愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者   作:だんご大家族

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à la carte La carte3

 

 

〈麻婆〇〇〉

 

 

 夕食後、アイが入浴している間に洗い物を済ませている悠の元に、急に壱護から電話が掛かってきて、

 

『おーう、悠ぁ。なんか酒にあうツマミ作ってくれ。あ、辛い奴で頼むぜぇ』

 

 一方的に掛けてきて、一方的に切られた。

 しかもスピーカー越しの声音からして、しこたま飲んでいるようだ。絶対酒臭い。

 溜め息を吐きつつ、悠は仕方なく洗い物をさっさと片付け、キッチンに立ち、手早くオーダーされた品を作りはじめた。

 

 生姜と長葱をみじん切りにし、豆腐を四等分に切る。花椒(ホアジャオ)をすり潰し、鷹の爪を種ごとみじん切り。醬油に塩胡椒、砂糖を加えた合わせ調味料を作り、下準備は完了。

 加熱したフライパンに油を多めに加え生姜と長葱、花椒と鷹の爪を入れて香りが移るまで炒め、香りが立ってきたら合わせ調味料と豆板醤を加え、手早く絡めたら鶏がらスープの素を混ぜた水で割る。

 沸騰するまでの間に同時に火に掛けていた鍋の熱湯の中に四等分に切った豆腐を入れて茹で始める。

 煮立ってきたら小皿に少しよそい味見を、

 

「あれ~? ハルカ、また何か作ってるの?」

 

 する前に、入浴を終えたアイに見つかっちった。

 

「酔っぱらった壱護さんがオーダーしてきてな」

「またー? 佐藤社長、酔っぱらうといっつも頼むよね」

「ああ。この前なんか夜中に叩き起こされて作らされたから、まだ今日はマシだが……」

「──隙ありっ」

「あっ、おい待て! それは辛──」

 

 一瞬の隙を突いて、アイはよそっていた味見用の一口をチュルッと吞んでしまう。

 

「あふっ……んっ、うん、ピリ辛でおい、しい……?」

 

 味わって感想を言ってる途中で言葉が怪しくなり、

 

「ぴゃー!? がらい~っ!!?」

「ああ、やっぱり……」

 

 あまりの辛さに叫んでしまうのだった。酔っ払い壱護のために普段より辛めに作っていたのだ。さもありなん。

 悠もわかっていたので、コップに牛乳を注いでアイに手渡す。ひったくるように受け取った牛乳を一息に飲み干す涙目のアイ。可愛い。

 

「んくっ、んくっ、んくっ……ぷはぁ! ……ま、まだ舌がビリビリするぅ」

「確認せず盗み食いするアイが悪いからな。まったく……」

 

 もう一杯牛乳を用意しながら、もう一度小皿によそい味見をする。

 頷き、水溶き片栗粉を加えゆっくりと混ぜてとろみを付けたら完成。茹で終えた豆腐をお椀によそい、その上から麻婆あんかけを注ぎ入れて、

 

「完成、と。湯豆腐の麻婆あんかけ風ってところか」

「……それって麻婆豆腐じゃないの?」

 

 牛乳をちびちび飲みながらアイに突っ込まれる。

 二人分作り、ラップフィルムでフタをしながら、悠はだよな、と苦笑した。

 

「まあ、ツマミだったら麻婆豆腐より湯豆腐かなってことで」

「ふーん? んくっ」

「壱護さんに届けてくるけど、フライパンに残った麻婆は舐めるなよ」

「ぜっっったい舐めない」

 

 流石に懲りたのかブンブン首を振って悠を見送るアイ。ちなみにこの日のつまみ食い以降、ちょっぴり辛い物が苦手になってしまったアイちゃんなのだった。

 

 その後、斎藤宅にお邪魔して、案の定、酒の飲み過ぎの壱護に雷を落としているミヤコに見つかり、

 

「悠も悠で、頼まれたらって何でもかんでも作らない!」

 

 と、何故か壱護と二人してミヤコから説教を貰うのであった。

 なお自分と壱護用に用意していた二人分の湯豆腐は自分の分はミヤコに献上することとなり、

 

「あら、結構辛いけどいけるじゃない」

 

 と、ミヤコには好評。

 

「辛っ!? み、水! 水ゥッ!!」

 

 壱護は悲鳴を上げるのだった。

 よくいるよね、辛いの得意じゃないのに食べようとする人。いるいる。 

 

 

 

 

  ☆☆☆☆

 

 

 

 

〈麻婆○○ その2〉

 

 

 これはほんの少しだけ先のお話。

 

 悠とアイからの報告や壱護とミヤコ、B小町の面々での話し合いが終わった後。

 B小町三人は悠の誘いで悠の部屋に来ていた。いや、正確にはニノだけ夕食に誘われて、ミネとナベの二人はついでのような感じか。

 リビングでテーブルで囲むB小町四人はキッチンから聞こえてくる調理の音をBGMに雑談に興じている。

 しばらく経つと、調理を終えた悠が料理を持ってくる。

 

「待たせたな」

 

 まずはアイ、ミネ、ナベの前に料理が並べられる。

 

「へー、今日は麻婆豆腐なのね」

「辛さは抑えめに作ってあるから、辛くしたければラー油と山椒を置いておくから好みで入れてくれ」

 

 麻婆豆腐とわかめスープを並べ、テーブルの真ん中にラー油と山椒の小瓶を置く。

 

「あの、お兄さん? わたくしの分は……」

「ニノの分は今から仕上げに掛かるから済まないが少し待ってくれ」

「は、はあ……」

 

 この時からニノは猛烈に嫌な予感に襲われていた。

 先に食べることを謝るアイたちに気にしてないと不安を隠しながら言葉を返す。

 そして、少しして悠が料理を持ってきた。

 

「待たせた。試作第二弾……紅丹朱緋(こうたんしゅひ)の麻婆豆腐だ」

「それはまた意味が掴めない名前の料理です、こ、と……なぁにこれぇ」

 

「……」 「……」

「……」

 

 目の前に置かれた料理を見て、思わず呟いてしまう。

 自分の料理を食べていたアイたちも、どんな料理なのか気になり視線を向けて、言葉を失っていた。

 ニノの前に置かれた皿によそわれていたのは三人と同じ麻婆豆腐だ。

 だが赤い。ただただかった。ルビーのように輝くとろみが付いたスープ。その上に浮かぶラー油が赤黒く赤一色のスープに色のアクセントを加えていた。そんなスープに浮かぶ真白い豆腐と最後に散らされたネギの緑が唯一の目の保養か。

 

(こうたんしゅひ……こうたん? しゅひ? ……否! 恐らく紅・丹・朱・緋、全部赤色の当て字ですか!)

 

 なんて、どうでもいいことを考えて現実逃避してしまうニノ。

 しかし、ニノの正面、アイの隣に同じ料理を持って腰を下ろした悠は逃がさない。ちなみにアイは少し横にズレて悠から距離を取った。

 

「さあ、食べようか? ニノ?」

「ぴぃっ!? い、いやいや、いやいやいやお兄さん? 何ですかこれ!?」

 

 普段絶対に上げない可愛い悲鳴を上げてしまう。

 

「見ての通り麻婆豆腐だが?」

「三人のと比べて赤すぎません!?」

「アイたちに出したのは花椒や唐辛子といった辛み成分を抑えて作った物だ。三人用に使わなかった分を自分とニノの分に加えた」

「え、えげつないわぁ……こほん、何故、わたくしにだけ?」

「お前、今回の件でもし苺プロが被害を被った場合、責任を全て背負う気だっただろう」

「──」

 

 悠の言葉にニノの表情が固まる。

 アイやミネ、ナベもどういうことかと首を傾げる。

 

「まあ、アイから話を聞いただけで立てた予想だが、その固まり具合は当たりのようだな」

「……はあ。どうしてこう、察しが良いんですかね? お兄さんは」

「お前さんが意見を出すだけで投げっぱなしにするとは思えなかったからな。ましてやアイのためであり、あんな突拍子もない提案だ。失敗した時の対処も考えたが……」

 

 手元のレンゲで麻婆豆腐を掬い、

 

「まあ、ニノ個人じゃ無理そうだからな。後は消去法だ」

 

 そう締めくくって口に入れた。

 もぐもぐと静かに咀嚼していたが、数秒と経たないうちに汗が顔中に浮かび上がる。

 それを見て、ぴぃっ!? とアイが悲鳴を上げて隣のナベの背中に隠れた。可愛いと四人の脳内が一時的に一致する。

 

「ふぅ……じゃあ、召し上がれ?」

「あの、今の話とこの麻婆豆腐がまったくこれっぽっちもわかりませんが? というかお兄さんの滝のような汗で全然話が入ってこなかったんですが……」

「自己犠牲はやめようね、という意味を込めたお仕置きだが? ああもちろん、人のこと言えないから自分も食べてるんだが」

「う……うぅ……」

「ふむ、無理か……」

 

 一口、二口と食べていた悠だったが、レンゲを動かせないニノを見て、

 

「アイ」

「な、なにかな?」

「しょうがないから、ニノに食べさせてあげて」

「ぴ!?」

「え? ……で、でも」

 

 悠が頼むが、躊躇するアイ。

 その様子を、アイと麻婆豆腐に視線を行ったり来たりさせるニノ。

 アイもニノと悠に視線を行ったり来たり。悠はそれ以上何も言わず微笑を浮かべるだけ。

 どちらもどうすることもできなかったので、

 

「はぁ……ニノ」

 

 ナベが助け舟を出した。

 

「名桐とアイが、あーんしてくれるならどっちがい──」

アイちゃんに決まってるでしょう!? ……あ」

「はい、じゃあ決まり。ほら、アイ。ニノがやってってさ」

「えーっと……じゃあ」

 

 ナベに促され、ようやっとアイも動き出し。

 誰も使っていなかったレンゲでニノの前に置かれた麻婆豆腐を掬い、

 

「あーん」

「──!!」

 

 ピシャーンとニノに雷が落ちる。

 

(アイちゃんのあーん。推しの子のあーん!? なんだかんだ仲良くなって数年だけど初めてのあーん! いえ、一回はわたくしのケーキを貰おうとアイちゃんの方がしてくれましたけど! ああ、ああ、あの時のアイちゃんの口を開けて待つ姿は脳内どころか魂に焼き付いています! まるで雛鳥が餌を待つかの姿……ああいけない! 思い出し過ぎて愛が噴き出しそうです! ……食べたい、アイちゃんのあーんなんてすぐにでも食い付きたい! この先一生ないかもしれないこの千載一遇のチャンスは是が非でも……! しかし、レンゲに乗ってるのはあのお兄さんでさえ汗が噴き出すほどの辛さ……ああ、でも、でも!!)

「あーん♪ ……──~~っ!?!?」

「に、ニノちゃん? 大丈夫?」

「………………ええ。辛いですが、その奥から旨味が溢れて、意外と、美味しいです、よ? というわけでアイちゃん、もっと食べさせて♪」

「…………あーん」

「あーん♪ ……こほっ、ああ、辛い(幸せ)♪」

 

 

 

 

 

 

「うわ、百面相してたと思ったら笑顔でイったわ……汗だらだらなのに笑顔でおかわりお願いしてるし」

「ニノならアイのあーんは絶対拒否らないはずだからな」

「……名桐、アンタもアンタで汗だらだらのまま愉悦染みた笑み浮かべてんじゃないわよ。ちょっとキモい」

「実は汗は出てるがそれほど辛く感じないんだよな。なんならもっと辛くしてもいい」

「えぇ……」

「今度は香味野菜や調味料じゃなく具材の方に改良を加えてみるか。くくく……」

「絶ッッッ対、アタシは呼ばないでよ。お願いだからっ」

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