月が輝きを薄れさせ、東の空がしらみ始めた頃、ハジメ、ユエ、シアの三人はすっかり旅支度を終えて、〝水妖精の宿〟の直ぐ外にいた。手には、移動しながら食べられるようにと握り飯が入った包みを持っている。極めて早い時間でありながら、嫌な顔一つせず、朝食にとフォスが用意してくれたものだ。流石は高級宿、粋な計らいだと感心しながらハジメ達は遠慮なく感謝と共に受け取った。
朝靄が立ち込める中、ハジメ達はウルの町の北門に向かう。そこから北の山脈地帯に続く街道が伸びているのだ。馬で丸一日くらいだというから、魔力駆動二輪で飛ばせば三、四時間くらいで着くだろう。
ウィル・クデタを含む冒険者達が、北の山脈地帯に調査に入り消息を絶ってから既に五日。生存は絶望的だ。ハジメも、ウィル達が生きている可能性は低いと考えているが、万一ということもある。生きて帰せば、イルワのハジメ達に対する心象は限りなく良くなるだろうから、出来るだけ急いで捜索するつもりだ。幸いなことに天気は快晴。搜索にはもってこいの日だ。
幾つかの建物から人が活動し始める音が響く中、表通りを北に進み、やがて北門が見えてきた。と、ハジメはその北門の傍に複数の人の気配を感じ目を細める。特に動くわけでもなくたむろしているようだ。
朝靄をかきわけ見えたその姿は……愛子と優花達生徒六人の姿だった。
「……何となく想像つきますけど……………何してるんですか?」
ハジメが半眼になって愛子に視線を向ける。
「私達も行きます。人数は多いほうがいいです」
「………一緒には行けませんよ」
「な、なぜですか?」
「単純に足の速さが違うんです。先生達に合わせて進んでなんていられないんですよ」
見れば、愛子達の背後には馬が人数分用意されていた。
「南雲………もしかして馬より速いの?」
「………生活してるうちに速くなった」
『………………えぇっ』
「それでも!南雲君、先生は先生として、どうしても南雲君からもっと詳しい話を聞かなければなりません。だから、きちんと話す時間を貰えるまでは離れませんし、逃げれば追いかけます。南雲君にとって、それは面倒なことではないですか?移動時間とか捜索の合間の時間で構いませんから、時間を貰えませんか?そうすれば、南雲君の言う通り、この町でお別れできますよ?」
「………わかりました、話せることなんて殆どないですが……」
「構いません。ちゃんと南雲君の口から聞いておきたいだけですから」
「先生はブレませんね。安心します」
「当然です!」
ハジメが折れたことに喜色を浮かべ、『むんっ!』と胸を張る愛子。どうやら交渉が上手くいったようだと、優花達もホッとした様子だ。
「……ハジメ、連れて行くの?」
「この人は、どこまでも〝教師〟なんだ。生徒の事に関しては妥協しない。放置した方が、後で絶対面倒になる」
ハジメはそう言いながら宝物庫から魔力駆動四輪を取り出した。
ポンポンと大型の物体を消したり出現させたりするハジメに、おそらくアーティファクトを使っているのだろうとは察しつつも、やはり驚かずにはいられない愛子達だった。
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前方に山脈地帯を見据えて真っ直ぐに伸びた道を、魔力駆動四輪が爆走する。サスペンションがあるので、街道とは比べるべくもない酷い道ではあるが、大抵の衝撃は殺してくれる上、二輪と同じく錬成による整地機能が付いているので、車内は当然、車体後部についている硬い金属製の荷台に乗り込むことになった男子生徒も特に不自由さは感じていないようだった。
北の山脈地帯は標高千メートルから八千メートル級の山々が連なり、そこはどういうわけか生えている木々や植物、環境がバラバラという不思議な場所だ。日本の秋の山のような色彩が見られたかと思ったら、次のエリアでは真夏の木のように青々とした葉を広げていたり、逆に枯れ木ばかりという場所もある。
また、普段見えている山脈を越えても、その向こう側には更に山脈が広がっており、北へ北へと幾重にも重なっている。現在確認されているのは四つ目の山脈までで、その向こうは完全に未知の領域である。何処まで続いているのかと、とある冒険者が五つ目の山脈越えを狙ったことがあるそうだが、山を一つ越えるたびに生息する魔物が強力になっていくので、結局、成功はしなかった。
ちなみに、第一の山脈で最も標高が高いのは、かの【神山】である。今回、ハジメ達が訪れた場所は、神山から東に千六百キロメートルほど離れた場所だ。紅や黄といった色鮮やかな葉をつけた木々が目を楽しませ、知識あるものが目を凝らせば、そこかしこに香辛料の素材や山菜を発見することができる。ウルの町が潤うはずで、実に実りの多い山である。
麓に四輪を止めると、しばらく見事な色彩を見せる自然の芸術に見蕩れた。女性陣の誰かが「ほぅ」と溜息を吐く。先程まで、生徒の膝枕で爆睡するという失態を犯し、真っ赤になって謝罪していた愛子も、鮮やかな景色を前に、彼女的黒歴史を頭の奥へ追いやることに成功したようである。
「これは、骨が折れるな」
ハジメは、もっとこの光景をゆっくり鑑賞したいという気持ちを押さえて、四輪を〝宝物庫〟に戻すと、代わりにとある物を取り出した。
それは、全長三十センチ程の鳥型の模型と小さな石が嵌め込まれた指輪だった。模型の方は灰色で頭部にあたる部分には水晶が埋め込まれている。
ハジメは、指輪を自らの指に嵌めると、同型の模型を四機取り出し、おもむろに空中へ放り投げた。そのまま、重力に引かれ地に落ちるかと思われた偽物の鳥達は、しかし、その場でふわりと浮く。愛子達が「えっ」と声を上げた。
四機の鳥は、その場で少し旋回すると山の方へ滑るように飛んでいった。
「あの、あれは……」
「あ〜アレは僕が作った重力制御式無人偵察機の〝オルニス〟──わかりやすくすれば、ドローンみたいな物だよ」
「ド、ドローン……しかも自作の………そういえば南雲って錬成師だったわね」
まさか異世界でドローンが見られるとは思っていなかった愛子達はしばらくの間、命令待ちなのか頭上を旋回しているオルニスを見ていた。
「………ミレディ?」
「譲ってもらった鉱石で作ったんだ」
「………カワイイ」
「いいものもらいましたねえ!」
「だからお礼に一体サンプルとしてミレディに送ってある」
「ねぇハジメっち〜ドローンから送られてくる映像はどうしてるの〜?」
「それは………この魔眼石に送られてくるんだよ」
そう言いながらハジメは懐から出した一つの鉱石──魔眼石を見せる。
「へぇ〜コレで見てるんだ〜」
「………本当は眼球をくり抜いて付けた方が脳に直接送られて見やすくなるんだけどね………」
『やってないよね(な)⁉︎』
「………………もしやったとしても、一回体を爆散させて再構築すれば眼球も戻るし」
『爆散⁉︎再構築⁉︎』
今回は、捜索範囲が広いので上空から確認出来る範囲だけでも無人偵察機で確認しておくのは有用だろうと取り出したのである。既に彼方へと飛んでいった無人偵察機を遠くに見つめながら、愛子達は、もういちいちハジメのすることに驚くのは止めようと、おそらく叶うことのない誓いを立てるのだった。
ハジメ達は、冒険者達も通ったであろう山道を進む。魔物の目撃情報があったのは、山道の中腹より少し上、六合目から七号目の辺りだ。ならば、ウィル達冒険者パーティーも、その辺りを調査したはずである。そう考えて、ハジメは無人偵察機をその辺りに先行させながら、ハイペースで山道を進んだ。
おおよそ一時間と少しくらいで六合目に到着したハジメ達は、一度そこで立ち止まった。理由は、そろそろ辺りに痕跡がないか調べる必要があったのと……
「はぁはぁ、きゅ、休憩ですか……けほっ、はぁはぁ」
「ぜぇー、ぜぇー、大丈夫ですか……愛ちゃん先生、ぜぇーぜぇー」
「うぇっぷ、もう休んでいいのか?はぁはぁ、いいよな?俺は、休むぞ?」
「……ひゅぅーひゅぅーハジメっち、ヤバい…」
「ゲホゲホ、南雲達は化け物か……」
「……南雲は、南雲で、いいじゃない」
予想以上に愛子達の体力がなく、休む必要があったからである。もちろん、本来、愛子達のステータスは、この世界の一般人の数倍を誇るので、六合目までの登山ごときでここまで疲弊することはない。ただ、ハジメ達の移動速度が速すぎて、殆ど全力疾走しながらの登山となり、気がつけば体力を消耗しきってフラフラになっていたのである。
四つん這いになり必死に息を整える愛子達に、ハジメは若干困った視線を向けつつも、どちらにしろ、詳しく周囲を探る必要があるので休憩がてら近くの川に行くことにした。ここに来るまでに、無人偵察機からの情報で位置は把握している。
「……失礼」
未だ荒い呼吸を繰り返す愛子達を見兼ねてハジメは優花と妙子と奈々と愛子を軽々しく持ち上げた。
「「「きゃっ⁉︎」」」
「なっ南雲君?!」
「運びますよ、休んでてください」
「………………南雲」
「ありがと、南雲」
「ありがと〜ハジメっち〜」
「あっありがとうございます」
「じゃあ、行くぞ」
ハジメが出発を促すと男子生徒三人が待ったを掛けた。
「南雲!俺たちは?!」
「そうだっ!」
「………男だろ?自力で頑張ってよ。後、僕は流石に全員を持つことはできない」
「「「クソォーー!」」」
嘆いている男子生徒達を無視してハジメ達は先に川へと向かった。ウィル達も、休憩がてらに寄った可能性は高い。
そして、ハジメ達は川に着くと、ユエ達は男子共を待つ時間に休憩を、ハジメは川の上流にオルニスを飛ばし痕跡を探していた。
「やっぱりオルニスは七機が限界だな、改良の余地はまだあるな……」
しばらくするとフラフラしながら男子生徒達も合流した。そしてハジメの方にも進展があった。
「……これは」
「ん……何か見つけた?」
ハジメが魔眼石を見ていると茫洋とした目をして呟いたのをユエが聞き、確認する。その様子に、愛子達も何事かと目を瞬かせた。
「川の上流に……これは盾か?それに、鞄も……まだ新しいみたいだ。当たりかもしれない。ユエ、シア、行くぞ」
「ん……」
「はいです!」
ハジメ達が、阿吽の呼吸で立ち上がり出発の準備を始めた。愛子達は本音で言えばまだまだ休んでいたかったが、無理を言って付いて来た上、何か手がかりを見つけた様子となれば動かないわけには行かない。疲労が抜けきらない重い腰を上げて、再び猛スピードで上流へと登っていくハジメ達に必死になって追随した。
ハジメ達が到着した場所には、ハジメが無人偵察機で確認した通り、小ぶりな金属製のラウンドシールドと鞄が散乱していた。ただし、ラウンドシールドは、ひしゃげて曲がっており、鞄の紐は半ばで引きちぎられた状態で、だ。
「これは……相当の力を持った魔物の仕業か?」
ハジメ達は、注意深く周囲を見渡す。すると、近くの木の皮が禿げているのを発見した。高さは大体二メートル位の位置だ。何かが擦れた拍子に皮が剥がれた、そんな風に見える。高さからして人間の仕業ではないだろう。ハジメは、シアに全力の探知を指示しながら、自らも感知系の能力を全開にして、傷のある木の向こう側へと踏み込んでいった。
先へ進むと、次々と争いの形跡が発見できた。半ばで立ち折れた木や枝。踏みしめられた草木、更には、折れた剣や血が飛び散った痕もあった。それらを発見する度に、特に愛子達の表情が強ばっていく。しばらく、争いの形跡を追っていくと、シアが前方に何か光るものを発見した。
「ハジメさん、これ、ペンダントでしょうか?」
「ん?ああ……遺留品かもな。確かめよう」
シアからペンダントを受け取り汚れを落とすと、どうやら唯のペンダントではなくロケットのようだと気がつく。留め金を外して中を見ると、女性の写真が入っていた。おそらく、誰かの恋人か妻と言ったところか。大した手がかりではないが、古びた様子はないので最近のもの……冒険者一行の誰かのものかもしれない。なので、一応回収しておく。
その後も、遺品と呼ぶべきものが散見され、身元特定に繋がりそうなものだけは回収していく。どれくらい探索したのか、既に日はだいぶ傾き、そろそろ野営の準備に入らねばならない時間に差し掛かっていた。
「(…未だ、野生の動物以外で生命反応はない…ウィル達を襲った魔物との遭遇も警戒していたが、それ以外の魔物すら感知されなかった…位置的には八合目と九合目の間と言ったところか…山は越えていないとは言え、普通なら、弱い魔物の一匹や二匹出てもおかしくないはず、逆に不気味だな)……ッ!これは?!」
しばらく考えてると、再び、無人偵察機が異常のあった場所を探し当てた。東に三百メートル程いったところに大規模な破壊の後があったのだ。ハジメは全員を促してその場所に急行した。
「おいおい、何があってこうなったんだよコレ……」
そこは大きな川だった。上流に小さい滝が見え、水量が多く流れもそれなりに激しい。本来は真っ直ぐ麓に向かって流れていたのであろうが、現在、その川は途中で大きく抉れており、小さな支流が出来ていた。まるで、横合いからレーザーか何かに抉り飛ばされたようだ。
そのような印象を持ったのは、抉れた部分が直線的であったとのと、周囲の木々や地面が焦げていたからである。更に、何か大きな衝撃を受けたように、何本もの木が半ばからへし折られて、何十メートルも遠くに横倒しになっていた。川辺のぬかるんだ場所には、三十センチ以上ある大きな足跡も残されている。
「ここで本格的な戦闘があったようだな……この足跡、大型で二足歩行する魔物……確か、山二つ向こうにはブルタールって魔物がいる。だが、この抉れた地面は……間違い無くこの地面はブルタールの仕業じゃない…それ以上の奴の仕業が妥当だな」
ハジメは、無人偵察機を上流に飛ばしながら自分達は下流へ向かうことにした。ブルタールの足跡が川縁にあるということは、川の中にウィル達が逃げ込んだ可能性が高いということだ。ならば、きっと体力的に厳しい状況にあった彼等は流された可能性が高いと考えたのだ。
ハジメの推測に他の者も賛同し、今度は下流へ向かって川辺を下っていった。
すると、今度は、先ほどのものとは比べ物にならないくらい立派な滝に出くわした。ハジメ達は、軽快に滝横の崖をひょいひょいと降りていき滝壺付近に着地する。滝の傍特有の清涼な風が一日中行っていた探索に疲れた心身を優しく癒してくれる。と、そこでハジメの〝気配感知〟に反応が出た。
「ユエっ!」
「!……ハジメ?」
ユエが直ぐ様反応し問いかける。ハジメはしばらく、目を閉じて集中した。そして、おもむろに目を開けると、驚いたような声を上げた。
「気配感知に掛かった。感じから言って人間だと思う。場所は……あの滝壺の奥だ」
「生きてる人がいるってことですか!」
シアの驚きを含んだ確認の言葉にハジメは頷いた。人数を問うユエに「一人だ」と答える。愛子達も一様に驚いているようだ。それも当然だろう。生存の可能性はゼロではないとは言え、実際には期待などしていなかった。ウィル達が消息を絶ってから五日は経っているのである。もし生きているのが彼等のうちの一人なら奇跡だ。
「ユエ、頼む」
「……ん」
ハジメは滝壺を見ながら、ユエに声をかける。ユエは、それだけで意図を察し、魔法のトリガーと共に右手を振り払った。
「〝波城〟 〝風壁〟」
すると、滝と滝壺の水が、紅海におけるモーセの伝説のように真っ二つに割れ始め、更に、飛び散る水滴は風の壁によって完璧に払われた。
詠唱をせず陣もなしに、二つの属性の魔法を同時に、応用して行使したことに愛子達は、もう何度目かわからない驚愕に口をポカンと開けた。きっと、かつてのヘブライ人達も同じような顔をしていたに違いない。
魔力も無限ではないので、ハジメは、愛子達を促して滝壺から奥へ続く洞窟らしき場所へ踏み込んだ。洞窟は入って直ぐに上方へ曲がっており、そこを抜けるとそれなりの広さがある空洞が出来ていた。天井からは水と光が降り注いでおり、落ちた水は下方の水溜りに流れ込んでいる。溢れないことから、きっと奥へと続いているのだろう。
その空間の一番奥に横倒しになっている男を発見した。傍に寄って確認すると、二十歳くらいの青年とわかった。端正で育ちが良さそうな顔立ちだが、今は青ざめて死人のような顔色をしている。
「微かに息をしてるが、これは起きるのに時間が掛かるな……(しかし、早く誰だか知りたいし)………やる、か」
気づかわしげに愛子が容態を見ているが、ハジメは手っ取り早く青年の正体を確認したいので、眠る青年の額に弱めの強化魔術を掛けた指でデコピンをする。
「ぐわっ⁉︎」
あまりの痛みに悲鳴を上げて目を覚まし、額を両手で抑えながらのたうつ青年。愛子達が、あまりに強力なデコピンと容赦のなさに戦慄の表情を浮かべた。ハジメは、そんな愛子達をスルーして、涙目になっている青年に近づくと端的に名前を確認する。
「貴方が、ウィル・クデタですか?クデタ伯爵家三男の」
「いっっ、えっ、君達は一体、どうしてここに……」
状況を把握出来ていないようで目を白黒させる青年に、ハジメは再びデコピンの形を作って額にゆっくり照準を定めていく。
「デコピンはすまないが、質問に答えてくれ」
「えっ、えっ⁉︎」
「貴方は、ウィル・クデタか?」
「えっと、うわっ、はい!そうです!私がウィル・クデタです‼︎はい‼︎」
「…僕はハジメだ。南雲ハジメ。フューレンのギルド支部長イルワ・チャングからの依頼で捜索に来た。貴方が生きていてよかった」
「イルワさんが⁉︎そうですか。あの人が……また借りができてしまったようだ……あの、あなたも有難うございます。イルワさんから依頼を受けるなんてよほどの凄腕なのですね」
ハジメはウィルの生存を確認ができて少し頬が緩んだが、すぐに平常に戻り問い掛けた。
「すまないが、ウィル、貴方に何があったか教えて欲しい」
「あっはいっ 実は………」
要約するとウィル達は五日前、ハジメ達と同じ山道に入り五合目の少し上辺りで、突然、十体のブルタールと遭遇したらしい。流石に、その数のブルタールと遭遇戦は勘弁だと、ウィル達は撤退に移ったらしいのだが、襲い来るブルタールを捌いているうちに数がどんどん増えていき、気がつけば六合目の例の川にいた。そこで、ブルタールの群れに囲まれ、包囲網を脱出するために、盾役と軽戦士の二人が犠牲になったのだという。それから、追い立てられながら大きな川に出たところで、前方に絶望が現れた。
漆黒の竜だったらしい。その黒竜は、ウィル達が川沿いに出てくるや否や、特大のブレスを吐き、その攻撃でウィルは吹き飛ばされ川に転落。流されながら見た限りでは、そのブレスで一人が跡形もなく消え去り、残り二人も後門のブルタール、前門の竜に挟撃されていたという。
ウィルは、流されるまま滝壺に落ち、偶然見つけた洞窟に進み空洞に身を隠していたらしい。
ウィルは、話している内に、感情が高ぶったようですすり泣きを始めた。無理を言って同行したのに、冒険者のノウハウを嫌な顔一つせず教えてくれた面倒見のいい先輩冒険者達、そんな彼等の安否を確認することもせず、恐怖に震えてただ助けが来るのを待つことしか出来なかった情けない自分、救助が来たことで仲間が死んだのに安堵している最低な自分、様々な思いが駆け巡り涙となって溢れ出す。
「わ、わだじはさいでいだ。うぅ、みんなじんでしまったのに、何のやぐにもただない、ひっく、わたじだけ生き残っで……それを、ぐす……よろごんでる……わたじはっ‼︎」
洞窟の中にウィルの慟哭が木霊する。誰も何も言えなかった。顔をぐしゃぐしゃにして、自分を責めるウィルに、どう声をかければいいのか見当がつかなかった。生徒達は悲痛そうな表情でウィルを見つめ、愛子はウィルの背中を優しくさする。ユエは何時もの無表情、シアは困ったような表情だ。
「……」
が、ウィルが言葉に詰まった瞬間、ハジメは、ツカツカとウィルに歩み寄ると、ウィルの前でしゃがみ目線を合わせた。そして、息がつまり苦しそうなウィルに、意外なほど透き通った声で語りかけた。
「生きたいと願うことの何が悪い?生き残ったことを喜んで何が悪い?その願いも感情も当然にして自然にして必然だ。お前は人間として、極めて正しい」
「だ、だが……私は……」
「それでも、死んだ奴らのことが気になるなら……それを背負って、生き続け守りたい者を生きたい目的を見つけろ。これから先も足掻いて足掻いて死ぬ気で生き続けろ。そうすりゃ、いつかは……今日、生き残った意味があったって、そう思える日が来るだろう」
「……生き続ける」
涙を流しながらも、ハジメの言葉を呆然と繰り返すウィル。ハジメは、ウィルを乱暴に放り出し、自分に向けて「何やってんだ」とツッコミを入れる。
「すみませんウィル…少し熱が入った」
「いえっ…大丈夫です…」
ハジメは軽く自己嫌悪に陥っていると、ハジメのもとにトコトコと傍に寄って来たユエ、そして、シアも励ましに来た。
「……大丈夫、ハジメは間違ってない」
「……ユエ、ありがとな心配してくれて」
「…ん」
「私もハジメさんの意見に賛同ですっ」
「シアもありがとな」
「えへへ〜」
「……よし、ウィルの生存の確認が出来たし下山する…ッ?!」
ハジメは全員を促して下山はしようとしたが…ハジメは突如、強大な魔物の様な存在が近くにいることを感知した。
それは、再度、ユエの魔法で滝壺から出てきた一行を熱烈に歓迎するものがいたからだ。
「グゥルルルル」
「あれか…漆黒の竜って奴は……」
低い唸り声を上げ、漆黒の鱗で全身を覆い、翼をはためかせながら空中より金の眼で睥睨する……それはまさしく〝竜〟だった……