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ドモリ気味のキィキィ声でそう告げて、ブタ男はユエに触れようとする。彼の中では既にユエは自分のものになっているようだ。その瞬間、その場に凄絶な殺意威圧が降り注いだ。周囲のテーブルにいた者達ですら顔を青ざめさせて椅子からひっくり返り、後退りしながら必死にハジメから距離をとり始めた。
ならば、直接その殺気を受けたブタ男はというと──「ひぃ⁉︎」と情けない悲鳴を上げると尻餅をつき、後退ることも出来ずにその場で股間を濡らし始めた。
ハジメが本気の殺気をぶつければ、おそらく瞬時に意識を刈り取っただろうが、それでは意味がないので十分に手加減している。
「ユエ、シア、場所を変えよう」
ハジメは〝威圧〟を解きギルドを出ようとした直後、大男がハジメ達の進路を塞ぐような位置取りに移動し仁王立ちした。ブタ男とは違う意味で百キロはありそうな巨体である。全身筋肉の塊で腰に長剣を差しており、歴戦の戦士といった風貌だ。
その巨体が目に入ったのか、ブタ男が再びキィキィ声で喚きだした。
「そ、そうだ、レガニド!そのクソガキを殺せ‼︎わ、私を殺そうとしたのだ!嬲り殺せぇ‼︎」
「お、おい、レガニドって〝黒〟のレガニドか?」
「〝暴風〟のレガニド⁉︎何で、あんなヤツの護衛なんて……」
「金払いじゃないか?〝金好き〟のレガニドだろ?」
周囲のヒソヒソ声で大体目の前の男の素性を察したハジメ。
だが、何故かそのレガニドは動こうとしない。
「どうしたレガニド⁉︎何故動かない⁉︎」
「………坊ちゃん、流石にコイツはヤバイですぜ………命がいくらあっても戦いたくねぇ………」
普段ならば金払いが良ければ誰のどんな依頼でも受けるレガニドだが、ハジメを見た瞬間もう『勝てない』ということを理解してしまったのだ。冒険者ランクが〝黒〟という、上から三番目のランクで相当な実力者であったとしてもだ。
「い、いいからやれぇ!お、女は、傷つけるな‼︎私のだぁ!」
「………………降りさせてもらう」
「………何⁉︎」
ハジメはレガニドの護衛を降りる宣言を尻目に、指の先端に魔力を集めブタ男の下へツカツカと歩き出した。ギルド内にいる全員の視線がハジメに集まる。
「ひぃ!く、来るなぁ‼︎わ、私を誰だと思っている!プーム・ミンだぞ⁉︎ミン男爵家に逆らう気かぁ⁉︎」
「そうか、じゃあ、二度と僕達の視界に入るな。直接・間接問わず関わるな……次はないよ」
そうブタ男に言うとハジメは準備していた極小のガンドを頭に撃ち込んだ。
「プギャーー⁉︎」
ブタ男は極小のガンドによる痛みで直ぐに気を失った。
ハジメはそれを確認すると、ユエ達のところに戻ろうとした時だった。
「あの、申し訳ありませんが、あちらで事情聴取にご協力願います」
そうハジメに告げた男性職員の他、三人の職員がハジメ達を囲むように近寄った。もっとも、全員腰が引けていたが。もう数人は、ブタ男の容態を見に、そしてレガニドに事情聴取を行っている。
「そうは言ってもこれは単なる正当防衛だと思うけど、その辺の人達も証人になるよ?特に、近くのテーブルにいた人達は随分と聞き耳を立てていたようだし?」
ハジメがそう言いながら、周囲の男連中を睥睨すると、目があった彼等はこぞって『首がもげるのでは?』と言いたくなるほど激しく何度も頷いた。
「それは分かっていますが、ギルド内で起こされた問題は、当事者双方の言い分を聞いて公正に判断することになっていますので……規則ですから冒険者なら従って頂かないと……」
「当事者双方……ね」
ハジメはチラリとブタ男とレガニドの二人を見る。レガニドはともかくブタ男は当分目を覚ましそうになかった。ハジメは溜息を吐くと突如、凛とした声が掛けられた。
「何をしているのです?これは一体、何事ですか?」
そちらを見てみれば、メガネを掛けた理知的な雰囲気を漂わせる細身の男性が厳しい目でハジメ達を見ていた。
「ドット秘書長!いいところに‼︎これはですね……」
ハジメは秘書長の出現に逃げれないと判断し、肩を落としながら顔を空に見上げた。
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ドット秘書長と呼ばれた男は、片手の中指でクイッとメガネを押し上げると落ち着いた声音でハジメに話しかけた。
「話は大体聞かせてもらいました。証人も大勢いる事ですし嘘はないのでしょうね。やり過ぎな気もしますが……まぁ、死んでいませんし許容範囲としましょう。取り敢えず、彼が目を覚まし一応の話を聞くまでは、フューレンに滞在はしてもらうとして、身元証明と連絡先を伺っておきたいのですが……それまで拒否されたりはしないでしょうね?」
「構いません。まだ文句を言うようなら、むしろ連絡して欲しいくらいですし。今度はもっと丁寧な説得を心掛けますよ」
ハジメはそんな事をいい、ドットに呆れ顔をさせながらステータスプレートを差し出す。
「連絡先は、まだ滞在先が決まってないから……そっちの案内人のリシーさんにでも聞いてください。彼女の薦める宿に泊まるつもりですし」
ハジメに視線を向けられたリシーは、ビクッとした後『………やっぱり私が案内するんですね………』と諦めの表情で肩を落とした。
「ふむ、いいでしょう……〝青〟ですか。戦わず降伏した彼は〝黒〟なんですがね……そちらの方達のステータスプレートはどうしました?」
ハジメのステータスプレートに表示されている冒険者ランクが最低の〝青〟であることに僅かな驚きの表情を見せるドット。そして、ユエとシアのステータスプレートの提出を求める。
「いえ、ユエもシアも……こっちの彼女達もステータスプレートは紛失してな、再発行はまだしていません。ほら、お高いでしょ?」
「しかし、身元は明確にしてもらわないと。記録をとっておき、君達が頻繁にギルド内で問題を起こすようなら、加害者・被害者のどちらかに関係なくブラックリストに載せることになりますからね。よければギルドで立て替えますが?」
ドットのギルド職員らしい提案にハジメは悩み、ブルックの町を出るときに、ブルック支部のキャサリンから手紙を貰ったことを思い出す。ギルド関連で揉めたときにお偉いさんに見せれば役立つかもしれないと言って渡された得体の知れない手紙だ。
「………身分証明の代わりになるかわからないが、知り合いのギルド職員に、困ったらギルドのお偉いさんに渡せと言われてたものがあります」
「?知り合いのギルド職員ですか?……拝見しても?」
ハジメ達の服装の質から、それほど金に困っているように思えなかったので、ステータスプレート再発行を拒むような態度に疑問を覚えるドットだったが、代わりにと渡された手紙を開いて内容を流し読みする内にギョッとした表情を浮かべた。
そして、ハジメ達の顔と手紙の間で視線を何度も彷徨わせながら手紙の内容をくり返し読み込む。目を皿のようにして手紙を読む姿から、どうも手紙の真贋を見極めているようだ。やがて、ドットは手紙を折りたたむと丁寧に便箋に入れ直し、視線を戻した。
「この手紙が本当なら確かな身分証明になりますが……この手紙が差出人本人のものか私一人では少々判断が付きかねます。支部長に確認を取りますから少し別室で待っていてもらえますか?そうお時間は取らせません。十分、十五分くらいで済みます」
「えっマジ?………キャサリンってマジで何者?………まぁ、それくらいなら待たせてもらうとするよ」
「職員に案内させます。では、後ほど」
ドットは傍の職員を呼ぶと別室への案内を言付けて、手紙を持ったまま颯爽とギルドの奥へと消えていった。指名された職員が、ハジメ達を促す。それに従い移動しようと歩き出した。
応接室に案内されてから、きっかり十分後、遂に扉がノックされた。ハジメの返事から一拍置いて扉が開かれる。そこから現れたのは、金髪をオールバックにした鋭い目付きの三十代後半くらいの男性と先ほどのドットだった。
「初めまして、冒険者ギルド、フューレン支部支部長イルワ・チャングだ。ハジメ君、ユエ君、シア君……でいいかな?」
簡潔な自己紹介の後、ハジメ達の名を確認がてらに呼び握手を求める支部長イルワ。ハジメも握手を返しながら返事をする。
「えぇ、構いません。名前は手紙に?」
「その通りだ。先生からの手紙に書いてあったよ。随分と目をかけられている……というより注目されているようだね。将来有望、ただしトラブル体質なので、出来れば目をかけてやって欲しいという旨の内容だったよ」
「トラブル体質……ね。確かにブルックじゃあトラブル続きだったな……肝心の身分証明の方はどうですか?それで問題はないですか?」
「ああ、先生が問題のある人物ではないと書いているからね。あの人の人を見る目は確かだ。わざわざ手紙を持たせるほどだし、この手紙を以て君達の身分証明とさせてもらうよ」
「先生?」
ハジメはイルワの発言に少し気になってると隣に座っているシアは、キャサリンに特に懐いていたことから、その辺りの話が気になるようでおずおずとイルワに訪ねた。
「あの~、キャサリンさんって何者なのでしょう?」
「ん?本人から聞いてないのかい?彼女は、王都のギルド本部でギルドマスターの秘書長をしていたんだよ。その後、ギルド運営に関する教育係になってね。今、各町に派遣されている支部長の五、六割は先生の教え子なんだ。私もその一人で、彼女には頭が上がらなくてね。その美しさと人柄の良さから、当時は、僕らのマドンナ的存在、あるいは憧れのお姉さんのような存在だった。その後、結婚してブルックの町のギルド支部に転勤したんだよ。子供を育てるにも田舎の方がいいって言ってね。彼女の結婚発表は青天の霹靂でね………荒れたよ。ギルドどころか、王都が」
「はぁ~そんなにすごい人だったんですね~」
「……キャサリンすごい」
「只者じゃないとは思っていたが……思いっきり中枢の人間だったとは………まぁ、それはそれとして…本題は何でしょう?このまま帰してくれる訳ではないですよね?」
「…分かってるじゃないか」
ハジメは元々、身分証明のためだけに来たが、手紙一つで身分が証明されると思えなかった、証明されたとは言え何か見返りが必要だとギルド側が要求してくると予測していたが的中した。
「…で、要件は何ですか?」
ハジメが聞くとイルワは、隣に立っていたドットを促して一枚の依頼書を俺達の前に差し出した。
「実は、君達の腕を見込んで、一つ依頼を受けて欲しいと思っている」
「…流石大都市のギルド支部長。いい性格してますよ…それで、内容は?」
「依頼の内容だが、そこに書いてある通り、『行方不明者の捜索』だ。北の山脈地帯の調査依頼を受けた冒険者一行が予定を過ぎても戻ってこなかったため、冒険者の一人の実家が捜索願を出した、というものだ」
イルワの話を要約すると、つまりこういうことだ。
最近、北の山脈地帯で魔物の群れを見たという目撃例が何件か寄せられ、ギルドに調査依頼がなされた。北の山脈地帯は、一つ山を超えるとほとんど未開の地域となっており、大迷宮の魔物程ではないがそれなりに強力な魔物が出没するので高ランクの冒険者がこれを引き受けた。ただ、この冒険者パーティーに本来のメンバー以外の人物がいささか強引に同行を申し込み、紆余曲折あって最終的に臨時パーティーを組むことになった。
この飛び入りが、クデタ伯爵家の三男ウィル・クデタという人物らしい。クデタ伯爵は、家出同然に冒険者になると飛び出していった息子の動向を密かに追っていたそうなのだが、今回の調査依頼に出た後、息子に付けていた連絡員も消息が不明となり、これはただ事ではないと慌てて捜索願を出したそうだ。
「伯爵は、家の力で独自の捜索隊も出しているようだけど手数は多い方がいいと、ギルドにも捜索願を出した。つい、昨日のことだ。最初に調査依頼を引き受けたパーティーはかなりの手練でね、彼等に対処できない何かがあったとすれば、並みの冒険者じゃあ二次災害だ。相応以上の実力者に引き受けてもらわないといけない。だが、生憎とこの依頼を任せられる冒険者は出払っていてね。そこへ、君達がタイミングよく来たものだから、こうして依頼しているというわけだ」
「前提として、僕達にその相応以上の実力ってやつがないとダメですよね?生憎僕は〝青〟ランクですよ?」
「さっき〝黒〟のレガニドを戦わず降伏させたばかりだろう?それに……ライセン大峡谷を余裕で探索出来る者を相応以上と言わずして何と言うのかな?」
「……手紙ですか?だが、彼女にそんな話は…………まさか」
ハジメが真実という答えに辿り着いたと同時に、おずおずと犯人の一人が手を上げた。
「やっぱり、君が犯人だな──シア?」
「え~と、つい話が弾みまして……てへ?」
「……後でお仕置きだね」
「⁉︎ユ、ユエさんもいました‼︎」
「……シア、裏切り者」
「………二人ともお仕置きは何がいいか選ばせてあげるよ」
ハジメのお仕置き宣言に、二人共、平静を装いつつ冷や汗を掻いている。そんな様子を見て苦笑いしながら、イルワは話を続けた。
「生存は絶望的だが、可能性はゼロではない。伯爵は個人的にも友人でね、できる限り早く捜索したいと考えている。どうかな。今は君達しかいないんだ。引き受けてはもらえないだろうか?報酬も色々と用意しよう」
「どうして、そんなに焦ってるんですか?」
ハジメの言葉に、イルワが初めて表情を崩す。後悔を多分に含んだ表情だ。
「彼に……ウィルにあの依頼を薦めたのは私なんだ。調査依頼を引き受けたパーティーにも私が話を通した。異変の調査といっても、確かな実力のあるパーティーが一緒なら問題ないと思った。実害もまだ出ていなかったしね。ウィルは、貴族は肌に合わないと、昔から冒険者に憧れていてね……だが、その資質はなかった。だから、強力な冒険者の傍で、そこそこ危険な場所へ行って、悟って欲しかった。冒険者は無理だと。昔から私には懐いてくれていて……だからこそ、今回の依頼で諦めさせたかったのに……」
「……条件が二つある」
「条件?」
「そんなに難しいことではないです。ユエとシアにステータスプレートを作って欲しい。そして、そこに表記された内容について他言無用を確約すること、更に、ギルド関連に関わらず、貴方の持つコネクションの全てを使って、僕達の要望に応え便宜を図ること。この二つだな」
「それはあまりに……」
「出来ないなら、残念だがこの話はなしだ」
席を立とうとするハジメに、イルワもドットも焦りと苦悩に表情を歪めた。一つ目の条件は特に問題ないが、二つ目に関しては、実質、フューレンのギルド支部長が一人の冒険者の手足になるようなものだ。責任ある立場として、おいそれと許容することはできない。
「………何を要求する気かな?」
「そんなに気負わないでください、無茶な要求はしません………ただ僕達は少々特異な存在で、教会あたりに目をつけられると……いや、これから先、ほぼ確実に目をつけられると思うが、その時、伝手があった方が便利だなっとそう思っただけです。面倒事が起きた時に味方になってくれれば………ほら、指名手配とかされても施設の利用を拒まないとか……」
「………指名手配されるのが確実なのかい?ふむ、個人的にも君達の秘密が気になって来たな。キャサリン先生が気に入っているくらいだから悪い人間ではないと思うが……そう言えば、そちらのシア君は怪力、ユエ君は見たこともない魔法を使ったと報告があったな……その辺りが君達の秘密か…そして、それがいずれ教会に目を付けられる代物だと…大して隠していないことからすれば、最初から事を構えるのは覚悟の上ということか……そうなれば確かにどの町でも動きにくい……故に便宜をと……」
イルワは、しばらく考え込んだあと、意を決したように俺に視線を合わせた。
「犯罪に加担するような倫理にもとる行為・要望には絶対に応えられない。君達が要望を伝える度に詳細を聞かせてもらい、私自身が判断する。だが、できる限り君達の味方になることは約束しよう……これ以上は譲歩できない。どうかな」
「……それで十分です。あと報酬は依頼が達成されてからでいいです。お坊ちゃん自身か遺品あたりでも持って帰ればいいですよね?」
ハジメとしては、ユエとシアのステータスプレートを手に入れるのが一番の目的だ。この世界では何かと提示を求められるステータスプレートは持っていない方が不自然であり、この先、町による度に言い訳するのは面倒なことこの上ない。
問題は、最初にステータスプレートを作成した者に騒がれないようにするにはどうすればいいかという事だったのだが、イルワの存在がその問題を解決した。ただ、条件として口約束をしても、やはり密告の疑いはある。いずれ、ハジメ達の特異性はばれるだろうが、積極的に手を回されるのは好ましくない。なので、ハジメは、ステータスプレートの作成を依頼完了後にした。どんな形であれ、心を苛む出来事に答えをもたらしたハジメを、イルワも悪いようにはしないだろうという打算だ。
イルワもハジメの意図は察しているのだろう。苦笑いしながら、それでも捜索依頼の引き受け手が見つかったことに安堵しているようだ。
「本当に、君達の秘密が気になってきたが……それは、依頼達成後の楽しみにしておこう。ハジメ君の言う通り、どんな形であれ、ウィル達の痕跡を見つけてもらいたい……ハジメ君、ユエ君、シア君……宜しく頼む」
イルワは最後に真剣な眼差しでハジメ達を見つめた後、ゆっくり頭を下げた。大都市のギルド支部長が一冒険者に頭を下げる。そうそう出来ることではない。
そんなイルワの様子を見て、ハジメ達は立ち上がると気負いなく実に軽い調子で答えた。
「……ん」
「はいっ」
「任せろ」
その後、支度金や北の山脈地帯の麓にある湖畔の町への紹介状、件の冒険者達が引き受けた調査依頼の資料を受け取った。
「ちなみに似顔絵はこれだ」
「………………………本気で捜す気あるんですか⁉︎こんな子どもが描いたようなわかりづらい似顔絵で⁉︎………あぁっ!僕がかわりに描いてやる‼︎特徴は⁉︎」
「えっと、二十歳くらいのイケメンで………って、めっちゃ絵上手いな君⁉︎」
と一騒動を終えハジメ達は部屋を出たのだった。
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バタンと扉が締まる。その扉をしばらく見つめていたイルワは、「ふぅ~」と大きく息を吐いた。部屋にいる間、一言も話さなかったドットが気づかわしげにイルワに声をかける。
「支部長……よかったのですか?あのような報酬を……」
「……ウィルの命がかかっている。彼ら以外に頼めるものはいなかった。仕方ないよ。それに、彼等に力を貸すか否かは私の判断でいいと彼等も承諾しただろう。問題ないさ。それより、彼らの秘密……」
「ステータスプレートに表示される〝不都合〟ですか……」
「ふむ、ドット君は知っているかい?ハイリヒ王国の勇者一行は皆、とんでもないステータスらしいよ?」
ドットは、イルワの突然の話に細めの目を見開いた。
「支部長は、彼が召喚された者…〝神の使徒〟の一人であると?しかし、彼はまるで教会と敵対するような口ぶりでしたし、勇者一行は聖教教会が管理しているでしょう?」
「ああ、その通りだよ。でもね……およそ四ヶ月前、その内の一人がオルクスで亡くなったらしいんだよ。奈落の底に魔物と一緒に落ちたってねそれも、戦闘職と思われる職と非戦闘職でありながら勇者一行の中でも相当な実力者だったらしい」
「……まさか、その者が生きていたと?四ヶ月前と言えば、勇者一行もまだまだ未熟だったはずでしょう?オルクスの底がどうなっているのかは知りませんが、とても生き残るなんて……」
ドットは信じられないと首を振りながら、イルワの推測を否定する。しかし、イルワはどこか面白そうな表情で少し懐かしく感じながら再びハジメ達が出て行った扉を見つめた。
「そうだね。でも、もし、そうなら……なぜ、彼は仲間と合流せず、旅なんてしているのだろうね? 彼は一体、闇の底で何を見て、何を得たのだろうね?」
「何を……ですか……?」
「ああ、何であれ、きっとそれは、教会と敵対することも辞さないという決意をさせるに足るものだ。それは取りも直さず、世界と敵対する覚悟があるということだよ」
「世界と……」
「私としては、そんな特異な人間とは是非とも繋がりを持っておきたいね。例え、彼が教会や王国から追われる身となっても、ね。もしかすると、先生もその辺りを察して、わざわざ手紙なんて持たせたのかもしれないよ」
「支部長……どうか引き際は見誤らないで下さいよ?」
「……もちろんだとも」