愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者 作:だんご大家族
「――意気込んだは良いものの、未だに初歩から進んでないっていうね」
難易度高すぎよ、とミネは溜息と共に愚痴をこぼす。
「それでも実際に効果が出ている以上、妥協はできないけど」
「そうなのよね。ファンからも細かいとこの所作も好評みたいだし、何より数曲続けてもバテなくなったのはありがたいわ」
「時間帯によっては帰ってから夕飯とか作らなきゃいけない時もあるけど、食義の修行のおかげで調理の方もだいぶ早くできるようになったし」
ホント食義様々よ、とナベも頷いてジュースを飲む。持ち込んだ物ではなく冷蔵庫に仕舞っていた物を勝手に出して飲んでいたが文句を言う人物は誰もいない。
「そういえばナベはよく家事するんだったわね。名桐みたいにアニメみたいな調理ができるようになったの?」
「あんなのはほぼ無理。今は精々、初回にやった千切りキャベツで勝てるぐらいよ。それに家でやったら絶対弟たちが真似して取り返しのつかないことになりそうだし」
「あー……どっちとも小学生だっけ。カッコつけて真似しそうだわ」
まあホントはウチもこっそりやっちゃったけど、と胸の中でだけ返す。実は誰もいない時にこっそりやっていたりする。
弟たちと幼馴染の男子という環境で育ってきたナベにとって、そういったアニメや漫画は一通り網羅している。なので男子が憧れるモノにナベも多少心を揺れ動かされてしまうのだ。
「でも、もう少し覚えやすい方法はないのかしら?」
「あ、私も座禅に飽きちゃってハルカに聞いたことあるよ。他の修行方法はないのって」
「どうだった?」
「うーんとね、んんっ……」
アイは喉を鳴らし調整してから、悠の口調を真似て言う。
「『あるにはあるがオススメしないぞ。合掌、一礼を正しいフォームでしないと針で刺される修行。一メートルの箸で豆を掴むか、滑りやすい箸で白魚そ……白魚を掴んで食べる修行。どれも根気と集中がいるものばかりだ。ミネ辺りは間違いなくキレ散らかすだろうな。やってられっかぁ!! みたいな感じで』……って言ってた」
「なんでアタシを出した!?」
「あー、言いそう言いそう。地味に上手いじゃん名桐の奴」
「感想がそこか! アタシが言うわけないでしょ!?」
「言うね。花京院の魂を賭けるわ」
「言いますね。ならわたくしはオインゴボインゴ兄弟の魂でも賭けますか」
「即答!? しかもアンタたちジョジョ読んでるのね……ナベはともかくニノは意外だわ」
「う~ん……? じゃあ私は佐藤社長の魂でも賭けよっと」
「この子は読んでなかったか……いや、まあ、流石にアイはジョジョなんて読まないわ――」
「読んでるよジョジョ。ほらそこに並んでる」
「よ、ね……」
アイが指差す方向。並んでいる本棚には種類ごとに本が並べられており、真ん中の本棚にネタにされていた漫画が収まっていた。
「……ご丁寧に第六部まで全部揃っているじゃあないの」
「私じゃなくてハルカが買ったものばかりだけどね」
「そういえばこの部屋、名桐の部屋だったわ。何度も入り浸ってるし、アイだけで名桐がいなくても平気で入ってるから忘れてた」
「にしては……アイちゃんの私物が多い気がします」
「「「…………」」」
「ねえアイ……実際のとこ、名桐とはどうなの?」
ミネはナベとニノと視線を合わせててから、今まで気になっていたことを口にした。悠はおらず、時間にも余裕がある。だからこの際、ハッキリとアイの口から聞いておこうと思ったのだ。
きょとんとした表情でアイは言葉を返す。
「どうって?」
「家族ってのは前に聞いたわ。名桐からも妹分だって聞いてる。だけど、血が繋がった兄妹ってわけじゃないんでしょ?」
「…………え、と」
「正直な話、アタシはアンタと名桐が付き合ってると思ってる。そういう距離感してるし」
ミネの言葉にナベも頷き、ニノは珍しいことに興奮することなく懐から取り出した扇子で口元を隠して流し目めいた視線だけ向けている。キョロキョロと視線を彷徨わせ、逃げ場がないと判断したアイは俯くように手元を見つめた。
どうしようか迷った。助け舟を出してくれる
迷って、迷って――時計の秒針が二、三周するぐらい迷って、口を開いた。
「私とハルカは……家族、だよ。愛が欲しい私と愛が知りたい彼が、愛を見つけるための関係」
「……なによそれ」
「えっとね……」
アイは無意識にこぼれそうになる嘘を必死に抑え、ゆっくりとこれまでの半生を三人に語った。
母親と暮らしていた時のことを。母親が捕まり施設で悠と出会ったことを。雨の中、悠に吐き出した気持ちを。悠の提案を受けて家族になったことを。そして、この際だとアイドルになった理由も。
その間、三人は顔色や表情を変えながらも言葉を挟まずにアイの話に耳を傾けていた。
「――これが私。愛が欲しくて、愛してほしくてアイドルになった
家族なんだ。
そう締めくくる。
最後まで聞いていた三人は、
『『『クッソ重かった……』』』
各々、組んだ腕やクッション、扇子で顔を隠し視線を逸らしてまったく同じことを考えていた。
(ああ~……聞かなきゃよかった。数分前のアタシのアホォ……もうアイに嫉妬すら湧けないじゃない)
ミネは内心で頭をポカポカと殴っていた。
(嘘で塗り固めて誰からも好かれるようにしていたってこと、か。……無理ね、これまでのアイを思い出してもどれも嘘だと気付けない。多分、その場その場に合わせた適切な嘘を瞬時に理解してついているんだ。誰にも嫌われることがないように……そんな芸当ウチには到底真似できない。はぁ……野菜や食義で手が届きそうかと思ったけど、それはまだもう少し先か。もっと引き出し増やさないと)
ナベは目標がまだ届かないことに胸の内だけで溜め息を吐いた。
そしてニノは、
(今のアイちゃんを形作ったのは幼少期の母子家庭。アイちゃんは言いませんでしたが間違いなく虐待はあったのでしょう。お祖父様に頼んで母親を探してもらいますか。ええそれがいいでしょう、一発ぶん殴らないと気が収まりません。しかし育児放棄があったからこそ幸運にも理解者たるお兄さんに会えた、とも言えるべきでしょうか。……母親と言えば、お兄さんの母君。アイさんとお兄さんが暮らしていた施設は同じ。アイちゃんがスカウトを受けたのは渋谷。足が限られている以上、施設から渋谷は近いということ。お兄さんは生まれてすぐ捨てられたと言っていました。ならお兄さんの出身地は東京。ではお兄さんが生まれるまで母君……未那さまは東京に身を隠していた? 遠月を
アイの母親から思考がズレていき悠の母親のことを考えていた。
が、ハッと話が関係ないことに流れていることに気付き、思考を元に戻した。
(ああ、いけない、今はアイちゃんのことでした。……実際のところ、このままであればアイちゃんとお兄さんが目的を達するのは難しいもしくは時間がかかるでしょうね)
短い時間だがアイと悠を見てきたニノにとって二人の関係は、
だからこれ以上進展することがない。
愛されはするだろうが愛せることはない。愛を知ることはできない。――このままであれば。
ならどうするのか。
多分、壱護であれば社長として時間が解決するだろうと放置するとニノは考えている。
(しかしそれは停滞するでしょうね。アイドルとしても、女の子としても)
きっと遅かれ早かれアイなら気付くだろう。その時になってどう行動するか、ニノも予想できないが、アイの性格と
ならばどうするか。
(荒療治ですが相手をお兄さんに誘導して……ふふ、我ながら馬鹿げた考えですね。アイちゃんがどう動くか分からない上に確率的な問題もあるというのに。万が一B小町が終わってしまった場合どうしましょうか。わたくしを生贄にしてお祖父様に苺プロの保護を頼んでみますか。お兄さんなら問題なく貢献できるでしょうし。……ああそれにしても、推しの子が愛に悩む――イイですね! ……いけない、ちょっと感情が漏れ出してる。最近蓋が緩くなってますね、補強しないと)
流石に負の感情は出しちゃ駄目ですと、感情の蓋の補強をする。
個人的にニノはアイドルの恋愛は良いと思ってる。自分もアイドルだからというのもあるが、一番の理由は「ニノ自身が自由な恋愛をできるかわからない」からである。今はアイドルをやっているが、実際のニノは先祖代々続いている由緒ある良家のお嬢様だ。影響力も強い一族であるため、年齢が一桁の頃から同じ由緒ある家から見合い話が舞い込んだりすることが多かった。
いつかは家の都合で好きでもない相手に嫁ぐかもしれない。ニノ自身もそれは受け入れていた。しかし、受け入れてはいても憧れだけは止められない。
だから壱護のスカウトを受けたのだ。食気も理由の一つ。家の決まり事だって間違っていない。
でも、本当は自由が欲しかったのだ。
だけど、それ以上にニノは今の時間が大事になっていた。
苺プロが大事だ。B小町が大事だ。何より一生賭けても推せると焦がされた――アイが嫌いだけど大事なのだ。
自分の未来の自由を賭けても良いぐらいに。
(ミネちゃんとナベちゃんはきっと激怒するかもしれませんが――推しの幸せを願うのはファンとして当然のことですからね)
グループのメンバーとして、魅了された一ファンとして、そして願いは違えど目標を持つ同じ独りの女の子として。