現在、ハジメ達は冒険者ギルドにある応接室に通されていた。
出された如何にも高級そうなお茶と茶菓子をバリボリ、ゴクゴクと遠慮なく貪りながら待つこと五分。部屋の扉を蹴破らん勢いで開け放ち飛び込んできたのは、ハジメ達にウィル救出の依頼をしたイルワ・チャングだ。
「ウィル!無事かい⁉︎怪我はないかい⁉︎」
以前の落ち着いた雰囲気などかなぐり捨てて、視界にウィルを収めると挨拶もなく安否を確認するイルワ。それだけ心配だったのだろう。
「イルワさん……すみません。私が無理を言ったせいで、色々迷惑を掛けて……」
「……何を言うんだ……私の方こそ、危険な依頼を紹介してしまった……本当によく無事で……ウィルに何かあったらグレイルやサリアに合わせる顔がなくなるところだよ……二人も随分心配していた。早く顔を見せて安心させてあげるといい。君の無事は既に連絡してある。数日前からフューレンに来ているんだ」
「父上とママが……わかりました。直ぐに会いに行きます」
イルワは、ウィルに両親が滞在している場所を伝えると会いに行くよう促す。ウィルは、イルワに改めて捜索に骨を折ってもらったことを感謝し、ついで、ハジメ達に改めて挨拶に行くと約束して部屋を出て行った。ハジメとしては、これっきりでも良かったのだが、きちんと礼をしないと気が済まないらしい。
ウィルが出て行った後、改めてイルワとハジメが向き合う。イルワは、穏やかな表情で微笑むと、深々と頭を下げた。
「ハジメ君、今回は本当にありがとう。まさか、本当にウィルを生きて連れ戻してくれるとは思わなかった。感謝してもしきれないよ」
「まぁ、生き残っていたのはウィルの運も良かったからですよ」
「ふふ、そうかな?確かに、それもあるだろうが……何万もの魔物の群れから守りきってくれたのは事実だろう? 〝女神の剣〟様?」
にこやかに笑いながら、ハジメが大群との戦闘前にした演説の内容とハジメが放った攻撃から文字った二つ名を呼ぶイルワにハジメの頬が引き攣った。
「その二つ名は初めて聞きますけど……随分情報が早いですね。何か通信用のアーティファクトでもあるんですか?」
「察しがいいね。ハジメ君の言う通りギルドの幹部専用だけどね。長距離連絡用のアーティファクトがあるんだ。私の部下が君達に付いていたんだよ。といっても、あのとんでもない移動型アーティファクトのせいで常に後手に回っていたようだけど……彼の泣き言なんて初めて聞いたよ。諜報では随一の腕を持っているのだけどね」
そう言って苦笑いするイルワ。最初から監視員がついていたらしい。ギルド支部長としては当然の措置なので、特に怒りを抱くこともない。むしろ、支部長の直属でありながら、常に置いていかれたその部下の焦りを思うと、中々同情してしまう。
「それにしても、大変だったね。まさか、北の山脈地帯の異変が大惨事の予兆だったとは……二重の意味で君に依頼して本当によかった。数万の大群を殲滅した力にも興味はあるのだけど……聞かせてくれるかい?一体、何があったのか」
「ええ、構いません。だけど、その前にユエとシアのステータスプレートをお願いします……ティオさんは『うむ、二人が貰うなら妾の分も頼めるかの』……ということです。あっ、こっちの子──園部さんは持っているので大丈夫です」
「ふむ、確かに、プレートを見たほうが信憑性も高まるか……わかったよ」
「助かります」
そう言ってイルワは、職員を呼んで真新しいステータスプレートを三枚持ってこさせる。
「………ねぇ、南雲」
「ん?どうしたの園部さん?」
「………………優花」
「えっ?」
「………私のこともユエさんやシアさんみたいに名前で呼んで欲しいの‼︎」
「なぬぅ⁉︎」
「………わかったよ、優花」
「………うん!ハジメ‼︎///」
「ご、ご主人様よ!妾も、妾も名前で呼んでたもう‼︎」
「あ〜………ティオ?」
「うむ‼︎///」
「………あ〜、仲が良い所悪いんだけど………ステータスプレート来たよ?」
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ユエ 323歳 女 レベル:75
天職:神子
筋力:120
体力:300
耐性:80
敏捷:120
魔力:7500
魔耐:7120
技能:自動再生[+痛覚操作]・全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+魔力強化][+血盟契約]・高速魔力回復・生成魔法・重力魔法
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シア・ハウリア 16歳 女 レベル:40
天職:占術師
筋力:60 [+最大6100]
体力:80 [+最大6120]
耐性:60 [+最大6100]
敏捷:85 [+最大6125]
魔力:3020
魔耐:3180
技能:未来視[+自動発動][+仮定未来]・魔力操作[+身体強化][+部分強化][+変換効率上昇Ⅱ] [+集中強化]・重力魔法
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ティオ・クラルス 563歳 女 レベル:89
天職:守護者
筋力:770 [+竜化状態4620]
体力:1100 [+竜化状態6600]
耐性:1100 [+竜化状態6600]
敏捷:580 [+竜化状態3480]
魔力:4590
魔耐:4220
技能:竜化[+竜鱗硬化][+魔力効率上昇][+身体能力上昇][+咆哮][+風纏][+痛覚変換]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・火属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・風属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・複合魔法
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流石に、ハジメもユエ達のステータスを初めて見て、その異常さに内心驚いたが、イルワも口をあんぐりと開けて言葉も出ない様子だった。無理もない。ユエとティオは既に滅んだとされる種族固有のスキルである〝血力変換〟と〝竜化〟を持っている上に、ステータスが特異に過ぎる。シアは種族の常識を完全に無視している。驚くなという方がどうかしている。
「いやはや……なにかあるとは思っていたけど、これほどとは……」
冷や汗を流しながら、何時もの微笑みが引き攣っているイルワに、ハジメはお構いなしに事の顛末を語って聞かせた。普通に聞いただけなら、そんな馬鹿なと一笑に付しそうな内容でも、先にステータスプレートで裏付けるような数値や技能を見てしまっているので信じざるを得ない。イルワは、すべての話を聞き終えると、一気に十歳くらい年をとったような疲れた表情でソファーに深く座り直した。
「……道理でキャサリン先生の目に留まるわけだ。ハジメ君が異世界人の一人だということは予想していたが……実際は、遥か斜め上をいったね……」
「……それでイルワさん、貴方はどうしますか?僕達を危険分子だと教会にでも突き出しますか?」
イルワは、ハジメの質問に非難するような眼差しを向けると居住まいを正した。
「冗談がキツいよ。出来るわけないだろう?君達を敵に回すようなこと、個人的にもギルド幹部としても有り得ない選択肢だよ……大体、見くびらないで欲しい。君達は私の恩人なんだ。そのことを私が忘れることは生涯ないよ」
「……そうですか。それは良かった」
ハジメは、肩を竦めて、試して悪かったと視線で謝意を示した。
「私としては、約束通り可能な限り君達の後ろ盾になろうと思う。ギルド幹部としても、個人としてもね。まぁ、あれだけの力を見せたんだ。当分は、上の方も議論が紛糾して君達に下手なことはしないと思うよ。一応、後ろ盾になりやすいように、君達の冒険者ランクを全員〝金〟にしておく」
「そんな大盤振る舞いで大丈夫ですか?こちらとしては随分有難いのですが……」
「まぁ、普通は、〝金〟を付けるには色々面倒な手続きがいるのだけど……事後承諾でも何とかなるよ。キャサリン先生と僕の推薦、それに〝女神の剣〟という名声があるからね」
「……感謝します」
その後、イルワと別れ、ハジメ達はフューレンの中央区にあるギルド直営の宿のVIPルームでくつろいだ。途中、ウィルの両親であるグレイル・グレタ伯爵とサリア・グレタ夫人がウィルを伴って挨拶に来た。かつて、王宮で見た貴族とは異なり随分と筋の通った人のようだ。ウィルの人の良さというものが納得できる両親だった。
グレイル伯爵は、しきりに礼をしたいと家への招待や金品の支払いを提案したが、ハジメが固辞するので、困ったことがあればどんなことでも力になると言い残し去っていった。
広いリビングの他に個室が五部屋付いた部屋は、その全てに天蓋付きのベッドが備え付けられており、テラスからは観光区の方を一望できる。ハジメは、リビングの超大型ソファーにゴロンと寝転びながら、リラックスした様子で深く息を吐いた。
ユエが、寝転んだハジメの頭を持ち上げて膝枕をする。シアは、足元に腰掛けた。ティオは、キョロキョロと物珍しげに部屋を見渡している。優花は、立派な部屋に落ち着かないのか備え付けのこれまた立派な椅子に座りソワソワしている。
「取り敢えず今日はもう休もう。明日は消費した食料とかの買い出しとかしなきゃならいがユエ、ティオ、優花お願いできる?」
「……ん、任せて」
「のじゃ」
「わかったわ」
頑張ったシアのご褒美に、一日付き合うという約束をしたハジメはユエとティオと優花に買い出しを頼み、三人は了承した。
「じゃあ、シア明日は楽しむとするか」
「はいですぅ〜」
ハジメの言葉にシアはウサ耳をピコピコさせて返答した。
その後、五人はあれこれ雑談しつつ、その日の夜は更けていったのであった……。