……?」

 

 つまりは願掛けのようなものだろうか。この『お守り』とやらを返すために、必ず生きて帰ってこいという。今までこんなことは初めてだった。どうやら今回は本当に、碌でもない任務らしい。

 

 手の中の『お守り』を、山脇は改めて見下ろした。

 どうやら表裏があるらしく、片側は無地だが、もう片側には『A』の字に似た紋様(マーク)と、その下に『LXXIV』という文字が刻印されている。

 やはり、どこかで見たことがある気がする。だが、どこで見たのかを思い出せない。いやいや、よくよく思い返してみれば、色や刻印が微妙に違うような……?

 

「……まぁいいわ。これ、確かに預かったわ。それじゃあ、()()ね?」

 

 深みにはまりそうになる思考を無理矢理切り上げ、山脇はそう言って七瀬に背を向け、他の部隊員(なかまたち)が待つ輸送ヘリへと歩き出した。

 

 

 

 

 

【輸送ヘリ・キャビン】

 

 輸送ヘリでの移動中は、割と暇である。勿論、任務内容の再確認や、入手した情報の整理などやるべき仕事もあるが、それが終わった後は手持無沙汰になる。

 隣の隊員と雑談したり、電子軍人手帳に落と(ダウンロード)した書籍データを読んだりする姿は、往路(いき)ではよく見られる光景である。ちなみに、復路(かえり)で一番多いのは居眠りだ。

 山脇はと言えば、雑談に混ざる気分にはなれず、搭乗席(シート)の背もたれに体重を預け、七瀬から受け取った『お守り』をぼんやりと眺めていた。

 他に考えべき事柄がないと、一度は切り捨てた思考が再び頭に蘇ってくる。この『お守り』の正体(こと)がまさにそれだ。

 この『お守り』と同じモノ(六角形の金属塊)を、昔、どこかで見た記憶が確かにあるのだ。だが一方で、記憶の中の『それ』と目の前の『これ(お守り)』は別物のような気もする。

 考えるほど、思い出そうとするほど違和感が大きくなって気持ちが悪い。

 

「――山脇様。さっきからどうしたんでゲス? その手に持ってるのは何なんでゲスか?」

 

 どこか戸惑ったような豊後の声に、山脇はハッと我に返った。隣に目をやれば、豊後が心配そうな顔で山脇を見上げていた。

 

「あ、ああ。七瀬からの預かり物よ。『お守り』なんだってさ」

 

 山脇はそう言って、「ほら」と『お守り』を豊後へ手渡した。豊後は受け取った『お守り』をしげしげと眺め、そして再び山脇を振り向き、言った。

 

「山脇様。あちき、これを見たことあるでゲス!」

 

「えっ、あんたも?」

 

「でも、何かちょっと違う気がするでゲス」

 

「あ、やっぱり?」

 

 豊後も見覚えがあり、そして同じ違和感を覚えているということは、やはり山脇の記憶違いではないらしい。そしていつ、どこで見たのかという疑問についても、候補が大分絞り込めた。

 豊後が憶えているということは、記憶障害を負う以前(まえ)。普通に生活していれば見ないような代物(モノ)を見たということは、普通ではない特別な場所。

 その条件で、かつ豊後と山脇、二人が共通する思い出のある場所といえば――。

 

「そう言えば、山脇様」

 

 山脇の思考を遮るように、豊後が再び声をかけてきた。瞬間、頭の中で形になりかけていた考え(こたえ)が霞のように消え去ってしまう。

 

「何よ、豊後?」

 

 思わず不機嫌そうな声が出るが、豊後は気にせず、あるいは気づかず、そのまま言葉を続ける。

 

()()()の奴は、今頃どうしてるんでゲスかね?」

 

 豊後の口から唐突に出てきた、人の名前らしきその単語を、山脇は一瞬理解できなかった。そうや? そんな知り合い(ヤツ)うち(セラフ部隊)にいたかしら?

 だが紙が水を吸うように、じわじわとその名前が山脇の脳細胞に浸透するにつれ、過去の記憶が蘇ってきた。そうや――()()()、"アイツ"のことか。随分と懐かしい名前が出てきたものだ。

 

「さぁね。大方、どこかで偽善者してるんじゃないの? 何で急にそんなこと言い出したのよ?」

 

「この『お守り』を見てたら、急にあいつの顔を思い出したでゲス!」

 

「ふぅん?」

 

 不思議なこともあるものである。しかし、()()パピヨンパークを訪れるこのタイミングで、(ソウヤ)を思い出すことになったのは、一種の運命かもしれない。何故なら――。

 

「そう言えば、初めて"アイツ(ソウヤ)"に出会ったのもパピヨンパークだったもんね」

 

「ぶんちゃんとイヴァールちゃんは、パピヨンパークに行ったことがあるんですか?」

 

 二人の会話に興味を持ったのか、佐月が横から話に入り込んできた。その問いに、山脇と豊後は「ええ」「でゲス」と揃って頷く。

 

「子供の頃に、旅行でね」

 

 昔、豊後の家の家族旅行に、特別に山脇も連れて行って貰ったことがあるのだ。その行き先が、パピヨンパークだった。

 だが大人達とはぐれ、二人で迷子のなってしまった。その時に、ソウヤという男の子と知り合ったのだ。

 

「……恋愛話(コイバナ)の気配を感じます」

 

「おおっ、これはまさか山脇殿の初恋話でゴザルか!?」

 

 桜庭と神崎まで話に食いついてきた。如何にも思春期丸出しな二人の勘繰りを、山脇は「ハッ」と鼻で笑い飛ばす。

 

「初恋? "アイツ(ソウヤ)"が? 冗談じゃないわ、あんな奴! 偉そうで、その癖お節介焼きで、あとええかっこしい(格好つけたがり)で。いけ好かないったらありゃしない! あんなの偽善者よ、偽善者!」

 

「山脇殿、めっちゃ早口でゴザル……」

「……語るに落ちる、と言うべきでしょうか」

「それは言わぬが華って奴です♪」

 

 感情的(ムキ)になったように件の人物を扱き下ろす山脇を、神崎達は生温い目で眺めるのだった。

 

 

 

 

 

【午前01 パピヨンパーク・庭園エリア】

 

 パピヨンパーク。2000年代初頭、銀成市が生んだ新たな都市伝説として一躍有名になった蝶々仮面(パピヨンマスク)の怪人、蝶人パピヨンが私財を投じて建設したというテーマパークである。

 色とりどりの花々が咲き誇る庭園を、世界中から集められた様々な蝶が飛び交う様は、蝶の楽園と呼ぶに相応しい幻想的な光景だったという。

 後年(のち)には様々な遊戯設備(アトラクション)を揃えたアミューズメント区画(エリア)も増設され、多くの観光客で賑ったそうである。

 

 だが今や、荒れ果てた庭園に蝶の姿はなく、雑草生い茂る(くさむら)と化している。過去の栄華は見る影もない。

 

「酷い……」

 

 廃墟と化した思い出の地(パピヨンパーク)の入口で、山脇は呆然と立ち尽くしていた。

 予想も覚悟もしたつもりだったが、それでも過去の姿を知る山脇にとって、現在の変わり果てた有様はとても直視できたものではなかった。

 

「イヴァールちゃん」

 

「……そうね。皆、行きましょうか」

 

 佐月に促されたことで漸く腹を括り、山脇はそう言って、先頭を切って庭園(パーク)の中へ足を踏み入れた。

 瓦礫を避け、叢に足を取られないよう慎重に探索していく。時折小型のキャンサーが襲ってきたが、いずれもよく見る(タイプ)であり、目的の新種と思われる個体との遭遇はない。

 

「――おや? これは何でゴザろう?」

 

 何の発見もないまま庭内を進むこと暫し。何かを見つけたのか、神崎が不意に立ち止まり、声を上げた。

 その声に、山脇達は神崎の周りに集合。警戒態勢を取りながら慎重にその足元を確認する。叢に埋まるように、大きな『何か』が転がっていた。

 

 それは例えるならば、『機械仕掛けの死骸』だった。より率直に言い表せば、動物型のロボットの残骸である。

 下半身は引き千切られたように喪失し、断面から内部の骨格(フレーム)や配線が飛び出している。残った上半身も、金属の外皮は風雨に晒された影響か無惨に腐食し、穴だらけである。

 

 なまじ精巧に造られているため、それは機械の『残骸』というより、本物の生物の『死骸』のようで、生々しく、そして不気味だった。少なくとも、長々と見続けていたいとは思わない。

 電子軍人手帳の撮影(カメラ)機能で『死骸』を撮影し、一応の記録を残す。この場での対応はこれで充分だろう。『死骸』をその場に放置し、山脇達は探索に戻ることにした。

 

「――えっ?」

 

 他の隊員達(メンバー)に続いて立ち去ろうとした刹那、佐月は不意に『死骸』を振り返った。一瞬、『死骸』の前脚が微かに動いた気がしたのだ。

 生物ではなく機械なのだから、半身を失っても動くことがあるのは可笑しな話ではない。

 だが、その場に留まり、暫く観察してみても、『死骸』が再び動く気配はない。気のせいだったのだろうか?

 

「佐月! 何やってんの。置いてくわよ?」

 

 佐月の不在に気づき、山脇が遠くから声を張り上げる。その呼びかけに、佐月は後ろ髪を引かれながらも『死骸』に背を向け、小走りで部隊(なかまたち)に合流した。

 遠ざかる佐月の背中を、『死骸』の光の灯らない機械仕掛けの眼が、じっと見つめていた。

*1
AM08:30~AM10:30の時間帯

*2
形状的にVTOL(垂直離着陸機)またはV/STOL(垂直/短距離離着陸機)と思われる




お読み頂きありがとうございます。
ごめんまだ武装錬金キャラ出せんかったorz
名前だけならパッピーが一応出てきたから、それで許して、ユルシテ…
次回は○○○○○○戦で、その次くらいの話には本格登場できる筈です。
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