【ヘブバン×武装錬金】SunLight from the Memories   作:亜蘭作務村

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【業務連絡】2022/8/12 サブタイトル変更しました。


第01話 パピヨンパークに潜む怪④

【午前02*1 パピヨンパーク・庭園エリア】

 

 パピヨンパーク跡地に潜む人喰いの化物(モンスター)ホムンクルスと、山脇率いる第31Cセラフ部隊の戦闘は、山脇達の先制で幕を開けた。

 山脇の大鎌(セラフ)が人型の方のホムンクルス――ホムンクルス調整体*2の胴体を深々と斬り裂き、神崎の(セラフ)が別の個体の片腕を斬り落とす。

 

「ええっ……」

 

「ややっ?」

 

 予想外の手応えに、山脇達の口から困惑の声が漏れる。思ったよりも()()()()。まるで外殻を破壊した後のキャンサーである。

 

 これは意外と簡単に片がつくかもしれない、という山脇達の楽観は、しかし次の瞬間、脆くも崩れ去った。

 山脇が斬りつけた調整体の胴の傷口が、じゅうじゅうと煙を上げながら修復再生していく。

 一方、もう一体の調整体は斬り落とされた腕を拾い上げ、断面同士を押し当てていた。再びくっつける。同じように煙が上がり、切断された腕が再び繋がる。

 

「アイエー!? 本体(HP)の回復は反則でゴザルよー!」

 

 神崎が狼狽えた声を上げる傍ら、山脇は今度は大鎌を横薙ぎに振るった。

 

「こんにゃろっ!」

 

 首――はないので頭と胴体の境目を狙った大鎌の一撃が、調整体の頭部を斬り飛ばす。が、首なしの身体(ほんたい)が斃れることはなく、転がる頭を追うようによたよた歩き出した。

 鶏は、頭を落としても残った躯が走り回ることがあると聞くが、ちょうどあんな感じだろうか?

 そして拾った頭をくっつける様はまるでアン○ンマンである。別に顔は新しくはないが。――山脇一流の現実逃避である。

 

「は、刃物での攻撃は効果が薄いみたいね! だったら鉛玉はどうかしら? 豊後、佐月、天音! 全員撃つべし、撃つべし、撃つべーし!」

 

 頭を切り替え、山脇は銃砲型セラフを装備した三人へ指示を飛ばす。

 キャンサーには、特定の属性の攻撃に対して耐性を持つ(タイプ)が存在する。その場合、別の属性の攻撃が有効となることが多いのだが、ホムンクルスも或いは、という判断だった。

 山脇の指示を受け、豊後達の(セラフ)が一斉に火を噴いた。放たれた弾丸が次々と(ホムンクルス)を撃ち抜き、風穴を開けていく。が、開いた傍から銃創(あな)は塞がり、跡形もなく消えてしまう。

 

 銃撃も斬撃と大差なし。ならば殴りつける攻撃はどうか? 今度は桜庭が前に出た。(セラフ)を大きく振り被り、手近な動物型の方のホムンクルス*3めがけて叩きつける。

 

「えいっ……!」

 

 気合とともに振り下ろされた盾の一撃が、動物型の頭部を大きく陥没させる。桜庭は一旦後退。距離を取り、敵の様子を観察する。

 

「……駄目みたいですね」

 

 動物型の陥没した頭部が内側から盛り上がるように修復されるのを確認し、桜庭は落胆したようい呟いた。

 

 ホムンクルス達が唸り声を上げ、反撃とばかりに山脇達(えもの)へ襲いかかる。爪や牙による身体能力(ちから)任せの原始的な攻撃。しかも連携も何もあったものではない。捌くのは容易である――筈だった。

 にも拘らず、山脇達は幾度となく被弾を許し、逆に攻めの手は空振りが目立つ。普段のキャンサーとの戦闘に比べ、その立ち回りは明らかに精彩を欠いていた。

 

 不調の原因は(メンタル)にあった。緒戦の躓きが、山脇達の心に暗い影を落としていたのだ。

 斬る撃つ殴る、どの属性の攻撃もまるで効果なし。まさに()()

 防護障壁(デフレクタ)がある限り負けはない。短距離瞬間移動(トランスポート)を使えば逃げるのは容易い。だが()()()()。山脇達の中に絶望が広がる。

 

「かくなる上は全力全壊でゲス!」

 

 自棄になったように豊後が飛び出し、(セラフ)を構えた。エネルギーが充填(チャージ)され、銃口の先に光球を形成。次第に大きくなっていく。ピンポン玉大、野球ボール大、砲丸大、そして――。

 引鉄(トリガー)が引かれ、解放された()()()()()()()()が巨大な氷柱を形成。撃ち出された()()()()は命中と同時に爆砕し、調整体(ターゲット)もろとも粉々に砕け散った。

 粉砕された調整体が再生復活する気配はない。豊後最強の必殺技(スキル)、≪トリック・オア・トリート≫が、(ホムンクルス)を撃破した瞬間だった。

 

 戦場は凍りついたように静まり返った。敵群(ホムンクルスども)は動揺したように硬直し、山脇達もまた豊後の突然の大金星に固まっている。

 時が止まったように沈黙が続く中、最初に我に返り、動き始めたのは山脇だった。

 

「よくやったわね、豊後! 流石は私の自慢の使い魔よ!」

 

 戦場全域に聞かせるような大声で、山脇は豊後を褒め称えた。味方(31C部隊)を鼓舞するように、(ホムンクルス)脅し(プレッシャー)をかけるように。

 

「見たわね、あんた達!」

 

 主人に褒められ「えへへ、でゲス」とご満悦な豊後を横に、山脇は部隊(なかま)へ檄を飛ばす。

 

「ちょっと()()()()()()()だけで、連中は不死身でもなんでもないわ! 再生を上回る大ダメージをぶつけてやれば、ホラ、あの通り。粉砕玉砕大喝采、勝利の未来へレディーゴーよ!」

 

 山脇の叱咤激励に、挫けかけていた佐月達の目に生気(ひかり)が戻る。よし、何とか持ち直せた! と確かな手応えを噛みしめつつ、山脇は更に畳みかけた。

 

()()()よ! スキルを使いなさい! つまりやることはいつも(対キャンサー)と同じ」

 

 セラフには対キャンサー特攻という特性の他に、四つの機能がある。使用者の身体能力向上、『デフレクタ』と呼ばれる防護障壁、一定距離の瞬間移動を可能とする『トランスポート』、そしてエネルギーを消費して発動する『スキル』と呼ばれる特殊攻撃。

 セラフとはただ振り回すだけが能ではない。スキルを駆使し、如何に(キャンサー)へ効果的にダメージを与えられるかが肝要なのだ。

 

 そういう意味では、今回もやるべき戦術(こと)は普段《対キャンサー戦》と変わらない。勝手の違いから見失ってしまっていたが、要は(SP)を溜めてスキルで殴ればいいのだ。

 

「さぁ、あんた達! ()ーっておしまい!」

 

 山脇に煽動に触発されたように、31C部隊の反撃が始まった。エネルギーを纏った刃が調整体を細切れにし、強化(チャージ)された弾丸が動物型を粉砕する。

 先刻までの苦戦が嘘のように、山脇達は確実に(ホムンクルス)を撃破していった。

 

 だが、不意に敵群の動きが変わった。調整体達が突如として一斉に、同族同士で共喰いを始めたのだ。吐き気を催すような凄惨な光景に、山脇達は思わず顔を逸らした。

 共喰いによって調整体は瞬く間に数を減らし、同時に生き残った個体は爆発的な勢いで膨張肥大化していく。

 この段になって、山脇達は漸く異常に気づいた。奴らは共喰いしているのではない――合体して巨大化していたのだ!

 

 いつの間にか調整体の数は一体まで減り、その体長は三階建ての建物(ビル)に匹敵するほどまで成長巨大化していた。かつて創造主(ドクトル・バタフライ)より"蝶・成体"と名づけられた究極形態である。

 

 ホムンクルス"蝶・成体"*4が動き出した。身じろぎするだけで大気が震え、足を踏み出すだけで大地が揺れる。()()()というのは、それだけで脅威となるのだ。

 

 拳を振り被り、雄叫びとともに打ち下ろす。狙いは桜庭だった。迫る"蝶・成体"の拳打(パンチ)を、桜庭は(セラフ)(かざ)して受け止めた。

 爆発したような轟音が鳴り響き、桜庭を中心に地面がクレーター状に陥没。デフレクタが大きく削れ、盾を支える両腕の骨が軋む。桜庭の口から「うっ」と苦悶の声が漏れる。

 

 直後、"蝶・成体"が手首のスナップを利かせ、拳を弾くように上へと撥ね上げた。急激に変わった力の方向性(ベクトル)に脚の踏ん張りが利かず、桜庭は紙切れのように吹き飛ばされた。

 無防備に地面へ投げ出された桜庭に、"蝶・成体"が追撃の踏みつけを仕掛ける。

 

「稀代の魔術師の本気、味わうがいい!」

 

「ド派手にぶち殺してやりましょうか♪」

 

 桜庭(なかま)の危機に、天音と佐月が咄嗟にスキルを発動。魔法陣から撃ち出された六条の光線(レーザー)と、三連の銃口から絶え間なく射出される氷弾の嵐が、"蝶・成体"の頭部を直撃した。

 "蝶・成体"の顔面が大きく抉れ、破片を撒き散らしながら後方へ派手に尻餅をつく。その隙に、神崎が桜庭を抱えて離脱。救出に成功した。

 

「このっ、化物……!」

 

 山脇が大鎌(セラフ)を手に、スキルを発動しながら"蝶・成体"へ飛びかかった。

 調整体相手ならば威力過剰(オーバーキル)ですらあった、天音と佐月の最強の切り札(スキル)。しかしこの巨大な敵には火力不足らしく、二人がかりでも撃破には至らなかった。

 だが、効いていない訳ではない。傷を負わせられない相手ではないのだ。ならば再生される前に間髪入れずに畳みかけ、少しずつでも削り取っていくしかない。

 

「世界を滅ぼすのはこの私っ! 邪魔……すんなぁっ!!」

 

 山脇の怒号とともに、氷属性を纏う絶対零度の刃が虚空に閃く。

 跳躍しながらの斬り上げでまず一撃。更に空中で両手持ちに握り直し、落下エネルギーをも味方にして振り下ろされた第二撃が、"蝶・成体"の再生しかけの頭に突き刺さり――止まった。

 

「あっ、やば」

 

 "蝶・成体"の文字通り()()()で、山脇が大鎌の柄にぶら下がったまま呆然と呟いた。

 大鎌の刃は"蝶・成体"の頭部に深々と食い込み、多少(ちょっとやそっと)の力では抜けそうにない。かと言って、武器(セラフ)を捨てて離脱するなど論外である。

 どうする? 山脇の中に生まれる一瞬の逡巡(まよい)。それは致命的な隙となった。"蝶・成体"の巨大な掌が死角(うしろ)から山脇を掴まえ、五指を握り込んで拘束する。

 

「ぐっ……!?」

 

 身体を圧迫された山脇が苦悶の声を上げ、大鎌の柄を握る手の力が緩む。その隙を逃さず、"蝶・成体"は手の中の山脇を頭の大鎌から引き剥がした。

 

 "蝶・成体"の全身に小さな裂け目が無数に生じ、一斉にぱかりと()()()()()。さながら妖怪・目々連ならぬホムンクルス・()()()である。

 

「ニンゲン……! ニンゲン……!」

「喰ワセロ……! 喰ワセロ……!」

「ニンゲン……! ニンゲン……!」

「喰ワセロ……! 喰ワセロ……!」

 

 ガチガチと牙を鳴らし、"蝶・成体"の身体中に新たに生じた口々が合唱を始める。その要求(こえ)に応えるように、"蝶・成体"本体の口ががばりと開き、手中の山脇を丸呑みに――しなかった。

 

「ニンゲン……! ニンゲン……!」

「ニンゲン……。 ニンゲン……?」

 

 口を開けたまま、"蝶・成体"が唐突に動きを止めた。全身の口の合唱も次第に小さくなっていく。

 そして何を考えたのか、山脇をゴミでも捨てるようにぽいと投げ捨て、そのまま興味を失ったようにどこかへ歩き去っていった。

 

「逃げた、でゴザルか…?」

 

「何だったのだ、一体」

 

 地響きを立てながら遠ざかる"蝶・成体"の背中を見送りながら、神崎と天音が呆然と呟いた。

 

「――しまった、私のセラフ! あいつに持ってかれた!」

 

 "蝶・成体"の頭に刺さりっ放しの大鎌(あいぼう)を思い出し、焦った顔で叫ぶ山脇に、桜庭が冷静に一言。

 

「……セラフィムコードで召喚()び戻せばいいのでは?」

 

「……………………それもそうね!」

 

 問題は解決した。――否。

 

「あら……? ぶんちゃんは?」

 

 困惑したような佐月の声。その指摘の通り、豊後がその場にいないという事実に、山脇の顔から血の気が引いた。

*1
AM10:30~PM12:30の時間帯

*2
以下、「調整体」と略称する

*3
以下、「動物型」と略称する

*4
以下、「"蝶・成体"」と略称する




お読み頂きありがとうございます。
水着イベ、まさかタイムスリップとタイムスリップでネタが被るとは思いませんでした。

次回でやっと()()が登場します。
長々と引っ張って申し訳ありません。もう少しだけお待ちください。
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