濃霧の中を虎の亜人ギルの先導で進む。
行き先はフェアベルゲンだ。ハジメとユエ、ハウリア族、そしてアルフレリックを中心に周囲を亜人達で固めて既に一時間ほど歩いている。
しばらく歩いていると、突如、霧が晴れた場所に出た。晴れたといっても全ての霧が無くなったのではなく、一本真っ直ぐな道が出来ているだけで、まるで霧のトンネルのような場所だ。よく見れば、道の端に誘導灯のように青い光を放つ拳大の結晶が地面に半分埋められている。そこを境界線に霧の侵入を防いでいるようだ。
「これは……結晶?」
ハジメが青い結晶に注目していることに気が付いたのか、アルフレリックが解説を買って出てくれた。
「あれは、フェアドレン水晶というものだ。あれの周囲には、何故か霧や魔物が寄り付かない。フェアベルゲンも近辺の集落も、この水晶で囲んでいる。まぁ、魔物の方は〝比較的〟という程度だが」
「なるほど………四六時中霧の中じゃあ気も滅入るだろうし、住んでる場所くらい霧は晴らしたいよね」
そうこうしている内に、眼前に巨大な門が見えてきた。太い樹と樹が絡み合ってアーチを作っており、其処に木製の十メートルはある両開きの扉が鎮座していた。
ギルが門番と思しき亜人に合図を送ると、ゴゴゴと重そうな音を立てて門が僅かに開いた。
「ん?」
周囲の樹の上から、視線を感じると、ハジメ達に対しての視線が突き刺さっているのがわかった。動揺か怒りか……アルフレリックがいなければ一悶着あったかもしれない……
ハジメは視線を感じながらアルフレリックに内心で感謝した。
そして、門をくぐると、そこは別世界だった。
「……これは」
そこは、直径数十メートル級の巨大な樹が乱立しており、その樹の中に住居があるようで、ランプの明かりが樹の幹に空いた窓と思しき場所から溢れている。人が優に数十人規模で渡れるであろう極太の樹の枝が絡み合い空中回廊を形成している。樹の蔓と重なり、滑車を利用したエレベーターのような物や樹と樹の間を縫う様に設置された木製の巨大な空中水路まであるようだ。樹の高さはどれも二十階くらいありそうである。
ハジメとユエがポカンと口を開け、その美しい街並みに見蕩れていると、ゴホンッと咳払いが聞こえた。どうやら、気がつかない内に立ち止まっていたらしくアルフレリックが正気に戻してくれたようだ。
「ふふ、どうやら我らの故郷、フェアベルゲンを気に入ってくれたようだな」
アルフレリックの表情が嬉しげに緩んでいる。周囲の亜人達やハウリア族の者達も、どこか得意げな表情だ。ハジメは、そんな彼等の様子を見つつ、素直に称賛する。
「こんな綺麗な街を見たのは始めてだ。空気も美味い。自然と調和した見事な街だね」
「ん……綺麗」
掛け値なしのストレートな称賛に、流石に、そこまで褒められるとは思っていなかったのか少し驚いた様子の亜人達。だが、やはり故郷を褒められたのが嬉しいのか、皆、ふんっとそっぽを向きながらもケモミミや尻尾を勢いよくふりふりしているのを見て、苦笑いする。
そしてハジメ達は、フェアベルゲンの住人に好奇と忌避、あるいは困惑と憎悪といった様々な視線を向けられながら、アルフレリックが用意した場所に向かった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「……なるほど。試練に神代魔法、それに神の盤上での遊戯か……」
現在、ハジメとユエは、アルフレリックと向かい合って話をしていた。内容は、オスカー・オルクスに聞いた〝解放者〟のことや神代魔法のこと、自分が異世界の人間であり七大迷宮を攻略すれば故郷へ帰るための神代魔法が手に入るかもしれないこと等だ。
アルフレリックは、この世界の神の話を聞いても顔色を変えたりはしなかった。不思議に思ってハジメが尋ねると、「この世界は亜人族に優しくはない、今更だ」という答えが返ってきた。神が狂っていようが死んでしまいが、亜人族の現状は変わらないということらしい。聖教教会の権威もないこの場所では信仰心もないようだ。あるとすれば自然への感謝の念だという。
俺達の話を聞いたアルフレリックは、フェアベルゲンの長老の座に就いた者に伝えられる掟を話した。それは、この樹海の地に七大迷宮を示す紋章を持つ者が現れたらそれがどのような者であれ敵対しないこと、そして、その者を気に入ったのなら望む場所に連れて行くことという何とも抽象的な口伝だった。
【ハルツィナ樹海】の大迷宮の創始者リューティリス・ハルツィナが、自分が〝解放者〟という存在である事と、仲間の名前と共に伝えたものなのだという。フェアベルゲンという国ができる前からこの地に住んでいた一族が延々と伝えてきたのだとか。最初の敵対せずというのは、大迷宮の試練を越えた者の実力が途轍もないことを知っているからこその忠告だ。
そして、オスカー・オルクスの指輪の紋章にアルフレリックが反応したのは、大樹の根元に七つの紋章が刻まれた石碑があり、その内の一つと同じだったからだそうだ。
アルフレリックの説明により、人間を亜人族の本拠地に招き入れた理由がわかった。しかし、全ての亜人族がそんな事情を知っているわけではないはずなので、今後の話をする必要がある。
ハジメとアルフレリックが、話を詰めようとしたその時、何やら階下が騒がしくなっているのが分かりボソッと呟く。
「下?」
ハジメ達のいる場所は、最上階にあたり、階下にはシア達ハウリア族が待機している。どうやら、彼女達が誰かと争っているようだ。ハジメとアルフレリックは顔を見合わせ、同時に立ち上がった。
階下では、大柄な熊の亜人族や虎の亜人族、狐の亜人族、背中から羽を生やした亜人族、小さく毛むくじゃらのドワーフらしき亜人族が剣呑な眼差しで、ハウリア族を睨みつけていた。部屋の隅で縮こまり、カムが必死にシアを庇っている。シアもカムも頬が腫れている事から既に殴られた後のようだ。
「………何をしてる」
ハジメとユエが階段から降り、少し苛立ちながら声を発すると彼等は一斉に鋭い視線を送った。熊の亜人が剣呑さを声に乗せて発言する。
「アルフレリック……貴様、どういうつもりだ。なぜ人間を招き入れた?こいつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど……返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ」
発言からすると、彼らはアルフレリックのような各種族の族長達で、必死に激情を抑えているのだろう。拳を握りわなわなと震えている。やはり、亜人族にとって人間族は不倶戴天の敵なのだ。しかも、忌み子と彼女を匿った罪があるハウリア族まで招き入れた。熊の亜人だけでなく他の亜人達もアルフレリックを睨んでいる。
しかし、アルフレリックはどこ吹く風といった様子だ。
「なに、口伝に従ったまでだ。お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できるはずだが?」
「何が口伝だ!そんなもの眉唾物ではないか!フェアベルゲン建国以来一度も実行されたことなどないではないか‼︎」
「だから、今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。お前達も長老なら口伝には従え。それが掟だ。我ら長老の座にあるものが掟を軽視してどうする」
「なら、こんな人間族の小僧が資格者だとでも言うのか⁉︎敵対してはならない強者だと‼︎」
「そうだ」
あくまで淡々と返すアルフレリック。熊の亜人は信じられないという表情でアルフレリックを、そしてハジメを睨む。
「はぁ……」
フェアベルゲンには、種族的に能力の高い幾つかの各種族を代表する者が長老となり、長老会議という合議制の集会で国の方針などを決めてると聞いたが、口伝に対する認識には差があるようで、アルフレリックは口伝を含む掟を重要視するタイプのようだが、他の長老達は少し違うらしい………
ハジメがそんな事を考えながら溜息を吐くと、アルフレリック以外の長老衆は、この場に人間族や罪人がいることに我慢ならないようだ。
「……ならば、今、この場で試してやろう!」
いきり立った熊の亜人が突如、ハジメに向かって突進した。あまりに突然のことで周囲は反応できていない。アルフレリックも、まさかいきなり襲いかかるとは思っていなかったのか、驚愕に目を見開いている。
そして、一瞬で間合いを詰め、身長二メートル半はある脂肪と筋肉の塊の様な男の豪腕が、ハジメに向かって振り下ろされた。
だがハジメは衝撃音と共に振り下ろされた拳を、あっさりと左腕を掴み止める。
「……軽い拳だね………だけど、殺意を持って攻撃したんだ。覚悟は出来てるだろ?」
そう言って、ハジメは魔力操作で少し握力を高めていく。熊の亜人の腕からメキッと音が響いた。驚愕の表情を浮かべながらも危機感を覚え、必死に距離を取ろうとする熊の亜人。
「ぐっう⁉︎離せ‼︎」
必死に腕を引き戻そうとするが、体長が半分程度しかないにもかかわらず、ハジメはビクともしない。
「………わかった」
そう言うとハジメは熊の亜人を投げ飛ばした。だが不幸にも背後の壁を投げ飛ばされた熊の亜人は突き破り、虚空へと消えていった。しばらくすると、地上で悲鳴が聞こえだす。
ハジメは一瞬やり過ぎたと思ったが、生きてるだろうと判断して、誰もが言葉を失い硬直している中、くるりと長老達に軽めの殺意を宿らせた視線を向ける。
「貴方達は僕と敵対しますか?」
その言葉に、頷けるものはいなかった。
現在、当代の長老衆である虎人族のゼル、翼人族のマオ、狐人族のルア、土人族(俗に言うドワーフ)のグゼ、そして森人族のアルフレリックが、ハジメと向かい合って座っていた。ハジメの傍らにはユエとカム、シアが座り、その後ろにハウリア族が固まって座っている。
長老衆の表情は、アルフレリックを除いて緊張感で強ばっていた。戦闘力では一,二を争う程の手練だった熊の亜人(名前はジン)が、文字通り手も足も出ず瞬殺されたのであるから無理もない。
「それで貴方達は僕達をどうしたいんですか?僕は大樹の下へ行きたいだけで、出来れば敵対したくない。そして僕は亜人族を余り傷付けたくない。 でも敵対するなら僕も相応の対応はする」
ハジメの言葉に、身を強ばらせる長老衆。言外に、亜人族全体との戦争も辞さないという意志が込められていることに気がついたのだろう。
「こちらの仲間を傷つけておいて、第一声がそれか……それで友好的になれるとでも?」
土人族の族長グゼが苦虫を噛み潰したような表情で呻くように呟いた。
「それについてはやり過ぎたと思う。だが、先に殺意を向けてきたのは、あの人だし僕はただ、返り討ちにしただけです」
ハジメがそう告げるとグゼは表情を歪ませ、勢いよく席から立ち上がりかけながら怒鳴る。
「き、貴様!ジンはな‼︎ジンは、いつも国のことを思って!」
「それが、初対面の相手を問答無用に殺していい理由になるとは思いませんが」
「そ、それは………しかし!」
グゼがハジメの言葉に口を噤むと、ハジメは更に言葉を続ける。
「勘違いしないでください。僕が被害者で、彼が加害者。長老というのは罪科の判断も下すんですよね?だったらそこのところ、履き違えないでください」
おそらくグゼはジンと仲が良かったんだなその為、頭ではハジメの言う通りだと分かっていても心が納得しないのだろう。
ハジメが内心でそう思っていると、アルフレリックがグゼに視線を向け、口を開く。
「グゼ、気持ちはわかるが、そのくらいにしておけ。彼の言い分は正論だ」
アルフレリックの諌めの言葉に、立ち上がりかけたグゼは表情を歪めてドスンッと音を立てながら座り込んだ。そのまま、むっつりと黙り込む。
「確かに、この少年は、紋章の一つを所持しているし、その実力も大迷宮を突破したと言うだけのことはあるね。僕は、彼を口伝の資格者と認めるよ」
そう言ったのは狐人族の長老ルアだ。糸のように細めた目でハジメを見た後、他の長老はどうするのかと周囲を見渡す。
その視線を受けて、翼人族のマオ、虎人族のゼルも相当思うところはあるようだが、同意を示した。代表して、アルフレリックがハジメに伝える。
「南雲ハジメ。我らフェアベルゲンの長老衆は、お前さんを口伝の資格者として認める。故に、お前さんと敵対はしないというのが総意だ……可能な限り、末端の者にも手を出さないように伝える。……しかし……」
「絶対ではない………ですよね?」
「ああ。知っての通り、亜人族は人間族をよく思っていない。正直、憎んでいるとも言える。血気盛んな者達は、長老会議の通達を無視する可能性を否定できない。特に、今回傷つけられたジンの種族、熊人族の怒りは抑えきれない可能性が高い。アイツは人望があったからな……」
「あぁ、それは申し訳ないことをしました。なので、これを彼に飲ませてあげてください」
「それは何かね?」
ハジメはジンの治療の為に宝物庫から神水を取り出した。アルフレリックは取り出した神水に目を丸くし質問してきた。
「これは、神水と言って、飲むと体の欠損した部分は再生しませんが、大抵の傷は治る代物です」
「「「「「⁉︎」」」」」
ハジメが神水の説明をしていくと族長達が驚きを示し、再度、アルフレリックが聞いてきた。
「……南雲ハジメ。ほんとに貰っても良いのかね?」
「はい、僕にとって亜人族は差別の対象でもなんでもない寧ろ協力していきたい所存の考えですので」
「「「「「………」」」」」
「感謝する…南雲ハジメ」
「あぁ……後、ジンさんに『やり過ぎました、すみません』と言っておいてくれませんか?」
「了解した」
そんな話を着々と進めている中、虎人族のゼルが口を挟んできた。
「我々は、大樹の下への案内を拒否させてもらう。口伝にも気に入らない相手を案内する必要はないとあるからな………そして、ハウリア族に案内してもらえるとは思わないことだ。そいつらは罪人。フェアベルゲンの掟に基づいて裁きを与える。何があって同道していたのか知らんが、ここでお別れだ。忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った罪。フェアベルゲンを危険に晒したも同然なのだ。既に長老会議で処刑処分が下っている」
「……」
ゼルの言葉に、シアは泣きそうな表情で震え、カム達は一様に諦めたような表情をしている。この期に及んで、誰もシアを責めないのだから情の深さは折紙付きだ。
「長老様方!どうか、どうか一族だけはご寛恕を!どうか!」
「シア………止めなさい。皆、覚悟は出来ている。お前には何の落ち度もないのだ。そんな家族を見捨ててまで生きたいとは思わない。ハウリア族の皆で何度も何度も話し合って決めたことなのだ。お前が気に病む必要はない」
「でも、父様!」
土下座しながら必死に寛恕を請うシアだったが、ゼルの言葉に容赦はなかった。
「既に決定したことだ。ハウリア族は全員処刑する。フェアベルゲンを謀らなければ忌み子の追放だけで済んだかもしれんのにな」
ワッと泣き出すシア。それをカム達は優しく慰めた。長老会議で決定したというのは本当なのだろう。他の長老達も何も言わなかった。
「そういうわけだ。これで、貴様が大樹に行く方法は途絶えたわけだが?どうする?運良くたどり着く可能性に賭けてみるか?」
ハジメは特に焦りを浮かべることも苦い表情を見せることもなく、何でもない様に軽く返す。
「………バカですか?」
「な、なんだと!」
ハジメの物言いに、目を釣り上げるゼル。シア達も思わずと言った風に俺を見る。ユエはハジメの考えがわかっているのかすまし顔だった。
「じゃあ……一つ、例え話をしましょう。 貴方達の中にもし、〝忌み子〟が産まれたら貴方達はどうしますか? ハウリアみたいに追放し迫害するのですか?」
「「「「「…ッ!」」」」」
ハジメの例え話に長老達は声にならない声を上げるが、ハジメは目を細めながら確認をとる。
「で……どうするんです?」
「そっそれは…!」
「できませんよね……家族ですし」
「ぐっ……しかし掟でっ」
「その掟は本当に建国の時から定められてるのですか?」
「なっ⁉︎」
「少し僕の考えを言わせて貰います。僕の考えだとその魔力持ちの亜人を迫害し追放する掟は神の手先か何かが関与していると踏んでいます」
その言葉にゼルは目を見開いて、声を上げる。それはここにいるユエ以外の者達も目を見開く。そして、代表としてアルフレリックが聞いてきた。
「南雲ハジメ、何故そのような考えに至る?」
「簡単です、解放者だったリューティリス・ハルツィナはここの初代女王だった………ですよね?」
「あぁ、そうだ」
「そして、大迷宮を作った解放者は全員、神代魔法持ち。簡単に言えばシアさんと同じ固有魔法持ち、貴方達のところで言わせれば〝忌み子〟ですよ?」
「「「「「!」」」」」
「はぁ……」
ハジメはハッと表情する長老達に呆れながら、更に言葉を続ける。
「そして、そんな女王が亜人族の掟に魔力持ちの亜人が産まれたら迫害、追放しろって掟にしますか?しませんよね。だから僕の考えは、リューティリス・ハルツィナが亡き後、神の手先が何らかの方法で掟にしたのではないか〝魔力持ちは魔物と同じだ〟とか言って……まぁ、これが僕の考えですが貴方達はどう思いますか?」
「「「「「……」」」」」
ハジメの発言は終わると全員が黙り長老達が話し合い、終わったところでアルフレリックが話しかける。
「南雲ハジメ、お前さんの考えは一理ある。しかし、掟をそんな簡単に変えれん。変えるには時間が掛かる。そしたら、ハウリア族の者達は危険な目に合うかもしれん」
「……じゃあどうするんですか?」
「掟が変わるまでお前さんの奴隷とし、死んだ者として扱うことにするお前達も良いな?」
アルフレリックがそう告げ長老達も同意すると、アルフレリックが言葉を続ける。
「しかし、南雲ハジメ、お前さんは何故そこまでハウリアに拘る?」
ハジメはアルフレリックの質問に小さく笑みを向けながら話す。
「約束しましたから……」
「……約束か。それならもう果たしたと考えてもいいのではないか?峡谷の魔物からも、帝国兵からも守ったのだろう?なら、あとは報酬として案内を受けるだけだ。報酬を渡す者が変わるだけで問題なかろう」
「問題大ありです。案内するまで身の安全を確保するってのが約束なんですから。途中でいい条件が出てきたからって、ポイ捨てして鞍替えなんて……」
ハジメは苦笑いしながら頭の中で帰ると約束した彼女を想いながらアルフレリックに向き合い真剣な表情で告げる。
「僕のプライドが許せませんから」
ハジメの言葉にアルフレリックもそうだが、長老達も息を呑む。そして、アルフレリックが苦笑いしながらも話す。
「……そうかわかった。なら、〝現〟掟により南雲ハジメの一族はフェアベルゲンや周辺の集落への立ち入りを禁ずる。以降、南雲ハジメの一族に手を出した場合は全て自己責任とする……以上だ、何かあるか?」
「いや、僕は大樹に行ければいいです。ハウリアの案内で。文句はないです」
「……すまない、我々の生き方を変え、ようやく現れた口伝の資格者を歓迎できないのは心苦しいが……」
「気にしないでください。掟は変えると言え、むしろ理性的な判断をしてくれて有り難いくらいです。もしまた、神とかの手先や何かあったら手を貸しますし、襲って来た人は少し傷つくかもしれませんが帰しますし」
「……感謝する」
立ち上がったアルフレリックはハジメと握手をし、カムに告げる。
「カムよ……しばしの間、フェアベルゲンの外で待っていてくれないか。掟が変わったなら迎えに行く」
「は、はいっ!」
これで会議が終わり、解散している時シアが、オロオロしながらハジメに尋ねる。
「あ、あの、私達……死ななくていいんですか?」
「さっきの話聞いてましたよね?」
「い、いえ、聞いてはいましたが……その、何だかトントン拍子で窮地を脱してしまったので実感が湧かないといいますか……信じられない状況といいますか……」
周りのハウリア族も同様なのか困惑したような表情だった。それだけ、長老会議の決定というのは亜人にとって絶対的なものなのだろう。どう処理していいのか分からず困惑するシアにユエが呟くように話しかけた。
「……素直に喜べばいい」
「ユエさん?」
「……ハジメに救われた。それが事実。受け入れて喜べばいい」
「……」
ユエの言葉に、シアはそっと隣を歩くハジメに視線をやった。ハジメは前を向いたまま肩を竦める。
「約束ですしね」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「…ッ!」
シアは、肩を震わせる。樹海の案内と引き換えにシアと彼女の家族の命を守る。シアとハジメとの約束だ。
元々、〝未来視〟でハジメが守ってくれる未来は見えていたが心配だった。しかし彼は魔物達から自分、家族までも助けてくれた。自分達に対して差別的な視線もなかった。
でも、内心の不安に負けて、〝約束は守る人だ〟と口に出してみたり〝人間相手でも戦う〟などという言葉を引き出してみたりした。実際に、何の躊躇いもなく帝国兵と戦ってくれた時、どれほど安堵したことか。
だが、今回はいくらハジメでも見捨てるのではという思いがシアにはあった。帝国兵の時とはわけが違う。言ってみれば、帝国の皇帝陛下の前で宣戦布告するに等しいのだ。にもかかわらず一歩も引かずに約束を守り通しそして、私の為いやそれ以降に産まれる忌み子の為に〝掟〟さえも変え、シアと大切な家族は確かに守られたのだ。
先程、一度高鳴った心臓が再び跳ねた気がした。顔が熱を持ち、居ても立ってもいられない正体不明の衝動が込み上げてくる。それは家族が生き残った事への喜びか、それとも……だが今は、シアはユエの言う通り素直に喜び、今の気持ちを衝動に任せて全力で表してみることにした。すなわち──『ハジメに全力で抱きつく!』
「ハジメさ~ん!ありがどうございまずぅ~!」
「えぇっ⁉︎いきなり何ですか⁉︎」
「むっ……まさか…」
泣きべそを掻きながら『絶対に離しません!』とでも言う様にヒシッとしがみつき顔をグリグリとハジメの肩に押し付けるシア。その表情は緩みに緩んでいて、頬はバラ色に染め上げられている。
喜びを爆発させハジメにじゃれつくシアの姿に、ハウリア族の皆もようやく命拾いしたことを実感したのか、隣同士で喜びを分かち合っている。
長老達は今まで自分達がやってきたことを反省したのかハウリア達に頭を下げ謝っていた。
ハジメはその全てを把握しながら、自分のやった事が上手くいったのを感じ少し笑みを零したのだった……