FGOで世界最強   作:紫道麻璃也

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グリューエン大火山

 【グリューエン大火山】

 それは、アンカジ公国より北方に進んだ先、約百キロメートルの位置に存在している。見た目は、直径約五キロメートル、標高三千メートル程の巨石だ。普通の成層火山のような円錐状の山ではなく、いわゆる溶岩円頂丘のように平べったい形をしており、山というより巨大な丘と表現するほうが相応しい。ただ、その標高と規模が並外れているだけで。

 この【グリューエン大火山】は、七大迷宮の一つとして周知されているが、【オルクス大迷宮】のように、冒険者が頻繁に訪れるということはない。それは、内部の危険性と厄介さ、そして【オルクス大迷宮】の魔物のように魔石回収のうまみが少ないから……というのもあるが、一番の理由は、まず入口にたどり着ける者が少ないからである。

 その原因が──

 

「……まるで天空の城だな」

「確か竜の巣だったっけ?」

「………竜の巣………竜人族の家?」

「いやあんな所に住んどらんよ」

 

 思わず、日本を代表する名作アニメのワンシーンを思い出し呟いたレオナルド・ダ・ヴィンチを再び憑依させたハジメに優花が応え、ユエはティオ達竜人族の家なのか疑問顔で尋ねティオは冷静に否定した。それに肩を竦めるハジメは、魔力駆動四輪の車内から前方の巨大な渦巻く砂嵐を見つめた。

 そう、【グリューエン大火山】は、かの天空の城を包み込む巨大積乱雲のように、巨大な渦巻く砂嵐に包まれているのだ。その規模は、【グリューエン大火山】をすっぽりと覆って完全に姿を隠すほどで、砂嵐の竜巻というより流動する壁と行ったほうがしっくりくる。

 しかも、この砂嵐の中にはサンドワームや他の魔物も多数潜んでおり、視界すら確保が難しい中で容赦なく奇襲を仕掛けてくるというのだ。並みの実力では、【グリューエン大火山】を包む砂嵐すら突破できないというのも頷ける話である。

 

「つくづく、徒歩でなくて良かったですぅ」

「流石の妾も、生身でここは入りたくないのぉ」

 

 ハジメと同じく窓から巨大砂嵐を眺めるシアとティオも、四輪に感謝感謝と拝んでいる。ハジメは、苦笑いしながら、それじゃあ行くかと四輪を一気に加速させた。今回は、悠長な攻略をしていられない。表層部分では、静因石はそれ程とれないため、手付かずの深部まで行き大量に手に入れなければならない。深部まで行ってしまえば、おそらく今までと同じように外へのショートカットがあるはずだ。それで一気に脱出してアンカジに戻るのだ。

 早く助けられるならその方がいい。そうすれば、少なくとも仲間である香織達は悲しまないし、ミュウに衝撃の強い光景を見せずに済む。

 ハジメは、そんな事を考えながら気合を入れ直し、巨大砂嵐に突撃した。

 砂嵐の内部は、まさしく赤銅一色に塗りつぶされた閉じた世界だった。【ハルツィナ樹海】の霧のように、ほとんど先が見えない。物理的影響力がある分、霧より厄介かもしれない。ここを魔法なり、体を覆う布なりで魔物を警戒しながら突破するのは、確かに至難の業だろう。

 太陽の光もほとんど届かない薄暗い中を、ヘッドライトが切り裂いていく。時速は三十キロメートルくらいだ。事前の情報からすれば五分もあれば突破できるはずである。

と、その時、シアのウサミミが「ピンッ!」と立ち、一拍遅れてハジメも反応した。ハジメは、「掴まれ‼︎」と声を張り上げながら、ハンドルを勢いよく切る。

 直後、三体のサンドワームが直下より大口を開けて飛び出してきた。ハジメは、四輪にS字を描かせながらその奇襲を回避し、構っていられるかとそのまま遁走に入る。四輪の速度なら、いちいち砂嵐の中で戦うよりも、さっさと範囲を抜けてしまった方がよい。

 サンドワーム達を無視して爆走する四輪を、更に左右から二体のサンドワームが襲いかかった。タイミング的に真横からの体当たりを受けそうだ。たかだか体当たりで車体が傷つくことはないが、横転の可能性はある。なので、〝気配感知〟で奇襲を掴んだハジメは、咄嗟に車体をドリフトさせて回避しようとした。が、それをユエとティオが制止する。

 

「……ん、任せて」

「任せるのじゃ、ご主人様」

 

 ハジメは、二人の言葉を聞いて、切りそうになったハンドルをそのままに迷うことなく直進した。直後、大質量のミミズが、赤銅色の世界から飛び出してくる。

 しかし、左右からの挟撃を狙ったサンドワームの襲撃は、四輪に触れることすら叶わなかった。

 

「「〝風刃〟」」

 

 左のサンドワームを一瞥したユエがそう呟くと、車外に作り出された風の刃が瞬時に射出され、宙を舞う砂がその軌跡を描く。そして、眼前まで飛びかかっていたサンドワームを横一文字に切断した。上下に分かれて血肉を撒き散らすサンドワーム。

 その光景は、右側を担当したティオの側でも同じだった。

 

「ふむ、流石ユエじゃ。よい風を放つ」

「……砂嵐の風を利用しない手はない。ティオも流石」

 

 お互いが一瞬で選択した〝風刃〟は風系の攻撃魔法では初級に分類されるものだが、先程放たれた〝風刃〟は中級レベルの威力はあった。それは、外で激しく吹き荒れている風を利用したからである。単に、魔力に物を言わせて強力な魔法を放つだけでなく、その場の状況や環境も利用して最適な魔法を選択する。言っていることは簡単だが、実践するのは難しい。ユエもティオも、流石というべき技量だろう。

 背後から、先程の三体が追随してくる。地中を進む速度は中々のものだ。鬱陶しくなったハジメは、四輪のギミックを起動させる。車体後部から「ガコン!」と音が響いたかと思うと、パカリと一部が開き、そこから黒く丸い物体が複数転がりでた。

 それらは、真後ろから四輪を追跡していたサンドワーム達と交差した瞬間、大爆発を起こした。衝撃で地面が吹き飛び、地中をモコモコと進んでいたサンドワーム達が肉片を撒き散らしながら飛び出す。そこへ追加の黒い物体──手榴弾が更に転がり込み、再び大爆発を起こして、サンドワーム達を半ばから吹き飛ばした。上半身がちぎれ飛び、宙をくるくると舞ったあと、砂嵐の中へと消えていく。

 

「うひゃあー、すごいですぅ。ハジメさん、この四輪って一体いくつの機能が搭載されているんですか?」

 

 派手に飛び散ったサンドワームを後部の窓から眺めながら、シアがハジメに尋ねた。ハジメは、ニヤッと悪戯っぽい可愛い笑みを浮かべる。

 

「最終的に変形して人型汎用兵器──巨大ゴーレムになる」

「……は?」

「………ライセンの時みたいの?」

「ハジメさんが核になったゴーレムみたいのですか?」

「えっ、そんなのになったの?………てっきり残酷な天使の方かと思ったわ………」

 

 そんな馬鹿なと普通は言いたいところだが、前例みたいなのがあるのでユエとシアはキョロキョロと車内を見回し始めた。錬成師でもあるハジメならやりかねないと。ハジメは、「冗談だって。流石に、そんな機能はついてないよ……コレには」と苦笑いする。ハジメなら、いつかやるに違いないと、ユエ達は確信した。

 そんな余裕のハジメ達の前には、その後も、赤銅色の巨大蜘蛛やアリのような魔物が襲いかかってきた。しかし、四輪の武装やユエとティオの攻撃魔法の前に為すすべなく粉砕され、その進撃を止めることは叶わなかった。

 そうして、後部座席で、「私は、役立たずですぅ」と落ち込むシアを優花が慰めつつ、ハジメ達は、数多の冒険者達を阻んできた巨大砂嵐を易々と突破したのだった。

 「ボバッ!」と、そんな音を立てて砂嵐を抜け出たハジメ達の目に、まるでエアーズロックを何倍にも巨大化させたような岩山が飛び込んできた。砂嵐を抜けた先は静かなもので、周囲は砂嵐の壁で囲まれており、直上には青空が見える。竜巻の目にいるようだ。

 【グリューエン大火山】の入口は、頂上にあるとの事だったので、進める所まで四輪で坂道を上がっていく。露出した岩肌は赤黒い色をしており、あちこちから蒸気が噴出していた。活火山であるにも関わらず、一度も噴火したことがないという点も、大迷宮らしい不思議さだ。

 やがて傾斜角的に四輪では厳しくなってきたところで、ハジメ達は四輪を降りて徒歩で山頂を目指すことになった。

 

「うわぅ……あ、あついですぅ」

「ん~……」

「確かに……砂漠の日照りによる暑さとはまた違う暑さだ。……これは、タイムリミットに関係なく、さっさと攻略した方がいいね」

「ふむ、妾は、むしろ適温なのじゃが……」

「……流石は竜人族ね………ハジメ、暑さ対策のアーティファクトとかってある?」

「………サウナくらいの感覚でいいのなら」

 

 外に出た途端、襲い来る熱気に、ティオ以外の全員がうんざりした表情になる。冷房の効いた快適空間にいた弊害で、より暑く感じてしまうというのもあるだろう。異世界の冒険者、あるいは旅人だというのに、現代日本の引きこもりのような苦悩を味わっているのは……自業自得だ。

 時間がないので、暑い暑いと文句を言いながらも素早く山頂を目指し、岩場をひょいひょいと重さを感じさせず、どんどん登っていく。結局ハジメ達は、一時間もかからずに山頂にたどり着いた。

 たどり着いた頂上は、無造作に乱立した大小様々な岩石で埋め尽くされた煩雑な場所だった。尖った岩肌や逆につるりとした光沢のある表面の岩もあり、奇怪なオブジェの展示場のような有様だ。砂嵐の頂上がとても近くに感じる。

 そんな奇怪な形の岩石群の中でも群を抜いて大きな岩石があった。歪にアーチを形作る全長十メートルほどの岩石である。

 ハジメ達は、その場所にたどり着くと、アーチ状の岩石の下に【グリューエン大火山】内部へと続く大きな階段を発見した。ハジメは、階段の手前で立ち止まると肩越しに背後に控えるユエ、シア、優花、ティオの顔を順番に見やり、自信に満ちた表情で一言、大迷宮挑戦の号令をかけた。

 

「やるぞ!」

「んっ!」

「はいです!」

「えぇっ!」

「うむっ!」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 【グリューエン大火山】の内部は、【オルクス大迷宮】や【ライセン大迷宮】以上に、とんでもない場所だった。

 難易度の話ではなく、内部の構造が、だ。

 まず、マグマが宙を流れている。亜人族の国フェアベルゲンのように空中に水路を作って水を流しているのではなく、マグマが宙に浮いて、そのまま川のような流れを作っているのだ。空中をうねりながら真っ赤に赤熱化したマグマが流れていく様は、まるで巨大な龍が飛び交っているようだ。

 また、当然、通路や広間のいたるところにマグマが流れており、迷宮に挑む者は地面のマグマと、頭上のマグマの両方に注意する必要があった。

しかも──

 

「うきゃ!」

「おっと、大丈夫?」

「はう、ありがとうございます、ハジメさん。いきなりマグマが噴き出してくるなんて……察知できませんでした」

 

 と、シアが言うように、壁のいたるところから唐突にマグマが噴き出してくるのである。本当に突然な上に、事前の兆候もないので察知が難しい。まさに天然のブービートラップだった。ハジメが〝熱源感知〟を持っていたのは幸いだ。それが無ければ、警戒のため慎重に進まざるを得ず攻略スピードが相当落ちているところだった。

 そして、なにより厳しいのが、茹だるような暑さ──もとい熱さだ。通路や広間のいたるところにマグマが流れているのだから当たり前ではあるのだが、まるでサウナの中にでもいるような、あるいは熱したフライパンの上にでもいるような気分である。【グリューエン大火山】の最大限に厄介な要素だった。

 ハジメ達が、ダラダラと汗をかきながら、天井付近を流れるマグマから滴り落ちてくる雫や噴き出すマグマをかわしつつ進んでいると、とある広間で、あちこち人為的に削られている場所を発見した。ツルハシか何かで砕きでもしたのかボロボロと削れているのだが、その壁の一部から薄い桃色の小さな鉱石が覗いている。

 

「静因石……だよね?あれ」

「うむ、間違いないぞ、ご主人様よ」

 

 ハジメの確認するような言葉に、知識深いティオが同意する。どうやら、砂嵐を突破して【グリューエン大火山】に入れる冒険者の発掘場所のようだ。

 

「……小さい」

「他の場所も小石サイズばっかりですね……」

 

 ユエの言う通り、残されている静因石は、ほとんどが小指の先以下のものばかりだった。ほとんど採られ尽くしたというのもあるのだろうが、サイズそのものも小さい。やはり表層部分では、静因石回収の効率が悪すぎるようで、一気に、大量に手に入れるには深部に行く必要があるようだ。

 ハジメは、一応、〝鉱物系探査〟で静因石の有無を調べ、簡単に採取できるものだけ、〝宝物庫〟に収納すると、ユエ達を促して先を急いだ。

 暑さに辟易しながら、七階層ほど下に降りる。記録に残っている冒険者達が降りた最高階層だ。そこから先に進んだ者で生きて戻った者はいない。気を引き締めつつ、八階層へ続く階段を降りきった──その瞬間、強烈な熱風に煽られたかと思うと、突如、ハジメ達の眼前に巨大な火炎が襲いかかった。オレンジ色の壁が螺旋を描きながら突き進んでくる。

 

「〝絶禍〟」

 

 そんな火炎に対し、発動されたのはユエの魔法。ハジメ達の眼前に黒く渦巻く球体が出現する。重力魔法だ。ただし、それは対象を地面に押しつぶす為のものではなかった。

 人など簡単に消し炭に出来そうな死の炎は、直径六十センチほどの黒く渦巻く球体に引き寄せられて余すことなく消えていく。余波すら呑み込むそれは、正確には消滅しているのではない。黒く渦巻く球体──重力魔法〝絶禍〟は、それ自体が重力を発生させるもので、あらゆるものを引き寄せ、内部に呑み込む盾なのだ。

 火炎の砲撃が全てユエの超重力の渦に呑み込まれると、その射線上に襲撃者の正体が見えた。

 雄牛だ。全身にマグマを纏い、立っている場所はマグマの中。鋭い二本の曲線を描く角を生やしており、口から呼吸の度に炎を吐き出している。耐熱性があるにも程があると、思わずツッコミを入れたくなる魔物だった。

 雄牛──マグマ牛は、自身の固有魔法であろう火炎砲撃をあっさり無効化されたことに腹を立てたのか、足元のマグマを足踏みで飛び散らせながら、突進の構えを取っている。

 そんなマグマ牛に向かって、ユエの展開していた超重力の渦が、突如、マグマ牛に向かって弾けとんだ。その瞬間、圧縮されていた火炎は砲撃となって一直線にマグマ牛へと疾走する。レーザーのごとき砲撃はそれを放ったマグマ牛のものより圧縮された分威力がある。

 今まさに、突進しようとしていたマグマ牛は出鼻をくじかれ、ユエにより、文字通りお返しとばかりに放たれた砲撃の直撃を受けた。

 爆音と共に空間が激しく振動し、マグマ牛の立っていたマグマが爆撃されたように吹き飛んだ。マグマ牛は、衝撃により後方へ吹き飛ばされ、もんどり打って壁に叩きつけられる。悲鳴とも怒りの咆哮ともつかない叫びを上げるが、すぐさま起き上がり、今度こそ侵入者を排除せんと猛烈な勢いで突進を開始した。

 

「むぅ……やっぱり、炎系は効かないみたい」

「まぁ、マグマを纏っている時点でなぁ……仕方ないだろ」

 

 火炎の砲撃を返したユエが不満そうな声を上げる。それに苦笑いしながらどうしようかと悩んでいるハジメにシアが声を掛けた。

 

「ハジメさん、私にやらせて下さい‼︎」

「………いいよ!」

 

 シアは、「よっしゃーですぅ!殺ったるですぅ‼︎」と鼻息を荒くして気合の声を上げると、軽くステップを踏み、既に数メートルの位置まで接近していたマグマ牛に向かって飛びかかった。

 体を空中で一回転させ遠心力をたっぷり乗せると、正面から突っ込んできたマグマ牛に絶妙なタイミングでドリュッケンを振り下ろす。狙い違わず、振り下ろされたドリュッケンは、吸い込まれるようにマグマ牛の頭部に直撃した。と、その瞬間、直撃した部分を中心にして淡青色の魔力の波紋が広がり、次いで、凄まじい衝撃が発生。マグマ牛の頭部がまるで爆破でもされたかのように弾けとんだ。

 シアは、打ち付けたドリュッケンを支点にして空中で再び一回転すると、そのまま慣性にしたがって崩れ落ちながら地を滑るマグマ牛を飛び越えて華麗に着地を決めた。

 

「お、おうぅ。ハジメさん、やった本人である私が引くくらいすごい威力ですよ………」

「うん…………余程のことがなければ封印しておいた方が良いかも」

 

 マグマ牛の爆ぜた頭部を恐る恐る見つめるハジメだったが、ユエに促され、先を急いだ。

 その後、階層を下げる毎に魔物のバリエーションは増えていった。マグマを翼から撒き散らすコウモリ型の魔物や壁を溶かして飛び出てくる赤熱化したウツボモドキ、炎の針を無数に飛ばしてくるハリネズミ型の魔物、マグマの中から顔だけ出し、マグマを纏った舌をムチのように振るうカメレオン型の魔物、頭上の重力を無視したマグマの川を泳ぐ、やはり赤熱化した蛇など……

 生半可な魔法では纏うマグマか赤熱化した肉体で無効化してしまう上に、そこかしこに流れるマグマを隠れ蓑に奇襲を仕掛けてくる魔物は厄介なこと極まりなかった。なにせ、魔物の方は、体当りするだけでも人相手なら致命傷を負わせることが出来る上に、周囲のマグマを利用した攻撃も多く、武器は無限大と言っていい状況。更に、いざとなればマグマに逃げ込んでしまえば、それだけで安全を確保出来てしまうのだ。

 例え、砂嵐を突破できるだけの力をもった冒険者でも、魔物が出る八階層以降に降りて戻れなかったというのも頷ける。しかも、それらの魔物は、倒しても魔石の大きさや質自体は【オルクス大迷宮】の四十層レベルの魔物のそれと対して変わりがなく、貴重な鉱物である静因石も表層のものとほとんど変わらないとあっては、挑戦しようという者がいないのも頷ける話だ。

 そして、なにより厄介なのは、刻一刻と増していく暑さだ。

 

「はぁはぁ……暑いですぅ」

「確かに………暑いわね………」

「……シア、優花、暑いと思うから暑い。流れているのは唯の水……ほら、涼しい、ふふ………あはは………」

「むっ、ご主人様よ!ユエが壊れかけておるのじゃ!しかも目が虚ろになっておるぞ⁉︎」

 

 暑さに強いティオ以外、ハジメのアーティファクトでサウナ感覚でいた優花を含むハジメ達ですらダウン状態だ。一応、冷房型アーティファクトで冷気を生み出しているのだが……焼け石に水状態。止めどなく滝のように汗が流れ、意識も朦朧とし始めているユエとシアを見て、ハジメも顎先に滴る汗を拭うと、少し休憩が必要だと考えた。

 ハジメは、広間に出ると、マグマから比較的に離れている壁に〝錬成〟を行い横穴を空けた。そこへユエ達を招き入れると、マグマの熱気が直接届かないよう入口を最小限まで閉じた。更に、部屋の壁を〝鉱物分離〟と〝圧縮錬成〟を使って表面だけ硬い金属でコーティングし、襲われないよう安全を確保する。

 

「ふぅ……ユエ、氷塊を出してくれ。しばらく、休憩しよう。でないと、その内致命的なミスを犯しそうだ」

「ん……了解」

 

 ユエは、虚ろな目をしながらも、しっかり氷系の魔法を発動させ部屋の中央に巨大な氷塊を出現させた。気を効かせたティオが、氷塊を中心にして放射するように風を吹かせる。氷塊が発する冷気がティオの風に乗って部屋の空気を一気に冷やしていった。

 

「はぁ〜、天然ク〜ラ〜」

「涼しいですぅ~、生き返りますぅ~」

「……ふみゅ~」

 

 女の子座りで崩れ落ちたユエとシアと優花が、目を細めてふにゃりとする。タレユエとタレシアとタレユウカの誕生だ。

 ハジメは、内心そんな二人に萌えながら〝宝物庫〟からタオルと水袋を取り出すと全員に配った。

 

「ユエ、シア、優花、だれるのはいいけど、汗くらいは拭いておいてよ。冷えすぎると動きが鈍るし風邪引くよ」

「……ん~」

「了解ですぅ~」

「………そうね」

 

 間延びした声で、のろのろとタオルを広げるユエとシアとは違いテキパキとタオルで汗を拭く優花、おそらく何度か経験をしたことがあるのか見たことがあるのかもしれない。そんな三人を横目に、ティオがハジメに話かける。

 

「ご主人様は、まだ余裕そうじゃの?」

「ティオほどじゃないよ。流石に、この暑さはヤバイ。もっといい冷房系のアーティファクトを揃えておくんだった……」

「ふむ、ご主人様でも参る程ということは……おそらく、それがこの大迷宮のコンセプトなのじゃろうな」

 

 参るほどではないとは言え、暑いものは暑いので同じく汗をかいているティオがタオルで汗を拭いながら言った言葉に、ハジメが首をかしげる。

 

「コンセプト?」

「うむ。ご主人様から色々話を聞いて思ったのじゃが、大迷宮は試練なんじゃろ?神に挑むための……なら、それぞれに何らかのコンセプトでもあるのかと思ったのじゃよ。例えば、ご主人様が話してくれた【オルクス大迷宮】は、数多の魔物とのバリエーション豊かな戦闘を経て経験を積むこと。【ライセン大迷宮】は、魔法という強力な力を抜きに、あらゆる攻撃への対応力を磨くこと。この【グリューエン大火山】は、暑さによる集中力の阻害と、その状況下での奇襲への対応といったところではないかのぉ?」

「……なるほど……攻略することに変わりはないから特に考えたことなかった……試練そのものが解放者達の〝教え〟になっているってことか」

 

 ティオの考察に、「なるほど」と頷くハジメ。知識深く、思慮深くもある竜人族のティオに、肉感的で匂い立つような色気がある上に理知的でもある黒髪美女……と眼差しを向ける。

 しかし、ティオの首筋から流れた汗が滴り落ちて、その豊満な胸の谷間に消えていくのを目にすると、何となく顔を逸らした。そして、その視線の先に、同じように汗で服が張り付いて、濡れた素肌が見え隠れしているユエとシアと優花がいることに気がつき、今度は、ユエ達に視線が不本意に吸い寄せられる。

 汗を拭くためか、大きく着崩された純白のドレスシャツから覗く素肌は、暑さのため上気しておりほんのり赤みを帯びている。汗で光る素肌はなんとも艶かしく、ユエの吐く普段より熱く荒い吐息と相まって物凄い色気を放っていた。

 視線の逃げ場が無いハジメは咄嗟に目を瞑ったが、目を瞑る一瞬前に、ユエが妖艶な微笑みを浮かべハジメの視線を捉える。そして、服を着崩したまま、まるで、猫のように背をしならせて、ゆっくり四つん這いでハジメに近付いて行った。ハジメを捉えたまま離さない潤んだ瞳と、熱で上気した頬、そして動くたびにチラチラと覗く胸元の膨らみ……

 ハジメの、すぐ眼前まで四つん這いでやって来たユエは、胡座をかいて座る。急な重みに驚いたハジメはおそるおそる瞼を開けると下から上目遣いで見つめるユエがいた。そして、甘えるような誘うような甘い声音で……

 

「……ハジメが綺麗にして?」

 

 そんな事を言った。ハジメは手渡されたタオルを観念して受け取る。ハジメは、内心で「この状態のユエには勝てる気がしない」と苦笑いしつつ、そっと、ユエの首筋にタオルを這わせようとして……シアと優花からの抗議の声にその手を止めた。

 

「ハ・ジ・メ・さ・ん!少しはTPOを弁えて下さい!先を急いでいる上に、ここは大迷宮なんですよ⁉︎もうっ!ほんとにもうっ‼︎」

「TPO知ってるんだ………まぁシアさんの言う通りよ」

「いや、まぁ………しょうがないでしょ?風邪引かれたら困るし………風邪って回復魔法とかで治るっけ?」

「……ごめん、目瞑ってるハジメが可愛くて」

「反省って言葉知ってます?大体、どうしてハジメさんは私を見ないんですか?すぐ隣で私もきわどい格好していたのに……ぐすっ、自信なくしますよぉ~。ねぇ、ティオさんもそう思いますよね?」

「まぁ、仕方ないのではないか?ちなみにご主人様は、妾の胸に少し反応しておったぞ。今回は、それで満足しておくのじゃ。くふふ」

「シアさんはスポーティ………軽快で活動的な感じの雰囲気だから違うジャンルで攻めたら良いと思うわよ」

「っ‼︎なるほどですぅ!」

 

 最初に、ティオの胸元を流れる汗に、ハジメがセクシーさを感じたことがバッチリばれていたらしい。それを聞いたシアが、「私は一瞥もされなかったのに!」と怒り出し、先程のTPOを弁えろと言ったことも忘れて、ハジメの前で脱ぎだした。だが優花が咄嗟に止め諭すことにより何とか事態は終息していった。

 ユエの汗を拭いつつ、ここに香織がいなくてよかったと内心ホッと息を吐くのだった………

 

 

 

 

「しかし………やはり暑いのぉ」

「まぁ、これこそが試練ってカンジがするかなぁ」

「「うんうん」」

「………おぬしら何故妙に嬉しそうなのじゃ………?頭大丈夫かの?」

「ははは………だって────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「どっかの迷宮に比べたら………人の悪意が介入してない試練って………素晴らしい‼︎」」」

(………妾(私)と会う(合流)する前に一体何が………)

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