それから二週間程が経ち、ハジメは与えられた自室で自身の技能である魔術をできる範囲で練習をしたり、紹介された工房に勉強に行ったり、訓練の休憩時間を利用して王立図書館にて調べ物をしたりしていた。この世界についての情報が欲しかったからだ。そして、ここ二週間でこの図書館にある〝北大陸魔物大図鑑〟というなんの捻りもないタイトル通りの巨大な図鑑や“技能一覧”というタイトルの如何にも重要そうな本やこの世界に召喚したという神のことについて書かれてある、ちょっと人間側に捉え方が偏った文献を読み漁りある程度の知識を身に付けていた。
「今日はこの辺でいいか」
といつもお世話になっている司書のお姉さんにちょっとした感謝の言葉とお菓子を渡して図書館を出た。そしてハジメが訓練場に向かっていると、後ろから気配を感じて直ぐに回避した。すると、後ろから喚く声が聞こえた。
「はぁっ?!」
「何外してんだ大介!」
「ちげーよ!!避けられたんだ!」
「はぁ?!」
後ろを向くと、それは、抜き身の剣を振り落としていた檜山と檜山率いる取り巻き三人組がいた。
「何やってるの檜山くん?」
ハジメが話しかけると四人一斉にハジメを睨む。しかし、余り怖くないのでハジメは首を傾げたりする。
「んだと…南雲てめぇ」
「お前が、あまり訓練に来ないから活を入れてやってるんだよ‼︎」
「そうだそうだ!」
「ありがたく思え‼︎」
「なぁ、大介。こいつさぁ、俺らで稽古つけてやんね?」
「っそうだな!おい南雲〜俺達が訓練付けてやるよ」
どうやら、この四人はたった二週間で強くなってると思っているらしい………
「やっちまえ!」
「ここに焼撃を望む──〝火球〟!」
「ここに風撃を望む──〝風球〟!」
ハジメ達が訓練場に到着した瞬間、後方から檜山の指示で取り巻きの一人である中野が“火球”、齋藤が“風球”を詠唱をして魔法を放った。だがそれをハジメは見ずに避けた。
「「「「なっ!?」」」」
「『ガンド』」
「「「「ぐあっ⁉︎」」」」
まさか避けられるとは思っていなかった檜山達は、右手の人差し指に自室での練習でハジメが一番最初にできたルーン魔術の一つであるガンドをモロに受けた。肩や腰に受けた痛みに身悶えることしかできない檜山達にどう介抱をすべきかハジメが悩んでいるとその時────
「ハジメくん‼︎」
「何をしているんだ!!」
おそらく別々に訓練に来たであろう香織達クラスメイトと天之河がやってきた。香織達はハジメに怪我がないか確認している中、天之河はハジメを睨みながら詰め寄ってきた。
「南雲!檜山達に何をしたんだ?!」
「不意打ちで剣や魔法で攻撃してきたから返り討ちにしただけだけど?」
「でも、これはやり過ぎている!」
「光輝、これは南雲くんの正当防衛だと私は思うんだけど」
「俺もそう思うぜ」
「だが聞けば、訓練のないときは図書館で読書に耽っていたり自室にいたり工房にいたりしているんだろ。俺なら少しでも強くなるために空いている時間も鍛錬にあてている。南雲も、もう少し真面目になった方がいい。檜山達も、南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ?!」
そんな一方のことしか考えていない天之河の発言にどう答えるべきかハジメが悩んでいると、香織達が口を開いた。
「ハジメくんは訓練の合間を縫ってこの世界の情報を図書館で得ているんだよ⁉︎」
「それに南雲くんは錬成師の天職を持っているから、工房に行くのは当然だと思うけど?」
「「「そうだそうだ‼︎」」」
天之河は香織達だけでなく、クラスメイトからのハジメを擁護する言葉に反論をしようとしたが、メルドが訓練場に訪れ衝突しようとなっていたのを防ぐことができた。その後檜山達はメルドの部下である騎士達に医務室に連れて行かれ、天之河はまだ何か言いたそうな雰囲気だったが踵を返し訓練場を去っていった。そしてハジメ達はメルドに事情を聞かれ、訓練は少しの時間しかできなかった。
その後、いつもなら夕食の時間まで自由時間となるのだが、今回はメルドから伝えることがあると引き止められた。何事かと注目する生徒達に、メルドは野太い声で告げる。
「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ!まぁ、要するに気合入れろってことだ!今日はゆっくり休めよ!では、解散!」
メルドの明日の予定を聞いたハジメ達は明日からのことに備えるため、予定を切り上げ各々の部屋で休憩を取ることにした──────