FGOで世界最強   作:紫道麻璃也

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クラスメイトside 遭遇

 淡い緑色の光だけが頼りの薄暗い地下迷宮に、激しい剣戟と爆音が響く。 

 その激しさは、苛烈と表現すべき程のもので、時折姿が見えない遠方においても迷宮の壁が振動する程だ。銀色の剣線が、虚空に美しい曲線を無数に描き炎弾や炎槍、風刃や水のレーザーが弾幕のごとく飛び交う。強靭な肉体同士がぶつかる生々しい衝撃音や仲間への怒号、気合の声が本来静寂で満たされているはずの空間を戦場へと変えていた。

 

「万象切り裂く光 吹きすさぶ断絶の風 舞い散る百花の如く渦巻き 光嵐となりて敵を刻め! 〝天翔裂破〟‼︎」

 

 聖剣を腕の振りと手首の返しで加速させながら、自分を中心に光の刃を無数に放つ天之河。今まさに襲いかかろうとしていた体長五十センチ程のコウモリ型の魔物は、十匹以上の数を一瞬で細切れにされて、碌な攻撃も出来ずに血肉を撒き散らしながら地に落ちた。

 

「前衛!カウント、十‼︎」

「「「了解!」」」

 

 ギチギチと硬質な顎を動かす蟻型の魔物、空を飛び交うコウモリ型の魔物、そして無数の触手をうねらせるイソギンチャク型の魔物。それらが、直径三十メートル程の円形の部屋で無数に蠢いていた。部屋の周囲には八つの横穴があり、そこから魔物達が溢れ出しているのだ。

 場所は、【オルクス大迷宮】の八十九層。前衛を務める天之河、龍太郎、雫、永山、檜山、近藤に、後衛からタイミングを合わせた魔法による総攻撃の発動カウントが告げられる。何とか後衛に襲いかかろうとする魔物達を、天之河達は鍛え上げた武技をもって打倒し、弾き返していく。

 厄介な飛行型の魔物であるコウモリ型の魔物が、前衛組の隙を突いて後衛に突進するが、頼りになる結界師──谷口鈴が城壁となってそれを阻む。

 

「刹那の嵐よ 見えざる盾よ 荒れ狂え 吹き抜けろ 渦巻いて 全てを阻め 〝爆嵐壁〟!」

 

 鈴の攻勢防御魔法が発動する。呪文を詠唱する後衛達の一歩前に出て、突き出した両手の先にそよ風が生じた。見た目の変化はない。コウモリ型の魔物達も鈴の存在など気にせず、警鐘を鳴らす本能のままに大規模な攻撃魔法を仕掛けようとしている後衛組に向かって襲いかかった。 

 しかし、一人の少女がそれを阻んだ。

 

「全ての敵意と悪意を拒絶する──〝聖絶〟」

 

 香織の防御魔法で何十匹というコウモリモドキが次々と衝突していくが、空気の壁はたわむばかりでただの一匹も通しはしない。

 

「ふぅ……上手くいった」

 

 香織は防御が上手くいって安心してると同時に前衛組が一斉に大技を繰り出した。敵を倒すことよりも、衝撃を与えて足止めし、自分達が距離を取ることを重視した攻撃だ。

 

「後退‼︎」

 

 天之河の号令と共に、前衛組が一気に魔物達から距離を取っていく。そして次の瞬間、完璧なタイミングで後衛六人の攻撃魔法が発動した。

 巨大な火球が着弾と同時に大爆発を起こし、真空刃を伴った竜巻が周囲の魔物を巻き上げ切り刻みながら戦場を蹂躙する。足元から猛烈な勢いで射出された石の槍が魔物達を下方から串刺しにし、同時に氷柱の豪雨が上方より魔物の肉体に穴を穿っていく。

 自然の猛威がそのまま牙を向いたかのような壮絶な空間では生物が生き残れる道理などありはしない。ほんの数十秒の攻撃。されど、その短い時間で魔物達の九割以上が絶命するか瀕死の重傷を負うことになった。

 

「よし!いいぞ!残りを一気に片付ける‼︎」

「いや、大丈夫だ、もう全滅させたぞ」

「なっ遠藤?!まぁ、良い……皆っ、よく頑張った‼︎」

 

 天之河が掛け声をする前に遠藤が天之河の前に立っていた。遠藤の後ろには、瀕死だった魔物達を全て殲滅したのだろう魔物達の死体が散らばっていた。そのことに天之河は勝手に行動したのを咎めようとしたが、今は全員に健闘を称えた。 

 戦闘の終了と共に、天之河達は油断なく周囲を索敵しつつ互いの健闘をたたえ合った。

 

「ふぅ、次で九十層か……この階層の魔物も難なく倒せるようになったし……迷宮での実戦訓練も、もう直ぐ終わりだな」

「だからって、気を抜いちゃダメよ。この先にどんな魔物やトラップがあるかわかったものじゃないんだから」

「雫は心配しすぎってぇもんだろ?俺らぁ、今まで誰も到達したことのない階層で余裕持って戦えてんだぜ?何が来たって蹴散らしてやんよ!それこそ魔人族が来てもな‼︎」

 

 感慨深そうに呟く天之河に雫が注意をすると、龍太郎が豪快に笑いながらそんな事を言う。その様子に溜息を吐きながら、雫は眉間の皺を揉みほぐした。これまでも、何かと二人の行き過ぎをフォローして来たので苦労人姿が板に付いてしまっている。『まさか………皺が出来たりしてないわよね?』と最近鏡を見る機会が微妙に増えてしまった雫。それでも、結局、天之河達に限らず周囲のフォローに動いてしまう辺り、真性のお人好しである。

 ちなみに天之河と檜山達『南雲ハジメ敵対派』は、迷宮内に入ってきてから雫達が協力的になってきた事を『南雲ハジメ支持派』から『南雲ハジメ敵対派』にようやく移ってきたと嬉しく思っているが、本当はリリアーナの指示で仕方なく最低限の協力をしているのだった。

 

「……檜山くん近藤くん、これで治ったと思うけど……どう?」

 

 周囲が先程の戦闘について話し合っている傍らで、香織は先程の戦闘で怪我をした人達を治癒しているのである。一応、迷宮での実戦訓練兼攻略に参加している十五名の中には、香織ともう一人〝治癒師〟を天職に持つ女の子がいるので、今は二人で手分けして治療中だ。

 

「……ああ、もう何ともない。サンキュ、白崎」

「お、おう、平気だぜ。あんがとな」

 

 香織に治療された檜山が、ボーと間近にいる香織の顔を見ながら上の空な感じで返答する。見蕩れているのが丸分かりだ。近藤の方も、耳を赤くしどもりながら礼を言った。前衛職であることから、度々、香織の回復の世話になっている檜山達だが、未だに、香織と接するときは平常心ではいられないらしい。近藤の態度は、ある意味、思春期の子供といった風情だが……檜山の香織を見る目の奥には暗い澱みが溜まっていた。それは日々、色濃くなっているのだが……気がついている者はそう多くはない。

 二人にお礼を言われた香織は「……どういたしまして」と溜息を吐きながら、スっと立ち上がり踵を返した。そして、周囲に治療が必要な人がいないことを確認すると、目立たないようにまた溜息を吐き、奥へと続く薄暗い通路を憂いを帯びた瞳で見つめ始めた。

 

「……(ハジメくん…)」

 

 その様子に気がついた雫には、幼なじみの心情が手に取るように分かった。香織の心の内は今、不安でいっぱいなのだ。あと十層で迷宮の最下層(表)にたどり着くというのに、未だハジメの痕跡は僅かにも見つかっていない。

 それは希望でもあるが、遥かに強い絶望でもある。自分の目で確認するまでハジメの死を信じないと心に決めても、階層が一つ下がり、何一つ見つからない度に押し寄せてくるネガティブな思考は、そう簡単に割り切れるものではない。まして、ハジメが奈落に落ちた日から既に四ヶ月も経っている。強い決意であっても、暗い思考に侵食され始めるには十分な時間だ。

 願うようにギュッと手を握りしめる香織の姿を見て、雫はたまらず声をかけようとした。

 だが、雫が行動をおこす前に鈴がピョンとジャンプし香織の背後からムギュッと抱きついた。

 

「カオリ〜ン!そんな野郎共じゃなくて、鈴を癒して~⁉︎ぬっとりねっとりと癒して~」

「ちょっとっ何っ、鈴ちゃん!えっ待っ!鈴ちゃん、そんなにケガしてないでしょ…って、ひゃん?!何処触ってるの?!」

「してるよぉ!鈴のガラスのハートが傷ついてるよぉ‼︎だから甘やかして!具体的には、そのカオリンのおっぱおで‼︎」

「お、おっぱ……ダメだよ‼︎あっ、こら!ひゃんっ!誰か、助けてぇ‼︎」

「ハァハァ、ええのんか?ここがええのんか?お嬢ちゃん、中々にびんかッへぶぁ⁉︎」

「……はぁ、いい加減にしなさい、鈴。男子共が立てなくなってるでしょが……たってるせいで……」

 

 ただのおっさんと化した鈴が、人様にはお見せできない表情でデヘデヘしながら香織の胸をまさぐり、雫から脳天チョップを食らって撃沈した。ついでに、鈴と香織の百合百合しい光景を見て一部男子達も撃チンした。頭にタンコブを作ってピクピクと痙攣している鈴を、何時ものように恵里が苦笑いしながら介抱する。

 

「……ありがとう雫ちゃん」

「もう大丈夫よ。また変態が何かしたら退治するから安心してね?」

「うん、ありがと」

 

 香織は鈴のセクハラを止めた雫にお礼を言った。そんな雫は、香織の顔色を覗った。しかし、香織は困った表情で、されど何処か楽しげな表情で恵里に介抱される鈴を見つめており、そこには先程の憂いに満ちた表情はなかった。どうやら、一時的にでも気分が紛れたようだ。ある意味、流石クラスのムードメイカー鈴(おっさんver.)と、雫は内心で感心する。

 

「あと十層よ。……頑張りましょう香織」

 

 雫が、香織の肩に置いた手に少々力を込めながら、真っ直ぐな眼差しを向ける。それは、心が折れないように活を入れる意味合いを含んでいた。香織も、そんな雫の様子に、自分が少し弱気になっていたことを自覚し、両手で頬をパンッと叩くと、強い眼差しで雫を見つめ返した。

 

「うん、雫ちゃん」

 

 ちなみに、この場にいるのは天之河、龍太郎、雫、香織、鈴、恵里、浩介の他、永山重吾を含める四人及び檜山達四人の十五人であり、メルド団長達は七十層で待機している。実は、七十層からのみ起動できる、三十層と七十層をつなぐ転移魔法陣が発見され、深層への行き来が楽になったのであるが、流石にメルド団長達でも七十層より下の階層は能力的に限界だった。もともと、六十層を越えたあたりで、光輝達に付き合える団員はメルドを含めて僅か数人だった。七十層に到達する頃には、彼らは既に天之河達の足を引っ張るようになっていたのである。

 メルドも、そのことを自覚しており、迷宮でのノウハウは既に教えきっていたこともあって、自分達は転移陣の周囲で安全地帯の確保に努め、それ以降は天之河達だけで行くことにさせたのだ。

 たった四ヶ月ほどで超えられたことにメルドは苦笑い気味だったが、それでも天之河達に付き合う過程で、たとえ七十層でも安全を確保できるほどの実力を自分達もつけられたことに喜んでいた。彼らもまた実力を伸ばしていたのである。

 

「皆、そろそろ出発だ!」

 

 天之河はメンバーに号令をかける。既に、八十九層のフロアは九割方探索を終えており、後は現在通っているルートが最後の探索場所だった。今までのフロアの広さから考えて、そろそろ階下への階段が見えてくるはずである。

 その予想は当たっており、出発してから十分程で一行は階段を発見した。トラップの有無を確かめながら慎重に薄暗い螺旋階段を降りていく。体感で十メートル程降りた頃、遂に天之河達は九十層に到着した。

 一応、節目ではあるので何か起こるのではと警戒していた天之河達。しかし、見た目は今まで探索してきた八十層台と何ら変わらない作りのようだった。さっそく、マッピングしながら探索を開始する。迷宮の構造自体は変わらなくても、出現する魔物は強力になっているだろうから油断はしない。警戒しながら、変わらない構造の通路や部屋を探索してく天之河達。探索は順調だった。だったのだが、やがて、一人また一人と怪訝そうな表情になっていった。

 

「……どうなってるんだ?」

 

 一行がかなり奥まで探索し大きな広間に出た頃、遂に不可解さが頂点に達し、表情を困惑に歪めて天之河が疑問の声を漏らした。他のメンバーも同じように困惑していたので、天之河の疑問に同調しつつ足を止める。

 

「……何で、これだけ探索しているのに一体も魔物に遭遇しないんだ?」

 

 既に探索は、細かい分かれ道を除けば半分近く済んでしまっている。今までなら散々強力な魔物に襲われてそう簡単には前に進めなかった。ワンフロアを半分ほど探索するのに平均二日はかかるのが常であったのだ。にもかかわらず、天之河達がこの九十層に降りて探索を開始してから、まだ三時間ほどしか経っていないのに、この進み具合。それは単純な理由で、未だ一度もこのフロアの魔物と遭遇していないからである。

 最初は、魔物達が天之河達の様子を物陰から観察でもして機を伺っているのかと疑ったが、彼らの感知系スキルや魔法を用いても一切索敵にかからないのだ。魔物の気配すらないというのは、いくら何でもおかしい。明らかな異常事態である。

 

「………なんつぅか、不気味だな。最初からいなかったのか?」

 

 龍太郎と同じように、メンバーが口々に可能性を話し合うが答えが見つかるはずもない。困惑は深まるばかりだ。

 

「……光輝、一度戻らない?何だか嫌な予感がするわ。メルド団長達なら、こういう事態も何か知っているかもしれないし」

 

 雫が警戒心を強めながら、天之河にそう提案した。天之河も、何となく嫌な予感を感じていたので提案に乗るべきかと考えたが、何らかの障害があったとしてもいずれにしろ打ち破って進まなければならないし、八十九層でも割りかし余裕のあった自分達なら何が来ても大丈夫ではないかと考えて、答えを逡巡する。

 天之河が迷っていると、不意に辺りを観察していたメンバーの何人かが何かを見つけたようで声を上げた。

 

「これ……血……だよな?」

「薄暗いし壁の色と同化してるから分かりづらいけど……あちこち付いているよ」

「おいおい……これ……結構な量なんじゃ……」

 

 表情を青ざめさせるメンバーの中から永山が進み出て、血と思しき液体に指を這わせる。そして、指に付着した血をすり合わせたり、臭いを嗅いだりして詳しく確認した。

 

「天之河……八重樫の提案に従った方がいい。これは魔物の血だ。それもまだ新しい」

「そりゃあ、魔物の血があるってことは、この辺りの魔物は全て殺されたって事だろうし、それだけ強力な魔物がいるって事だろうけど……いずれにしろ倒さなきゃ前に進めないだろ?」

 

 天之河の反論に、永山は首を振る。永山は、龍太郎と並ぶクラスの二大巨漢ではあるが、龍太郎と違って非常に思慮深い性格をしている。その永山が、臨戦態勢になりながら立ち上がると周囲を最大限に警戒しながら、天之河に自分の考えを告げた。

 

「天之河……魔物は、何もこの部屋だけに出るわけではないだろう。今まで通って来た通路や部屋にも出現したはずだ。にもかかわらず、俺達が発見した痕跡はこの部屋が初めて。それはつまり……」

「……『何者かが魔物を襲った痕跡を隠蔽したってこと』………よね?」

 

 あとを継いだ雫の言葉に永山が頷く。天之河もその言葉にハッとした表情になると、永山と同じように険しい表情で警戒レベルを最大に引き上げた。

 

「それだけ知恵の回る魔物がいるという可能性もあるけど……人であると考えたほうが自然ってことか……そして、この部屋だけ痕跡があったのは、隠蔽が間に合わなかったか、あるいは……」

「そうさ、ここがアンタ達の終着点という事さ」

 

 天之河の言葉を引き継ぎ、突如聞いたことのない声が響き渡った。透き通るほどの綺麗な女の声音だ。天之河達は、ギョッとなって、咄嗟に戦闘態勢に入りながら声のする方に視線を向けた。

 コツコツと足音を響かせながら、広い空間の奥の闇からゆらりと現れたのは赤い髪の女。だがその耳は僅かに尖っており、肌は浅黒かった。

 天之河達が驚愕したように目を見開く。女のその特徴は、天之河達のよく知るものだったからだ。実際には見たことはないが、イシュタル達から叩き込まれた座学において、何度も出てきた種族の特徴。聖教教会の掲げる神敵にして、人間族の宿敵──

 

「……魔人族」

 

 誰かの発した呟きに、魔人族の女はその鋭い目を向けながら薄らと冷たい笑みを浮かべたのだった……。

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