愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者   作:だんご大家族

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Memory interlude 四話

一方その頃。

 

「ほらどうした悠~。社長の酒が飲めないってのか~?」

「未成年に酒を勧めるな。そもそも酒を飲んでないし酔ってないだろ」

「ちっ、ノリの悪い奴め。上司との飲み会っつったらアルハラだろ」

「それやったら壱護さんが捕まるだろ。B小町とミヤコさんを路頭に迷わす気か」

「……そこでアイを出さない辺り、お前さんらしいな」

 

 当たり前だ、と悠はグラスを傾ける。中身はワイン――ではなく、能力で出した『水晶コーラ』というグルメ食材から作られた清涼飲料。

 夕方、外回りを終え事務所へ戻ってきた悠を壱護が飲みに誘った。当然ながら悠は未成年なのでそういった店に行くのは憚られるので、こうして斎藤家で飲んでいた。ちなみに悠が言った通り壱護も酔っているように見えるが実際はフリだけで飲んでるのは悠と同じ水晶コーラだったりする。

 

「にしてもコーラなんて滅多に飲まないが、最近の新商品は凄いな。炭酸の泡が煌びやかに輝いて、まるで水晶のようだ。味も上等なシャンパンみたいだしよ」

「気に入ってもらえて何よりだ。……つまみは?」

「おう、もらう」

 

 そういえば壱護さんにはグルメ食材出したことがなかったな、と思いながらキッチンで『マヨネーイカ』のあたりめを生み出し、疑問を持たれない程度まで切り分けテーブルに置いた。

 

「あたりめか。悠にしちゃ珍しいつまみを出すな」

「値段が張るからな。まだアイが好きなアイスやB小町メンバーが部屋に来て勝手に食う菓子の方が安く済む」

「休憩所代わりに使われてんな、お前の部屋」

「もう慣れた」

 

 苦笑と共に壱護はあたりめを一つ摘み口に放り込む。噛むたびにイカの味だけでなくたらこマヨネーズ味が染み出してきたことに驚く。

 

「……このあたりめたらこマヨの味がしたぞ!? なんだこりゃ!」

「美容系の食材を買ってる店が試作したあたりめだ。なんでも味に飽きがこないよう段階的に味が変わる乾物を作ろうとしたらしく、噛んでると様々な味のマヨネーズが楽しめるらしい」

「はー、面白いことを考えてる奴もいるもんだな。……おっ、今度はからしマヨか。ピリッとしたからしが良いアクセントになってやがる。まるでアレだな。何年か前に映画でお菓子の工場で作られたフルコースを味わえるガムに似てる」

「ああ、アレか。マヨネーズ系だけだから似てるとは言い難いが……まあ表現としてはあんな感じだな」

 

 悠の誤魔化すための嘘に驚きつつも楽しんで噛み続け、最後に水晶コーラで締める。気に入ったのか壱護は上機嫌で次のあたりめに手を伸ばす。

 

「それで?」

「ん?」

「急に呑みに誘った理由は? またミヤコさんのことでも聞きたいのか?」

「そ、それはまあ聞きたいが……俺が付いて行けてない現場とかどうだ?」

「モテる……とは違うが現場先の末端は見惚れたり、話しかけようとする奴はいたな」

 

 単純に下心だけの相手なら問題はなかった。

 問題は上の人間。プロデューサーやディレクターといった役職持ちだった。

 

「涼しい顔浮かべて腹ん中で企んでる相手なら楽なんだが、一番厄介なのが権力(ちから)に物言わせてストレートに言ってくる相手だ。以前雑誌のモデル仕事を斡旋してくれた鏑木プロデューサーは良かったな、美貌に目を奪われたのは一瞬。すぐに頭の中で繋がりを持つことで得られる利益を考え始めてたよ」

「ああ、あの拝金主義か」

「逆に数日前の仕事の若いADは駄目だ。親のコネで入ってたみたいだが、親の権力使ってミヤコさんを誘ってやがった」

「……そいつ、どうした」

「目で脅して引き剥がし、ミヤコさんに渡してたボイスレコーダー付きで相手側に苦情入れた。ディレクターはまともな人間だったおかげでそいつは下っ端まで降格。最後は全員の前で逆ギレして飛びかかってきたからノシて終了。流石に親も庇いきれなかったらしく今は自宅謹慎中らしい。ディレクターとの話し合いでB小町の枠を増やす代わりに内密で処理することになった」

「だから話していなかったんだな」

「ミヤコさんも忙しそうにしている壱護さんにどうでもいいストレスを溜めさせなくて黙ることにしたそうだ。……すまなかった」

「謝るこたぁねぇよ。社長としては報告してほしかったが、一人の男としては感謝してる。ありがとな、ミヤコを守ってくれて」

「あそこまで美人になった原因は自分にあるからな。……綺麗になってから焦ってるのはどうかと思うが」

 

 悠の言葉にうっ、と詰まらせる壱護。目を逸らしてチビチビとグラスを傾ける。

 

 壱護自身もわかってはいるのだ。恋だ愛だといって結婚したわけじゃない。出会いはたまたま。居場所を失いかけていたように見えたミヤコを拾い上げただけ。思いの外仕事の覚えが早く、助かっていた。なにより自分と同じように(・・・・・・・・)裏から見える輝きに魅了されていた。

 手放したくなかった。別に恋でも、ましてや愛でもない。

 仕事ができる優秀な部下として。同じモノに惹かれた同志として。

 結婚という形ではあるが、それでも彼女のことは仕事のパートナーとしてしか見ていなかった。

 

 見ていなかった――はずなのだ。

 ちょっと……いや、ちょっとどころではない。魔法を掛けられたシンデレラの如く綺麗になった途端このザマだ。

 綺麗にした原因である悠に突っかかったり、他の事務所にスカウトを受けて自分の元から離れるんじゃないかと疑心暗鬼に陥ったり、

 

「自分で自分が嫌になりそうだ……」

「そうか」

「……すまなかった悠。かなりの量、八つ当たり気味に仕事を回していたのに愚痴一つこぼさずこなしてくれて」

「あれぐらいの量は普通だろ。壱護さんがやってる量に比べれば」

「いや、ちょっとお前んとこに混ぜて減ってた」

「……だとしても、壱護さんは社長の癖にフットワーク軽すぎる。B小町しかいないとはいえ現場まで行く代表取締役なんてアンタ以外見たことねーよ」

 

 マネージャーと共に現場に行ったかと思えば営業を掛け、その足で契約を結んでくる。とても社長とは思えなかった。

 まあ、悠にしたら、それが壱護さんらしいと思えるのだが。

 だから文句を言う気も怒る気もない。単純に前世の方が過酷だったからでもあるが、それを口に出すことはない。

 

「それに良いんじゃないか? 仕事のパートナーから始まる愛ってのも」

「へっ、悠に愛を説かれるとはな……」

「いや、自分はわからない。小説や漫画にありそうな言葉を出しただけだ」

「おい」

「壱護さんも知ってるだろ。自分は愛がわからない」

 

 悠は自嘲気味に言い、音を立てずにグラスを置く。

 それに合わせて壱護も水晶コーラを飲み干しテーブルに置いた。あたりめは口に放り込んだが。

 

「確か、愛を知りたいからアイと家族になったんだったか」

「ああ。けど、あれからもうすぐ十年ぐらい経つってのに、愛というものがわからない……感じられないんだ」

「アイのことはどう思ってるんだ? 愛がわからなくても好きとか嫌いは判別できるだろ」

「それはもちろん好き……なんだろうな。少なくとも家族、もしくは大事な妹分だとは思ってる」

……あまり感情を表に出さないから判断が難しいな。なんかないのか? アイを見て胸がドキドキしたとか、ファンに応援されてるアイを見て胸が締め付けられるとか……」

 

 ――あークソッ、漫画みたいな例えしか言えねぇ! 良い歳した大人が心はガキってか!?

 自分で言ってて頭を抱えたくなってきた壱護は内心で叫ぶ。叫んで、後悔する。

 

(だいたい、俺が恋や愛を教えようとしてどうする……俺はこいつらから愛を奪ってる側だぞ)

 

 愛を知ってしまえばアイと悠は間違いなくデキる(・・・)。しかしアイはアイドルだ。グループとしても個人としても、地下アイドル出身とは思えない知名度と人気を誇る。今でさえそうなのだ、これから先間違いなく大手に匹敵、いやそれすらも飛び越えアイドルの頂点にも届きうると確信している。だから是が非でもスカウトしたのだ。悠というおまけで失う損失も回収できると思っていたから受け入れたのだ。実際はおまけなんて言えないほど、家事に事務仕事に優秀な超優良人材で損失どころか利益は上乗せだったのだが。

 

 そんなアイの恋愛報道なんてされてみろ、大炎上だ。いや、大炎上で済めば安い。最悪、事務所そのものが爆風で塵も残らず吹き飛ぶ。社長として恋愛なんて絶対に許してはいけない。

 許してはいけない――はずなのだ。

 

(……ハッ、ガキの恋愛の邪魔しかしてない奴が、よりにもよって邪魔してるガキに相談してるたぁ……最低なんてもんじゃないな)

 

 自分自身に反吐が出る。

 胸の内で吐き捨て自嘲の笑みを浮かべる。サングラスで隠した視線は悠から逸らして。

 

 一方、質問されていた悠は壱護の方を見ずに考え込んでいた。

 

「胸がドキドキ……締め付けられる……」

 

 例えの言葉を繰り返す。

 昔一度だけあった気がするのだ。だけど悠は思い出せなかった。

 いつ? どこで? どうして? 記憶に自問したが、自答は返すことができない。

 ああ、でも。

 

「ドキドキ……胸の高鳴り、か」

 

 わからない。わからない。

 

「締め付けられる……胸の痛み、か?」

 

 それらを感じられれば、それが愛なのだろうか。

 わからなかった。それでも知りたい。

 高鳴りでも痛みでも、どちらでもいい。

 

「ああ、感じてみたいな」

 

 壱護に言うわけでもなく、窓から見える夕日を眺めながらただ呟く。

過去に一度だけ感じたイタみを、思い出すことないまま。

 

 

 

 

  ★★★☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ★★

 

 

 

 

 それから、会話らしい会話のないまま悠は斎藤家から出て行った。

 壱護はそのまま何をすることなく悠が置いて行った水晶コーラを飲み干し座り込んでいた。

 

「ただいま戻りました……壱護?」

 

 夜になり帰宅してリビングに入ってきたミヤコは明かりが点いていないことに首を傾げながら壱護を呼ぶ。

 パチンと明かりを点けると、部屋には座ったまま呆けている壱護の姿があった。

 

「ちょっとどうしたの?」

「ミヤコ……」

 

 顔だけ向けた壱護は手招きする。

 訳が分からないままミヤコは手招きする壱護の隣に向かい合って座る。

 座ったのを見た壱護はゆっくりとミヤコの方へ体を倒し、ミヤコの胸に顔をうずめ抱き締めた。

 

「ちょっ、ちょっと!?」

「すまん……」

「壱護……?」

 

 普段からは信じられない程弱ってるような壱護に、最初は驚いたミヤコも冷静さを取り戻し、ゆっくりと壱護の背に腕を回し抱き締め返す。

 

「もう、どうしたんですか?」

「……すまん。今はこうさせてくれ」

「理由は言わないんですね」

「……すまん」

「まったく……」

 

 仕方のない人、と苦笑と共に背中に回していた手を壱護の頭に乗せて優しく撫でる。

 壱護は何も言わないが、それでもミヤコはただ受け入れ、壱護がそのまま寝入ってしまうまで優しく、まるで母親のように抱き締め撫でるのだった。

 その後、寝入ってしまった壱護が重くて動けなくなってしまい、聞こえないのを言いことに暴言を浴びせてそのまま床で寝てしまった。朝になって先に起きたミヤコが頬を赤く染めてビンタを見舞うのはご愛嬌と言うべきか。

 

 

 

 

  ☆☆☆☆

 

 

 

 

「ただいま……?」

 

 部屋に帰宅すると、部屋に明りが灯っていなかった。疑問を覚えリビングに入ると、アイがベランダの引き戸を開け、面台(戸が滑るレールが設置された場所)に座り空を見上げていた。

 荷物を置きアイに近付く。いつもであれば気付けばすぐに突撃してくるのだが、今日は自分の存在に気付いていないのか夜空をジッと見つめていた。

 

「アイ?」

「……あ、ハルカ。おかえり~」

「ああ、ただいま。ずっと空を見ていたのか?」

「うん」

 

 ペシペシとアイは自分の隣を叩く。座れと言っているのだろう。

 ちょっと待ってろと返し、水晶コーラを生み出してコップに注ぎ、アイの元へ戻る。アイがズレて空いた面台に自分が座り、持ってきたコップを渡す。

 

「ありがと。これは?」

「水晶コーラというグルメ食材で作られたコーラだ。壱護さんにも好評だった」

「えー佐藤社長が先に飲んだのー?。コクコク……はわ~、コーラっていうよりクリスマスで飲んだシャンパンに似てるね。甘いけど後味がコーラより凄くスッキリして美味しい!」

「それはよかった」

 

 アイの感想を聞いて、自分も水晶コーラを飲む。

 

「知ってると思うけど、少し先だがアイとミネはワークショップに参加するために来週から少しずつ仕事が減ってくる。仕事がない日は基本的に普通に過ごすが、もしかしたら突発的に壱護さんが仕事を持ってくるかもしれない。そこだけは注意してくれ」

「はーい」

「ワークショップの間はナベとニノは個別に仕事が入っているから二人に用事がある時は自分か壱護さん、ミヤコさんに聞いてくれ。あとは……ワークショップを行う劇団の名前は憶えているか?」

「えーっと……ラララライ!」

「惜しい。ララライだ。それだと体操になる」

「そうそう。確か以前モデル仕事をくれた鏑木さんっていうプロデューサーの紹介だったっけ?」

「珍しいな。ああ、あの人の紹介だから問題はないだろう」

「そうなんだ! ……お弁当はどうするの?」

「一応昼食は持参すると伝えてあるからいつも通り自分が作る。ただ、夕飯はもしかしたらララライの人から誘われるかもしれないから、どちらで食べるかはナベと相談して決めてくれ」

「はーい」

 

 これからの予定を確認して、今度は今日あったことを夜空に浮かぶ星々を眺めながら話し合う。

 話している合間に横目でアイを見るが、特に変わった様子は見られない。何かあったかと思ったが、ただの杞憂だったらしい。

 

「――ハルカ」

 

 会話中ずっと空を見上げていたアイだったが、もう一度自分の名前を呼んだ時に視線をこちらへ向けた。夜空に輝いている星のような瞳を見つめ返す。

 

 胸の高鳴り……しない。

 

 胸に痛みも……感じない。

 

 ああ、何も感じない。

 

「私ね、欲しいものができたんだ」

 

 自分の胸の内を知らないアイはそのまま話す。

 だから自分も隠したまま、いつも通りの自分で応える。

 

「そうか。何が欲しいんだ?」

「今は内緒。16歳の誕生日になったら教えるけど、その時になったらハルカに手伝ってほしいんだ」

「誕生日か……協力するのはもちろん構わないが、なんだか凄いものを要求してきそうだな」

「うん。きっとハルカもビックリすると思う。……もしかしたら怒るかも?」

「……それはちょっと不安になりそうだ。今から気合入れておかないと」

 

 なんだ? 相当の事じゃないと驚きも怒りもしないと思うが……。直観も反応しないのなら危険なことではないだろう。

 首を傾げる自分を見て笑うアイはまた夜空を見上げる。

 

「えへへ……楽しみだなぁ。誕生日が待ち遠しくてたまらない」

「…………」

「雑誌か何かでイベントは準備している時が一番楽しいって言ってたけど、ホントだね! すっごくワクワクしてる!」

「……そうか」

 

 楽しそうに笑うアイを見て、自分も薄く笑みを浮かべる。面台から立ち上がり、

 

「さ、そろそろ部屋に戻ろう。夕食のリクエストはあるか?」

「なんでも!」

「なら今日は……グルメ食材で作ろうか」

「ホント!? わーい!」

 

 アイと共に部屋に戻る。

 何を手伝わさせられるのだろうか。安請け合いしすぎたか、と思ったが、上機嫌のアイを見つめ、まあいいかと思考を放り投げた。悩むのは欲しいものを聞いてからでも遅くはないだろうし、今はそれよりも。

 

「それじゃあ今晩は――」

 

 目を輝かせて期待されている夕飯の準備の方が大切だ。




 次章前半の構成が纏まらないので、次の投稿は日が空くと思います。後半はプロットだけは出来てるんだけどなー。
 ストックが貯まり次第投稿します。
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