愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者   作:だんご大家族

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三話

 最後のワークショップからおよそ二ヶ月と少し。

 アイとミネにとってワークショップで得た経験は得難いものだったようで、ステージで魅せる動きに組み込まれファンからの評価は上々になっている。参加しなかったナベとニノも宣言通りそれぞれの分野で爪痕を残したようでアイとミネに劣らない評価を受けていた。

 

 その勢いのままB小町は前回のコンサートホールよりも規模が大きい地方ドームでのライブに挑み、大盛況で幕を閉じることができ、人気や知名度は右肩上がりで伸びている。

 取材やモデルの撮影なども増えてきており、それらを壱護さんはアイたちに負担が掛かり過ぎないよう絶妙な匙加減で捌いていた。本来、仕事を貰ってくるのはマネージャーのミヤコさんや営業担当のはずなのだが、ここ最近の仕事は八・九割を壱護さんが持ってきている。精力的すぎる。というか働き過ぎだ。

 現にミヤコさんが一度ぶちギレて、

 

『いい加減にしなさい! 詰め込み過ぎよ壱護! 他の人を休ませておいてあなた前回の休みはいつ取ったの!?』

『休み? あー……』

『……』

『まあ、そんな些細なことは後回しだ。見ろ、ミヤコ。今度の仕事は──』

『全員ッ、この■■■■(ピー)を方法問わずに捕まえなさいッ!!』

『『いっ、イエスマムッ!!』』

『うわっ、なんだぁお前ら、はぁらせコラ!』

『おろなぁん、押っさえろぉ!』

『シメサバア!』

 

 その場にいた全員に命令して壱護さんを拘束し始めた。

 ちなみに心底どうでもいい話だが、この時スタッフが言ったよくわからない一言が妙に頭に残ってしまい、その日の夕飯の一品に〆サバを追加してしまった。メインはカレーだったのに。

 

『抵抗しても無駄だ社長!』

『はやらせこら! はーらせコラ! 仕事が俺をまんだぁコラ!』

『ここまま抵抗するとはね……仕方ないわ』

 

 パチンと指を鳴らすミヤコさん。

 それに合わせて拘束を振りほどこうとする壱護さんの前に立ったのはナベだった。片手を出して指をゴキゴキ鳴らして、背中に隠した反対の手には殴り書きされた切れ端を持っていた。あれはなんだったんだろうか。台本?

 

『なんだお前!?』

『しめるん! わっとしろ!』

『スタッフに勝てるわけないだろ!』

『ばかやろ俺は勝つぞ! どけオラ……どオラ!』

『繰り出すぞ! 寝ろ焼きそばパン!』

『やはりヤバギャースッ!!』

 

 喋っている間に壱護さんの顔面を掴み、ギリギリギリィとナベのアイアンクローで締め上げる。

 悲鳴を上げた壱護さんはバタバタと抵抗していたがしばらくして脱力するように意識を失い、事務所での一件は終わった。

 後に残ったのは何人かで気絶した壱護さんを運ぶスタッフと称賛されドヤ顔でガッツポーズをするナベ。そして後方でやれやれと溜息を吐いているミヤコさんだけ。

 ついでに壱護さんは帰宅後、ベッドに縛り付けられ翌々日まで休息を取らされたのだった。なお、その時の看病は自分と満更でもない様子のミヤコさんがしていた。

 閑話休題……

 

『何……この、ナニ?』

『さあ……』『知らなーい』

『……名桐、元ネタ』

『知るわけないだろ……あるのか?』

『それこそあたしが知るわけないでしょ……』

 

 なお、置いてけぼりのマネージャーとアイドルが三人。ノリがわからず事務所の隅で関わらないようにしていた。

 閑話休題ッ。

 

 

 こんな感じでドタバタと忙しい(?)日々を送り、今日も一日が終わり自分とアイは部屋に帰宅する。

 そういえばもう気にしなくなってしまったが、アイはほぼ毎日自分の家に帰宅している。食事は二人の時は自分の部屋、四人なら斎藤宅と以前から変わらないが、私物はだいたい斎藤宅から持ってきているし寝るのも入浴するのも最近はほぼ自分の部屋だ。昔はどうにか別々に寝るための相談をミヤコさんに相談していたし壱護さんも時々注意はしていたのだが、いつの間にか自分も壱護さんも今の状況を受け入れてしまっていた。

 まあ、特に何があるわけでもないので今更どうということでもないのだが。

 

「ただいま。おかえりアイ」

「おかえり。ただいまハルカ」

 

 同時に帰宅したので互いに挨拶を返す。

 今日は壱護さんとミヤコさんは遅くなると連絡されていたので、アイと二人で食事を済ませ、もろもろの準備を済ませて寝るだけとなる。

 アイはカーペットの上でゴロゴロと転がって落ち着きがない。そんなアイを視界の端に捉えながら自分は明日のために、未だ未完成のセンチュリースープ(仮)やごちそうの準備を進める。

 ちらりと壁に掛けたカレンダーを見る。明日の日付に赤ペンで大きく花丸が描かれていた。

 

 明日はそう──アイの16歳の誕生日。

 そして、以前お願いされた『欲しいもの』の入手を協力する日だ。

 いったい何が欲しいのだろうか。あれから一度も話題にも出さず、いつの間にかB小町に根回しを済ませており、明日は自分とアイは完全オフの日になっている。唯一、協力しているらしいニノも、

 

「お兄さんにしかできないことですよ」

 

 それ以外口に出さず黙秘を貫いている。

 大変なことだったり危険なもの……ではないはずだ。自分の直観が危険を知らせていないので、それは間違いない。

 

 ちなみに、自分の直観は『トリコ』に出てくる直観とは少しだけ違う。

 原作の直観は相手と対峙した際に瞬間的に最善手が頭に浮かぶこと。天性のものではなく、膨大な訓練と経験により産み出されたものだ。

 自分の直観は自分の命に迫る危険……特に他者からの害悪を勘という形で感じ取ることができる。危険と対峙した場合は瞬間的に回避行動を取れるのは似ていると言っていいかもしれない。

 

 そもそもの話、この直観は前世で習得したもので転生特典ではない。

 記憶の始まりから、多分(・・)死ぬまでずっとロクなことがなかったのだ。きっと■■■■の前世の肉体や脳が■■■■を生かすために自己進化でもしてくれたのだろう。人間の脳には解明しきれない部分が無数に存在している。視覚を失った人間の聴覚が鋭くなるように、虐待された経験を元に危険予知を、というのも決して不可能ではない……かもしれない。転生した身からすればありえないと一蹴できないのがまた恐ろしい。

 

 

 そういえば、とかき回すスープの透明な波を眺めながらふと気になった。

 前世の自分は──いったい、いつ、どこで、どんな死に方をしたんだろうか。

 記憶は残っているが、ところどころ穴あきの状態なのだ。

 特に前世の名前。末期の数年間。死亡した経緯。そこらへんはページを破り捨てた本のように記憶から抜け落ちていた。

 まあ、覚えていないのならそれでいい。

 それよりも、

 

「なあ、アイ」

「ん~?」

「そろそろ教えてくれないか? 前に言っていた欲しいもののこと」

 

 今の自分にとっては、そちらの方が大事だ。

 転がるのをやめたアイは立ち上がり、隣に並ぶ。

 

「まだ誕生日じゃないよ~?」

「誤差ってことにしてくれないか? それに早めに知れば明日施設に行った帰りにでも探せるし」

「どうしよっかな~。ちょっとまだ早い気もするけど……」

「……?」

 

 自分が首を傾げている間に、アイが一人でうんうん唸りながら迷っている。

 鍋に蓋をして火を止めた頃に考えが纏まったのか、アイはうんと頷いた。

 

「わかった。教えてあげる、私の──欲しいもの」

「ああ」

「でも、その前に……明日で私は16歳になるよね?」

「そうだな」

「女の子の16歳ってさ、法律で結婚していいって決められている年齢だよね。男の子の18歳と同じで」

「……あ、ああ」

 

 思いがけない話題に自分は戸惑いながらも肯定の返事を返す。

 

 不意に。

 聞こえるはずのないナニかが聞こえた気がした。

 

「それってさ。16歳になったらそういうこと(・・・・・・)をしてもいいって、法律が許してるってことだよね?」

「なにを……言って……?」

 

 かいてもいない汗が背中を伝う。

 ナニかが、いや違うわかっているはずだ。直観が自分の中で鳴り響く。

 

「法律も問題なし。年齢もちゃんと届いた。ハルカも協力してくれるって言った」

「……っ」

 

 なんで、どうして。

 どうしてアイの言葉に対して直観が反応するんだ。

 さっきの説明がフラグだったとか、笑えもしない前フリだ。

 もっとも、笑うことすらできないでいたが。

 

「だったら、いいよね?」

「……待っ、アイ……!」

「私の欲しいものはね、ハルカ」

 

 わからない。分からない。判らない。ワカラナイ!

 ここまで言われたら何を言われるかなんて想像ぐらいできる。でも、自分の体は、口は、何もすることができなかった。

 どうして俺の(・・)直観は痛いぐらいに止めようとするんだ!

 頼むアイ、待ってくれ。一呼吸だけでいい、落ち着く時間が欲しい。

 

 だけど、俺はアイを止めることができず、

 アイは俺の手をそっと自分の腹部に押し当て、

 

「私は家族が、愛の証が欲しいの。だから──私と子どもを作ってほしいんだ」

「────あ」

 

 

 バキリ

 

 

 その言葉を聞いた時、聞いてしまった時。

 俺は……俺のナニかが砕けた音も聞こえ、崩れ落ちるのだけは理解した。

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