Side大輔
朝日が差し込んで目が覚めた。まだ眠い、昨日は遅くまでデッキ組んでいたからな。
寝返りをしようとすると柔らかい何かにぶつかった。眠い目を開ければ、三玖が俺の隣ですやすや寝息を立てている。
またか。これは今回が初めてではない。三玖とこの家に暮らし始めて半月近く、最初の内は三玖も自分に宛がわれた部屋で寝ていた。最初は単に寝ぼけて入っただけかと思いきや、あいつ自分の意思で俺の部屋に入って俺の隣で寝てやがる。
そりゃ嬉しいですよ、こんな美人と一緒にベット共にするのは。もちろんR-18はない。
思い切って理由を聞いてみれば、
「守ってくれるなら隣で一緒に寝るべき。うん、私は間違ってない」
と言われて押し切られる始末。甘いのかね俺も。近い内に最初から同じベットでお早うからお休みまで一緒だよ。
出来るならきちんとした関係で成人するまでは清い男女仲でいたいんだけど、このままじゃいつ一線越えてもおかしくない。
かと言ってこんな幸せそうに眠り三玖を追い出したくもないし……。えぇい考えるのはやめだやめ!もっかい寝る………………やっぱ眠れねぇ。
結局三玖が起きるまで悶々と過ごす羽目になった。
現在この家でパンは買ってきていない。基本は米食だからな。他に理由があるとすれば、パンを買う必要がなかった。だって、
「はい焼き上がったよ」
三玖が焼きたてのパンが入ったバスケットを持ってきてくれた。
記憶を失っているが以前出来たことが出来ないわけじゃない。三玖はちゃんとパンを自力で作るだけのスキルを身につけていた。
昨晩の内に仕込みまで終わらせておけばあとは焼くだけで済む。三玖がパンの用意をしている間に俺はコーヒーや牛乳、簡単に目玉焼きとサラダの準備をする。
焼きたてのパンはまだ温かく、小麦とバターの香りが鼻腔をくすぐる。今まで食っていた食パンやバターロールが霞んで見える。こんな贅沢な朝飯前世じゃ考えられないな。しかもジャムなしでも十分旨い。ちなみに俺はイチゴジャムは好きではない。
「ところで今日は出かけるんだよね?」
「おう、バトルアリーナの方でイベントやるらしいから行ってみようと思ってな。大会の優勝景品がシティ飲食店共通のペアお食事券だそうだ」
「絶対行く!ダイスケ、頑張って優勝して」
俺頼みかっ!まぁ三玖も実力をつけてきたとはいえまだ初心者。大会ともなれば強いデュエリストはわんさかいるだろうしな。
朝飯も食べ終え、一路イベント会場である『バトル・アリーナドーム』まで足を運ぶ。すでに人が集まり、路上やデュエルスペースでデュエルが始まっている。
屋台は食べ物はもちろんのこと、デュエルをより楽しむためのスリーブやマット、デッキケースなども売られている。
少し売店を覗くと、数種類から選んだカードに自分たちの写真を印刷したプレミアムカードを作ってくれる店があった。
せっかくなので三玖と一緒にカードを選ぶ。俺は『ゴースト・タッチ』三玖は『ディープ・オペレーション』、そしてせっかくなので二人のツーショットで『ダーク・ライフ』を作って貰った。ダークライフは昨日作ったデッキに入れているからこっちのヤツに差し替えよう。
ドーム内の会場で早速エントリーを行い、選手達が集まる広場に向かう。
「頑張ってね!」
「おうっ!食事券は絶対取るぞ」
三玖にも激励を貰って意気揚々とステージに上がる。
『ようこそ皆様!私大会MCをつとめますカスミです!これより勝ち抜きバトルロイヤルを始めます。ルールは簡単制限時間内に一番多く勝利した人が優勝!たとえ負けても何度でも再チャレンジ出来るのみな様頑張ってください』
簡単そうに見えて結構難しいな。連戦すれば周りにデッキの内容を知られる。手の内を隠しつつ勝ちを拾っていくしかないな。
『それでは、デュエルスタート!』
開始合図と共に俺にデュエルを仕掛けてくるヤツが出てくる。まずは1勝するぞっ!
Side三玖
アリーナの応援席で私は先ほど買ったジュースを飲みながらダイスケを応援している。
この世界にも抹茶ソーダがあったのは嬉しかった。同系統に抹茶コーラという飲み物もあったから次はそれにしよう。
「すいません、お隣よろしいですか?」
私に声をかけてきたのは綺麗な女の人だ。長い金髪の髪に帽子をかぶり、白いドレスのような服。それに――――明らかに私より大きいそれ。
「えっと………」
困った顔を見てハッとなったので「どうぞ」と言って座って貰った。
「誰かの応援ですか?」
「はい、あそこでデュエルしている人の」
ダイスケの方を指さすと、先ほど始まったばかりなのにもう勝ってしまった。
「すごいですね。速攻デッキ………でも使っている文明はマナゾーンやクリーチャーを見る限り闇主体に自然のブーストと火の火力のトリコロールかしら?」
用語とかの意味はよくわからないけどダイスケのフィールドを見ながらその上でデッキの構成まで把握している。作っているときにコンセプトとか聞いていたから間違えない。
「それに彼のデッキ……まだまだ本気を出していませんね。連戦を予想しての温存、それとも強敵に備えての―――――」
素人の私にも判る。この女の人、とっても強いデュエリストだ。
Side大輔
よっしこれで8勝目。制限時間もあるしここらが潮時だろう。
『時間です、デュエルを中断してください!途中のデュエルはシールドの残数で勝敗を判断させて貰います』
係員の人が集計に入り電子ボードに集計された連勝数が表示された。そのトップにいるのは俺―――――の他にもう一人いた!?
『勝率同着の方が2名います。ルールにより両選手がデュエルをして勝った方を優勝者とします』
まさか俺以外に同率で勝つヤツがいるなんて。一体どんなヤツだ?
負けた選手達が降りてゆき、俺とその人が残った。
ボロボロのマントを身に纏っているが、そこから発せられる覇気は異常なほどに強い。立っているだけで肌がビリビリする。
ボードに表示されている名前をもう一度確認する。
『
そうか相手は『切札勝舞』っていうのか。
切札勝舞………切札勝舞っ!?
「勝舞って………」
「まさか、あの切札勝舞なのか!?」
マントを脱ぎ去ったその人物は、俺の知っている姿よりもいくらか成長しているが間違えなかった。
「お前が俺の相手か。お前は俺を、楽しませてくれるのか?」
かつてガルドのザキラや初代デュエルマスター・アダムをはじめとする強敵達を打ち倒して、その名前は既に伝説になっているレジェンドデュエリスト―――――俺の憧れの兄貴『切札勝舞』がそこにいた。
だが、なんだこの違和感は?あの人は熱血馬鹿を絵に表したような人なのに、闘志はあるのになんというか、冷たさと寂しさを感じる。
「すげぇーぞ!」
「あの切札勝舞のデュエルが見られるなんて!」
「ボルメテウス召喚して!」
「いやいや、それよりもボルシャックやエターナル・フェニックス出してほしいっ」
やっぱり知名度はダンチだ。そりゃこの規模の大会で知名度の高いレジェンドデュエリストが出ているとすれば当然か。
「あなたは………あなたは俺にとって憧れでも有り、そしていつまでもデュエルに情熱を燃やしている大先輩だ。俺、この世界に来て本当によかった。――――勝負だ、伝説のデュエリストっ!たった今から俺は伝説に挑む挑戦者だ!」
No Side
先攻・切札勝舞『火・自然のドラゴンと不死鳥』
VS
後攻・霧布田大輔『闇・自然・火の不死軍団』
ついに勃発した伝説のデュエリストとのデュエル。
序盤はお互いに様子見なのか、ひたすらにマナゾーンにカードを蓄えていく。特に大輔は通常のチャージに加えて『ダーク・ライフ』や『ボーンおどり・チャージャー』などといったカードで同時に墓地も肥やしていく。
一方の勝舞も3マナが貯まったことでコッコ・ルピアを召喚してドラゴンを召喚する準備をする。
「墓地にカードを置くと言うことはあのデッキは本来は墓地利用のデッキですね」
「墓地利用?」
「墓地利用とは墓地にカードを貯め込み、呪文やクリーチャーの効果などで墓地のカードを再利用するやり方です。中には墓地にカードがあることで効果を発揮するカードもあり、効果によっては墓地からフィールドに直接蘇生できるカードもあります」
観客席では三玖の疑問に隣のお姉さんが答えていた。
「でもダイスケは負けない」
「勝負の行く末は誰にも判りません。勝利の女神はどちらに頬笑むのでしょうか?」
熱気渦巻く観客の中でついに大輔の4ターン目にして動く。
「俺のターン。俺はマナをチャージして手札から『凶星王ダーク・ヒドラ』を召喚!ターンエンド」
大輔
手札4
シールド5
マナ6(闇・自然・火)
墓地4(クリーチャー3、呪文1)
フィールド1(ダーク・ヒドラ)
「ダーク・ヒドラか。昔そいつにはずいぶんと痛い目に遭ったのを今でも覚えているぜ」
「ザキラと初めてデュエルしたあのときですか?」
「あぁ。俺はあのとき完全に手を抜かれていた。それでもなお勝てなかった。そんな過去も、俺は乗り越えてきた。俺のターンドロー!チャージをして『ボルシャック・バディ・ドラゴン』をコストを軽減して2マナで召喚。登場時能力でデッキから
勝舞
手札2
シールド5
マナ6(火・自然)
フィールド3(コッコ・ルピア、バルガゲイザー、
5ターン目のわずか一手でドラゴンを場に2体も揃えた。
「(バルガゲイザー。攻撃するときにデッキトップをめくってそれがドラゴンならタダ出し出来る厄介なカードだ。勝舞さんのデッキはマナ加速とF・Bの支援によるドラゴンデッキ。これだけなら良いが、仮にあの手のカードが入っていおるなら状況は圧倒的に不利。ならここは、守りを固める!)俺のターン、マナをチャージして『カース・ペンダント』を召喚、ダーク・ヒドラの効果で召喚したクリーチャーと同じ種族のクリーチャーを墓地から回収。『ブラッディ・イヤリング』を召喚。これでターンエンド!」
大輔
手札3
シールド5
マナ7(闇・自然・火)
フィールド3(ダーク・ヒドラ、カース・ペンダント、ブラッディ・イヤリング)
パワー4000のブラッディ・イヤリングに加えて確実に相手と相打ちできる『スレイヤー』能力を持ったブロッカー『カース・ペンダント』次のターンに新しいドラゴンが出てきてもこれで迎撃できる。
「それだけか?俺が闘ってきたデュエリストはこんなもんじゃないぞっ!俺のターン、ドロー!ここで一気に攻めさせて貰う。マナをチャージ、クック・ポロンを召喚。そして、BBDとクック・ポロンで
二体のクリーチャーが一つとなり、今、太陽の名を冠する五大王の不死鳥が降臨した。
「降臨『太陽王ソウル・フェニックス』!!」
「やっぱり入れていたか、最強の不死鳥の一体をっ!(『エターナル』よりはましだが、それを差し引いても十分脅威だ)」
ソウル・フェニックスが場に出たことで会場から大歓声が飛び交った。
「進化V?」
「ご存じなくて?」
「すいません、私まだ初心者で…」
「構いませんよ。進化V、二体のクリーチャーを素材にして進化する進化クリーチャーの上位種。力はもちろん能力も強力です」
「ダイスケ……」
「ソウル・フェニックスは俺の全てのクリーチャーに
「(くっ、シールド焼却*1持ちのボルメテウスか。さすがに引きが良い)カース・ペンダントでバルガゲイザーをブロック!スレイヤーの能力で相打ち!」
「
「ブラッディ・イヤリングでブロック!」
これで守りが完全に崩されてしまった。
「ソウル・フェニックスで攻撃。WBだ」
大輔・シールド5→3
「シールドWチェック。
勝舞・マナ7→8
「ソウル・フェニックス効果発動。フィールドから離れたときに進化元となったクリーチャーを場に残せる。BBDとクック・ポロン復活。ソウル・フェニックスの効果で進化素材となったクリーチャーの登場時能力は使えない。コッコ・ルピアで追撃」
大輔・シールド3→2 手札4→5
「チェック………何も無し」
「俺はこれでターンエンド。次に防ぎきれないと俺の勝ちだ」
勝舞
手札1
シールド5
マナ8(火・自然)
フィールド3(コッコ・ルピア、クック・ポロン、BBD)
「まだまだ、ドロー!チャージしてこれで8マナ、呪文『クリムゾン・チャージャー』でクック・ポロンを破壊、チャージャー能力で使用可能マナはまだ5、呪文『プラント・トラップ』でアンタップ状態のBBDをマナ送り、ダーク・ヒドラでルピアを攻撃!」
勝舞・フィールド3→0 マナ8→9
「ターンエンド」
大輔
手札3
シールド2
マナ9(闇・自然・火)
フィールド1(ダーク・ヒドラ)
墓地7(クリーチャー3、呪文4)
「1ターンは凌ぎきった……とでも思ったのか?まだだ。俺のターン。9マナを使い『無双龍騎ドルザーク』と『トット・ピピッチ』を召喚、トット・ピピッチの効果で俺のドラゴンは全てS・A、ドルザークでシールドを攻撃!ドルザークの効果で相手のパワー6000以下のクリーチャー1体をマナ送り、ダーク・ヒドラをマナに!」
大輔・フィールド1→0 マナ9→10 シールド2→0
「シールドチェック。S・T発動『デーモン・ハンド』でドルザークを破壊!」
「またその場凌ぎか。お前の攻撃はまだ俺のところに一度も届いていないぞ。それともお前の実力はその程度なのか?俺は少し前まで記憶を失っていた。あちこちを放浪してつい最近この町に流れついた」
記憶に残るあの南極での最後のデュエル以降、勝舞はタダふらふらと各地を渡り歩いた。そしてこのデュエマシティにたどり着いて再びデュエル・マスターズカードに触れて自分が何者なのかを思い出した。
「ここは良い町だ。デュエルで笑顔があふれかえっている。でも俺には物足りなかった。俺とまともにやり合えるヤツが少なすぎたからな。出来ることならまたあいつらに会いたい。俺の友達で、すごくデュエルが強い奴らだ。連絡を取りたいけど違う世界にいるあいつらにはまだ俺の無事を報告できない、そして何より………未だ眠り続けているであろう、弟のことも気がかりだ」
(弟……切札勝太のことか?そういえば勝舞さんが行方不明になるのと入れ替わりで目覚めたんだったけな。と言うことは父親の勝利さんも未だ勝舞さんを捜索しているはず。この人を今支配しているのは孤独だ。三玖とは違い自分が何者なのかを理解しているが前の日常に戻れず停滞してしまった。その孤独を解放するには、あの人を燃えさせるようなデュエルで勝つっ!)
覚悟を決めた目つきで勝舞を睨む。勝舞もその覇気にどこか圧される。
(俺が圧された。状況は俺に完全に有利、俺の場にはトット・ピピッチもいるから次のターンにドラゴンが来なくても勝てる。なのに何だ…こいつからの威圧は?)
「俺は、自分のこと以外の記憶を失った女性と一緒に暮らしています。彼女が喜ぶためだったら俺は歯ぁ食いしばってでも立ち上がる。そして笑顔にしてやる。俺があいつの居場所だから、俺は勝って――――三玖を笑顔にしたい。そして今こそ憧れを超えたいっ!」
デッキに手を重ね、
「このドローは正に重い。だが俺は引く、たとえ勝率一%以下だろうが、絶体絶命のピンチだろうが、乗り越えてやる!燃やせ俺の熱血デュエ魂っ!!」
そのドローをするときの大輔の手は、光り輝いていた。
「光る手!?まさかこいつ………真のデュエリストに目覚めたのか!?」
「俺の切札……来やがったっ!!
大輔のシールドは0枚、つまり勝舞のシールドは全てブレイクされる。
勝舞・シールド5→0
「この場面じゃS・Tは無意味。そこに『アンバー・アビス』を召喚して、呪文『スクランブル・ブースター』を発動!これでアンバー・アビスはS・Aを得る!」
勝舞のデッキにブロッカーはない、そしてシールドも全て割られている。
「ダイレクトアタック!」
アンバー・アビスの一撃が決まり勝負は吹き飛ばされる。
(負けた……あの状況からひっくり返された。何だよこいつ、何だよこの、懐かしい燃えるような――――熱い気持ちはっ!もっと……もっとこいつとデュエルしてぇ!!)
WIN 霧布田大輔
『決まりましたっ!伝説のデュエリストに食らいつき、見事逆転勝利で優勝を勝ち取ったのは、霧布田大輔選手です!!!』
会場中から大きな大歓声がわき上がった。下馬評では勝舞優勢だったのをひっくり返して勝ち取ったのだから観客が興奮しないはずがない。
「凄いですね。あの人なら―――あれ?」
女性は隣にいた三玖がいなくなっているのに気付いた。
Side三玖
デュエルが終わったのと同時に私は席を飛び出した。階段を降りてステージにつながる通路を走り抜いて、大輔の姿を見たとに思いっきり飛びついた。
「ダイスケ!」
「み、三玖っ!?ちょ、人目、人目あるから………」
「凄かった!あんな状態から大逆転できて、それに――――私の笑顔のためにって、凄く嬉しかった」
「う~ん、三玖のためってのもあるけど、今回は自分のためなのもあるからな。元の世界で憧れた、あの人に勝つことを」
担架でダイスケとデュエルしていたショーブって人が運ばれていく。
ダイスケが持っていたタブレットに入っていた漫画にはあの人が主人公だった漫画も読ませて貰った。ダイスケはあの人のことをいつもこう言っていた。
『この人は何よりもデュエルが好きで、誰よりもデュエル馬鹿なんだ。そんな人に憧れて俺はデュエルを始めた』
いつも嬉しそうにその人のことを話してくれた、たとえ絶望が襲ってきてもひたすらに前に進む。まるで今のダイスケみたいだ。
「そのデュエルへの熱い想いしかと見届けましたよ。霧布田大輔さん」
通路から誰か出てきた。さっきまで私の隣に座っていた人だ。
「あんた確か――――このデュエマシティの五守護デュエリストの一人『光の守護者エレナ』か?」
………はい?五守護?光の守護者?
「私のことは知っておられるのですね」
「この町の有名人だからな。その守護者様が俺に何かご用で?」
「単刀直入に言います。私達に力を貸してください」