愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者 作:だんご大家族
考えていることを上手く書ききれず、かつ一話で収めようとしてかなりの量になってしまい私自分でも消化不良ですが、これ以上にらめっこしてもラチがあかないのでこれで投稿します。
……もう二度とこんなクソ展開書くか。(なお、確定であと一回は書く必要がある模様)
12/13 十話が五、六話近く投稿されていたので削除しました。
なにがあった!?(重曹風味
「ふぅ……」
心地良い湯に浸かりながら小さく吐息を吐く。なんとなしにこぼした息は思いの外浴室に響いた。全身を包む少し熱めのお湯は、今日起きた出来事の疲労を取ってくれているかのように気持ち良く包んでくれる。体は温まっても心はまだ冷たいままだが。
「はふぅ……」
そして心を冷たくするもう一つの理由。
自分の胸にもたれるように背中を預けるアイ。互いに隠すべきところはタオルを巻いてはいるが、それ以外は肌を晒している。まあ早い話が自分とアイは一緒に風呂に浸かっていた。
どうしてこうなったのか。
数十分ほど前、人目を忍び屋根から屋根へ跳び移りながら帰宅することができた。アイに被せていたカーテンを脱がせ、アイの目に映らないようベランダの隅に丸めて捨て、アイの治療をしようと思ったが、引き千切られて服として機能していない布切れを見て、
『……風呂沸かすから、着替えて──』
先に風呂に入ってもらおうと準備をするため、立っていたアイを座らせ着替えを持ってこようとしたが、裾を掴まれて動けなくなった。アイはふるふると首を振りながら自分を見上げて、
『一緒に』
ポツリと呟いた。
いつものように一言二言曖昧に受け流せばよかったか。あるいは、
『自分もアレと同じ男なんだぞ』
なんて言って警戒心を持つよう諫めるべきだったのか。
だけど、正直言って今のアイを一人にはさせたくなくて、ただわかった、としか言えなかった。自動給湯器のスイッチを押して湯が張るまで何もせず、ただジッと肩を寄せ合って座っていた。
お湯が溜まったと給湯器から音楽が流れ、自分とアイは無言で浴室に向かう。途中、脱衣所でアイが脱いだ布切れをカーテン同様後日捨てるため別に置き、タオルを巻いて浴室に入った。共に特に裸に恥ずかしいといった感情は浮かばず、軽く体を洗い流し湯船に浸かり、一緒に吐息を漏らした現在に至る。
「……痣のとこ、痛むか?」
湯船に浸かって少し経ってから、自分が沈黙を破った。
「ほっぺは触らなければだいじょーぶ。腕やお腹は動く時にちょっと痛い」
「風呂から出たら冷やそうか。発熱用の冷却シートが確かあったはず」
打撲に冷却シートが効果あるのかは知らないが、ないよりマシだろう。ビニール袋に氷水入れた物は嫌がりそうだし。
「ハルカは? さっき腕を気にしてたけど」
「よく見てるな。そうだな、少し痛い。自分も風呂から出たら貼っておこう」
アイの言う通り、扉や男を殴った腕が今になって痛みを挙げていた。大丈夫だろうと直観に従ったが、どう考えても短時間に何度も釘パンチやノッキングを使ったのが原因だろう。何か食えば治ると思うが、今はどうしても食欲が湧いてこなかった。
話題が終わり、また無言の時間を迎える。聞こえるのはシャワーヘッドから雫となって落ちる水の音。少しでも身じろぎをすれば湯舟を揺蕩う水面の音。そして自分とアイの二人分の息遣い。
その沈黙を今度はアイが破った。
「ハルカ」
パシャリと立ち上がり、振り返る。その勢いで体を隠していたタオルが外れ隠されていたものが露わになるが、アイは気にせず自分に覆いかぶさるように膝立ちで向き合う。
「アイ……?」
何を、と言葉にするよりアイの動きの方が早かった。自分の頬を両手で掴まえ、
「ん……んぅ……」
「な、むぅ……!?」
唇を重ねてきた。
それはキスというより、ただ唇を押し付けているだけみたいで。
驚きはしたが抵抗はできなかった。アイを離そうとすれば痛む箇所を触ってしまいそうだし、何より抵抗はアイを拒絶したと思われてしまいそうだったから。
長い唇の重ね合いが終わり、アイの顔が離れ、でも至近距離で互いの顔だけを視界に映す。頬を掴んだ手はそのままだったが。
「……どうして」
「……アイ?」
「ハルカ……私を見て」
「……ああ、見てるよ」
「見てないっ」
「アイ?」
「……うぅん、違う。ハルカは見てくれてる。でも……私を見て、私を見てない」
「一体何を……言ってるんだ?」
「ハルカ……さっき助けに来てくれた時……そして今……その目は、私を見て──
「………………」
ああ、そうか。
あの時、アイの言葉で引き戻されたと思っていた。だけど、無意識にアイを見ながら、かつてのキミを見ていたのかもしれない。
膝立ちのアイの背中に手を回し胸に引き寄せる。抵抗せず腕と胸の中に納まったアイを片手で抱きしめ、もう片方の手は自分の頬を掴む手に添えた。
「……前世の妻。或いは妻と思っていた相手を見てた、んだと思う」
吐き出すように問い掛けに答えると、胸の中のアイがビクリと震えた。安心させるように抱き締める腕に力を入れる。添えていた手が動き、互いの指を絡め合い離さないよう握り締められる。
そうして、自分は思い出してしまった前世をゆっくりと話し始めた。
とは言ったが、それほど長い話でもないんだがな。
アイにはどこまで話したか……学生の頃までだったか? ならその後から話そうか。
高校卒業後、自分は父親の指示で、一人暮らしを始め、父が経営する会社に就職した。仕事内容は説明してもアイにはハテナしか浮かんでこなさそうだから、そうだな、誰よりも早く出社して誰よりも遅く退社しなければならない量の仕事を毎日こなしていた、ぐらいの感覚ならわかるか。──ああ、そうだな。ちょっと前の壱護さんを更にハードにしたみたいだと思ってくれていい。
来る日も来る日も、日の出前から日付が変わる頃まで、こき使われる日々だったが……就職して実家から離れてからは虐待はピタリと止まって、社長の父親は少しだけだが継母と進学してまだ大学生だった義弟とは一切接触することがなかったんだ。でも、当時はそれだけで幸せだった。
それから数年が経ち、ある日父親が自分を呼び出してこう言ったんだ。
『明日、貴様の見合いをする。準備をしておけ』
それだけ言ってまた仕事へ戻す。……わけわかんないだろ? まあ、当然裏があったんだがな、当時の自分はそんなことに気付くことなく、いつも通り指示されたまま、見合いを嘘の仮面を被ってやり過ごして……一ヶ月も経たずに見合い相手と結婚した。
──それだけで結婚したの? はは、そうだよな。その反応が普通だよな。でも、自分は当時普通じゃなかった。結婚ってこんなあっさりなんだな、と普通じゃないことを普通だと思い込んで、彼女と結婚した。結婚式なんてやらなかったし、婚姻届けも自分が仕事の合間に出したらしい。しかも……二ヶ月後ぐらいには、
『■■の妊娠がわかった。我が家で面倒を見るので貴様は普段通りに生活していろ』
なんて言われたもんだ。
──いつヤったの? ……彼女と結婚して同居を始めたその日だろうな。彼女が満足してくれるよう性行為に関する本を読んで予習していたのに、初めて二人で夕食を食べた後、気付いたら朝になっていて、自分と彼女は布団に入っていて、昨晩はどうだったのか、彼女に確認する暇もなく仕事に向かったんだっけ。
後で気付け……胸をグリグリするのはやめてくれ、痛、くはないけど、ああ、悪かった悪かった。こんな時に余計なことは駄目だよな。
仕事は相変わらず朝から晩まで、実家に戻った彼女と連絡はほぼ取れずの毎日を送り、月日は経過して次に彼女と会ったのは出産した後だった。初めて会った自分の子どもに何も感じなかったけど、それでも出来る限り愛せるようになろうと決意した。彼女も真摯に接してくれた。愛してくれていると思った。
そこからがむしゃらに頑張ったよ。虐待ばかり受けてきて普通じゃなかったかもしれない。それでも普通の人間になろうと、普通の善き夫善き父親になろうとした。愛そうとした。幸せに
まあ、その何もかもが嘘だったんだけどな。
★★★★
「嘘……?」
話の途中で風呂から上がり、ベッドに腰掛けたアイの髪を拭きながらアイのオウム返しに頷いた。
「そう、嘘。結婚も子どもも、自分に掛けた言葉全てがみーんな嘘」
それを見てしまったのは、仕事を初めて定時で終わることができた日だった。
二人を驚かそう、なんて安直な考えで帰宅を伝えなかった。こっそり家に帰ってまず気になったのは玄関に並べられた靴の数。彼女と子どもの靴しかないはずなのに、置かれていたのは男物と女物の靴が一足ずつ。次に気になったのは玄関にも小さくだが聞こえた彼女の声。訳がわからずに足音を殺して部屋に入ってみれば、
「義弟と彼女が体を重ねていたんだ」
もしこの時、彼女が嫌がっていたのならまだ救いがあったのかもしれない。けど、彼女は嬉しそうに義弟を受け入れていた。
何故、どうして。大学を卒業し、同じ会社に入社してすぐに自分より上の役職に就いていた義弟は本来まだ仕事のはず。彼女は自分の妻なのに義弟を受け入れているのか。思考が纏まらない間に荷物を落としていたんだろう、彼女と義弟がこちらに気付いて、
『──あら、とうとうバレちゃった』
面白そうに嗤ったんだ。
「……なんで? どうして、だって、愛してるって……」
「事が全部終わった後、彼女が全て教えてくれたよ」
義弟が在学中に交際を始めた女性……つまり彼女を妊娠させてしまったことが始まりだったらしい。義弟は有名な会社の御曹司、文武両道、社交性にも富んだ、と周囲から評価されるほど優秀な人間だった。自分に対する時は別にしてな。そんな義弟が在学中に交際している相手とはいえ妊娠させたのを知られれば義弟の評価に、ひいては一族や会社の傷になる。そう考えた義弟含め両親はある計画を思いつき実行した。
「それって……もしかして、ハルカに……」
「正解。妊娠が発覚してすぐさま見合いと称して自分に押し付け彼女を孕ませたよう仕向けた」
「え、え……でも、さっきその人とヤったって……」
「夕飯に睡眠薬を混ぜて、眠ってから服を脱がせてセックスしたと誤魔化したらしい。まったく気づかない自分もあれだけどな」
「ッ……! で、でも……こんなこと言いたくないけど、前世のハルカだって家族だったんだよね? 一族の傷ってものになるんじゃ……」
残念ながら学生時代から既に義弟及び両親によって自分の評価は地の底に落ちていた。会社でも自分はコネで入社して毎日誰かに仕事を押し付けてサボっている社会不適合者、なんて言われているぐらいだったしな。傷が付くどころか、そんな愚息を、愚兄を見捨てない善き親善き弟と評判を上げていたんだ。
「そん、な……誰か、誰かいなかったの? ハルカの仕事を見てた人は」
「会社に誰よりも早く来て、誰よりも遅く帰宅する自分に気付く奴なんて誰もいなかったよ。仕事場も誰も気付かない小部屋を与えられていてしな」
「……」
話を戻そうか。
そこから義弟と両親、そして彼女がどれだけ用意周到に計画していたのかは知らないが、あれよあれよと転落人生の始まりだ。
まず自分と彼女の離婚。周囲から自分はDV……家庭内暴力をしていた最低な夫とされていた。それを義弟が自分に隠れて支え続け、いつしか二人に愛情が芽生え……なんて女性向けの恋愛小説みたいなのが筋書きだったみたいだ。悪役の自分の意見は何一つ信じてもらえず、離婚は成立し慰謝料を強制的に支払わされ、当然子どもの親権も取られ彼女に引き取られた。子どもも何年も滅多に会わなかった自分より、実親であり何度も会っていた義弟に前々から父親として懐いていると聞かされた。
次に会社をクビになった。離婚という不祥事に被せて会社の金を横領したなんてありもしない罪をでっち上げられてな。流されている評判に相応しい不正に周囲は疑うことなく納得し、逮捕されないだけ肉親から最後の恩情だと、両親に同情の声をあげていた。これにも裏があったみたいだが。
「裏……」
「自分を産んだ母親が自分に残した莫大な遺産。それを得るために父親は十何年も掛けて代理人を懐柔して合法的に遺産を手に入れようとしてたらしい。それまでは自分を手の届くとこに置いていたみたいだが、まあ、クビにしたということは遺産を懐に収めることに成功して、自分が用済みなったということだろうな。彼女に聞かされるまでまったく気付かなかったよ」
全てを失い、ボロアパートに移った自分は日雇いの仕事でその日暮らし。毎月、養育費を支払わせられて、支払いが足りない場合は勝手に借金にさせられて、最後はさっき言ったように彼女に事の真相を告げられて、何日か経ったある日に、名前も思い出せない自分の前世は、これまで生かしてくれた肉体と食べてきたモノにしか感謝できず死んだ。たぶん、自分が食義を習得できたのもきっとこの最期があったからなんだろうな。
そこからはアイに以前話した通り、神様とやらのところで色々あって、転生して捨てられ、名桐悠という人間になったわけだ。
「あ、あぁ……」
「だから、なんて言うつもりはない。状況も真逆だ。けど、どうしても被ってしまったんだ。自分を助け出した時のアイと見てしまった彼女が……すまない」
「違う……ハルカは悪くない、前世のハルカも何一つ悪くない! 私も……私だって……その人と変わらない!」
「いや、アイと彼女は……」
「同じだよっ! ニノちゃんはハルカはって言ったけど、全然そんなことない! 私は……子どもだけじゃない、ハルカも傷つけるところだった!!」
「……どうしてそこでニノが……?」
叫んだアイを抑え、話を聞くためにドライヤーで髪を乾かしながら動かないようにする。初めは抵抗していたアイも次第に抵抗しなくなり、ドライヤーを受けながらニノとの会話を話し始めた。
それでようやくアイが子どもを作りたいと考え始めた原因を知った。確かにニノの考察はあながち間違っていない。荒療治としてはどうかと思うが、まあ、ニノなりにアイと自分を気遣ってくれたのだろう。だけど、どう考えても失敗した時にニノが全ての責任を取りそうな気がするので、流石に今回ばかりは仕方ないと許す気はない。ニノには試作第二弾の麻婆豆腐のいけに……、もとい実験体として沈んでもらうことにした。アイの手で食べさせれば喜んで食うだろう。天国と地獄を味わえ。
「……そうか。睡眠薬で自分が眠ってる間に、か……」
髪を乾かし終え、ドライヤーを片付けながら自分は呟く。それは、確かに傷ついただろうな。実行され、その報告を聞かされた時に記憶も戻ったかもしれない。ただ、
「それでも、アイを責めたりはしなかっただろうなぁ」
「っ、どうして? 同じことをしようとしたんだよ!?」
「だってアイの願いは昔から変わってないから」
彼女と違い、アイとはもう十年に届きそうなほど共に居る。顔を合わせ、会話した数も天と地ほどの差だ。だからこそ知っている、アイが心の底から望んでいることはただ一つだけだということを。
「君はずっと、愛そうと、愛されようと必死だった」
それをずっと見てきたからこそ、もしアイが睡眠薬を使って子どもを
持ってきた冷却シートの吸着面を剥がし、冷たいぞ、と一言断ってアイの腹部の痣に貼り付ける。
「ん……ハルカは私に甘すぎると思う」
「かもな……頬にも貼るぞ……はい、しまいだ」
「ハルカも腕出して。私が貼る」
「助かる。なら、ここに頼む。……なあ、アイ」
「なぁに?」
「色々あったが──まだ、子どもは作りたいか?」
問い掛けに、アイの冷却シートを貼る手が一瞬止まった。だけどすぐに腕に貼り付けると、
「……うん。作りたい」
迷うことなく頷いた。
「それは、どうして?」
「私の家族が欲しいから。自分の子どもになら愛してるって言えるかもしれないから」
「家族にはなれるな。けど、愛してるって言えるかどうかはわからないぞ。自分は結局、子どもに愛してるって言えなかった」
「じゃあ今度こそ言おう? 前世の子どもに言えなかった分も、私と一緒に」
「言えなかったら子どもはどうするんだ? 言えなかったはいさよなら、で終わらせられないんだぞ」
「そんなことしない。そんなこと絶対しちゃいけないのは、捨てられた私とハルカが一番知ってるでしょ」
「じゃあどうする?」
「何年、何十年、子どもが離れるその時までずっと続けるよ。あ、なんならずっと一緒に暮らせばいいかも」
「独り立ちはさせてやれ」
「仮に子どもを作るとしよう。アイドルはどうするんだ?」
「続けるよ。まだ辞める気はないから」
「星野アイの幸せとB小町アイの幸せ、どちらも手放す気はない、と」
「うん。私は欲張りだから。手が届く幸せは何一つ零したくない」
「もしバレたらどうする? 炎上どころじゃ絶対に済まない」
「
「それだけじゃない。苺プロで働いているスタッフ全員に迷惑が掛かる。苺プロは潰れ、全員が職を失うことだってありうる」
「……そうだよね。ニノちゃんも言ってた」
「それでも……それがわかっていても、何もかも犠牲になるかもしれないとわかっていても子どもを作りたいか?」
「うん、作りたい」
「そうか……」
「子どもを作るのは今すぐじゃないと駄目なのか?」
「ダメ。今すぐって決めたから」
「……出産は危険を伴う行為だ。成人でもそうなのに、未成年だとそのリスクはかなり跳ね上がると前世で読んだ」
「そうなんだ」
「子どもが死ぬんじゃない。アイが死ぬかもしれないんだ。その覚悟があるのか」
「ないよ」
「だったら……」
「だって、ハルカがそんなことさせないでしょ」
「っ……!」
「……最後に教えてくれ」
「うん」
「どうして、相手を自分に選んだんだ?」
なんて最低な質問をしているんだろうか。それでも聞かずにはいられなかった。
確かにアイにとって一番身近な男は贔屓目なく自分だ。でも、それでも自分じゃなくてもよかったんじゃないだろうか。もっと良い相手がいたんじゃないだろうか。ずっとそんな考えを浮かべてしまう。
アイは少し間を置き、言葉を選ぶように口を開く。
「ハルカが大切だから」
「っ……」
「ニノちゃんは、私だけだったらハルカにも内緒で他の男の人とヤっていたかもしれないって言ってたけど、そんなことは絶対にありえない。あの時、お母さんと一緒にいた男の人に襲われて、怖かったけど改めて絶対にないって思えた」
だって、と、アイは倒れるように自分の胸に体を預けてくる。
「この気持ちが恋なのか、愛なのかはまだわからないけど、今の私にとってハルカは、誰よりも大事な家族で、一番大切な人なんだから」
「一番、大切……」
「だから、こんなことをお願いするのはハルカだけなんだよ?」
そう言って背中に手を回すアイ。
何も返せなかった。呆然とアイの言葉が頭の中を駆け巡る中、ポツリと呟いてしまった。
「大切って」
「ん?」
「大切って……どれくらいなんだ?」
アイはうーん、と少し悩み、
「私の命くらい?」
疑問形ながら、ハッキリと言った。
その言葉は自分の中でストンとあっさりと吸い込まれ、不思議なほど納得がいった。
アイの例えにではなく──
命……ああそうか。そうだったのか。
冷静になってからずっと疑問だったのだ。自分の直観は、さっきブチギレた時に
そんな自分に対する危険しか反応しないはずの直観が、どうしてアイに対して反応したのだろうか。
「ああ……自分にとって君はもう、自分の命と同価値だったんだ」
これが恋なのか、愛なのかは未だにわからない。
それでも、星野アイは名桐悠にとってもう、なくてはならない大切な存在なんだ。
前世で彼女に抱いていた思いが面白いほど簡単に塗り潰されてしまうほどに。
「そうなの?」
「ああ。自分もアイが大事で、一番大切なんだって今気付いたよ」
「そっか。両想いなんだ、私たち……えへ、えへへ」
胸に顔を埋めながら、アイは笑う。
なんという現金な奴なんだろうな自分は。自覚した途端、彼女の幻影は見えなくなり、アイの笑みだけで我慢できなくなりアイの体をそっと抱き締める。
ああ、今になってようやく師匠の言葉がわかった。自分の選択は最初からズレていたんだ。
アイに望まれたからじゃない。自分が望んでいるんだ。
最後に誰を選ぼうと? 最初から最後まで自分だけを選んでほしいんだ。
「アイ」
「なーに?」
「子ども……作ろうか」
「……いいの?」
「ああ。だけど、子どもを作るのに一つだけ妥協してほしい」
「妥協?」
「今日のセックスで妊娠しなかったら、
「……それは、やっぱり危険だから?」
「ああ。アイが自分を信頼してくれてるのは伝わった。けど、それでも、怖いんだ。アイが大切だって自覚したからこそ余計にアイを喪うかもしれないことに……」
「そっか……」
大切だとわかった以上、アイの願いは叶えたい。だけど、同時に不安を覚えているのも事実だ。だから線引きにも近い妥協をアイに伝えた。
少し迷ったアイだったが、自分の顔を見つめた後、妥協を受け入れてくれた。
「代わりにじゃないけど、一つ誓ってほしいな」
「ああ、何を誓えばいい?」
「……ハルカも私のことが大切なんだよね?」
「ああ、一番大切だ」
「それって、好きってことなんだよね? どんな好きかは関係なく」
「……そうだな。好きじゃなければ大切だなんて思わないだろうからな」
「なら……これから死ぬまでずっと私だけを好きでいるって……他の誰も好きにならないって誓える?」
胸に顔を埋めてアイは聞く。その体は寒さ以外の理由で震えているのはすぐに察せた。
「……ああ、誓う。自分はこの先誰も好きにならない」
「じゃあ名桐悠の全部は、髪の毛のてっぺんから爪の先まで、命まで含めて全部私のもの」
「ああ」
「他の女の子に触ったら……うぅん、他の子と話してもダメだから」
それは、無理じゃないかと思った。仕事とかでB小町の面々やミヤコさんと話す事だってある。いつもであれば少し迷った後にそう苦笑と共に言っていただろう。だけど、胸の中から見上げてきたアイの瞳を見て、
「……ああ、それも誓う」
そう嘘をつく。
俺の言葉が嘘だとアイはすぐに気付くだろう。それでもアイは俺の言葉に目を瞬かせ、にへらと笑った。俺の頬へ手を這わせる。俺もアイの頬へ手を添えた。
「なら私も誓う。星野アイの髪の毛のてっぺんから爪の先まで、命まで全部ハルカにあげる。……B小町アイはあげられないけど」
「いいよ、B小町アイはファンに譲る。けど、星野アイは全て自分のものだ。……星野アイも、もう他の男と口を利かないでくれるか?」
「うん。誓う」
そう互いに嘘を吐き、互いの嘘を見抜きながら、互いを引き寄せ、
「ん……」
唇を重ねた。今度は一方的に押し付けるだけじゃなくて、互いの想いを乗せた口付け。
それはきっと祝福/呪いとして名桐悠と星野アイを繋げ、絡まり、雁字搦めに縛り付ける。
「……ありがとう」
唇が離れた後に囁いた言葉は聞こえないフリをされて。
もう一度口付けを交わし、順に重なり合い、ベッドに沈み、そして──
★★★★
★☆☆☆