FGOで世界最強   作:紫道麻璃也

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フューレンへ

 ブルックの町から中立商業都市フューレンまでは馬車で約六日の距離である。

 日の出前に出発し、日が沈む前に野営の準備に入る。それを繰り返すこと三回目。ハジメ達は、フューレンまで三日の位置まで来ていた。道程はあと半分である。ここまで特に何事もなく順調に進んで来た。ハジメ達は、隊の後方を預かっているのだが実にのどかなものである。

 この日も、特に何もないまま野営の準備となった。冒険者達の食事関係は自腹である。周囲を警戒しながらの食事なので、商隊の人々としては一緒に食べても落ち着かないのだろう。別々に食べるのは暗黙のルールになっているようだ。そして、冒険者達も任務中は酷く簡易な食事で済ませてしまう。ある程度凝った食事を準備すると、それだけで荷物が増えて、いざという時邪魔になるからなのだという。代わりに、町に着いて報酬をもらったら即行で美味いものを腹一杯食うのがセオリーなのだとか。

 そんな話を、この二日の食事の時間にハジメ達は他の冒険者達から聞いていた。ハジメ達が用意した豪勢なシチューモドキをふかふかのパンを浸して食べながら…

 

 

「カッーー、うめぇ!ホント、美味いわぁ~、流石シアちゃん‼︎もう、亜人とか関係ないから俺の嫁にならない?」

「ッ?!ガツッガツッ、ゴクンッ、ぷはっ、てめぇ、何抜け駆けしてやがる!シアちゃんは俺の嫁だぁ‼︎」

「はっ、お前みたいな小汚いブ男が何言ってんだ?身の程を弁えろ。ところでシアちゃん、町についたら一緒に食事でもどう?もちろん、俺のおごりで」

「な、なら、俺はユエちゃんだ!ユエちゃん、俺と食事に‼︎」

「ユエちゃんのスプーン……ハァハァ」

 

 うまうまとシアが調理したシチューモドキを次々と胃に収めていく冒険者達。初日に、彼等が干し肉やカンパンのような携帯食をもそもそ食べている横で、俺が普通に〝宝物庫〟から取り出した食器と材料を使い料理を始め、いい匂いを漂わせる料理に自然と視線が吸い寄せられ、熱々の食事をハフハフしながら食べる頃には、全冒険者が涎を滝のように流しながら血走った目で凝視するという事態になり、物凄く居心地が悪くなったシアが、お裾分けを提案した結果、今の状態になってしまった。

 それからというもの、冒険者達がこぞって食事の時間にはハイエナの如く群がってくるのだが、最初は恐縮していた彼等も次第に調子に乗り始め、ことある毎にシアとユエを軽く口説くようになったのである。

 ぎゃーぎゃー騒ぐ冒険者達に、ハジメは無言で〝威圧〟を発動。熱々のシチューモドキで体の芯まで温まったはずなのに、一瞬で芯まで冷えた冒険者達は、青ざめた表情でガクブルし始める。

 ハジメは、口の中の肉をゴクリと飲み込むと、シチューモドキに向けていた視線をゆっくり上げ囁くように、されどやたら響く声でポツリとこぼした。

 

「………貴方達は静かに食事が出来ないのですか?」

「「「「「調子に乗ってすんませんっしたー」」」」」

 

 見事なハモリとシンクロした土下座で即座に謝罪する冒険者達。彼等のほとんどは、ハジメ達よりも年上でベテランの冒険者なのだが、そのような威厳は皆無だった。ハジメから受ける威圧が半端ないというのもあるが、ブルックの町での所業を知ってるからか逆らおうという者はいない。

 

「シア、食事中に〝威圧〟をしてすみませんね」

「大丈夫ですよ〜。それよりハジメさん〜」

「ん、何?」

 

 シアが頬を染めながら上手に焼けた串焼き肉を、ハジメの口元に差し出す。

 

「ハジメさん、あっ、あ~ん」

 

 冒険者達の視線を感じながら、ハジメは溜息を吐くとシアに向き直り口を開けた。シアの表情が喜色に染まる。

 

「あ~ん」

「……」

 

 差し出された肉をパクッと咥えると無言で咀嚼するハジメにシアは、ほわぁ~んとした表情で見つめている。と、今度は反対側から串焼き肉が差し出された。

 

「……あ~ん」

「……」

 

 再びハジメはパクッと無言で咀嚼した。

 そしてその光景を冒険者達は悔しそうに見ていた。

 それから二日。残す道程があと一日に迫った頃、遂にのどかな旅路を壊す無粋な襲撃者が現れた。

 最初にそれに気がついたのはシアだ。街道沿いの森の方へウサミミを向けピコピコと動かすと、のほほんとした表情を一気に引き締めて警告を発した。

 

「敵襲です!数は百以上!森の中から来ます‼︎」

 

 その警告を聞いて、冒険者達の間に一気に緊張が走る。現在通っている街道は、森に隣接してはいるが其処まで危険な場所ではない。何せ、大陸一の商業都市へのルートなのだ。道中の安全は、それなりに確保されている。なので、魔物に遭遇する話はよく聞くが、せいぜい二十体前後、多くても四十体くらいが限度のはずなのだ。

 

「くそっ、百以上だと⁉︎最近、襲われた話を聞かなかったのは勢力を溜め込んでいたからなのか………ったく、街道の異変くらい調査しとけよ⁉︎」

 

 護衛隊のリーダーであるガリティマは、そう悪態をつきながら苦い表情をする。商隊の護衛は、全部で十五人。ユエとシアを入れても十七人だ。この人数で、商隊を無傷で守りきるのはかなり難しい。単純に物量で押し切られるからだ。

 ガリティマが、いっそ隊の大部分を足止めにして商隊だけでも逃がそうかと考え始めた時、その考えを遮るようにハジメが声を上げた。

 

「迷ってるなら、僕達が殺ろうか?」

「えっ?」

 

 ガリティマは、ハジメの提案の意味を掴みあぐねて、つい間抜けな声で聞き返した。

 

「だから、僕達が殲滅しようか?って言ったんだけど」

「い、いや、それは確かに、このままでは商隊を無傷で守るのは難しいのだが……えっと、出来るのか?このあたりに出現する魔物はそれほど強いわけではないが、数が……」

「数は問題ない。すぐ終わらせる。ユエ、僕がやっても良いけど………どうする?」

 

 ハジメはそう言って、すぐ横に佇むユエの肩にポンッと手を置いた。ユエも、特に気負った様子も見せずに、そんな仕事ベリーイージーですと言わんばかりに、「ん…私に任せて」と返事をした。

 ガリティマは少し逡巡する。一応、彼も噂でユエが類希な魔法の使い手であるという事は聞いている。仮に、言葉通り殲滅できなくても、ハジメ達の態度から相当な数を削ることができるだろう。ならば、戦力を分散する危険を冒して商隊を先に逃がすよりは、堅実な作戦と考えられる。

 

「わかった。初撃はユエちゃんに任せよう。仮に殲滅できなくても数を相当数減らしてくれるなら問題ない。我々の魔法で更に減らし、最後は直接叩けばいい。みな、わかったな‼︎」

「「「「了解!」」」」

 

 冒険者達が、商隊の前に陣取り隊列を組む。緊張感を漂わせながらも、覚悟を決めた良い顔つきだ。食事中などのふざけた雰囲気は微塵もない。道中、ベテラン冒険者としての様々な話を聞いたのだが、こういう姿を見ると、ベテランというに相応しいと頷かされる。商隊の人々は、かなりの規模の魔物の群れと聞いて怯えた様子で、馬車の影から顔を覗かせている。

 ハジメ達は、商隊の馬車の屋根の上に佇んでいた。

 

「ユエ、一、詠唱して。後々、面倒になる」

「……詠唱……詠唱……?」

「……もしかして知らないとか?」

「……大丈夫、問題ない」

「……頼むよ」

「接敵、十秒前ですよ~」

 

 そうこうしている内に、シアから報告が入る。ユエは、右手をスっと森に向けて掲げると、透き通るような声で詠唱を始めた。

 

 「彼の者、常闇に紅き光をもたらさん、古の牢獄を打ち砕き、障碍の尽くを退けん、最強の片割れたるこの力、彼の者と共にありて、天すら呑み込む光となれ、〝雷龍〟」

 

 ユエの詠唱が終わり、魔法のトリガーが引かれた。その瞬間、詠唱の途中から立ち込めた暗雲より雷で出来た龍が現れて、ハジメは自然と口を零しながら呟いた。

 

「東洋の龍……か」

「な、なんだあれ……」

 

 それは誰が呟いた言葉だったのか。目の前に魔物の群れがいるにもかかわらず、誰もが暗示でも掛けられたように天を仰ぎ激しく放電する雷龍の異様を凝視している。護衛隊にいた魔法に精通しているはずの後衛組すら、見たことも聞いたこともない魔法に口をパクパクさせて呆けていた。

 そして、それは何も味方だけのことではない。森の中から獲物を喰らいつくそうと殺意にまみれてやって来た魔物達も、商隊と森の中間あたりの場所で立ち止まり、うねりながら天より自分達を睥睨する巨大な雷龍に、まるで蛇に睨まれたカエルの如く射竦められて硬直していた。

 そして、天よりもたらされる裁きの如く、ユエの細く綺麗な指に合わせて、天すら呑み込むと詠われた雷龍は魔物達へとその顎門を開き襲いかかった。

 

「うわっ⁉︎」

「どわぁあ⁉︎」

「きゃぁあああ‼︎」

 

 雷龍が、凄まじい轟音を迸らせながら大口を開くと、何とその場にいた魔物の尽くが自らその顎門へと飛び込んでいく。そして、一瞬の抵抗も許されずに雷の顎門に滅却され消えていった。

 更には、ユエの指揮に従い、雷龍は魔物達の周囲をとぐろを巻いて包囲する。逃走中の魔物が突然眼前に現れた雷撃の壁に突っ込み塵となった。逃げ場を失くした魔物達の頭上で再び、落雷の轟音を響かせながら雷龍が顎門を開くと、魔物達は、やはり自ら死を選ぶように飛び込んでいき、苦痛を感じる暇もなく、荘厳さすら感じさせる龍の偉容を最後の光景に意識も肉体も一緒くたに塵へと還された。雷龍は、全ての魔物を呑み込むと最後にもう一度、落雷の如き雄叫びを上げて霧散した。

 隊列を組んでいた冒険者達や商隊の人々が、轟音と閃光、そして激震に思わず悲鳴を上げながら身を竦める。ようやく、その身を襲う畏怖にも似た感情と衝撃が過ぎ去り、薄ら目を開けて前方の様子を見ると……そこにはもう何もなかった。あえて言うならとぐろ状に焼け爛れて炭化した大地だけが、先の非現実的な光景が確かに起きた事実であると証明していた。

 

「これは……凄まじいな」

「……ん、やりすぎた」

「ユエ…その〝雷龍〟って魔法。重力魔法と雷魔法の〝雷槌〟の複合魔法のオリジナルか?」

「そうらしいですよ?ハジメさんから聞いた龍の話と例の魔法を組み合わせたものらしいです」

「僕がギルドに篭っている間、そんなことしてたのか……ていうかユエ、さっきの詠唱って……」

「ん……出会いと、未来を詠ってみた」

 

 そんな話をしてると焼け爛れた大地を呆然と見ていた冒険者達が我に返り始めた。そして、猛烈な勢いで振り向きハジメ達を凝視すると一斉に騒ぎ始めた。

 

「おいおいおいおいおい、何なのあれ?何なんですか、あれっ⁉︎」

「へ、変な生き物が……空に、空に……あっ、夢か」

「へへ、俺、町についたら結婚するんだ」

「動揺してるのは分かったから落ち着け。お前には恋人どころか女友達すらいないだろうが」

「魔法だって生きてるんだ!変な生き物になってもおかしくない‼︎だから俺もおかしくない‼︎」

「いや、魔法に生死は関係ないからな⁉︎明らかに異常事態だからな⁉︎」

「なにぃ⁉︎てめぇ、ユエちゃんが異常だとでもいうのか⁉︎アァン⁉︎」

「落ち着けお前等!いいか、『ユエちゃんは女神』これで全ての説明がつく‼︎」

「「「「………なるほど‼︎」」」」

 

 壊れて「女神様万歳!」とか言い出した冒険者達の中で唯一まともなリーダーガリティマは、そんな仲間達を見て盛大に溜息を吐くとハジメ達のもとへやって来た。

 

「はぁ、まずは礼を言う。ユエちゃんのおかげで被害ゼロで切り抜けることが出来た」

「今は、仕事仲間なんです。礼なんて不要ですよ………ね?」

「……ん、仕事しただけ」

「はは、そうか……で、だ。さっきのは何だ?」

 

 ガリティマが困惑を隠せずに尋ねる。

 

「……オリジナル」

「オ、オリジナル?自分で創った魔法ってことか?上級魔法、いや、もしかしたら最上級を⁉︎」

「……創ってない。複合魔法」

「複合魔法?だが、一体、何と何を組み合わせればあんな……」

「他人にタネを明かす訳が無いでしょ?」

「ッ……それは、まぁ、そうだろうな。切り札のタネを簡単に明かす冒険者などいないしな……」

 

 深い溜息と共に、追及を諦めたガリティマ。ベテラン冒険者なだけに暗黙のルールには敏感らしい。

 そしてハジメ達は商隊の人々の畏怖と尊敬の混じった視線をチラチラと受けながら、フューレンへと歩みを再開した。

 

~〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 ユエが、全ての商隊の人々と冒険者達の度肝を抜いた日以降、特に何事もなく、一行は遂に中立商業都市フューレンに到着した。

 フューレンの東門には六つの入場受付があり、そこで持ち込み品のチェックをするそうだ。ハジメ達も、その内の一つの列に並んでいた。順番が来るまでしばらくかかりそうである。

 馬車の屋根で、ユエとシアを侍らせながら寝転んでいたハジメのもとにモットーがやって来た。何やら話があるようだ。若干、呆れ気味にハジメを見上げるモットーに、ハジメは軽く頷いて屋根から飛び降りた。

 

「まったく豪胆ですな。周囲の目が気になりませんかな?」

「嫉妬の視線ですか?とっくに慣れてますよ………そんな事よりモットーさん、何か用ですか?」

 

 モットーの言う周囲の目とは、毎度お馴染みのハジメに対する嫉妬と羨望の目、そしてユエとシアに対する感嘆と嫌らしさを含んだ目だ。それに加えて、今は、シアに対する値踏みするような視線も増えている。流石大都市の玄関口。様々な人間が集まる場所では、ユエもシアも単純な好色の目だけでなく利益も絡んだ注目を受けているようだ。

 そう言って肩を竦めるハジメにモットーは苦笑いだ。

 

「フューレンに入れば更に問題が増えそうですな。やはり、彼女を売る気は……」

 

 さりげなくシアの売買交渉を申し出るモットーだったが、『その話は既に終わりましたよね?』というハジメの無言の主張に、両手を上げて降参のポーズをとる。

 

「そんな話をしに来たわけじゃないですよね?本当の用件を伺いますよ?」

「いえ、似たようなものですよ。売買交渉です。貴方のもつアーティファクト………やはり譲ってはもらえませんか?商会に来ていただければ、公証人立会の下、一生遊んで暮らせるだけの金額をお支払いしますよ。貴方のアーティファクト、特に〝宝物庫〟は、商人にとっては喉から手が出るほど手に入れたいものですからな」

 

 野営中からあまりにしつこい交渉に、ハジメが軽く殺気をぶつけるとようやく商人の勘がマズイ相手と警鐘を鳴らしたのか、すごすごと引き下がった。

 しかし、やはり諦めきれないのだろう。ドンナー共々、何とか引き取ろうと再度、交渉を持ちかけてきたようだ。

 

「何度言われようと、何一つ譲る気はありません」

「しかし、そのアーティファクトは一個人が持つにはあまりに有用過ぎる。その価値を知った者は理性を効かせられないかもしれませんぞ?そうなれば、かなり面倒なことになるでしょなぁ……例えば、彼女達の身にッ⁉︎」

 

 モットーが、少々、狂的な眼差しでチラリと脅すように屋根の上にいるユエとシアに視線を向けた瞬間、ゴチッと額に冷たく固い何かが押し付けられた。壮絶な殺気と共に。周囲は誰も気がついていない。馬車の影ということもあるし、ハジメの殺気がピンポイントで叩きつけられているからだ。

 

「それは、僕に対しての宣戦布告という事ですかモットーさん?」

「ち、違います。どうか……私は、ぐっ……あなたが……あまり隠そうとしておられない……ので、そういうこともある……と。ただ、それだけで……うっ」

「そうですか、ならそういうことにしておきます」

 

 そう言って、ハジメはドンナーをしまい殺気を解き、モットーはその場に崩れ落ちた。大量の汗を流し、肩で息をしている。

 

「別に、貴方が何をしようと貴方の勝手だ。あるいは誰かに言いふらして、その人達がどんな行動を取っても構わない。ただ、敵意をもって僕の前に立ちはだかったなら……生き残れるとは思えません。国だろうが世界だろうが神だろうが関係ない。全て潰します」

「……はぁはぁ、なるほど。割に合わない取引でしたな……」

 

 未だ青ざめた表情ではあるが、気丈に返すモットーは優秀な商人なのだろう。それに道中の商隊員とのやりとりから見ても、かなり慕われているようであった。本来は、ここまで強硬な姿勢を取ることはないのかもしれない。彼を狂わせるほどの魅力が、ハジメのアーティファクトにあったということだろう。

 

「ま、今回は見逃しますし、忠告も受け取っておきます」

「……全く、私も耄碌したものだ。欲に目がくらんで竜の尻を蹴り飛ばすとは……そういえば、ユエ殿のあの魔法も竜を模したものでしたな。詫びと言ってはなんですが、あれが竜であるとは、あまり知られぬがいいでしょう。竜人族は、教会からはよく思われていませんからな。まぁ、竜というより蛇という方が近いので大丈夫でしょうが」

「………覚えておきます」

「ええ、人にも魔物にも成れる半端者。なのに恐ろしく強い。そして、どの神も信仰していなかった不信心者。これだけあれば、教会の権威主義者には面白くない存在というのも頷けるでしょう」

「なるほど………というか、随分ないい様ですけど………不信心者と思われませんか?」

「私が信仰しているのは神であって、権威をかさに着る〝人〟ではありません。人は〝客〟ですな」

 

「……何となく、貴方の事がわかってきました。根っからの商人ですね貴方は。これ見て暴走するのも頷けました」

「とんだ失態を晒しましたが、ご入り用の際は、我が商会を是非ご贔屓に。あなたは普通の冒険者とは違う。特異な人間とは繋がりを持っておきたいので、それなりに勉強させてもらいますよ………それでは、我がユンケル商会は旅に必要なものから日用品まで何でも売ってるよ‼︎………もちろん、男女同士のアレやソレも………」

「………」

「………人の連れに何売りつけようとしてんの」

 

 モットーの商売魂が逞しいとハジメは思い、そしていつの間にか馬車の屋根から降りてきたユエがとある商品を持ってきた。

 

「ハジメ………これ買っていい?」

 

 ユエが持ってきた物は、『胸元が空いた一部の男を殺す(?)セーター』だった………

 

「えっ、ユエさんそういうのがお好み?」

「ヒャー///ユユユユエさん⁉︎そんなハレンチですよぅ⁉︎」

「………………シアの普段着より露出は少ないと思うけど」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

中立商業都市フューレン

 

 高さ二十メートル、長さ二百キロメートルの外壁で囲まれた大陸一の商業都市だ。あらゆる業種が、この都市で日々しのぎを削り合っており、夢を叶え成功を収める者もいれば、あっさり無一文となって悄然と出て行く者も多くいる。観光で訪れる者や取引に訪れる者など出入りの激しさでも大陸一と言えるだろう。

 その巨大さからフューレンは四つのエリアに分かれている。この都市における様々な手続関係の施設が集まっている中央区、娯楽施設が集まった観光区、武器防具はもちろん家具類などを生産、直販している職人区、あらゆる業種の店が並ぶ商業区がそれだ。東西南北にそれぞれ中央区に続くメインストリートがあり、中心部に近いほど信用のある店が多いというのが常識らしい。メインストリートからも中央区からも遠い場所は、かなりアコギでブラックな商売、言い換えれば闇市的な店が多い。その分、時々とんでもない掘り出し物が出たりするので、冒険者や傭兵のような荒事に慣れている者達が、よく出入りしているようだ。

 そんな話を、中央区の一角にある冒険者ギルド:フューレン支部内にあるカフェで軽食を食べながら聞いたハジメ達はモットー率いる商隊と別れると証印を受けた依頼書を持って冒険者ギルドにやって来た。そして、宿を取ろうにも何処にどんな店があるのかさっぱりなので、冒険者ギルドでガイドブックを貰おうとしたところ、案内人の存在を教えられたのだ。

 そして、現在、案内人の女性、リシーと名乗った女性に料金を支払い、軽食を共にしながら都市の基本事項を聞いていたのである。

 

「そういうわけなので、一先ず宿をお取りになりたいのでしたら観光区へ行くことをオススメしますわ。中央区にも宿はありますが、やはり中央区で働く方々の仮眠場所という傾向が強いので、サービスは観光区のそれとは比べ物になりませんから」

「なるほど、だったら素直に観光区の宿にしとこうか………どこがオススメ?」

「お客様のご要望次第ですわ。様々な種類の宿が数多くございますから」

「じゃあ、料理が美味くて、あと風呂があれば文句はない。立地とかは考慮しなくていい。あと、責任の所在が明確な場所がいい」

 

 リシーは、にこやかにハジメの要望を聞く。最初の二つはよく出される要望なのだろう「うんうん」と頷き、早速、脳内でオススメの宿をリストアップしたようだ。しかし、続く言葉で「ん?」と首を傾げた。

 

「あの~、責任の所在ですか?」

「ああ、例えば、何らかの争いごとに巻き込まれたとして、こちらが完全に被害者だった時に、宿内での損害について誰が責任を持つのかということかな。どうせならいい宿に泊りたいけど、そうすると備品なんか高そうだし、あとで賠償額をふっかけられても面倒ですし」

「え~と、そうそう巻き込まれることはないと思いますが……」

 

 困惑するリシーにハジメは苦笑いする。

 

「まぁ、普通はそうなんだけど、連れが目立ちますので………観光区とかはハメ外す人も多そうだし、商人根性逞しい人なんかは強行に出ないとも限らないですし。まぁ、あくまで〝出来れば〟で、難しければ最後の条件はなくてもいいですよ」

 

 ハジメの言葉にリシーは、ハジメの両脇に座り『うまうま』と軽食を食べるユエとシアに視線をやる。そして、納得したように頷いた。確かに、この美少女二人は目立つ。現に今も、周囲の視線をかなり集めている。

 

「しかし、それなら警備が厳重な宿でいいのでは?そういうことに気を使う方も多いですし、いい宿をご紹介できますが……」

「ああ、それでもいいです。ただ、欲望に目が眩んだ人ってのは、時々とんでもないことをするから警備も絶対でない以上は最初から物理的説得を考慮した方が早いときもあります」

「ぶ、物理的説得ですか……なるほど、それで責任の所在なわけですか」

「すみません、変に難しい条件を言って」

「いえ、問題無いですよ。仕事ですから」

 

 それから、他の区について話を聞いていると、ハジメは不意に強い視線を感じた。

 

「………ん?」

 

 あまりに粘着質で気持ち悪い視線にハジメは僅かに眉を顰める。

 ハジメがチラリとその視線の先を辿ると……ブタがいた。体重が軽く百キロは超えていそうな肥えた体に、脂ぎった顔、豚鼻と頭部にちょこんと乗っているベットリした金髪。身なりだけは良いようで、遠目にもわかるいい服を着ている。そのブタ男がユエとシアを欲望に濁った瞳で凝視していた。

 ハジメはリシーがあの豚に対して「げっ」と声を上げたので聞いてみることにした。

 

「あの丸いのは?」

「はいっ………えっと、あの方は貴族の方でして…」

 

 リシーからブタが貴族と聞いてハジメが、「面倒な」と思うと同時に、そのブタ男は重そうな体をゆっさゆっさと揺すりながら真っ直ぐハジメ達の方へ近寄ってくる。どうやら逃げる暇もないようだ。

 ブタ男は、ハジメ達のテーブルのすぐ傍までやって来ると、ニヤついた目でユエとシアをジロジロと見やり、シアの首輪を見て不快そうに目を細めた。そして、今まで一度も目を向けなかったハジメに、さも今気がついたような素振りを見せると、これまた随分と傲慢な態度で一方的な要求をした。

 

「お、おい、ガキ。ひゃ、百万ルタやる。この兎を、わ、渡せ。それとそっちの金髪はわ、私の妾にしてやる。い、一緒に来い」

 

 ハジメはそのブタが言い放った言葉を宣戦布告として受け取った…

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