愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者 作:だんご大家族
投稿頻度は以前と変わらないと思いますが。
ついでにお気に入り登録数1200人突破、本当にありがとうございます。
章タイトルが気に入らないので、思いつき次第変更すると思います。
10/28 章タイトルを変更
一話
アイとミネが何度目かのワークショップに参加しているある日。
「アイとミネの迎え、ですか?」
『ええ。ナベさんの現場が終わってから私が迎えに行く予定だったのだけど、こちらが長引いてしまって間に合いそうにないんです。壱護もニノさんの付き添いで今日はいないし、他に動ける人間が悠さんしかいないの』
学校から帰宅後、仕事着に着替え事務所で書類仕事をしていた自分に掛かってきたミヤコさんからの電話。通話の奥からガヤガヤと言い争う声が聞こえてくるが、確かナベはしばらく声優関連の仕事だったか。B小町としてでなくナベ個人の出演なので盛り上がりはグループよりは小さいがPVに挙げられたセリフは悪くない評判だった。アイと見てみるかと話していたら「絶対見んな。B小町は視聴禁止だ」なんて禁止令を出されたが、自分とアイを除いた二人もこっそり見る予定らしい。
「迎えは構いませんが足はどうするんですか? 社用車は出払ってますし、そもそも自分はまだ無免許だ」
『一応、こちらが終わり次第ララライに向かいますが、そちらの状況次第でこちらに一度連絡をください。間に合わないならタクシーを呼んで事務所に戻ってください。……免許、まだ取れないのよね』
「年明けからいくらでも休める、そこまで待ってくれ。──わかりました、今から向かいます。そちらも何かあれば連絡ください」
『お願いね』
通話を切り、今やっている書類をキリのいいところまで書き上げ終わらせる。身支度を済ませ自分と同じように事務所内で作業しているスタッフに迎えの件を話してから外に出た。帰宅する人が増える中、隙間を縫うように移動していき交通機関に乗る。
流れる景色を見ながらB小町の現況を思い返してみた。
大型ライブが成功してから、B小町は苺プロと共に大きく飛躍し始めている。苺プロは未だ所属グループが一つ、アイドルが四人だけだが評価を受けてそこそこ有名になった。社長たる壱護さんが直接スカウトしていたが、今は募集はないのか、またはB小町のメンバー加入したい等々、電話が掛かってくることがある。かつての壱護さんなら面接はあるものの即刻加入させていたかもしれないが、
『しばらくは新規グループ立ち上げも追加メンバーもなしだ。B小町がドーム公演に登り詰めるまで苺プロ全員で支えるぞ!』
そうスタッフの前で宣言していた。
とはいえ何もかもB小町一辺倒というわけでなく、新規の企画を持っていけば検討や時期を見てスタッフに任せようとしているのは何度か見たことがあった。特にミヤコさんが何度か企画を持って壱護さんと話し合いをしていたのは記憶に新しい。
そんな苺プロ全員に支えられておるB小町は現在、グループの仕事を減らし個々の仕事や活動を中心にしていた。
アイとミネは鏑木プロデューサーに誘われ、あれよあれよという間に決まった劇団ララライ主催のワークショップに参加。事前情報や初日の帰りに二人から聞いたが主に演劇がメインだったらしい。あと、本来はアイ一人だけ誘われたみたいだが、壱護さんがバーターでミネも捻じ込んだと聞いた。それを聞いたミネは「バーターねぇ……上等よっ!!」と気炎を揚げていたが。
ナベは先にも挙げた通り新規放送されるアニメの声優。役としては途中退場することが決まっているヒロインの一人。だがナベは「色々試したいこともあるし、アイほどじゃないにしろ現場の空気搔っ攫ってくる」と意気込んでいた。
ニノは深夜ラジオ番組の収録。確かアイドルグループから一人ずつ呼んでとにかく色々なことを話す炎上しそうなラジオだったはず。一歩間違えばラジオ番組ではなくグループが炎上しそうな仕事だがニノはむしろ楽しそうに「アイちゃんで盛り上がって……いえ、炎上させてきますね!」と言って「アイじゃなくてお前が炎上しろ!」と全員に返されたのは不覚にも笑ってしまった。
……。
何があったかは知らないが三人ともやる気十分な様子である。
アイもアイで、ワークショップに参加する前はワークショップに参加する意味があるのか、などと疑問を漏らしていたが、初日が終わり帰宅してからは「すごい参考になった」とこちらも次回以降の参加に意欲的だった。
あくまで個人的な意見だが、アイの嘘で出来た仮面と演劇の役というのはとても似ていると思う。だからアイも役作り等の経験が嘘に魅せ方に活かせると思ったのだろう。
そこまで考えていると最寄りに到着した。
思考を切り上げワークショップの会場に向かうのだった。
★★☆☆
会場に到着したが携帯に連絡はなくロビーで待っている姿もなかった。受付に聞けば、ワークショップも長引いているらしくまだ終わってないようだった。
自分が来ていることを後からでも気付けるようメールを送っておき、ミヤコさんに電話を掛ける。どうやらあちらは終わったようなので、こちらの状況を話しタクシーではなくミヤコさんを待つことになった。
ロビーに備え付けの椅子に座り雑誌を読んでいると、ふと視線を感じた。
「……」
雑誌から目を上げると、向かいの椅子に座り自分を眺めている少年がいた。見た目的にアイと同じくらい……やや下ぐらいの歳か。その整った顔と金髪は見覚えがあった。
「確か……ララライ所属の」
「お久しぶりです、と言うべきでしょうか」
それとも初めまして? と聞かれるが、多分後者だろうと自分は思った。自分と彼は顔合わせの際にその場にいた程度の関係で話したこともなければ自己紹介をしたこともなかった。
「初めまして、で大丈夫でしょう。苺プロ所属、マネージャー見習いの
「僕の方が歳下ですし普段通りで大丈夫ですよ。劇団ララライ所属のカミキヒカルです」
ほぼ初対面とも呼べる相手。
なのにどうしてでだろうか。前にも会ったことがあるような、誰かと似ているような。そんな気がした。
「今日の迎えはあの綺麗なマネージャーさんじゃないんですね」
「ああ、他の現場が長引いたみたいだ。とはいえ、こちらも長引いているから迎えには来る予定だが」
「そうなんですね」
にこやかに話を続けるカミキ君。
「ところで君はどうしてここに? もうワークショップは終わったのか?」
「ええ。後は片付けがほとんどなので早めに抜けてきちゃいました」
「それはいけないな」
「はい。でも、そのおかげで誰の邪魔も入らずあなたに会えましたから。以前から話してみたいと思っていたんです。アイさんがよく話題に出すあなたと」
「話題に出されているのか……」
ミネが付いているから大丈夫だとは思うが、炎上に繋がるネタをポロリと口にしていないだろうか心配である。それに気付ける人間は少ないだろうが、目の前の少年は──自分やアイと同じく
「ええ。グループ全員を助けてもらっているとか、マネージャー候補に加えB小町専属料理人で料理が美味しいとか。高峰さん共々信頼できる相手と聞いてます」
「……そうか」
それからしばらくの間、主にカミキ君が話題を出し自分が答えるといった会話を続ける。体感で三十分ほど繰り返していると、扉越しに人の気配が増えた。
「どうやら片付けも終わったみたいですね」
徐々に聞こえてくる足音にカミキ君も気付いた様子で会話を切って扉に視線を向ける。ちょうど扉が開かれ劇団員と一緒にアイとミネが出てくる。
「そうだな。時間を潰すにはちょうど良い会話だった。ありがとうカミキ君」
「こちらこそ。中々有意義な時間でした」
世辞気味に言って立ち上がる自分に、
「ああそうだ、最後に一つ聞いてもいいですか?」
座ったままカミキ君は自分を見上げて質問をした。こちらを見上げる瞳を見て、自分はさっき感じた誰かに思い至った。
まるで闇に塗り潰されたような星の輝きでこちらを見上げる瞳は──アイに酷く似ていた。
「構わない。何か?」
「あなたにとって──命の価値とはなんですか?」
「……」
命の価値、か──
「それは自分のか? それとも誰か他人のか?」
「ああ、あなたはそれを聞いてくれるんですね……
「
カミキ君の選択に自分は即答した。
……というか今回はって、次の機会を作らないでほしい。こんな
「自分の命に価値なんてない。他人からの価値が付与されて初めて自分の命に価値が付くと思う。それまでは自分で自分の命に一ミリも価値なんて付けられない」
価値なんてものは他人から評価されて初めて付くものだ。一番わかりやすい例を挙げるなら歴史に名を遺した偉人だろう。彼ら彼女は事の良し悪し関係なく何かを成し遂げた、或いはきっかけを生み出したことを評価され認められたからこそ、その人生に、命に価値が付けられたのだ。誰にでもできることしかやってきていない自分に価値なんて付けられない。
そもそも、
「では今のあなたの命の価値は?」
「さてな。誰にもそんな事聞いたことがないからわからないが……まあ、ゼロに近いだろう」
ゼロだ、とは流石に言えなかった。
それはきっと自分ではなく、アイや壱護さんに対しての侮辱になると思った。
「……なるほど」
「答えになったかはわからないが、自分はこれで」
「はい。急な質問に答えてくれて、ありがとうございました」
感謝を述べるカミキ君に目礼して、アイとミネの元へ近づいていく。二人も気付いて手を振ってくる。
最後の質問は忘れ、自分はマネージャーとしての表情を浮かべた。
だから、気付かなかった。聞こえなかった。
座ったままこちらを見ていたカミキ君の小さな呟きを。
爛々と瞳を輝かせ、手で隠した口元を三日月に歪め。
自分にとって的外れな考えを。歪曲させた自分の意見の解釈を。
その結果どうなったのか知ることになるのはずっと、ずっと先の事だった。
「そうか、あなたもそうなんですね。あなたも自分の命に価値はないと言うんですね」
「ああ、よかった。僕は間違っていなかった」
「僕の命に価値はないけど、他人の命を付与されることで――ボクの命に価値が生まれるんですね」
「ああ、それはなんて重たそうで――幸福なことなんだろうか」
「ありがとう名桐さん……いえ、ハルカさん。あなたのおかげで迷いは晴れました」
「だから――いつかあなたとこの悦びを分かち合いたい」
「待っててください。いつか必ず」
「アイさんという価値ある命の重みを――感じさせてあげますから」