ハジメ達は魔力駆動四輪で、行きよりもなお速い速度で帰り道を爆走し、整地機能が追いつかないために、荷台の男子生徒にはミキサーの如きシェイクを与えていた。
とその時、ウルの町と北の山脈地帯のちょうど中間辺りの場所で完全武装した護衛隊の騎士達が猛然と馬を走らせている姿を発見した。
「アレは……」
ハジメの〝遠見〟には、先頭を鬼の形相で突っ走るデビッドやその横を焦燥感の隠せていない表情で併走するチェイスの表情がはっきりと見えていた。
しばらく走り、彼等も前方から爆走してくる黒い物体を発見したのかにわかに騒がしくなる。彼等から見ればどう見ても魔物にしか見えないだろうから当然だろう。武器を取り出し、隊列が横隊へと組み変わる。
「流石は超重要人物の護衛隊……早い対応だ」
別に、攻撃されたところで、ハジメとしては突っ切ればいいので問題なかったが、愛子はそんな風に思える訳もなく、青い顔で荷台の端にしがみつく男子生徒達が攻撃に晒されたら一大事だと、サンルーフから顔を出して必死に両手を振り、大声を出してデビッドに自分の存在を主張する。
いよいよ以て、魔法を発動しようとしていたデビッドは、高速で向かってくる黒い物体の上からニョッキリ生えている人らしきものに目を細めた。普通なら、それでも問答無用で先制攻撃を仕掛けるところだが、デビッドの中の何かがストップをかける。
手を水平に伸ばし、攻撃中断の合図を部下達に送る。怪訝そうな部下達だったが、やがて近づいてきた黒い物体の上部から生えている人型から聞き覚えのある声が響いてきて目を丸くする。デビッドは既に、信じられないという表情で「………愛子?」と呟いている。
一瞬、『まさか愛子の下半身が魔物に食われているのでは⁉︎』と顔を青ざめさせるデビッド達だったが、当の愛子が元気に手をブンブンと振り、「デビッドさーん、私ですー!攻撃しないでくださーい‼︎」と張りのある声が聞こえてくると、どうも危惧していた事態ではないようだと悟り、黒い物体には疑問を覚えるものの愛しい人との再会に喜びをあらわにした。
シチュエーションに酔っているのか恍惚とした表情で「さぁ!飛び込んでおいで‼︎」とでも言うように、両手を大きく広げている。隣ではチェイス達も、「自分の胸に!」と両手を広げていた。
「……………」
騎士達が、恍惚とした表情で両手を広げて待ち構えている姿に、ハジメは魔力を思いっきり注ぎ込み、更に加速した。
距離的に明らかに減速が必要な距離で、更に加速した黒い物体に騎士達がギョッとし、慌てて進路上から退避する。
ハジメの魔力駆動四輪は、笑顔で手を広げるデビッド達の横を問答無用に素通りした。愛子の「なんでぇ~⁉︎」という悲鳴じみた声がドップラーしながら後方へと流れていき、デビッド達は笑顔のまま固まった。そして、次の瞬間には、「愛子ぉ~‼︎」と、まるで恋人と無理やり引き裂かれたかのような悲鳴を上げて、猛然と四輪を追いかけ始めるのだった。
「南雲君!どうして、あんな危ないことをしたんですか⁉︎」
愛子がプンスカと怒りながら、車中に戻り、ハジメに猛然と抗議した。
「……止まれば事情説明を求められるに決まってます。でもそんな時間はありません。町で事情説明をするのでここで話しても二度手間になりますよ?」
「うっ、た、確かにそうです……」
若干、納得いってなさそうだが、確かに、勝手に抜け出てきた事やハジメの四輪の事も含めれば多大な時間が浪費されるのは目に見えているので口をつぐむ愛子。ハジメの隣の座席に返り咲いていたユエが、耳元に顔を寄せ、そっと聞いた。
「……本音は?」
「………笑顔の騎士達がちょっと気持ち悪かった」
「……ん、同感」
そして、ハジメ達はウルの町に到着した。
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ウルの町。北に山脈地帯、西にウルディア湖を持つ資源豊富なこの町は、現在、つい昨夜までは存在しなかった〝外壁〟に囲まれて、異様な雰囲気に包まれていた。
この〝外壁〟はハジメが即行で作ったものだ。魔力駆動二輪で、整地ではなく〝外壁〟を錬成しながら町の外周を走行して作成したのである。
もっとも、壁の高さは、ハジメの錬成範囲が半径四メートル位で限界なので、それほど高くはない。大型の魔物なら、よじ登ることは容易だろう。一応、万一に備えてないよりはマシだろう程度の気持ちで作成したので問題はない。そもそも、壁に取り付かせるつもりなどハジメにはないのだから。
町の住人達には、既に数万単位の魔物の大群が迫っている事が伝えられている。魔物の移動速度を考えると、夕方になる前くらいには先陣が到着するだろうと。
当然、住人はパニックになった。町長を始めとする町の顔役たちに罵詈雑言を浴びせる者、泣いて崩れ落ちる者、隣にいる者と抱きしめ合う者、我先にと逃げ出そうとした者同士でぶつかり、罵り合って喧嘩を始める者。明日には、故郷が滅び、留まれば自分達の命も奪われると知って冷静でいられるものなどそうはいない。彼等の行動も仕方のないことだ。
だが、そんな彼等に心を取り戻させた者がいた………愛子だ。ようやく町に戻り、事情説明を受けた護衛騎士達を従えて、高台から声を張り上げる〝豊穣の女神〟。恐れるものなどないと言わんばかりの凛とした姿と、元から高かった知名度により、人々は一先ずの冷静さを取り戻していた。
「先生……勇者より勇者してますね」
ハジメはそう呟いて壁の上で先生の行動を見ながら感心していた。
するとそこへ愛子と優花達、ティオ、ウィル、デビッド達数人の護衛騎士がやって来た。先生達の接近に気がついているだろうに、振り返らないハジメにデビッド達が眉を釣り上げるが、それより早く愛子が声をかける。
「南雲君、準備はどうですか?何か、必要なものはありますか?」
「いえ、問題ありません先生」
やはり振り返らずに簡潔に答えるハジメの態度に我慢しきれなかったようでデビッドが食ってかかる。
「おい、貴様。愛子が……自分の恩師が声をかけているというのに何だその態度は。本来なら、貴様の持つアーティファクト類の事や、大群を撃退する方法についても詳細を聞かねばならんところを見逃してやっているのは、愛子が頼み込んできたからだぞ? 少しは……」
「デビッドさん。少し静かにしていてもらえますか?」
「うっ……承知した……」
しかし、先生に〝黙れ〟と言われるとシュンとした様子で口を閉じる。
「南雲君。黒いローブの男のことですが……」
どうやらそれが本題のようで、愛子の言葉に苦悩がにじみ出ている。
「正体を確かめたいんですよね?安心してください、僕だって確かめたいんですから」
「その……南雲君には、無茶なことばかりを……」
「こんなのは苦じゃないですよ」
「南雲君……ありがとうございます」
愛子は、ハジメの予想外に協力的な態度に少し驚いたようだが、未だ振り向かない様子から、ハジメ自身にも思うところが多々あるのだろうと、その厚意を有り難く受け取ることにしたんだろう。
そして、先生の話が終わったのを見計らって、今度は、ティオが前に進み出てハジメに声をかけた。
「ふむ、よいかな。妾もご主……ゴホンッ!お主に話が……というより頼みがあるのじゃが、聞いてもらえるかの?」
「……何でしょうかティオさん」
あまり聞き覚えなのない声に、思わず肩越しに振り返ったハジメは、黒地にさりげなく金の刺繍が入っている着物に酷似した衣服を大きく着崩して、白く滑らかな肩と魅惑的な双丘の谷間、そして膝上まで捲れた裾から覗く脚線美を惜しげもなく晒した黒髪金眼の美女に向けて名前を呼んだ。
ティオは、頬を染めながらハジメに頼みをした。
「んっ、んっ!えっとじゃな、お主は、この戦いが終わったらウィル坊を送り届けて、また旅に出るのじゃろ?」
「はい、そうですが」
「うむ、頼みというのはそれでな……妾も同行させてほしいんじゃ」
「………理由をお聞きしても?」
「……ぅばわれたんじゃ…//」
「?すみません、もう一度言ってくれませんか?」
ハジメはティオが何言っているのか聞こえずもう一度言って欲しいと頼むと予想外の返答がきた。
「其方に、ご主人様に身も心も奪われたんじゃ!責任を取って欲しいのじゃっ‼︎//」
「……はい?」
全員の視線が「えっ⁉︎」というようにハジメを見る。ユエとシアも目を光らせる。
「里でも、妾は一、二を争うくらいでな、特に耐久力は群を抜いておった。じゃから、他者に組み伏せられることも、痛みらしい痛みを感じることも、今の今までなかったのじゃ」
近くにティオが竜人族と知らない護衛騎士達がいるので、その辺りを省略してポツポツと語るティオ。
「それがじゃ、ご主人様と戦って、初めてボッコボッコにされた挙句、組み伏せられ、痛みと敗北を一度に味わったのじゃ」
一人盛り上がるティオだったが、彼女を竜人族と知らない騎士達は、一様に犯罪者でも見るかのような視線をハジメに向けている。
「……ちょっと、ティオさんや………ストップ」
「こんな可憐なご婦人に暴行を働いたのか⁉︎」とざわつく騎士達。あからさまに糾弾しないのは、被害者たるティオの様子に悲痛さがないからだろう。むしろ、嬉しそうなので正義感の強い騎士達もどうしたものかと困惑している。
「そ、それに妾、自分より強い男しか伴侶として認めないと決めておったのじゃ……じゃが、里にはそんな相手おらんしの……敗北して、組み伏せられて……初めてじゃったのに……じゃからご主人様よ。共に居させて欲しいのじゃ…//」
潤んだ瞳をハジメに向けるティオ。両隣のユエとシアですら、ジト目で見ており、生徒達の中からも同じ様な視線を一つ感じる。迫り来る大群を前に、ハジメは四面楚歌の状況に追い込まれてしまう。
「で、でも、ティオさんは色々やる事あるんですよね⁉︎その為に、里を出てきたって言ってたじゃないですか⁉︎」
ハジメは苦し紛れに〝竜人族の調査〟とやらはどうしたのだと返す。
「うむ。問題ない。ご主人様の傍にいる方が絶対効率いいからの、後、ご主人様の方が何か知ってそうじゃからの〜」
「…………」
ハジメは考えを張り巡らせ、最終的にティオの同行を許す事にした。
「………わかりましたティオさん、同行を許します。しかし……」
「ん、なんじゃ?」
「今は、貴女の想いにはまだ応えられないのは許してください。何時か絶対に答えは出します」
「……わかったのじゃ………それはユエが終わってからかの?それともシアかの?」
「………いえ、別の人です」
ハジメの応えに最初は喜んだティオだがハジメの想いを聞いて少し残念そうにしていた。
そんな事があって時間が経つと遂にそれは来た。
「……………来た」
ハジメが突然、北の山脈地帯の方角へ視線を向ける。眼を細めて遠くを見る素振りを見せた。肉眼で捉えられる位置にはまだ来ていないが、手元にある〝魔眼石〟に送られてくるオルニスからの映像がはっきりと見えていた。
それは、大地を埋め尽くす魔物の群れだ。ブルタールのような人型の魔物の他に、体長三、四メートルはありそうな黒い狼型の魔物、足が六本生えているトカゲ型の魔物、背中に剣山を生やしたパイソン型の魔物、四本の鎌をもったカマキリ型の魔物、体のいたるところから無数の触手を生やした巨大な蜘蛛型の魔物、二本角を生やした真っ白な大蛇など実にバリエーション豊かな魔物が、大地を鳴動させ土埃を巻き上げながら猛烈な勢いで進軍している。その数は、山で確認した時よりも更に増えているようだ。五万あるいは六万に届こうかという大群だった。
更に、大群の上空には飛行型の魔物もいる。敢えて例えるならプテラノドンだろうか。何十体というプテラノドンモドキの中に一際大きな個体がいる、その個体の上には薄らと人影のようなものも見えた。
「……清水くん」
おそらく、黒いローブの男。愛子は信じたくないという風だったが、十中八九、清水幸利だった。
「……ハジメ」
「ハジメさん」
ハジメの雰囲気の変化から来るべき時が来たと悟るユエとシアが呼びかける。ハジメは視線を二人に戻すと一つ頷き、そして後ろで緊張に顔を強ばらせている愛子達に視線を向けた。
「来ました。予定よりかなり早いが、到達まで三十分ってところです。数は五万強。複数の魔物の混成です」
魔物の数を聞き、更に増加していることに顔を青ざめさせる愛子達。不安そうに顔を見合わせる彼女達に、ハジメは壁の上に飛び上がりながら肩越しに笑みを見せた。
「そんな顔しないでください。たかだか数万増えたくらい何の問題もないです。予定通り、万一に備えて戦える者は〝壁際〟で待機させてください。まぁ、出番はないと思いますが」
何の気負いもなく、任せてくれというハジメに、愛子達は少し眩しいものを見るように目を細めた。
「わかりました……君をここに立たせた先生が言う事ではないかもしれませんが……どうか無事で……」
「南雲………死なないでよ」
「南雲、頼んだよ」
「南雲っち、頑張って!」
愛子達はそう言うと、護衛騎士達が「ハジメに任せていいのか」「今からでもやはり避難すべきだ」という言葉に応対しながら、町中に知らせを運ぶべく駆け戻っていった。生徒達も、一度、複雑そうな目で見ると愛子を追いかけて走っていく。残ったのは、ハジメ達以外には、ウィルとティオだけだ。
ウィルは、ティオに何かを語りかけると、ハジメに頭を下げて愛子達を追いかけていった。疑問顔を向けるハジメにティオが苦笑いしながら答える。
「今回の出来事を妾が力を尽くして見事乗り切ったのなら、冒険者達の事、少なくともウィル坊は許すという話じゃ……そういうわけで助太刀させてもらうからの。何、魔力なら大分回復しておるし竜化せんでも妾の炎と風は中々のものじゃぞ?」
「じゃあ、それなら……」
そんな事を考えながらハジメはティオにある物を〝宝物庫〟から取りだし投げ渡した。
「………のうご主人様、これは?」
「ユエが持っているのと同じで魔力のストックが入っているネックレスです」
「……ありがとう………なのじゃ//」
ティオはハジメの初めてであるプレゼントに少し頬を染めながら感謝した。
ネックレスを嬉しそうに眺めるティオを「戦い前なのに嬉しそうにしやがって」と思いながら苦笑いをしていると、遂に、肉眼でも魔物の大群を捉えることができるようになった。〝壁際〟に続々と弓や魔法陣を携えた者達が集まってくる。大地が地響きを伝え始め、遠くに砂埃と魔物の咆哮が聞こえ始めると、そこかしこで神に祈りを捧げる者や、今にも死にそうな顔で生唾を飲み込む者が増え始めた。
それを見て、ハジメは前に出る。錬成で、地面を盛り上げながら即席の演説台を作成する。
突然、壁の外で土台の上に登り、迫り来る魔物に背を向けて自分達を睥睨するハジメに困惑したような視線が集まる。
ハジメは、全員の視線が自分に集まったことを確認すると、すぅと息を吸い天まで届けと言わんばかりに声を張り上げた。
「聞け!ウルの町の勇敢なる者達よ‼︎我々の勝利は既に確定している!」
いきなり何を言い出すのだと、隣り合う者同士で顔を見合わせる住人達。ハジメは、彼等の混乱を尻目に言葉を続ける。
「なぜなら、私達には女神が付いているからだ!そう、皆も知っている〝豊穣の女神〟愛子様だ‼︎」
その言葉に、皆が口々に『愛子様?』『豊穣の女神様?』とざわつき始めた。護衛騎士達を従えて後方で人々の誘導を手伝っていた愛子がギョッとしたようにハジメを見た。
「(すみません、先生。貴女の立場を利用させて貰います)………我々の傍に愛子様がいる限り、敗北はありえない!愛子様こそ!我ら人類の味方にして〝豊穣〟と〝勝利〟をもたらす、天が遣わした現人神である‼︎私は、愛子様の剣にして盾、彼女の皆を守りたいという思いに応えやって来た‼︎見よ!これが、愛子様により教え導かれた私の力である‼︎── 〝憑依〟『始皇帝』‼︎」
ハジメは咆哮すると、三皇を超越し、五帝を凌駕せし覇者と姿を変え、片手を上げて巨大な水銀の大剣を創り出し、その巨大さに町の人々が絶句し注目する中、些か先行しているプテラノドンモドキの魔物に狙いを定め撃ち放った。
水銀の大剣はもの凄いスピードで空を駆け抜け、数キロ離れたプテラノドンモドキの一体を木っ端微塵に砕き、爆散していき、その余波だけで周囲の数体の翼を粉砕して地へと堕としていく。
慌てたように後方に下がろうとしている比較的巨大なプテラノドンモドキを、その上に乗っている黒ローブごと余波で吹き飛ばした。黒ローブは宙に吹き飛ばされて、ジタバタしながら落ちていった。
「あっ………………」
愛子に黒いローブの男が落ちた事がバレずに、空の魔物を駆逐し終わったハジメは、悠然と振り返った。そこには、唖然として口を開きっぱなしにしている人々の姿があった。
「愛子様、万歳‼︎」
ハジメが最後の締めに愛子を讃える言葉を張り上げた。すると、次の瞬間……
「「「「「「愛子様、万歳!愛子様、万歳!愛子様、万歳!愛子様、万歳‼︎」」」」」」
「「「「「「女神様、万歳!女神様、万歳!女神様、万歳!女神様、万歳‼︎」」」」」」
ウルの町に、今までの様な二つ名としてではない、本当の女神が誕生した。どうやら、不安や恐怖も吹き飛んだようで、町の人々は皆一様に、希望に目を輝かせ先生を女神として讃える雄叫びを上げた。遠くで、愛子が顔を真っ赤にしてぷるぷると震えている。その瞳は真っ直ぐハジメに向けられており、小さな口が「ど・う・い・う・こ・と・で・す・か⁉︎」と動いている。
ハジメは、しれっとして再び魔物の大群に向き直った。ここまで愛子を前面に押し出したのは、もちろん理由がある。
一つは、この先、ハジメの活躍により教会や国が動いたとき、彼等がハジメに害をなそうとすれば、愛子は確実に彼等とぶつかるだろうが、その時、〝豊穣の女神〟の発言権は強い方がいいというものだ。
町の危急を愛子様の力で乗り切ったとなれば、市井の人々は勝手に噂を広め、〝豊穣の女神〟の名はますます人々の心を掴むはずだ。その時は、単に国にとって有用な人材というだけでなく、人々自身が支持する女神として、国や教会も下手な手出しはしにくくなり、より強い発言権を得ることになるだろう。
二つ目は単純に、大きな力を見せても人々に恐怖や敵意を持たれにくくするためだ。一個人が振るう力であっても、それが自分達の支持する女神様のもたらしたものと思えば、不思議と恐怖は安心に、敵意は好意に変わるものである。教会などから追われるようになっても、協力的な人がいる……といいなというものだ。
「……… 〝憑依〟『エミヤ』」
始皇帝からエミヤに憑依し直したハジメは前に進み出る。
右にはユエが、左にはハジメが貸与えたアーティファクトを担ぐシアが、更にその隣には、魔晶石のネックレスをうっとり見つめるティオが並び立った。地平線には、プテラノドンモドキが落とされたことなどまるで関係ないと言う様に、一心不乱に突っ込んでくる魔物達が視界を埋め尽くしている。
ハジメは、ユエを見た。ユエもハジメを見つめ返しコクリと静かに頷く。ハジメは、シアを見た。シアは、ウサミミをピンッと伸ばし自信満々に頷く。その隣のティオもやっと我に返り頷いた。
ハジメは、視線を大群に戻すと不敵な笑みを浮かべながら、何の気負いもなく呟いた。
「じゃあ、殲滅戦の開始といこうかっ──