【ヘブバン×武装錬金】SunLight from the Memories   作:亜蘭作務村

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第00話 未来のキミへはるばると

 ホムンクルス"真・蝶・成体"は斃され、地上の荒廃を画策するホムンクルス・ムーンフェイスの暗い野望は未然に防がれた。

 パピヨンパークを舞台にした一連の事件が解決し、世界の危機が密かに救われてから数ヶ月。

 銀成学園に通う高校生にして錬金の戦士・武藤カズキはある日、先輩戦士の津村斗貴子とともに、蝶人パピヨンの秘密の研究室(ラボ)に呼び出された。

 

 

 

「――"タイムマシン"?」

 

 パピヨンの口から飛び出したその漫画のような単語に、カズキは思わず訊き返した。

 タイムマシン。架空(フィクション)の世界によく登場する、過去や未来の世界と自由に行き来する夢の乗り物。それを現実に造ったというのか?

 突拍子もない話だが、出来るか出来ないかで言えば、出来そうなのが蝶野攻爵(パピヨン)という男だった。

 

「その通り。ソウヤの件で興味が湧いてね。構想(アイディア)をずっと練っていたんだが、最近()()だけだが形になった。自慢してやりたくてお前達を呼んだのさ」

 

「馬鹿な――とも言い切れないか……。ソウヤのことを持ち出されてはな」

 

 パピヨンの自慢話に斗貴子が苦々しげな顔で唸る。荒唐無稽と切って捨てたいが、なまじ()()を識ってしまっている以上、一概に否定することができないのが悔しい。

 

 パピヨンは研究室(ラボ)の隅に置かれた天幕の前へカズキ達を案内し、覆いの布を剥ぎ取った。中から現れたのは、軽自動車よりひと回りほど小さな、見たことのない乗り物だった。

 他に適切な例えが見つからない、近未来的な形状(デザイン)の、まさに漫画や映画(フィクション)の中の男の子の夢(タイムマシン)そのものな乗り物に、男の子(カズキ)が目を輝かせる。

 

「へぇ~っ! まさに"タイムマシン"って感じ! だけど蝶野、()()っていうのは?」

 

「残念ながらこいつ(タイムマシン)の完成度はまだ半分、()()()()()()()()()()()()()()()のさ。過去への行き来については目下研究中だ」

 

 カズキの疑問に、パピヨンはあっさりと未完成であると明かす。悪びれもせず、自信満々に。

 

「どうだ、武藤? ――こいつを使って、ソウヤに会いに行ってみるというのは」

 

「えっ……?」

 

 思いがけないパピヨンの提案に、カズキは思わず息を呑んだ。

 ソウヤ。それはパピヨンパークでの事件の時に出会い、そして共闘した、()()()()()()錬金の戦士である。

 蝶野(パピヨン)によれば、タイムマシンは未来の世界と行き来ができるという。つまり、ソウヤが生きる時代にも――。

 

 

「何を企んでいる、パピヨン。カズキを惑わすのはやめろ」

 

「企む? 惑わす? 何の話だ」

 

 牽制するように横から口を挟んだ斗貴子に、パピヨンは心外そうに首を傾げる。

 

「俺はただ新しい玩具(おもちゃ)完成(でき)たから、武藤を愉しい遊びに誘っただけだ。企みも何もない。妙な勘繰りは()して貰おうか」

 

 憮然とした表情でパピヨンは斗貴子へ反論し、しかし直後、「だが、そうだな」と何かを思いついたように言葉を続ける。

 

過去(いま)高校生(こども)のお前達が突然遊びに来たとなれば、あいつ(ソウヤ)はとても驚愕(びっくり)するだろうな。慌てふためくのを()で眺めるのは、さぞや愉しいだろう」

 

「それを企んでいると言うんだ!」

 

 パピヨンが告げた目的(思いつき)に、斗貴子は武装錬金を出しそうな剣幕で怒鳴る。やはり碌なことを考えていなかった。

 

 蝶人パピヨン、人間()()()頃の名前は蝶野攻爵。他の全てのホムンクルスが月の特別居住区(コロニー)へ移住した現在、唯一地上に残ることを許された()()()()()()異端のホムンクルス。

 その実態は、己の愉しみを何より優先し、そのために他人を巻き込むのも厭わない生粋の愉快犯(トリックスター)。見た目*1の通り、どこまでもふざけた男なのだ。

 

 斗貴子とパピヨン、この二人の相性はすこぶる悪い。犬猿の仲と言ってもいいだろう。

 二人とも同じ時期にカズキと出会い、どちらも彼に対して()()感情を抱いている点は共通(おなじ)だが、その方向性(ベクトル)はまるで違う。

 カズキを()()()()斗貴子と、彼と()()()()パピヨン。話が噛み合う筈もない。

 

 二人が口論する傍ら、カズキの心は揺れていた。

 ムーンフェイスを斃し、ホムンクルス"真・蝶・成体"の消滅を見届けた後、ソウヤは消えた。その別れの瞬間(とき)、彼は必ずまた会えると言い、そして再会の約束もした。

 だが、()()ソウヤに会えるのは、少なくとも十数年以上は未来(さき)になる。そしてその時、自分達の関係は、現在(いま)のような()()ではなく――。

 

「…………会いたい、な」

 

「カズキ?」

 

 絞り出すように零れたその呟きに、斗貴子とパピヨンがカズキを見た。斗貴子は驚いたように目を見開き、パピヨンがニヤリと口角を上げる。

 一度口に出してしまうと、もう止まらなかった。胸の奥から際限なく湧き上がり、溢れ出す感情(おもい)を制御できない。

 

「俺はもう一度、()()ソウヤに会いたい……! 未来の……親子(かぞく)としてじゃない、今の()()として、ソウヤにまた会いたいんだ!」

 

「決まりだな」

 

 カズキの答え(わがまま)に、パピヨンは満足そうに頷いた。

 この偽善者のことだからまずは何かしらの綺麗事を言って断ると踏んでいたのだが、まさか素直に頷くとはちょっと予想外。だが、それはそれでまた一興だった。

 

「では武藤、こいつ(タイムマシン)はお前に貸してやる。お前とそこの()()()()()で未来へ遠足(ピクニック)に行ってくるがいい」

 

「私も一緒に行くのは確定なんだな……」

 

「蝶野は一緒に行かないのか?」

 

 パピヨンの言葉に、斗貴子はどこか諦めたような表情で溜息を吐き、カズキは首を傾げた。

 

「俺の目的は、未来でお前達と再会したソウヤが慌てふためく様を、横から面白おかしく眺めることだからな。愉しみは()()に取って置くのさ。それにこのタイムマシンは()()()なんだ」

 

 パピヨンの返答に、カズキは納得したように、しかし微妙に残念そうな顔で「成程」と頷いた。一方の斗貴子は、釈然としなさそうな顔で沈黙している。

 その時、「ねぇ」と新たな声が研究室(ラボ)に響いた。それまで三人の会話に一切参加せず、沈黙を貫いていた()()()である。

 

「今まで黙って聞いてたけど、どうして私まで行くことになってるの?」

 

 不機嫌そうな顔で抗議するのは、()()()()()()()のヴィクトリアである。

 他のホムンクルス達と同様、一度は月へ移住した彼女だが、錬金戦団*2が推進するホムンクルスの再人間化研究(プロジェクト)が成就し、再び地球へ戻れる日が来た時のため、月と地球の架け橋になることを期待されて、地球への留学を許可されたのだ。

 

貴様(ヴィクトリア)、最近は武藤達とよくつるんでいるだろう? 折角だからより親睦を深めてはどうかと思ってね。蝶人パピヨンの、ちょっとしたお節介さ」

 

 パピヨンの科白に、ヴィクトリアは苦い顔をする。

 留学生として銀成学園に転入したヴィクトリアだが、元々面識のあるカズキ達や、その友人達に何かと世話を焼かれ、今では彼らの一派(グループ)一員(メンバー)と見做されているのは事実だった。

 だが、例のパピヨンパークの事件とは一切無関係で、ソウヤとやらとも面識はない。仮に二人に同行したとして、居心地が悪いなんてものではない。

 

「それに何か不測の事態(トラブル)が起きたとして、都合よく未来のオレ(パピヨン)が傍にいるとは限らない。錬金術の、研究者としての知識と経験を持つ者が同行するのが望ましいのさ」

 

「それならアナタ(パピヨン)が同行すればいいじゃない。三人乗りなんでしょう?」

 

 ヴィクトリアの反論に、パピヨンは「チッチッ」と指を振る。

 

「武藤と、そして()()()()があと二人。詰めに詰めてやっと三人分なのさ。俺はこの図体だからな。貴様らのような()()体格(からだ)でないと入り切らん」

 

「殺すぞ」「殺すわよ」

 

 180cmの長身を見せつけるように胸を張り、くいくいと蠱惑的(セクシー)に腰を振りながら嘲笑(わら)うパピヨンを、斗貴子とヴィクトリアが揃って(おど)す。

 まるで地獄の底から響く怨嗟のような、ドスの利いた声だった。

 

「行こう、斗貴子さん! ヴィクトリアも。ソウヤにキミを紹介するよ!」

 

「むぅっ……?」

 

 いつになく押しの強いカズキの様子に、斗貴子は気圧されたように唸る。いつも自分より他人を優先する彼がここまで我を張るのは珍しいことだった。

 

「……はぁ。分かった、私も同行しよう。私だって、ソウヤにまた会いたいのは同じだからな」

 

 観念したように、斗貴子は溜息交じりに頷いた。カズキの顔がぱぁっと輝く。

 残るヴィクトリアに、カズキと斗貴子が、そしてパピヨンも、示し合わせたように揃って視線を向けた。無言の圧力に晒され、ヴィクトリアが「うっ」とたじろぐ。

 

「な、何よ……! 私は行かないわよ!?」

 

「大丈夫! きっと楽しいから!」

 

「行かないって言ってるでしょ!?」

 

「まぁ、毒を食らわば皿まで*3とも言うしな」

 

「絶っっ対っ! 行かない!」

 

「往生際が悪いな。諦めたらどうだ?」

 

「行かないってばーーーっ!!」

 

 必死に抵抗するヴィクトリアだが、その結末(このあと滅茶苦茶押し切られた)は語るまでもない。

 

 こうして決まった、パピヨン謹製タイムマシンによるカズキ達の未来旅行(タイムトラベル)

 それがまさか()()()()()になるとは、この時は誰も予想してはいなかった――。

 

 

武装錬金 × HEAVEN BURNS RED

SunLight from the Memories

 

 

 

*1
蝶々仮面(パピヨンマスク)を着けた変態

*2
カズキや斗貴子も所属する、錬金術の全てを管理する秘密結社。現在は活動の規模を縮小し、ホムンクルスを人間に戻す研究に注力している。

*3
やるなら徹底的にの意。つまり:逃がさん。貴様だけは…




お読み頂きありがとうございます。
最後のくだりがちょっと強引過ぎたかな?

今回の話はイベストでいうプロローグの位置づけになります。
次の話を投稿する際に目次の先頭に移す予定です。

なお、次回の話は今までよりちょっと投稿に時間をいただくかも…?
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