【オルクス大迷宮】
それは、全百階層からなると言われている大迷宮である。七大迷宮の一つで、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現するにもかかわらず、この迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気がある。それは、階層により魔物の強さを測りやすいからということと、出現する魔物が地上の魔物に比べ遥かに良質の魔石を体内に抱えているからだ。
魔石とは、魔物を魔物たらしめる力の核をいう。強力な魔物ほど良質で大きな核を備えており、この魔石は魔法陣を作成する際の原料となる。魔法陣はただ描くだけでも発動するが、魔石を粉末にし、刻み込むなり染料として使うなりした場合と比較すると、その効果は三分の一程度にまで減退する。要するに魔石を使う方が魔力の通りがよく効率的ということだ。その他にも、日常生活用の魔法具などには魔石が原動力として使われる。魔石は軍関係だけでなく、日常生活にも必要な大変需要の高い品なのである。
ちなみに、良質な魔石を持つ魔物ほど強力な固有魔法を使う。固有魔法とは、詠唱や魔法陣を使えないため魔力はあっても多彩な魔法を使えない魔物が使う唯一の魔法である。一種類しか使えない代わりに詠唱も魔法陣もなしに放つことができる。魔物が油断ならない最大の理由だった。
そしてハジメ達は、メルド率いる騎士団員複数名と共に数日を掛け、【オルクス大迷宮】へ挑戦する冒険者達のための宿場町【ホルアド】に到着した。新兵訓練によく利用するようで王国直営の宿屋があり、そこに泊まることになった。
「ここは王国直営の宿屋だ。今日はここに泊まり、明日迷宮に入る。しっかり休んでおけよ」
「………なるほど、この技能はやっぱりコレだったか」
ハジメが宿の部屋に入ってステータスプレートを見ていると、憑依の技能が変化をしていた。
憑依[+英霊]
何となく◼️◼️の内容を予想はしていたハジメはそれを直ぐに受け入れてメルドに報告し、夕食の時間まで周りに迷惑を掛けない範囲で魔術や憑依の練習を行っていった。
そして夕食後明日の予定が伝えられ、大迷宮での訓練に影響が及ばない様に再び練習を行おうとしていると扉の外から声が聞こえた。
「ハジメくん、起きてる?香織です。ちょっと、いいかな?」
「香織さん?ちょっと待ってて、汗かいてるから」
そして、身支度を整えて扉を開けるとそこには純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけの香織が立っていた。
「………外は寒いから入って」
「うん、ありがとう///」
香織が部屋に入り備え付けの椅子に座ると、ハジメは慣れた手付きで部屋に置かれていた紅茶を出した。
「みんなの部屋にもある物だけど、どうぞ」
「ありがとう………おいしい」
「それはよかった………こんな時間にどうしたの?」
「あのね、なんだか凄く嫌な予感がするの。さっき少し眠ったんだけど……夢をみて……南雲くんが居たんだけど……声を掛けても全然気がついてくれなくて……走っても全然追いつけなくて……それで最後は…消えてしまうの……」
そう言いながら香織は悲しそうな表情をする。香織の発言に少し恐怖感を感じたが気を取り直して、ハジメは香織に真剣な表情を向け、右手を胸に当てながら告げる。
「心配はいらないよ香織、もし何かトラブルがあって消えてしまっても、必ず君の下へ戻ってくるよ」
「………本当?」
「あぁっ」
そう言い切った後ハジメは香織を抱きしめて安心させたのだった───
(くそくそくそ!!!)
ハジメが香織と話しているのを扉越しから聞いていた人物がいた。
彼は夜中に用を足しに行き、その帰りに途中の部屋から話し声が聞こえたので気になり聞いていたのだ。
そこではハジメが香織ととても親し気に話しておりその姿に彼は途轍もない屈辱を感じていた。
地球でも目立つ容姿に、学年トップクラスの成績で運動神経も良く、しかも異世界に来ればハジメはステータスは高いが無能の天職を持ち、自分は人類の切り札である神の使徒の一人だったことから、自分の見立ては間違っていなかったと思った。
だがその思惑は外れ彼や取り巻き達はあっさりと組み伏せられて叩きのめされた。
自分のほうが優れているという妄想に取りつかれた彼は、ハジメへの嫉妬と増悪が収まることなくそのまま宿屋の自室へと戻っていき、その思いを燻らせていた………