FGOで世界最強   作:紫道麻璃也

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オアシスに潜むもの

 オアシスより現れたそれは、体長十メートル、無数の触手をウネウネとくねらせ、赤く輝く魔石を持っていた。スライム……そう表現するのが一番わかりやすいだろう。

 だが、サイズがおかしい。通常、スライム型の魔物はせいぜい体長一メートルくらいなのだ。また、周囲の水を操るような力もなかったはずで少なくとも触手のように操ることは、自身の肉体以外では出来なかったはずである。

 

「なんだ……この魔物は一体何なんだ?バチェラム……なのか?」

 

 呆然とランズィがそんな事を呟く。バチェラムとは、この世界のスライム型の魔物のことだ。

 

「おそらくこいつがオアシスが汚染された原因でしょう………大方、毒素を出す固有魔法でも持っているのかと」

「……確かに、そう考えるのが妥当か。だが倒せるのか?」

 

 ハジメとランズィが会話している間も、まるで怒り心頭といった感じで触手攻撃をしてくるオアシスバチュラム。ユエは氷結系の魔法で、ティオは火系の魔法で、優花はミュウ達に被害が出ないように対処している。ハジメも、会話しながら核と思しき赤い魔石を目で追っているが、魔石はまるで意思を持っているかのように縦横無尽に体内を動き回り、中々狙いをつけさせない。

 その様子を見て、ランズィが、ハジメの持つアーティファクトやユエ達の魔法に、もう驚いていられるかと投げやり気味にスルーすることを決めて、冷静な態度でハジメに勝算を尋ねた。

 

「ん~……ああ、大丈夫ですね。ついでに汚染されたオアシスも蒸発させておきます……… “憑依、『ガウェイン』」

 

 ハジメが憑依させたのは白銀の甲冑と深緑の外套を身に付けた金髪碧眼の騎士。そしてハジメは腰に帯剣している剣を鞘から抜き取り構えた。

 ハジメが剣に魔力を込めると内部の疑似太陽が運動し、地には魔法陣、刀身には灼熱が纏わりつく。

 

「この剣は太陽の現身。あらゆる不浄を清める焔の陽炎。『 |転輪する勝利の剣 ()()()()()()()()()()()()()()』‼︎」

 

 灼熱が纏わりついた剣をそのまま横に一閃し、灼熱の斬撃をバチェラムに飛ばす。

 だがその斬撃はバチェラムへと当たりはしたが通り過ぎ、攻撃をしてきたハジメに触手を伸ばそうとした時バチェラムがいるオアシスの底から巨大な灼熱の火柱が上がった。

 そしてバチェラムはなす術もなく太陽の灼熱で焼き尽くされ、魔石も消滅し、汚染されたオアシスの水も全て蒸発した。

 

「……終わったのかね?」

「はい、もうオアシスに魔力反応はありません」

 

 憑依を解いたハジメの言葉に、自分達アンカジを存亡の危機に陥れた元凶が、あっさり撃退されたことに、まるで狐につままれたような気分になるランズィ達。それでも、元凶が目の前で消滅したことは確かなのだ。

 

「元凶がいなくなった以上、これ以上汚染することはない。新鮮な水は地下水脈からいくらでも湧き出るのじゃから、そう遠くないうちに元のオアシスを取り戻せよう」

 

 ティオが慰めるようにランズィ達に言うと、彼らも、気を取り直し復興に向けて意欲を見せ始めた。ランズィを中心に一丸となっている姿から、アンカジの住民は、みながこの国を愛しているのだということがよくわかる。過酷な環境にある国だからこそ、愛国心も強いのだろう。

 

「……しかし、あのバチュラムらしき魔物は一体なんだったのか……新種の魔物が地下水脈から流れ込みでもしたのだろうか?」

 

 気を取り直したランズィが首を傾げてオアシスを眺める。それに答えたのはハジメだった。

 

「おそらくですが……魔人族の仕業の可能性もあるかと」

「⁉︎魔人族だと?ハジメ殿、貴殿がそう言うからには思い当たる事があるのだな?」

 

 ハジメの言葉に驚いた表情を見せたランズィは、しかし、すぐさま冷静さを取り戻し、ハジメに続きを促した。水の確保と元凶の排除を成し遂げたハジメに、ランズィは敬意と信頼を寄せているようで、最初の、胡乱な眼差しはもはや微塵もない。

 ハジメは、オアシスバチュラムが、魔人族の神代魔法による新たな魔物だと推測していた。それはオアシスバチュラムの特異性もそうだが、ウルの町で愛子を狙い、オルクスで勇者一行を狙ったという事実があるからだ。

 おそらく、魔人族の魔物の軍備は整いつつあるのだろう。そして、いざ戦争となる前に、危険や不確定要素、北大陸の要所に対する調査と打撃を行っているのだ。愛子という食料供給を一変させかねない存在と、聖教教会が魔人族の魔物に対抗するため異世界から喚んだ勇者を狙ったのがいい証拠だ。

 そして、アンカジは、エリセンから海産系食料供給の中継点であり、果物やその他食料の供給も多大であることから食料関係において間違いなく要所であると言える。しかも、襲撃した場合、大砂漠のど真ん中という地理から、救援も呼びにくい。魔人族が狙うのもおかしな話ではないのだ。

 その辺りのことを、ランズィに話すと、彼は低く唸り声を上げ苦い表情を見せた。

 

「魔物のことは聞き及んでいる。こちらでも独自に調査はしていたが……よもや、あんなものまで使役できるようになっているとは……見通しが甘かったか」

「まぁ、仕方ないのではないでしょうか?王都でも、おそらく新種の魔物なんて情報はまだ掴んでいなそうですし。なにせ、勇者一行が襲われたのも、つい最近です。今頃、あちこちで大騒ぎかと」

「いよいよ、本格的に動き出したということか……ハジメ殿……貴殿は冒険者と名乗っていたが……ビィズから聞いた黒い箱のアーティファクトといい、その強さといい、やはり香織殿と同じ……」

 

 ハジメが、何も答えず肩を竦めると、ランズィは何か事情があるのだろうとそれ以上の詮索を止めた。どんな事情があろうとアンカジがハジメ達に救われたことに変わりはない。恩人に対しては、無用な詮索をするよりやるべき事がある。

 

「……ハジメ殿、ユエ殿、ティオ殿、優花殿。アンカジ公国領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲンは、国を代表して礼を言う。この国は貴殿らに救われた」

 

 そう言うと、ランズィを含め彼らの部下達も深々と頭を下げた。領主たる者が、そう簡単に頭を下げるべきではないのだが、ハジメが〝神の使徒〟の一人であるか否かに関わらず、きっと、ランズィは頭を下げただろう。ほんの少しの付き合いしかないが、それでも彼の愛国心が並々ならぬものであると理解できる。だからこそ、周囲の部下達もランズィが一介の冒険者を名乗るハジメに頭を下げても止めようとせず、一緒に頭を下げているのだ。この辺りは、息子にもしっかり受け継がれているのだろう。仕草も言動もそっくりである。

 そんな彼らに、ハジメはニッコリと満面の笑みを見せる。

 

「気にしないでください。香織の頼みでもありましたし、ミュウを預かってもらう対価とでも思ってください」

「わかった……だが、アンカジには未だ苦しんでいる患者達が大勢いる……それも、頼めるかね?」

「もともと、【グリューエン大火山】に用があって来たのでそちらも問題ありません。ただ、どれくらい採取する必要が?」

 

 あっさり引き受けたハジメにホッと胸を撫で下ろし、ランズィは、現在の患者数と必要な採取量を伝えた。相当な量であったが、ハジメには〝宝物庫〟があるので問題ない。こういうところでも、普通の冒険者では全ての患者を救うことは出来なかっただろうと、ランズィはハジメ達との出会いを神に感謝するのだった。

 医療院では、香織がシアを伴って獅子奮迅の活躍を見せていた。緊急性の高い患者から魔力を一斉に抜き取っては魔晶石にストックし、半径十メートル以内に集めた患者の病の進行を一斉に遅らせ、同時に衰弱を回復させるよう回復魔法も行使する。

 シアは、動けない患者達を、その剛力をもって一気に運んでいた。馬車を走らせるのではなく、馬車に詰めた患者達を馬車ごと持ち上げて、建物の上をピョンピョン飛び跳ねながら他の施設を行ったり来たりしている。緊急性の高い患者は、香織が各施設を移動するより、集めて一気に処置した方が効率的だからだ。

 もっとも、この方法、非力なはずのウサミミ少女の有り得ない光景に、それを見た者は自分も病気にかかって幻覚を見始めたのだと絶望して医療院に駆け込むという姿が多々見られたので、余計に医療院が混乱するという弊害もあったのだが。

 医療院の職員達は、上級魔法を連発したり、複数の回復魔法を当たり前のように同時行使する香織の姿に、驚愕を通り越すと深い尊敬の念を抱いたようで、今や、全員が香織の指示のもと患者達の治療に当たっていた。

 そんな香織を中心とした彼らの元に、ハジメ達がやって来る。そして、共にいたランズィより水の確保と元凶の排除がなされた事が大声で伝えられると、一斉に歓声が上がった。多くの人が亡くなり、砂漠の真ん中で安全な水も確保できず、絶望に包まれていた人達が笑顔を取り戻し始める。

 その知らせは、すぐさま各所に伝えられていき、病に倒れ伏す人々も、もう少し耐えれば助かるはずだと気力を奮い立たせた。

 

「香織、これから【グリューエン大火山】に挑む。どれくらい持ちそう?」

「ハジメくん……」

 

 歓声に包まれる医療院において、なお、治療の手を休めない香織にハジメが歩み寄り尋ねた。

 香織は、ハジメの姿を見て嬉しそうに頬を綻ばせるが、直ぐに真剣な表情となって虚空を見つめた。そして、計算を終えたのか、ハジメを見つめ返して〝二日〟と答えた。それが、魔力的にも患者の体力的にも、持たせられる限界だと判断したのだろう。

 

「ハジメくん。私は、ここに残って患者さん達の治療をするね。静因石をお願い。貴重な鉱物らしいけど……大量に必要だからハジメくんじゃなきゃだめなの。ごめんね……大変な事を……」

「それだけ集めるのなら、どちらにしろ深部まで行かなきゃならないですし、浅い場所で微量ずつ探しても仕方ない……要は、ちょっと急ぎで攻略する必要があるってだけの話で僕が自分で決めたことです……それに、ミュウを人がバッタバッタと倒れて逝く場所に置いて行くわけにも行かないでしょ?」

「ふふ……そうだね、頼りにしてる。ミュウちゃんは私がしっかり見てるから」

 

 香織は、アンカジに来るまでの道中で、ハジメから狂った神の話や旅の目的は聞いており、ハジメが故郷に帰ることを優先しているということも聞いている。そして全てを聞いた上で、香織はそれでもハジメと一緒にいるという意志を曲げなかった。

 今回の事も、もしハジメがアンカジを見捨てる決断をしていたなら、説得くらいはしただろうが、それが功を奏しなければ諦めていただろう。

 だが、出来ることならアンカジの人々の力になりたいと思っていたことは事実で、ハジメが決断するとき、つい懇願するような眼差しを向けてしまった。

 なので、香織は、まるで自分のわがままにハジメを付き合わせたような複雑な気持ちを抱いていた。

 だが、つい謝罪を口にした香織に、ハジメはあっけらかんとした態度で手をヒラヒラと振る。香織の気持ちを見透かしたように、自分で決めたことだから気にするなと。香織は、そんなハジメの自分を気遣う態度に、そして、さりげなく発揮するパパ振りに頬を緩めて、信頼と愛情をたっぷり含めた眼差しを向けた。

 

「私も頑張るから……無事に帰ってきてね。待ってるから……」

「……う、うん」

 

 香織の、愛しげに細められた眼差しと、まるで戦地に夫を送り出す妻のような雰囲気に、思わず、どもるハジメ。

 元から、香織の言動はストレートなところがある。日本にいたときも、天之河の勘違いをばっさり切り捨てたり、ハジメに爆弾を落として教室が嫉妬の嵐に見舞われたり……そういった事は日常と化していた。

 何となく目を逸らしたハジメだったが、逸らした先には……ユエがいた。いつか見た、無機質な眼差しでジーとハジメを見ている。すごく見ている。気まずくなり、反対側に向き直ると、愛おしさたっぷりにふんわりと微笑む香織が……

 そんな香織の雰囲気を見て、我らがアイドル、ミュウが爆弾を落とす。

 

「香織お姉ちゃんはパパとチュウするの~?」

「………ミュウよ、それはどこで覚えたのじゃ?」

「う~?ミュウもパパとチュウしたいの~」

「妾ですらまだなのじゃぞ?ミュウは………もっと大きくなってからじゃな」

「そうね………キスってどれくらいが平均なんだろ?」

「うぅ~」

 

 ハジメは、この事態から避難する為さっさと【グリューエン大火山】へと向かうことにした。事前に話は通してあったが、医療院で忙しい香織だけでなく、ランズィにもミュウの世話を改めて頼んでおく。ハジメ達の関係に苦笑い気味のランズィは、快くミュウの世話を引き受けた。

 あらかじめ言い聞かせてあったものの、ハジメが出発すると雰囲気で察した途端、寂しそうに顔をうつむかせるミュウに、ハジメは膝をついて目線を合わせ、ゆっくり頭を撫でた。

 

「ミュウ、行ってくる。いい子で留守番してるんだよ?」

「うぅ、いい子してるの。だから、早く帰ってきて欲しいの、パパ」

「ああ、出来るだけ早く帰る」

 

 服の裾をギュッと両手で握り締め、泣くのを我慢するミュウと、それを優しく宥めるハジメの姿は、種族など関係なく、誰が見ても親子だった。修羅場により冷えた空気がほんわかと暖かくなる。ハジメはミュウの背中を押し、香織の方へ行かせる。そして、ユエ、シア、優花、ティオに出発の号令をかけた。

 踵を返そうとするハジメに、香織が声をかけた。

 

「あ、ハジメくん……その、いってらっしゃい」

「ミュウの事頼むね」

「うん……それで、その……キス、ダメかな?いってらっしゃいのキス……みたいな」

「……へっ?」

「ほっぺでもいいよ?………ダメ?」

 

 香織が、頬を染めてもじもじしつつも、意外な程強い声音でそんな事をいう。日本にいた時も割かし積極的だった気がするが、更にグイグイと押してくる。

 ハジメの背後で「あっ、じゃあ私も!」と声を上げるウサミミの少女をスルーして、ハジメが、まだ早いと断ろうとすると、まさかの相手に機先を制された。

 

「ミュウも~。ミュウもパパとチュウする!」

 

 無邪気に手を伸ばして来るミュウに、便乗する香織。ハジメが、色々言って躱そうとするが(ミュウには強くは言えない)遂には──

 

「パパは、ミュウが嫌いなの?」

 

──と、涙目でそんな事を言われてはグゥの音も出ない。

 結局、香織とミュウ、そして何故かシアと互いの頬にキスをすることになり、ユエと優花とティオは羨ましそうな視線を向け、多くの患者が倒れている中で、生暖かな視線を受けるという意味のわからない状況になったハジメは逃げるように【グリューエン大火山】へと出発するのだった。

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