愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者 作:だんご大家族
「──あっ、こっちこっち!」
待ち合わせのカフェで待っていた私──星野アイ──は待ち合わせ相手がお店に入ってくるのを見て手を振って呼びかける。彼女は店員さんに何かを話して、私の座ってるボックス席に近づくと、
「周りに他のお客がいなくても、ブンブン手を振ってはいけませんよアイちゃん」
「ぶしゅっ」
私のほっぺを両方から突いてタコチューにしてくる。前からそうだけど、ハルカやミネちゃん、ナベちゃんが私に注意する時はいつもほっぺを
突かれて潰れている私の顔を見て、彼女──ニノちゃんはふふっと笑って向かい側に座った。
「こうして直接顔を合わせるのは久しぶりですね。相変わらず人を魅了させる可愛い顔で
「前から思ってたんだけど、ニノちゃんのそれってどう言ってるの? ムカつくって言ってるのに、興奮するって聞こえもするんだけど……」
「本音と建前を口と頭で同時に話してたらいつからか自然と。何年も大人のそういった会話を聞き続ければアイちゃんも言えるようになりますよ?」
やってみます? とニノちゃん。
やだ♪ と私は一瞬感じた寒気を嘘で隠して即答した。だって誘ってきたニノちゃんの瞳が、前世を思い出して目が死んだ魚みたいになったハルカみたいになっていたから。
「賢明です。推しの百面相はとても見たいですが、流石のわたくしも老獪共の坩堝にアイちゃんを連れて行く気はありません」
「ろうかい? るつぼ?」
「……小さな会場でたくさんのファンに囲まれてるとイメージしてください。ファンがずる賢い大人という老獪で会場が坩堝。ファンはどうにか私たちと関係を持とうとあの手この手と近づいてきます。ちなみにファンにアイちゃんの嘘はまったく通用してないと思ってください」
「……それは、怖いね」
「ええ。ですのでアイちゃんはまだそんな場所に行かないでくださいね」
「はーい」
「良いお返事です。そんなお返事がわたくしに向けられてるなんて……ああ、興奮で鼻血が出そうです♪」
「うん、私から誘ったけど帰りたくなったな~」
少しは慣れたけど、相変わらずニノちゃんの私に対する推しはけっこー重い。ちょっと前までニノちゃんが出演していたラジオ番組で私に対する思いとかを一緒に出演していた他のグループの子と色々話していたけど、一人だけいたニノちゃんに負けず劣らずの激重ファンの子を除いて全員ドン引きしてた。なんなら試しにエゴサしたら視聴者もほとんどドン引きしてたし。
ただ一部のニノちゃんの固定ファンは、
『アイを語らないニノはニノじゃない』
『気持ち悪いぐらいアイを語るニノちゃんこそ俺たちのニノちゃんだ』
『俺たちだとアイに言えないこともニノが代弁してくれる』
『ニノを通して出る発言が俺たちの想いだ。アイちゃんサイコー!』
ニノちゃんのクソ重感情が出るたびに私のファンと共に評価していく。
……なんだろう。嬉しいんだけど、嬉しくない。
「アイちゃんもどうでした? ワークショップの方は」
「あ、うん。参加する意味ないかな~、なんて思ってたけどね──」
ちょっとまで参加していたワークショップで体験したことを途中で頼んでいたキャラメリゼ? した四段プリンとニノちゃんが頼んでいたエスプレッソクリームが乗った抹茶ガトーショコラ。それと二人分の紅茶が届いてから、お昼前からおやつを楽しみながらニノちゃんに聞いてもらった。
演劇のこと、私以上に技術を覚えようとするミネちゃんのこと、ワークショップで出会った私みたいだけど私とは方向がズレている変わった子のこと。
ニノちゃんは相槌を打ったり時々質問したりしながらずっと聞いてくれた。
それはそれとして、今食べているプリン。表面がパリパリして固まってるみたいなのに口に入れると普通のプリンみたいにプルプルしてて面白美味しい。カラメルも別の容器に入ってるから、好きな量を掛けて食べられるのも色んな食べ方が出来て楽しい。
ハルカに話したら作ってくれるかな? 何年か前にテレビで見たバケツプリンを作ってもらったけど、あれは量が多すぎて失敗だったな~。「まあ、山よりマシか」って言って食べきっていたけど、山ってなんだったんだろう。でも、これならハルカと一緒に作れるかも。
ニノちゃんが食べている抹茶ガトーショコラも美味しそうだったけど、一口貰うことはしなかった。前にそれをやったらニノちゃん鼻と口から血を流してぶっ倒れたから。ニノちゃんは「愛が溢れただけですので。むしろ絶好調です♪」なんて言ってたけど。
なんて、デザートを食べ終わるぐらいに話し終わり、私は紅茶を飲んでから本題を口にした。
「それでニノちゃん。お願いしていた物は?」
「一応持ってきましたよ」
ポシェットから私が用意して欲しいと頼んでいた物を取り出す。
差し出されたそれを受け取ろうと手を伸ばしたけど、掴む前にニノちゃんが私から遠ざけた。
「用意はしましたが……渡すとは言っていません」
「……どうして?」
首を傾げる。
「だってニノちゃんが教えてくれたんだよ? ──私だけの家族を作ればいいって」
☆☆☆☆
それはハルカの部屋で、集まってダラダラ過ごしていた何時かの会話。
ミネちゃんとナベちゃんが帰ったあと、大事な話があると言って残ったニノちゃんとした会話がきっかけ。
『回りくどい話はアイちゃんは好きではないでしょうし単刀直入に言います』
『今の状態でアイちゃんが愛を手にするのは無理或いは時間が掛かり過ぎます』
『何故? アイちゃんもお兄さんも無意識ですが現状に満足しています』
『そんなことはない? ええ、その通りです。アイちゃんならわたくしが指摘しなくとも
『……
『アイちゃんのことです、気付いたら別の方法を探すはずです。お兄さんに相談するかしないかは関係なく』
『それは構いません。でも、もし思いついた方法がお兄さんを
『ありえない? 否、否です。ありえないことがありえない。先程のお兄さんとの会話を聞いては猶更』
『わたくしが今伝えたからこそありえないと断言できるようになりました。しかし、もしそれをアイちゃんだけで考え、実行してしまっていたら……』
『間違いなくお兄さんは──壊れます。愛を求めている心が壊れてしまう』
『それは、駄目です。だからわたくしは今、ここで指摘させてもらいました』
『今のままでは、アイちゃんは愛は手に入りません。お兄さんは愛を知ることはできません』
『……』
『……っ、……』
『……ええ。ごめんなさいアイちゃん。泣かせる気は……いえ、予想はしていました。でも泣かせちゃって、ごめんなさい』
『だからアイちゃん。散々言ってきたけど、これからわたくしは、お兄さんよりも更に運任せで最低な愛の見つけ方を提案します』
『もしバレたらB小町は解散するかもしれない。苺プロも潰れるかもしれない。ミネちゃんとナベちゃんから一生軽蔑されるかもしれない』
『そんな提案を……聞いてくれますか?』
『……』
『……アイちゃん。家族を──作りませんか?』
『お兄さんとの偽りから始める本物の家族と共に──星野アイから生まれる、星野アイだけの本物の家族を』
『あなたの
★★★★
「私は誰かを愛したい。誰かに愛されたい。愛する相手が欲しい。愛してくれる相手が欲しい。心の底から愛してるって言ってみたい。ニノちゃんの提案を聞いて……想像しちゃった。私の、私だけの家族が出来たら、愛してるって言えるかもって思っちゃった。だから、ニノちゃんの提案に乗ったんだよ」
「ええ、そうですね」
「ハルカも協力してくれるって言ってくれた。だからバカな頭で精一杯考えて、一番良い方法を考えて。ニノちゃんにそれを──
「ええ。ちゃんと一人で準備せずにわたくしに相談してくれてよかったです。だから用意
「だったら……どうして?」
「どうしても何も──バカなあなたを叱るために決まっているでしょう!」
興奮して叫ぶことはあった。注意されることもあった。思いの告白は別として。
だけど、ニノちゃんが本気で怒鳴ることなんて、多分メンバーとして顔を合わせてからの関係で初めてだった。もちろんお店に響かないように小声で怒鳴っていたけど。
「睡眠薬でお兄さんを眠らせてる間に作っても、きっとお兄さんは仕方ないといった様子で受け入れるでしょう。ですが! それはお兄さんだけであって子どもは別です! 子どもが生まれ育ち、自分の出生を知った時どう思うか、そこは考えましたか?」
「え? ……えっと」
「スゥ──
「……ぁ」
「お父さんは誰なんだろう。どこにいるんだろう」
「……あ、ぁあ……それ、は……」
声を幼くして演技をするニノちゃんの言葉が私の記憶に突き刺さる。ニノちゃんの視線の、瞳の奥に見えた幻に、私はそこでようやく自分の過ちに気付いた。
そうだ。それは、私だ。お父さんが誰かわからず、望まれたかどうかもわからない生まれの私だ。
「い、嫌だ……私と同じ思いを、味わってほしくない……」
「だったらこんな物を使っていいんですか?」
「だ、ダメ……睡眠薬は使わない。使っちゃ、ダメ……!」
震える体を抱き締め、力なく首を振る。
そんな私を見て、ニノちゃんは怒った表情を消し、一息ついて、いつもの表情に戻っていた。
「……ごめんなさいアイちゃん。また、怖がらせてしまいました」
「……うぅん。やっぱり私バカだよね。ごめんなさいニノちゃん。ちゃんと叱ってくれて、ありがとう」
「お願いされましたから」
「お願い?」
「間違ってたら叱ってほしい。普通の女の子みたいなことをしたいって」
「あ……うん」
「まあ? こんな計画が普通の女の子としては間違っているんですけどね」
「……そうだね。えへへ」
わざとらしいニノちゃんの言葉に思わず笑ってしまった。
カップに残った紅茶を飲み干して落ち着く。
「さて。そろそろ場所を変えて、改めて計画を煮詰めましょう」
「うん!」
変装用の帽子や眼鏡を掛け直して、ニノちゃんと二人で外に出る。
そうだ、とニノちゃんの前で振り返り、
「ありがとっ、ニノちゃん! 大好きっ!」
嘘で出来た、それでも私の精一杯の気持ちを込めた笑顔で言う。
きょとんとした表情を浮かべたニノちゃんは、少しして力の抜けたような笑い顔を浮かべると、
「推しの120パースマイル。それも普段のアイちゃんなら絶対言わないであろう好き……好きッ。ああ……それだけで心が満ちていく……なんて甘美な言葉なんでしょう。ああそうか──ここが桃源郷だったんですね」
けひゅっ! って変な声をあげて地面に崩れ落ちた。
…………1カメ。
……2カメ。
や、ネタに走ってる場合じゃなかった……やっべ、どーしよ☆
その後、どうにかこうにかニノちゃんをはたき起こして、予定通り(?)に街に繰り出すのだった。
でも、ニノちゃんの対抗策覚えたゾ~♪