ハジメは清水を魔力駆動二輪に乗せて、愛子達に向かっていた。
ちなみに場所は町外れに移しており、この場にいるのは愛子と優花達生徒の他、護衛隊の騎士達と町の重鎮達が幾人か、それにウィルとハジメ達だけである。流石に、町中に今回の襲撃の首謀者を連れて行っては、騒ぎが大きくなり過ぎるだろうし、そうなれば対話も難しいだろうという理由だ。町の残った重鎮達が、現在、事後処理に東奔西走しているだろう。
連れて来た清水に、愛子が歩み寄った。デビッド達が、危険だと止めようとするが愛子は首を振って拒否する。拘束も同様だ。それでは、きちんと清水と対話できないからと。愛子はあくまで先生と生徒として話をするつもりなのだろう。
「清水君……」
「愛子先生……すみませんっでしたっ!」
「理由があるのですね、やっぱり…」
「はい…実は……」
清水の話を要約すると、ハジメが奈落に落ちてからは、天之河とは行動出来ない、信用出来ないと判断した清水は、優花達が提案した愛子の護衛隊の話を聞き、愛子達のサポートの為、そしてある訓練の幅を広げられると思い参加したらしい。
ある訓練とは魔物の使役化らしく、清水の闇系統の魔法は、相手の精神や意識に作用する系統の魔法で、実戦などでは基本的に対象にバッドステータスを与える魔法と認識されている。清水の適性もそういったところにあり、相手の認識をズラしたり、幻覚を見せたり、魔法へのイメージ補完に干渉して行使しにくくしたり、更に極めれば、思い込みだけで身体に障害を発生させたりということができる。
そして、清水は、ふとあることを思いついた。『闇系統魔法は、極めれば対象を洗脳支配できるのではないか?』と………
トータスへの召喚の原因である魔人族による魔物の使役を思い出し、人とは比べるべくもなく本能的で自我の薄い魔物ならば洗脳支配できるのではないか。
清水は、それを確かめるために夜な夜な王都外に出て雑魚魔物相手に実験を繰り返した。その結果、人に比べて遥かに容易に洗脳支配できることが実証できた。
結果、清水は強い魔物を配下にして、護衛に回れると判断し、愛子達とウルの町に来て北の山脈地帯というちょうどいい魔物達を探していたらしい。
だがその時に魔人族と相対したらしく、魔人族の方は清水を勧誘しに来たらしいが清水は断った。
勧誘が出来ないと判断した魔人族は腰から剣を抜き、清水に向かって襲い強行手段に出たらしく、清水もそれなりに抗ったが流石に後衛職の清水では近接には太刀打ち出来ず負けてしまった。
その後、ハジメが壊した奴隷の首輪を着けられ、魔人族からは無理矢理外そうとすると爆発すると言われ、従うしかなかったそして清水は従われた通りにどんどん魔物を使役して行って、町に差し向けたのが今回の事の顛末らしい。
「本当にすみませんっでしたっ‼︎」
話を終えた清水は全員に謝り土下座をしていた。すると、愛子は清水に話しかけた。
「清水君…今回の件は許される事ではありません…沢山の人達に迷惑をかけてるのを分かってますか?」
「…はい、十分に理解しています、すみまっ」
愛子の問いに清水は顔を上げ答えようとしたが、遮られた。愛子が抱きしめたからだ。
「でもっ、私はそんな事より貴方が生きてて良かったっ!大事な生徒が生きてて良かったっ!‼︎」
愛子は涙を流しながら、清水の無事を歓喜していた。
「せ、先生…」
すると、優花に奈々や妙子、他の生徒達も声をかけた。
「まぁ、無事で良かったわ」
「清水っち〜、良かったよぉ!」
「はぁ、ホントに迷惑掛け過ぎなのよ」
「そうだぞ〜。清水」
「そうだ。そうだ。終わったら安い物でも良いから何か奢れよぉ?」
「そーだぞぉ〜」
「み、皆、すまない。でも、ありがとう」
操られたとしても皆に酷い事をしたのにも関わらずに軽口だけ言ってくれるに皆に清水は感謝した。
だが、こんな良い雰囲気をぶち壊す者が現れた。
「───ッ、それは罪を逃れる妄言に過ぎないっ!!即刻、連行して処刑にするべきだっ‼︎」
それは、デビッドだった。全員がデビッドに視線を向け、愛子は怒りながらデビッドに問い詰めた。
「何で、そんな事を言うんですかっ!清水君は操られてだけなんですよっ⁉︎」
「ち、違うんだっ愛子。彼は罪から逃げる為に虚言の可能性があると……」
「それは違います」
デビッドは愛子に問い詰められ、少しビクッとしながらまだ言葉を続けようとしたが、ハジメが遮った。
「ふん、何か証拠があるのか?」
「ありますよ………コレです」
デビッドの言葉にハジメは平然と返しながら〝宝物庫〟から鉄鉱石を出した。その光景にデビッドは驚くが、スルーして錬成で清水に着けられていた首輪を錬成した。ちなみに洗脳能力は付けていない。
「僕が持っている技能の中に触れた物の構造をすぐに解析して、その物を作れる技能を持ってるんです。で、この首輪は清水に着けられていた物と一緒。確か………隷属の首輪ですよねコレ?」
「なっ⁉︎」
ハジメがすぐさま錬成したのを見たデビッドは隷属の首輪に見覚えがあるらしく驚きを示していた。
「その反応を見る限り、合ってるようですね。なら、これで清水の疑いは晴れますよね?」
「………… 故意にやったのではない事は理解した」
デビッドは苦虫を噛み潰したような顔をしながら渋々了承した。
「良し、そろそろ町に戻るか………あれ?ティオさんがいない……ユエ知ってる?」
ハジメが町に戻ろうとした時、この場にティオがいない事に気付いて近くに居たと思われるユエに聞いた。
「…ん、どうしたの?」
「ティオさんがどこに行ったか知ってる?」
「……実は」
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「……!ん、流石ハジメ…凄い攻撃」
ユエは壁の上からハジメの攻撃の威力に圧倒されながら、やっぱりハジメは凄くて、強くて、カッコイイなと思っていた。
魔物の軍団もリーダー格を失い更にハジメの追撃を喰らい山脈に向かって逃げていった。
「流石ハジメ。カッコイイ……どうやら、終わったみたい」
ユエがそう言いながらティオに視線を向けるとティオは少し身震いをしていた。
「……大丈夫、ティオ?竜人族のあなたでもハジメの攻撃の威力に圧倒されちゃった?」
「…ッ!」
ユエが問いかけるとティオは顔を紅くしながら呟いた。
「…ッッ!凄いのじゃあ〜! 更に惚れてしまうのじゃぁ〜‼︎」
ティオはハジメの攻撃で惚れ直してしまったらしく、目までもハートになっていた。
「……拝啓…ハジメ。また貴方に完全に堕ちた人が現れました………頑張って」
そして、ユエはまだ悶えているティオを無視してハジメ達の下へ向かった。
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「あ、あはは………」
ハジメはユエの話を聞き、ティオの気持ちは冗談じゃないと分かり、空を見上げながら、彼女持ちの癖に離れてる間に三人の女の子を堕とした自分に自己嫌悪した。
ちなみにハジメは日本でも陰ながら男女に人気があり、ある少女が立ち上げたファンクラブがある。ハジメ本人はその存在を知らない………
「まぁ、ティオさんは向こうで合流するとして、町に向かおうか」
「そうです…ッ⁉︎ダメです!避けて‼︎」
ハジメが皆に町へと促そうとしたが、その瞬間、事態は急変する。叫びながら、シアは、一瞬で完了した全力の身体強化で縮地並の高速移動をして愛子に飛びかかったが一足遅かった。
「…ッ!先生ェ‼︎」
「キャッ!清水君‼︎」
突然の事態に、シアより行動が早かった清水が咄嗟に愛子を庇ったが、二本の針が清水と愛子の肩に刺さった。
「チィッ‼︎」
放たれた針の射線上に入ったハジメが、ドンナーで水のレーザー、おそらく水系攻撃魔法〝破断〟を打ち払う。
「清水?!愛ちゃん先生?!」
突然の事態に誰もが硬直する中、優花達が愛子や清水の名を呼びながら全力で駆け寄る。そして、追撃に備えてユエやデビッド達が守るように陣取った。
「アレかっ‼︎」
ハジメは、怒りをすぐさま抑えてからドンナーを両手で構え〝遠見〟で〝破断〟の射線を辿る。すると、遠くで黒い服を来た耳の尖ったオールバックの男が、大型の鳥のような魔物に乗り込む姿が見えた。
ハジメは、一瞬の溜めの後、飛び立った魔物と人影に弾を連射する。オールバックの男は、攻撃されることを予期していたように、ハジメの方を確認しつつ鳥型の魔物をバレルロールさせながら必死に回避行動を行った。
中々の機動力をもってかわしていた魔物だが、全ては回避しきれなかったようで、鳥型の魔物の片足が吹き飛び、オールバックの男の片腕も吹き飛んだようだ。それでも、落ちるどころか速度すら緩めず一目散に遁走を図る。攻撃してからの一連の引き際はいっそ見事という他ない。
「クッ!アレが清水の言ってた魔人族かっ‼︎」
おそらく、あれが清水の言っていた魔人族なのだろうとハジメは推測した。既に低空で町を迂回し、町そのものを盾にするようにして視界から消えている。
「あの魔人族、殲滅戦を見ていたな………これだと、魔人族に僕達の情報が伝わるかもな」
ハジメの攻撃手段を知っていたような逃走方法だったことから、魔人族側に俺達の情報が渡るだろうと苦い表情をする。逃走方向がウルディア湖の方だった事から、その手前にある林に逃げ込んだならオルニスなどによる追跡も難しいだろう。何より、今は優先しなければならないことがある。
「南雲!」
「──っ、今行く‼︎」
敵の逃走を察したのだろう、優花は焦りを含んだ声でハジメを呼び、ハジメもそれに応えてすぐさまドンナーをホルスターにしまい倒れている愛子と清水のもとへ駆け寄った。
「愛ちゃん先生⁉︎」
「清水⁉︎」
「クッ…な…南雲、先生はぶ、無事か?」
「………いや、先生も君と一緒だ………コレは毒だ…今から二人とも回復させる‼︎」
毒のせいで息を乱しながら話す清水の容態は顔に毒気が浮かんで有り、今にも息を引き取りそうな危険な状況で愛子も同じ状況だ。
「〝憑依〟『ナイチンゲール』‼︎」
奉仕と献身を信条とし、たったひとりの軍隊ともいうべき不屈性を持った信念の女となったハジメは翡翠色のオーラを周囲に放ち、彼女の宝具を発動する。
「間に合えッ‼︎宝具発動!『
ナイチンゲールの姿になったハジメによく似た巨大な「白衣の女神」の上半身が幻として出現し、大上段に構えた剣を毒で苦しんでいる愛子と清水へと振り下ろす。
その光景を見た優花達やデビッド達がハジメを止めに入ろうとするが、ユエとシアが間に入り進行を妨げる。
そして剣が振り下ろされた瞬間、ハジメと同じ翡翠色のオーラが愛子と清水を包み込む。
すると愛子と清水の顔から毒気が抜け、傷も逆再生していくように治るのが目に見えてわかった。
「………これで問題ないです」
二人の息が整ったのを軽く視診したハジメは見ていた全員にそう告げ憑依を解き、その場に腰を下ろしたのだった。