「……魔人族……か」
冒険者ギルドホルアド支部の応接室にハジメの呟きが響く。対面のソファーにはホルアド支部の支部長ロア・バワビスと遠藤が座っており、遠藤の正面にハジメ、その両サイドにユエとシア、ユエの隣に優花、シアの隣にティオが座っている。ミュウは、シアの膝の上だ。
遠藤から事の次第を聞き終わった魔人族の襲撃に遭い、勇者パーティーが窮地にあるというその話に遠藤もロアも深刻な表情をしており、室内は重苦しい雰囲気で満たされていた。しかし、ハジメは勇者の天之河のことはほんの少しだけ気にし、香織のことの方が断然心配だった。
「さて、ハジメ。イルワからの手紙でお前の事は大体分かっている。随分と大暴れしたようだな?」
「まぁ………全部成り行きですが………後悔は無いです」
成り行き程度の心構えで成し遂げられる事態では断じてなかったのだが、事も無げな様子で肩をすくめるハジメに、ロアは面白そうに唇の端を釣り上げた。
「手紙には、お前の〝金〟ランクへの昇格に対する賛同要請と、できる限り便宜を図ってやって欲しいという内容が書かれていた。一応、事の概要くらいは俺も掴んではいるんだがな……たった数人で六万近い魔物の殲滅、半日でフューレンに巣食う裏組織の壊滅……にわかには信じられんことばかりだが、イルワの奴が適当なことをわざわざ手紙まで寄越して伝えるとは思えん……もう、お前が実は魔王だと言われても俺は不思議に思わんぞ」
ロアの言葉に、遠藤が大きく目を見開いて驚愕をあらわにするが「まぁ………南雲だし」と呟きながら納得している様子を見て、ハジメは少し頬を引き攣らせる。
元々、浩介が冒険者ギルドにいたのは、高ランク冒険者に光輝達の救援を手伝ってもらうためだったらしい。もちろん、深層まで連れて行くことは出来ないが、せめて転移陣の守護くらいは任せたかったのである。駐屯している騎士団員もいるにはいるが、彼らは王国への報告などやらなければならないことがあるし、何より、レベルが低すぎて精々三十層の転移陣を守護するのが精一杯で七十層の転移陣を守護するには、せめて〝銀〟ランク以上の冒険者の力が必要だったてことらしい。
そう考えて冒険者ギルドに飛び込んだ挙句、二階のフロアで勇者達の現状を大暴露し、冒険者達に協力を要請したのだが、人間族の希望たる勇者が窮地である上に騎士団の精鋭は全滅、おまけに依頼内容は七十層で転移陣の警備というとんでもないもので、誰もが目を逸らして、救助要請に応答しなかったらしい。だから、ギルドがあんな重い空気だったんだと納得しながら、ハジメとロアは話しをすすめていく。
「バカ言わないでくださいよ……僕はそこまでぐだぐだじゃないですよ?」
「随分な大言を吐くんだな……だが、それが本当なら俺からの、冒険者ギルドホルアド支部長からの指名依頼を受けて欲しい」
「……勇者達の救出ですか?」
「南雲……」
「あたり前だ、行くに決まっている。香織がいるんだ絶対助ける……」
「なっ、なぁハジメ。白崎以外も助けるよな?」
遠藤はハジメの返事に嬉しく感じていたが、内容が香織を第一優先事項にしてる為、天之河などを助けてくれるのか心配になっていた。
「……………………もちろん助けるよ、助ける」
「マジで助けろよっ⁉︎」
ハジメの棒読みの返事に遠藤は叫んだ。しかし、ハジメは嫌そうな表情を隠さない。最悪、雫達はいいとして天之河達を助けるとなるとあまり気が進まないらしい。
ハジメは、頭をカリカリと掻きながら、傍らで自分を見つめている大切な仲間達を見やって話しかけた。
「四人とも、これは僕の勝手の行動だ。 だから着いてこなくても良いけど………どうする?」
「……ん、ハジメのしたいように。私は、どこでも付いて行く」
「わ、私も!どこまでも付いて行きますよ!ハジメさん‼︎」
「ふむ、妾ももちろんついて行くぞ。ご主人様」
「こんな一大事に動かなくてどうするのよ!………まぁ、天之河達はあんまり助けたいとは思わないけど………」
「ふぇ、えっと、えっと、ミュウもなの!」
対面で、遠藤は愕然とした表情をしながら「え?南雲、えっ、もうお前浮気?……白崎に殺されるぞ」と呟いている。ハジメも十分理解している。
「ありがとう皆。神に選ばれた勇者になんて、わざわざ自分から関わりたくはないし、皆を関わらせるのも全くもって嫌なんだけど……香織がいるんだ。だから、助けに行こうかと思う。まぁ、八重樫さんがいるし、案外、自分達で何とかしそうな気もするが………それでも僕は助けに行きたい」
ユエ達は最初からハジメの決定に異を唱える気は無かった為全員が首肯した。
「南雲ハジメ、話しを聞く限り、迷宮に行ってくれるんだよな?」
「はいロア支部長。………対外的には依頼という事にしておきたいのですが……」
「上の連中に無条件で助けてくれると思われたくないから………だな?」
「それともう一つ。帰ってくるまでミュウのために部屋を一つお願いできますか?」
「ああ、それくらい構わねぇよ」
結局、ハジメが一緒に行ってくれるということに安堵していたがユエ達を見て「大丈夫か?」と複雑そうな視線を送る遠藤を無視して、ハジメはロアとさくさく話を進めていった。流石に、迷宮の深層まで子連れで行くわけにも行かないので、ミュウをギルドに預けていく事にした。
その際、ミュウが置いていかれることに激しい抵抗を見せたが、何とか全員で宥めすかし、ついでに子守役兼護衛役にティオも置いていく事にしたが、ティオはハジメに話しかけた。
「ご主人様、何故妾を?護衛ならここのギルドの者に任せれば良いと思うのじゃが?」
「……ギルドに向かってる最中にミュウや皆に嫌な視線を送ってる人達がいたんだよね……」
「……わかったのじゃ、コチラは任せておれ」
「頼んだよ」
「うむ」
ハジメとティオの話が終わりようやくハジメ達は遠藤の案内で出発することが出来た。しかし、出ていく間際にティオは一緒に迷宮に向かうユエとシア、優花に「香織への紹介の時は妾のアピールもしておいてくれるかの?」「…………任せて」「………ユエよ。なんじゃ、その間は?」などと話していたが、ハジメはスルーを決め込んだ。
「遠藤、背中に乗る?」
「いらんわ!それなりに敏捷は高いぞ俺?!南雲が規格外(?)なだけだ‼︎」
「そんな、化け物扱いしないでよ。………まぁ、アレを見てたらそう思う人がいるかもしれないけどね………」
「………あまり言いたくなかったが、今国内は二つの勢力ができてるからな」
「勢力?」
「………詳細は省くが、『南雲ハジメ支持派』と『南雲ハジメ敵対派』だ」
「………………もしかしてベヒモス戦が原因?」
「……あぁ、……………ところで南雲、一緒にいる園部や美少女達をどう説明すんだ?……俺は何があっても知らないぞ?」
「…………」
「凄い冷や汗かいてるぞ……」
「……ん、任せてハジメ、大丈夫。私が説明して認めてもらうから」
「ですぅ〜」
「余計に心配なんだけど⁉︎」
「あははっ………」
迷宮深層に向かって疾走しながら、ハジメ達はそんな会話をしていた……。