愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者   作:だんご大家族

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à la carte La carte4

〈ラーメン大好き ミヤコさん〉

 

 

 こそこそと、だけどウキウキな顔を隠せていないミヤコがブーツを履こうとした瞬間、

 

「……あれ~? ミサトさん、おでかけ?」

 

 なんて、聞こえちゃいけない声が聞こえてしまった。

 

「……」

「……」

 

 ギギギ、と顔をズラせば、あら不思議。

 片や、ウサギ柄のパジャマ姿な星野──公的には斎藤──アイちゃん。13歳。

 片や、コートまでしっかり着込んでいる斎藤ミヤコさん。2×歳。ちなみにアイちゃんの義母。

 寝ているはずのアイちゃんがいるではないか。耳をすませば水が流れる音が。

 

「あ、アイさん……寝てたんじゃ。あと、ミヤコです」

「ハルカの部屋でジュース飲みすぎちゃって……」

 

 どうやらお花を摘んでいたようで。

 なんで壱護だけじゃなくアイさんも寝ているか確認しなかったのよ私ィ! と内心頭を抱えてしまうミヤコ。そんな胸の内を隠してアイをベッドへ誘導しようと必死に言い訳を考え始める。

 寝ぼけまなこでぼやーんとしていたアイだったが、だんだんと意識がはっきりしていき、お目目がパッチリしてくると、

 

「ミサトさんミサトさん」

「ミヤコです」

「佐藤社長に『お化粧キメたミサトさんが夜中にウッキウキでお出掛けしてた』って言われるのと、私も連れて行くの──どっちがいーい?」

 

 楽しそうに、或いは悪そうにミヤコを脅迫した。

 

「え!? い、いえ、流石にアイさんを連れて行くのは……それに、そう、ただの散歩だから──」

「私知ってるんだ~♪ キッチンの戸棚の右下。保存食の奥に──」

「な、なんで知ってるの!? 誰もいない時に隠してたのに!?」

「それにいつもより薄めの化粧、汚れが落ちやすい服。いつもは緩くまとめてる髪がポニーテールに」

「わー! わかった、わかりました! 連れて行きます!」

「いぇい☆」

「で・す・がっ、社長を起こさないよう静かに、かつ手早く、そして寒いのでしっかり着込んでくること! いいですね?」

「はーい!」

 

 とてとて部屋へ消えていくアイを眺め、ミヤコは頭痛が痛いと言わんばかりにこめかみを抑えるのだった。

 ちなみに佐藤社長もとい斎藤社長な壱護さんは、まったく起きる気配なく、

 

「ドームライブぅ……すやぁ」

 

 なんとも良い夢を見ているようで。

 

 

 

 

「さむさむ……ミサトさん、まだ着かないの?」

「もう少しです。あとミヤコです」

 

 雲一つない夜空の中、ミヤコとアイは白い息を吐きながら歩いて目的地へ向かっていた。

 

「にしても、どうしてこんな夜に行こうとしたの? 歩いて着くならお昼とかでも……」

「屋台を出しているのが、だいたい夜十時ぐらいから深夜三時までなんですよ」

「そんな時間でお客さんって来るの?」

「世の中には皆が寝静まった頃に仕事が終わる人だったり、こんな時間までお酒を飲んでる酔っ払いがたくさんいるんです。そういう人が主に利用してると思いますよ」

「かぱかぱ瓶のお酒飲んでる佐藤社長みたいな?」

「……まあ似た者ですね。ああ、そこの曲がり角でやってるはずです」

 

 ミヤコが指差した公園の曲がり角。そこだけ街灯以外の光で明るくなっていた。鼻にも夜なのにお腹が空いてしまいそうな良い匂いが届いてきた。

 走りそうとするアイを抑えながら曲がり角を曲がると、公園の向かいに建つお店の駐車場に荷台部分が料理場となった軽トラが駐車しており、そこで老人が一人で切り盛りしていた。公園を囲う低いブロック塀や駐車場のパーキングブロックに座って何人かの客が食べていた。

 

「はえ~、これがミサトさんが食べようとしていた屋台のラーメン」

「ええ。前々から食べたかったんですけど機会がなくて。ホントは一人でのんびり食べたかったんだけど。あとミヤコです」

「意外だよね、ミサトさんってすっごく美容にうるさいのに、好きな食べ物がラーメンなんて。しかも真夜中に」

 

 実はそうなのだ。散々美容にうるさく、かつ給料の大半をヒアルロン酸注射等、美容治療のために注ぎ込んでいるミヤコの好物はラーメンだったりする。上京するまで、上京してすぐの頃は週に何度もラーメンを食べていたが、キャバクラやクラブで働き始め、自分磨きを始めた頃に禁煙ならぬ禁麺をしていたのだ。

 壱護さんに誘われて苺プロに入ってから禁麺は解除したが、美容のためにあまり食べないようにしていた。でも時々どうしようもなく食べたい時があるもので、

 

「今日はチートデイなので」

 

 こうしてボディビルダーみたいな言い訳を携えて食べているのだ。

 

「ラーメン二つください」

「あいよ。っと、めんこいお嬢ちゃんたちが来るのは珍しいのぉ」

 

 柔和な笑みを浮かべておじいちゃんが調理に取り掛かる。

 沸騰している鍋に細い縮れ麺を二玉入れ、茹でている間にどんぶりにかえしとうま味調味料を入れる。

 

「お嬢ちゃんたちは姉妹? それとも親子かな?」

「えぇっと……」

「ミサトさんはママかな」

「書類上はそうですが……それとアイさん、せめてママじゃなくてお母さんにしてちょうだい」

「ママぁ」

「うぐぅ……間違ってないけど、間違っていないんだけどぉ……」

「……それにお母さんはお母さんだけだから」

 

 世間話として少しばかり重めの返しだったが、おじいちゃんは「そうかそうか。仲良ぇのう」と笑みを深めるだけで何も聞かなかった。

 麺を茹でている鍋とは別の、もう一つの鍋のフタを開け、豚ガラや鶏ガラ、数種類の野菜が煮詰められたスープをかえしの入ったどんぶりに注ぐ。タイマーなどセットしていないのに長年の経験で茹で上がったと判断した麺を掬い、チャッチャとザルで湯切りしどんぶりによそう。その上にチャーシュー、メンマ、ナルト、ネギを乗せて、

 

「はい、お待ちどう」

 

 おじいちゃんが屋台を始めて三十年。変わらない味付けの醤油ラーメンの出来上がり。

 

「それと、めんこい二人にはサービス」

 

 最後に、本来は有料トッピングのゆで卵も縦に切って、おまけとばかりに乗せてくれた。

 

「ありがとうございます」

「ありがと、おじいちゃん!」

「なんのなんの。ああそうじゃ、イス出してあげるから暗いとこ行かずに屋台の近くで食べんさい」

 

「店長やっさしー!」

「俺らにも優しくしてくれよー!」

 

「そう言うならツケてる分今日払って貰おうかの~」

 

「うそうそ! 店長さいこー!」

「給料日に払いにきまーす! わはは!」

 

 常連客だろう、やや酔っぱらったスーツ姿のサラリーマンの声に対応しながら、おじいちゃんはパイプ椅子を出してくれる。ミヤコとアイはお礼を言ってラーメンを食べ始めた。その間も他のお客がちらほらと頼んでいく。

 

(色んなラーメンを食べてきたけど、屋台のラーメンって言ったら縮れ麺に醬油ベースよね)

 

 ミヤコは息を吹きかけ、ずるずると一息に麺を啜る。もちもちと縮れた細麺がスープとよく絡んでいる。他の店に比べて少し薄めだが、夜中に食べる分にはちょうどいい味付けだ。それに薄くとも肉や野菜の出汁がしっかり効いているので物足りないと感じることはない。

 

(それとこのメンマ、たぶん自家製ね。市販の味付けメンマはこんなに味が深くないわ)

 

 加えておまけしてくれたゆで卵も黄身がこぼれない程度に固まった半熟だ。また、白身が中まで色付いていて、しっかりと漬けてあるのが見ただけでわかる。

 

「ずるる……はぁ、うまうま」

「ふふ、アイさん。チャーシュー、私の分もどうぞ」

「いいの!? ありがとミヤコ(・・・)さん!」

「どういたしまして。それとミヤコです……ん?」

 

 チャーシューに喜ぶアイを見て、何か気になったが、ミヤコは気のせいと、ラーメンを食べるのを再開した。

 しっかりとスープまで飲み干した二人はぷはぁと満足げに寒暖差で白くなった吐息をこぼす。

 

「ごちそうさま。どうでしたかアイさん」

「とっても美味しかった。ごちそうさま! おじいちゃん」

「はい、お粗末様。スープまで飲み干してくれると冥利に尽きるのう」

「なんて言うのかな。ほっとする? 優しい? そんなスープだった!」

「そうかそうか」

「……これ、ハルカにお願いしたら作ってもらえるかな」

「無理だな。自分でも似た味は作れるが、この味と安心感は何十年も作ってきたこの人しか出せない」

「そっか~……あれ?」

 

 アイは疑問に首を傾げた。

 どうして独り言に答えを返す人がいるんだろう。男の声だったからミサトさんじゃないはず。

 振り返ると、

 

「ずるずる……うん、美味い。夜間の冷たさにラーメンの温かさ、そしてこの薄めだが出汁がしっかりとした優しいスープ。なるほど、こういうのを調和してるって言うんだろうな」

 

 なんと自分の部屋で寝ているはずの悠がラーメンを啜っているじゃないか。

 

「ハルカ!?」「悠さん!?」

「おやまあ、知り合いかい?」

「家族です。二人を迎えに来たついでに良い匂いでしたので」

 

 ごちそうさまでした、と空になったどんぶりを置く。洗いますね、と断りを入れて自分のとアイとミヤコが空にしたどんぶりを裏手の水道で洗う。

 おじいちゃんは悠の行動に驚くことなく「すまんのう」とお礼だけ言った。

 

「ど、どうして悠さんがここに?」

「夜中に二人の声が外から聞こえたので、心配になって後をつけてました」

「い、壱護には……」

「……夜間外出の許可を貰うために話しました。一応、後見人になってもらってから日が浅いので」

「ああ……終わった」

 

 帰ったあとのことに頭を抱えるミヤコ。

 実際、悠に起こされた壱護は現在、リビングで三人が帰ってくるのを待ってたりする。

 

「それじゃあ帰ろうか」

「うん。じゃあねおじいちゃん」

「ごちそうさまでした……」

「またおいで~」

 

 そんなこんなで帰宅する三人。

 当然待っていたのは、壱護によるお説教だった。

 まあ、お腹いっぱいになっておねむになってしまっていたアイちゃんには暖簾に腕押しであったが、ミヤコさんにはしっかり雷が落ちるのであったとさ。

 

 

 

 

  ☆☆☆☆

 

 

 

 

〈泡沫の願い〉

 

 

 それを見かけたのは偶然だった。

 

 壱護さんがもぎ取ってきた地下アイドルとしては大きめの地方ライブの仕事に自分も裏方として参加していた。未成年、それどころか中学生の自分だったが落ち着いた雰囲気と仕事をこなす姿に苺プロ以外のスタッフから怪しまれることはなかったが。

 B小町はまだまだ地下アイドルから抜けきらないグループだったが、しかし、既に人気は出始めていて、ライブのチケットは早い段階で完売したらしい。

 事務所の作業や小さなライブの裏方なら何度かやっていたが今日のような大型は初めての体験だった。ファンの熱量は凄まじく人の熱気に充てられて、顔に出していないつもりだったが、壱護さんにも気付かれ休憩するよう言われ、自分は壱護さんの好意に甘え、会場の外に涼みに出た。

 火照った頬に夜風が気持ちいい。長く息を吐いて熱狂が届かない場所で休憩しようとして、移動しようとした時だった。

 

「……救急車?」

 

 会場の近くに駐車されている、白地に赤いラインの入ったワンボックスカーを見つけたのは。

 赤いランプは点灯しておらず、外で救急隊員らしき人物たちが談笑しているのを見るに、何かトラブルが起きて呼ばれたわけではなさそうだった。

 一体どうして? 何か起こるのか?

 もしかしたらアイたちに関係するかもしれないと思い、自分は休憩のために外していた身分証を首に掛け直して隊員に近づいた。

 

「お話し中すみません」

「おっと、どうした? 少年」

「現在ライブ中のアイドルが所属している事務所の者です」

 

 掛けられた身分証を掲げてみせる。自分がスタッフだとわかると姿勢を正し、丁寧に挨拶を返してくれた。

 何があったのかと聞けば、事故や要請があったわけではなく、九州で入院しているとある患者の願いを叶えるために送迎をしているみたいで。

 

「それがライブを見に来ることだった、と」

「最初に話が来たときは、どこのボンボンが、んな無茶をとは思ったけどな。わざわざ研修医の兄ちゃんが頭下げにきて、なあ?」

「ああ。患者に入れ込むのはどうかとは思ったが、見上げた根性だったよ。んで、ウチの上司が研修医の熱意に負けて送迎を引き受けたんだ」

「そうでしたか」

「まあ、研修医の兄ちゃんの熱意もそうだが、患者の境遇を聞かされちゃあなぁ」

「同じ年頃の娘を持つ身としては個人的にも叶えてやりたくなってしまってな」

 

 それはまたすごいものだ。

 海外ではよく取り上げられるような要請を受け入れた隊員たちもそうだが、患者の願いを叶えるために奔走したらしい研修医も、外出許可を貰えるよう病気に耐えきった患者も。

 なんだか眩しい物を見ているみたいだった。

 

「それじゃあ患者は」

「今頃特例で入場を許可された研修医の兄ちゃんとライブを楽しんでいるはずだろう。流石に最後までは無理だから、どこかで抜けてくるだろうけど」

「それまでお二人はここで? 寒くありませんか?」

「いやいや、さっきまで中に入ってたんだよ。けど入り口近くでもファンの熱狂がすごくってね、二人して涼んでたんだよ」

 

 わはは、と二人して笑う姿に自分も流れに合わせて笑みを浮かべる。

 同時に会場の方からも大きな歓声が外にいても聞こえてきた。

 

「アイドルのことは知らんが大人気なことだ……あの子もあんな病気にならなけりゃもしかしたらアイドルになってたかもしれねぇのにな」

「……そこまで良くない病気なんでしょうか?」

 

 会場の方を見てポツリと呟かれた一言。

 自分は思わず聞いていた。

 

「おっと……口に出ちまってたか」

 

 まあいいか、と他言無用だぞと前置きされて、患者の病名を教えてもらった。

 

 退形成性星細胞腫。

 噛みそうな病名のそれは──厳密には違うが誰もがわかるような病名に言い換えるなら、脳で発生する癌だそうだ。

 何千何万人に一人に発症する難病であり、患者の年齢も重なり完治できる可能性が低い病気らしい。

 

「俺たちも研修医の兄ちゃんから聞いた事しか知らないが、あの子にとってあのグループ、ええと……」

「B小町です」

「そうそう、B小町。B小町はあの子の色褪せていた入院生活の心の拠り所になってたみたいでな、深夜番組で初めて見た時からずっとファンらしいんだ」

 

 それは覚えている。確か結成されてから間もない頃に深夜に放送された番組で、初めてB小町がテレビ出演した時だ。その時は他のグループと一緒に取り上げられて、実際に放送された時間は収録の半分にも満たないものだった。

 しかし、患者はその短い時間の中でB小町を知り、ファンになってくれたのか。

 

 それはなんていうか──羨ましくて(・・・・・)寂しいだろうな(・・・・・・・)

 

 ……なんで、自分は今そんな感傷に思い至った?

 自分に問い掛けるも答えは出ることなく、首を傾げたまま。だけど、どうしてか何かしてあげたいと思った。この先、再び患者が今日みたいにライブを生で見られる可能性は低いだろう。病気もそうだが、チケットを取れるかわからない。ライブ会場が近い場所かどうかもわからないのだ。

 だったら──せめて生きようと思えるきっかけぐらいあってもいいじゃないか。

 自分は最後にもう一つだけ質問してから、隊員たちに礼を言ってその場を離れた。

 

 会場に戻り、自分はまっすぐに荷物置き場に向かいライブ開始前にサンプルとして貰っていた二種類の色紙を取り出し、楽屋に走る。時間を確認し、たぶん、予定通りの進行なら今は休憩のはずだ。

 楽屋の扉をノックして許可を貰ってから楽屋に入る。楽屋にはアイたち四人が思い思いに休憩をとっていた。アイとニノはお菓子を食べている。ミネはスケジュールの流れを確認し、ナベは携帯を操作していた。

 

「休憩中すまない。全員に頼みがある」

「お兄さんが頼み事って珍しいね~」

「面倒なことはパスしたいんだけど」

「この色紙にサインしてほしい。四人全員」

 

 一枚目を取り出す。B小町四人が印刷されたものだ。

 

「アンタがサイン欲しがるなんて珍しいけど、誰に頼まれたのよ」

「誰にも頼まれてない。自分の意思だ。頼む」

 

 頭を下げて色紙をミネに渡す。

 ミネがどんな表情をしているかわからないが、自分の手から色紙が抜き取られる。

 

「ふーん……ナベ」

「ん……ま、名桐なら変なことしないでしょ。ニノ」

「は~い……完成っと。はい、アイちゃん」

「はいは~い、ア~イっと、はい、ハルカ」

「ありがとう四人とも。それと、アイにはもう一枚頼む」

 

 書き終わった色紙を受け取り、アイにもう一枚の色紙を渡す。今度はアイだけが印刷された物だ。

 ピリ、と楽屋内の雰囲気が変わった気がしたが、気付かないフリをして、

 

「サインだけじゃなくて、言葉も添えてもらっていいか」

 

 サインを書いてもらいながら、追加の希望を出す。

 

「いいよ~。なんて?」

「……『また、ライブで待ってるからね。約束だよ』」

 

 アイのペンの動きが止まる。自分を見上げ、視線が合うと「うん、わかった」と何も聞かずに嘘を書き込んでくれる。

 代わりに声を上げたのはナベだった。

 

「そんな嘘書かせてどうすんの。おんなじような奴は何人もいるのに、その度にウチらに頼むつもり?」

「いや……いや、ナベの言う通りかもな。流石に頼むのは今回限りだ」

 

 でも、と色紙を受け取り扉の方へ向かい、

 

「なんでだろうな。何でかわからないが、自分みたいになってほしくないって思ってしまったんだ」

 

 扉を開ける。

 楽屋を飛び出し──そこで、

 

 

 

 

「──夢、か」

 

 目が覚めた。

 まだ半覚醒の頭に遠くからアナウンスの声が届く。頭を振って覚醒を促し、ここがどこかを思い出す。

 

「……新幹線より飛行機の方がよかったかもな」

 

 何もせず数時間ただ座っているだけだったので眠ってしまったのだろう。

 それにしても懐かしい夢だった。

 

 あの後、隊員たちの元へ戻ると帰路に就く直前だった。患者と研修医は既に乗車済みで会えなかった。会う気もなかったので、出発される前に助手席に座る隊員に患者に渡すよう頼んで色紙を渡し、すぐに会場に戻った。

 アイたちの追及ものらりくらりと躱し続け、ライブ後から壱護さんにB小町の方針について直談判したり、他にも色々とやっていたので、その後の患者のことは一切耳にしていないし記憶の片隅に埋もれていた。今回の目的地が宮崎──九州だったので夢という形で思い出したのだろう。

 

 あの時は何であんなことをしたのかわからなかった。けど、記憶を思い出した今ならわかる。

 多分、記憶がないまま自分と患者を重ねてしまったんだろう。自分みたいに望みも希望もないまま孤独に終わってほしくなかったのだ。『トリコ』と『食戟のソーマ』が前世の子どもの頃の心の拠り所だったように、あの色紙が、アイに書いてもらった言葉が、患者が少しでも長く生きたいと願う理由に繋がってほしかったんだ。

 まあ、ナベに言った通り、あんなことをしたのは後にも先にもあの時だけだった。

 

「病院でアイと壱護さんに合流して時間が空いていたら、聞いてみるか」

 

 もう三、四年も前の話だ。憶えている医者がいるかどうかわからない。それでも思い出したんだ、聞いてみるぐらい問題ないだろう。

 ある程度の目的を立てているとアナウンスで降車駅に到着したと聞こえた。自分は乗り換えるために荷物を持って席を立つのだった。

 

 

 目的地は──宮崎総合病院。

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