FGOで世界最強   作:紫道麻璃也

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L式ブートキャンプ

「さて、貴方達には戦闘訓練を受けてもらおうと思う」

 

 フェアベルゲンから出たハジメ達は、一先ず大樹の近くに拠点を作って一息ついた後、笑顔のハジメの第一声がこれだった。拠点といっても、ハジメがさり気なく盗んできた……訳ではなく、アルフレリックから善意で貰ってきたフェアドレン水晶を使って結界を張っただけのものだ。その中で切り株などに腰掛けながら、ハウリア達はポカンとした表情を浮かべていた。

 

「え、えっと……ハジメさん。戦闘訓練というのは……」

 

 困惑する一族を代表してシアが尋ねる。

 

「そのままの意味ですよ。これから十日間は大樹へはたどり着けないんですよね?ならその間の時間を有効活用して、魔物ぐらいには戦えるように育て上げようと思いまして」

「な、なぜ、そのようなことを……」

 

 ハジメの目と全身から迸る威圧感にぷるぷると震えるハウリア達。シアが、あまりに唐突なハジメの宣言に当然の如く疑問を投げかける。

 

「簡単だよシアさん、フェアベルゲンの掟はこれから変わるけどそれが何時までかかるかは分からない、それまでに僕は案内をして貰った後は、目的の為にここを離れます。その間もまだ、掟が変わってなかったら確実にハウリア族に不満を持ってる亜人に襲われます」

「「「「「「……」」」」」」

 

 全くその通りなので、ハウリア族達は皆一様に暗い表情で俯く。誰も言葉を発さず重苦しい空気が辺りを満たす。そして、ポツリと誰かが零した。

 

「そんなものいいわけがない」

 

 その言葉に触発されたようにハウリア族が顔を上げ始める。シアは既に決然とした表情だ。

 

「そうです、いいわけがない。ならば、どうするか。答えは簡単です………強くなればいい。襲い来るあらゆる障碍を打ち破っていけば良い」

「……ですが、私達は兎人族です。虎人族や熊人族のような強靭な肉体も翼人族や土人族のように特殊な技能も持っていません……とても、そのような……」

 

 兎人族は弱いという常識がハジメの言葉に否定的な気持ちを生む。自分達は弱い、戦うことなどできない。どんなに足掻いてもハジメの言う様に強くなど成れるものか、と。

 

「やります………私に戦い方を教えてください!もう、弱いままは嫌です!」

 

 樹海の全てに響けと言わんばかりの叫び。これ以上ない程思いを込めた宣言。シアとて争いは嫌いだ。怖いし痛いし、何より傷つくのも傷つけるのも悲しい。しかし、一族を窮地に追い込んだのは紛れもなく自分が原因であり、このまま何も出来ずに滅ぶなど絶対に許容できない。とあるもう一つの目的のためにも、シアは兎人族としての本質に逆らってでも強くなりたかった。

 不退転の決意を瞳に宿し、真っ直ぐハジメを見つめるシア。その様子を唖然として見ていたカム達ハウリア族は、次第にその表情を決然としたものに変えて、一人、また一人と立ち上がっていく。そして、男だけでなく、女子どもも含めて全てのハウリア族が立ち上がったのを確認するとカムが代表して一歩前へ進み出た。

 

「ハジメ殿……宜しく頼みます」

 

 言葉は少ない。だが、その短い言葉には確かに意志が宿っていた。襲い来る理不尽と戦う意志が。

 

「わかりました。覚悟してくださいね?」

 

 ハジメの言葉に、ハウリア族は皆、覚悟を宿した表情で頷いた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 ハジメは、ハウリア族を訓練するにあたって、まず、〝宝物庫〟から取り出した錬成の練習用に作った装備をハウリア達に渡した。

 ハジメは転移される前からやっていた簡単な体術などを教えている。ちなみに、シアに関してはユエが専属で魔法の訓練をしている。亜人でありながら魔力があり、その直接操作も可能なシアは、知識さえあれば魔法陣を構築して無詠唱の魔法が使えるはずだからだ。

 時折、シアの悲鳴が聞こえるが大丈夫だろうが問題はこっちだった。

 訓練開始から二日目。ハジメは片手で頭を抱えながらハウリア族の訓練風景を見ていた。確かに、ハウリア族達は、自分達の性質に逆らいながら、言われた通り真面目に訓練に励んでいる。魔物だって、幾つもの傷を負いながらも何とか倒している。

 しかし……

 

「ああ、どうか罪深い私を許しくれぇ~」

 

 魔物にトドメを刺したハウリア族の男が魔物に縋り付く。まるで互いに譲れぬ信念の果て親友を殺した男のようだ。

 別の所では瀕死の魔物が、最後の力で己を殺した相手に一矢報いる。体当たりによって吹き飛ばされたカムが、倒れながら自嘲気味に呟く。

 

「ふっ、これが刃を向けた私への罰というわけか……当然の結果だな……」

 

 その言葉に周囲のハウリア族が瞳に涙を浮かべ、悲痛な表情でカムへと叫ぶ。

 

「族長!そんなこと言わないで下さい!罪深いのは皆一緒です!」

「そうです!いつか裁かれるときが来るとしても、それは今じゃない!立って下さい!族長!」

「僕達は、もう戻れぬ道に踏み込んでしまったんだ。族長、行けるところまで一緒に逝きましょうよ」

「お、お前達……そうだな。こんな所で立ち止まっている訳にはいかない。死んでしまった彼のためにも、この死を乗り越えて私達は進もう!」

「「「「「「「「族長!」」」」」」」」

「……」

「ハジメ殿どうしましたか?」

 

 その光景を見ていたハジメは怒りを通り越して呆れながら俯いてると、カム達が心配してきた。

 

「ハジメ殿?」

 

「あぁ…大丈夫です。 僕の考えが甘すぎました。 ……少しギアを上げますよ……… 〝憑依〟────」

「「「「「「「「「………………………………え…」」」」」」」」」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 樹海の中、凄まじい破壊音が響く。野太い樹が幾本も半ばから折られ、地面には隕石でも落下したかのようなクレーターがあちこちに出来上がっており、更には、燃えて炭化した樹や氷漬けになっている樹まであった。

 この多大な自然破壊はたった二人の女の子によってもたらされた。そして、その破壊活動は現在進行形で続いている。

 

「でぇやぁああ‼︎」

 

 裂帛の気合とともに撃ち出されたのは直径一メートル程の樹だ。半ばから折られたそれは豪速を以て目標へと飛翔する。確かな質量と速度が、唯の樹に凶悪な破壊力を与え、道中の障害を尽く破壊しながら目標を撃破せんと突き進む。

 

「……〝緋槍〟」

 

 それを正面から迎え撃つのは全てを灰塵に帰す豪炎の槍。巨大な質量を物ともせず触れた端から焼滅させていく。砲弾と化した丸太は相殺され灰となって宙を舞った。

 

「まだです!」

 

 〝緋槍〟と投擲された丸太の衝突がもたらした衝撃波で払われた霧の向こう側に影が走ったかと思えば、直後、隕石のごとく天より丸太が落下し、轟音を響かせながら大地に突き刺さった。バックステップで衝撃波の範囲からも脱出していた目標は再度、火炎の槍を放とうとする。

 しかし、そこへ高速で霧から飛び出してきた影が、大地に突き刺さったままの丸太に強烈な飛び蹴りをかました。一体どれほどの威力が込められていたのか、蹴りを受けた丸太は爆発したように砕け散り、その破片を散弾に変えて目標を襲った。

 

「ッ!〝城炎〟」

 

 飛来した即席の散弾は、突如発生した城壁の名を冠した炎の壁に阻まれ、唯の一発とて目標に届く事は叶わなかった。

 しかし……

 

「もらいましたぁ!」

「ッ⁉︎」

 

 その時には既に影が背後に回り込んでいた。即席の散弾を放った後、見事な気配断ちにより再び霧に紛れ奇襲を仕掛けたのだ。大きく振りかぶられたその手には超重量級の大槌が握られており、刹那、豪風を伴って振り下ろされた。

 

「〝疾風壁〟」

 

 大槌により激烈な衝撃が大地を襲い爆ぜさせる。砕かれた石が衝撃で散弾となり四方八方に飛び散った。だが、目標は、そんな凄まじい攻撃の直撃を躱すと、余波を風の障壁により吹き散らし、同時に風に乗って安全圏まで一気に後退した。更に、技後硬直により死に体となっている相手に対して容赦なく魔法を放つ。

 

「〝凍柩〟」

「ふぇ⁉︎ちょっ、まっ!」

 

 相手の魔法に気がついて必死に制止の声をかけるが、聞いてもらえる訳もなく問答無用に発動。襲撃者は、大槌を手放して離脱しようとするも、一瞬で発動した氷系魔法が足元から一気に駆け上がり……頭だけ残して全身を氷漬けにされた。

 

「づ、づめたいぃ~、早く解いてくださいよぉ~、ユエさ~ん」

「……私の勝ち」

 

 そう、問答無用で自然破壊を繰り返していたこの二人はユエとシアである。二人は、訓練を始めて十日目の今日、最終試験として模擬戦をしていたのだ。内容は、シアがほんの僅かでもユエを傷つけられたら勝利・合格というものだ。

 

「ぅぅぅぅうぅぅぅぅうぅぅぅぅう〜………………ユエさんの………ペッタンコ

「………………………………………………………うぅっ」

「あああああ⁉︎ごめんなさい!そんなに本気で傷つくとは思わなくて‼︎」

「………………傷ついてない」

「ほら!あめちゃんあげますから⁉︎泣かないで⁉︎」

「………泣いてない!」

「ていうか、いい加減魔法解いて下さいよぉ~。さっきから寒くて寒くて……あれっ、何か眠くなってきたような……」

 

 先ほどより鼻水を垂らしながら、うつらうつらとし始めるシア。『寝たら死ぬ』の状態になりつつある。その様子をチラッチラッと見て、深々と溜息を吐くとユエは心底気が進まないと言う様に魔法を解いた。

 

「ぴくちっ!ぴくちぃ‼︎あうぅ、寒かったですぅ。危うく帰らぬウサギになるところでした」

 

 可愛らしいくしゃみをし、近くの葉っぱでチーン!と鼻をかむと、シアは、その瞳に真剣さを宿してユエを見つめた。ユエは、その視線を受けて物凄く嫌そうな表情をする。無表情が崩れるほど嫌そうな表情だ。

 

「………ユエさん。私、勝ちました」

「………………ん」

「約束、覚えてますよね?」

「……………………ん?」

「ちょっとぉ!何いきなり誤魔化してるんですかぁ‼︎」

 

 ぎゃーぎゃーと騒ぐシアに、ユエは心底鬱陶しそうな表情を見せる。

 シアの言う通り、ユエは、ハジメの了承済みで彼女と一つの約束をした。それは、シアがユエに対して、十日以内に模擬戦にてほんの僅かでも構わないから一撃を加えること。それが出来た場合、シアがハジメとユエの旅に同行することを認めること。

 シアは、ハジメのことを想っているしかしハジメへの想いとは別に、ユエに対しても近しい存在になりたいと本気で思っているのだ。それは、この世界でも極僅かな〝同類〟であることが多分に影響しているのだろう。つまり、簡単に言えば〝友達〟になりたいのだ。想い人が傍にいて、同じ人を想う友も傍にいる。今のシアにとって夢見る未来は、そういう未来なのだ。

 一方、ユエは何故、シアとそのような約束を交わしたのか。ハジメは了承したがユエ自身には何のメリットもない約束である。その理由の二割は、やはりシンパシーを感じたことだろう。ライセン大峡谷で初めてシアの話を聞いた時、自分とは異なり比較的に恵まれた環境にあることに複雑な感情を覚えつつも、心のどこかで〝同類〟という感情が湧き上がったことは否定できない。僅かなりとも仲間意識を抱いたことが、シアに対する〝甘さ〟をもたらした。

 そして、八割の理由は……ハジメの恋人の香織の存在だった。自分もハジメの恋人になりたいが、一人だとなんか心もとない、しかし自分と同じ想いを抱く存在がいれば少し安心する。そして、香織と出会った日に「私もハジメのことが好きです、二番目でも良いので恋人になるのを許して下さい」って言う為に仲間を増やして起きたい気持ちがあった。

 そして、約束をかけた勝負の結果がシアの勝利だったのである。

 

「……はぁ。わかった。ハジメも了承もしてるし約束は守る……」

「ホントですか⁉︎」

「………………………ん」

「何だか、その異様に長い間が気になりますが……ホント、お願いしますよ?」

「……しつこい」

 

 渋々、ほんと~に渋々といった感じでユエがシアの勝ちを認める。シアは、ユエの返事に多少の不安は残しつつも、ハジメ同様に約束を反故にすることはないだろうと安心と喜びの表情を浮かべた。

 そろそろ、ハジメのハウリア族への訓練も終わる頃だ。不機嫌そうなユエと上機嫌なシアは二人並んでハジメ達がいるであろう場所へ向かうのだった。

 

~〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 ユエとシアが俺のもとへ到着したとき、ハジメは腕を組んで近くの樹にもたれたまま瞑目しているところだった。

 

「………………ええっと、ハジメさんですか?」

「………ん?あぁ、シアさんですか」

 

 二人の気配に気が付き呟いてから、ハジメはゆっくり目を開けると二人の姿を視界に収める。だが、シアの視線が何やらおかしいことをハジメは感じた。

 

「………本当に『あの人』ハジメさんですか?」

「ん………ハジメの技能」

 

 ユエの口から出た言葉に驚愕をしながらもシアは再びハジメへと視線を向ける。

 シアがハジメだとは思えないと思うのは当然だと思う。何故なら、『筋骨隆々の外見の割には理知的に見える男性』にしかハジメが見えないからだ。

 

「………今度は……誰?」

「うん、『レオニダス一世』って人でね、地球の古代ギリシャに存在した都市国家スパルタの王にして、テルモピュライの戦いで活躍した英雄だよ」

「………………王様」

「えっと………ハジメさんはどうしてそんな人になったんですか?」

「その理由は後でわかるよ………それよりも、勝負とやらは終わったの?」

「そうでした!ハジメさん!ハジメさん‼︎聞いて下さい!私、遂にユエさんに勝ちましたよ!大勝利ですよ‼︎いや~、ハジメさんにもお見せしたかったですよぉ~、私の華麗な戦いぶりを!負けたと感じた時のユエさんたらもへぶっ⁉︎」

 

 身振り手振り大はしゃぎという様相で戦いの顛末を語るシア。調子に乗りすぎて、ユエのジャンピングビンタを食らい錐揉みしながら吹き飛びドシャと音を立てて地面に倒れ込んだ。よほど強烈だったのかピクピクとして起き上がる気配がない。

 フンッと鼻を鳴らし更に不機嫌そうにそっぽを向くユエに、ハジメが苦笑いしながら尋ねる。

 

「で?どうだった?」

 

 ユエは話したくないという雰囲気を隠しもせず醸し出しながら、渋々といった感じでハジメの質問に答えた。

 

「……魔法の適性はハジメよりも無い」

「それは………宝の持ち腐れだね……だけどそれだけじゃないんだよね?あのレベルの大槌をせがまれたとなると……」 

「……ん、身体強化に特化してる。正直、化物レベル」

「……僕達と比べると?」

 

 ユエの評価に目を細めるハジメ。珍しく無表情を崩し苦虫を噛み潰したようなユエの表情が何より雄弁に、その凄まじさを物語る。ユエは、ハジメの質問に少し考える素振りを見せるとハジメに視線を合わせて答える。

 

「……強化してないハジメの……三〜四割くらい」

「マジか……最大値だよね?」

「ん……でも、鍛錬次第でまだ上がるかも」

「おぉう。それは確かに化物レベルだな」

 

 ハジメはユエの説明でシアの〝身体強化〟は化け物レベルのことを聞き少し唖然とした。

 

「まぁ、これなら……」

 

 ハジメは目を伏せ苦笑いしなが息を吐くとシアはしっかり視線を合わせて想いを告げた。

 

「ハジメさん。私をあなたの旅に連れて行って下さい。お願いします!」

「……シアさん、貴女の気持ちはわかりました。だけど一つ聞かせてほしい」

「はい?」

「どうして、僕達にそんなに付いていきたいんだ?」

 

 そう、ハジメは今のシアなら樹海の魔物や亜人には大丈夫だろうとカム達を安心出来ると考えており、家族が大事なシアならハジメ達に着いて行くより、カム達の傍にいた方がいいんじゃないかと考えていた。

 

「それは、そのぉ……」

「……」

「ハジメさんの傍に居たいからですぅ!しゅきなのでぇ‼︎」

「……えぇっ?」

 

 シアはハジメの問いかけに体をモジモジしだし、そして、声を上げたトンデモ発言にハジメは呆けてしまった。

 

「……シアさん、僕には香織がいて、貴女の気持ちは……」

「わかってます‼︎」

 

 ハジメは何とか気を取り直してシアの告白を断ろうとしたらシアに遮られた。

 

「ハジメさんには香織さんっていう人が一番であって恋人なのはユエさんから聞いて知ってます!でもっ好きなんですっ!ハジメさんが好きなんですぅ‼︎」

「……」

 

 ハジメは、自分の頭に手を置きシアに告げた。

 

「同行は認めます。でも今は貴女の気持ちには答えられないかもしれません」

「はい。でも、一緒にいたいです」

「危険だらけの旅です。 シアさん、貴女を守り切れない場面があるかもしれない」

「化物でよかったです。御蔭で貴方について行けます」

「………最後に確認です。僕の望みは神を倒し香織達と故郷に帰ること………もう家族とは会えないかもしれません」

「話し合いました。〝それでも〟です。父様達もわかってくれました」

 

 今まで、ずっと守ってくれた家族。感謝の念しかない。何処までも一緒に生きてくれた家族に、気持ちを打ち明けて微笑まれたときの感情はきっと一生言葉にできないだろう。

 

「僕の故郷は、貴女にとって住み難いところだと思います」

「何度でも言いましょう。〝それでも〟です。 だからハジメさん……私も連れて行って下さい」

「…………わかりました、よろしくお願いしますシア」

 

「……ん、よろしく」

 

 ハジメは苦笑いをするもシアの同行を認めると、ユエはハジメが認めたなら仕方ないと賛同するかのように頷きながらシアを歓迎した。

 

「はいっ‼︎」

 

 樹海の中に一つの歓声が響く。

 その様子に、ハジメは……

 

「………どう香織に説明しよう」

 

 いろんな意味でこの先も大変そうだと上を見上げ顔を青くしながら苦笑いするのだった……。

 

「えへへ、うへへへ、くふふふ~」

 

 同行を許されて上機嫌のシアは、奇怪な笑い声を発しながら緩みっぱなしの頬に両手を当ててクネクネと身を捩らせてた。それは、ハジメと問答した時の真剣な表情が嘘のように残念な姿だった。

 

「……キモイ」

 

 見かねたユエがボソリと呟く。シアの優秀なウサミミは、その呟きをしっかりと捉えた。

 

「……ちょっ、キモイって何ですか⁉︎キモイって⁉︎嬉しいんだからしょうがないじゃないですかぁ⁉︎」

 

 シアとユエがいい争ってるとハジメが声を上げた。

 

「戻ってきたな」

「えっ誰がですか?」

「カム達だよ」

「父様達ですか最近会ってないんで楽しみですぅ!」

 

 ハジメ達が待ってると霧をかき分けて数人のハウリア族が、ハジメの課した課題をクリアしたようで魔物の討伐を証明する部位を片手に戻ってきた。よく見れば、その内の一人はカムだ。

 シアは久しぶりに再会した家族に頬を綻ばせる。本格的に修行が始まる前、気持ちを打ち明けたときを最後として会っていなかったのだ。たった十日間とはいえ、文字通り死に物狂いで行った修行は、日々の密度を途轍もなく濃いものとした。そのため、シアの体感的には、もう何ヶ月も会っていないような気がしたのだ。

 早速、父親であるカムに話しかけようとするシア。報告したいことが山ほどあるのだ。しかし、シアは話しかける寸前で、発しようとした言葉を呑み込んだ。カム達が発する雰囲気が何だかおかしいことに気がついたからだ。

 歩み寄ってきたカムはシアを一瞥すると僅かに笑みを浮かべただけで、直ぐに視線をハジメに戻した。

 そして……

 

「ボス。お題の魔物、きっちり狩って来ました」

「ボ、ボス?と、父様?何だか口調が……というか雰囲気が……」

 

 父親の言動に戸惑いの声を発するシアをさらりと無視して、カム達は、この樹海に生息する魔物の中でも上位に位置する魔物の牙やら爪やらをバラバラと取り出した。

 

 

「これ程の討伐数……よくやった」

「有り難き幸せ」

「しゃっ、ボスに褒められた」

「やった〜!」

 

 ハウリア全員がハジメの事をボスと呼んでいる光景を見たシアは、ハジメの方へと向き、声を上げる。

 

「ど、どういうことですか⁉︎ハジメさん!父様達に一体何がっ⁉︎」

「落ち着いて………どういうことも何も……訓練の賜物……です」

「いやいや、何をどうすればこんな有様になるんですかっ⁉︎完全に別人じゃないですかっ!ちょっと、目を逸らさないで下さい!こっち見て!」

「……別に、大して外見は変わってないでしょ?」

「ハジメさんの目は節穴ですかっ⁉︎見て下さい‼︎皆顔付きとかオーラとか纏って変わってますぅ~」

 

 樹海にシアの焦燥に満ちた声が響いた。

 シアは、そんな変わり果てた家族を指差しながらハジメに凄まじい勢いで事情説明を迫っていた。

 

「………訓練の賜物です」

「…つぅ〜もうっ!」

 

 埒があかないと判断したのか、シアの矛先がカム達に向かった。

 

「父様!みんな!一体何があったのです⁉︎まるで別人ではないですか!……正気に戻って下さい!」

縋り付かんばかりのシアにカムは、表情を緩め前の温厚そうな表情に戻った。それに少し安心するシア。

 

 だが……

 

「何を言っているんだ、シア?私達は正気だ。ボスのおかげで目覚めただけだ」

 

「めっ、目覚めた?何ですか、それは?」

 

 嫌な予感に頬を引き攣らせながら尋ねるシアに、カムはにっこりと微笑むと胸を張って自信に満ちた様子で宣言した。

 

「口だけでは大切な者は守れないとな……」

「……」

 

 シアがカムの言葉に唖然としているとハウリアの一人の少年はスタスタとハジメの前まで歩み寄る。

 

「ボス、報告があります」

 

「パルくんどうしました?」

「はい…課題の魔物を追跡中、完全武装した熊人族の集団を発見しました。場所は、大樹へのルート。おそらく我々に対する待ち伏せかと」

 

 ハジメはパルの報告に予想はしてたが、本当に来るのかと知り、溜息と共に呆れたように頭を掻く。

 

「あ~、やっぱり来たか。熊人族は来ると思ってたけど……なるほど、どうせなら掟が変わる前に叩き潰そうって魂胆かな、いい性格してるね。……それで?」

「はっ!宜しければ、奴らの無力化は我らハウリアにお任せ願えませんでしょうか!」

 

「…カムさんはどうしますか?パルくんはこう言ってるけど?」

 

 話を振られたカムは、跪き頷いた。

 

「お任せ頂けるのなら是非」

 

 カムの言葉と同時に他のハウリアもハジメの前に跪ついた。

 

「……任せるぞ」

「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」

 

 そして、ハウリア達はそのまま、熊人族を無力化しに向かった。シアは呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 

 レギン・バントンは熊人族最大の一族であるバントン族の次期族長との噂も高い実力者だ。現長老の一人であるジン・バントンの右腕的な存在でもあり、ジンに心酔にも近い感情を抱いていた。

 レギンは、変わり果てたジンの姿に呆然とし、次いで煮えたぎるような怒りと憎しみを覚えた。腹の底から湧き上がるそれを堪える事もなく、現場にいた長老達に詰め寄り一切の事情を聞く。しかしジンはその人間族の男から貰った回復薬で復帰出来ると知ったが、全てを知ったレギンは、長老衆の忠告を無視して熊人族の全てに事実を伝え、報復へと乗り出した。

しかし……

 

「ぐっ…何だこれは…」

 

 レギンは固まってしまった。その光景を見て…亜人族最強と呼ばれた熊人族が底辺とも言われる兎人族に無力化された光景を…一瞬だった。

 

「遅いぞ」

「ぐっ?!」

 

 後ろに回り込まれて攻撃を許してしまったり……。

 

「武器は破壊させて貰うわ」

「なっ⁉︎」

 

 相手が女だと舐めて、調子に乗っていたら、武器を破壊されたり……。

 

「少し痛いが我慢しろよ」

「ぐあっ?!」

 

 圧倒的な技術の差に片膝を突いてしまったり、と……。

 奇襲しようとしていた相手に逆に奇襲されたこと、亜人族の中でも格下のはずの兎人族の有り得ない強さ、どこからともなく飛来する正確無比な弓や石、認識を狂わせる巧みな気配の断ち方、そして何より高度な連携能力! その全てが激しい動揺を生み、スペックで上回っているはずの熊人族を圧倒した。

 実際、単純に一対一で戦ったのなら兎人族が熊人族に敵うことはまずないだろう。だが、この十日間、ハウリア族は、地獄というのも生ぬるい特訓のおかげでその先天的な差を埋めることに成功していた。

 そして、レギンは族長のカムに刃を向けられていた。

 

「諦めて、撤退しろ熊人族達よ」

「くっ……殺さないのか?」

「殺す?……そんな真似はしない。我等はボスに忠実に仕えしハウリアだ!決して残酷な帝国兵ではないっ‼︎」

 

 カムの言葉にレギンは息を呑むが、訝しむようにカムを見る。

 

「……本当に良いんだな」

「あぁ、我等は無益な争いはしないボスの教えだからな」

「わかった。感謝する」

「後、熊人族よボスからの伝言だ」

 

 カムの言葉にレギンはなんだと言った感じで耳を傾ける。

 

「『お前達の族長にはやり過ぎたと思っている』とのことだ」

「……了解した 全員撤収だ!」

 

 そして、霧の向こうへ熊人族達が消えていった。

 すると、カム達の後ろから声が聞こえた。

 

「上出来です、皆さん」

「ボス! どうでしたか?」

「そうですね、見事な連携でした。よかったですよ」

「「「「「「「「ッ!有り難き幸せ‼︎」」」」」」」」

 

 ハジメがそう褒めた瞬間、ハウリア全員が跪き頭を下げ声を上げていく。ウサ耳もピコピコしていて、褒めて貰えて嬉しそうだとわかった。

 

「……流石ハジメ」

「皆ァ〜!何があったんですかぁ〜⁉︎」

 

 跪くハウリアにシアは声を上げた。

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