愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者   作:だんご大家族

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2/9 伏線みたいに描写してしまった箇所を削除しました。削除前の一文も特に伏線だったわけではありませんので悪しからず。


四話

 天国にいるさりなちゃんへ。

 元気で過ごしているでしょうか。君のことだから天国だろうとどこだろうと関係なくB小町の、アイの応援に忙しい日々を送っているのではないでしょうか。

 

 天国から見て知っていると思うけど、君が旅立ってから三年(・・)が立ち、B小町は色々と変化がありました。活動方針などいくつもありますが、特に変わった点と言えばアイと可愛い系で被っていたニノが突然のイメチェン、さらに突然のアイ推しの暴露でしょうか。本人曰く、「素に戻っただけです」と言っていたけど、女性ってあんな真反対な性格に自分を誤魔化せるんですね。何人も女性と付き合……ゲフンゲフン、仕事柄見てきたけど、ああいう女性は初めて見ました。どれくらい驚いたかって聞かれたら、そうだな、君と一緒に行ったライブで回したガチャ。さりなちゃんが一発でアイをゲットした時と同じかそれよりちょっと下かな。

 

 さりなちゃんがあんまり好きじゃない、と言ってたミネとナベも同じ頃から注目を集めはじめてきました。たぶん、君も見れば応援したくなると思います。成長した彼女たちも今ではアイドルの傍ら、ミネは舞台やCMといった役者の仕事。ナベはアニメやゲームのキャラクターに声を当てる声優や歌唱を主に。それぞれ、自分の個性を引き出して評価を上げています。ついでに言うと、ニノは地方番組の食レポや深夜枠のラジオ番組。特にラジオ番組でアイの話題で盛り上がった時なんかSNS上が大盛り上がりでした。もしもさりなちゃんと話すことがあったなら、きっとアイの話を一日中続けていたでしょう。

 

 え? アイ? アイのことは言わなくてもさりなちゃんなら予想できると思うけど、それでも言うなら……輝きが半端ない。その一言に尽きるでしょう。元々、人を引き付けてやまない魅力があるのは言わずがな、メディアの露出も増えていってここからだ、と思ったら去年の終わりごろ、急に輝きや魅了が跳ね上がったんだよ。仕事が忙しくてテレビ越しにしか見れなかったけど、君と一緒に見に行った生ライブの何倍も輝いていた。あの可愛さを是非リアルで見たかったよ。最後の一年、二度もライブ抽選に当選した君と違って、俺は一度も当たることがなかったけど。

 

 そんなB小町ですが、数か月前から活動が消極的になっています。というのも、まずニノが家庭の事情により数か月ほどの活動休止を宣言しました。怪我や病気などではないと断言し必ず戻ってくるとB小町が不定期に上げている動画サイトの投稿で発表があったので、そこまで心配はしていません。問題なのは、さっき同僚に教えてもらって知った、アイも体調不良で活動を休止したことです。命に関わるものではないと公式から発表されていますが、ニノが活動休止する前後でも体調を崩していたので、とても心配です。心配で夜も眠れません。……実際、夜眠れないのは忙しいだけです。

 

 そんな個人的な事情は俺の胸の内だけで、今日も今日とてお仕事です。お医者さんに休みなんてほとんどありません。もしさりなちゃんが生まれ変わっても、絶対にこんなブラックな職業目指しちゃだめだからな。先生との約束だゾ。……まあ、さりなちゃんは生まれ変わってもアイドルを目指すんだろうけどね。

 

 さて、まだまだ言いたいことはたくさんあるけど、そろそろ締めの言葉としたい。だけど、最後に一つだけ言わせてほしい。

 

 今日診察を受けに来た妊婦さんのことなんだけどね。

 

 

 

 

 俺たちの推しが妊娠して、かつ、その診察を受け持ってしまった。

 どうしよう、ショック過ぎて脳が別の意味で焼けそう。助けて、さりなちゃん。

 ……え? 生アイ見れたからヨシ? ……ヨシじゃないんだよなぁ……。

 

 

 

 

  ★☆☆☆

 

 

 

 

「双子で約13、4週……妊娠三ヶ月だったよ、さりなちゃん」

 

 一通りの診察が終了し、入院や芸能人である以上起こりえるかもしれない諸々の問題の話し合いを院長に任せて、産婦人科医師──雨宮吾郎は屋上へと足を運んでいた。手すりにもたれ、スマホに残した、かつて研修医時代に関わり、そして看取った患者(しょうじょ)の写真に向かって呟きながら、一人黄昏ていた。

 

 

 こうなってしまった原因は昼休みに同僚の看護師にアイの活動休止を教えてもらった直後の診察だった。

 診察室で待っていたのは、帽子で顔を隠したお腹が少し膨れた女性と黒髪にサングラスをかけた男性。事前に記入されバインダーに挟まれた用紙には斎藤アイと記入されていた。名前の上に取り消し線が引かれていたが、これはたぶん、呼び出しの時に名前を呼ばれたくなかったのだろうと吾郎は職業柄すぐに気付いた。年齢も16であることから訳ありだということも察せられた。

 親御さん? と聞けば、

 

『ええまあ……養子なので似ていませんが』

 

 聞いてもないことを男性は答える。養子、ということは彼の親戚かあるいは施設等から引き取ったということか。用紙に記入された文字に、吾郎はここでおや、と変な予感を感じた。16歳、施設育ちの可能性、斎藤アイ……アイ。

 いやいやまさかただの同名だアイってありふれた名前だし、と直感を否定して、それでも改めて女性に視線を向け、

 

 帽子を脱いでいた女性の顔を見て言葉を失った。ついさっき、SNSで見た画像に、患者の部屋で見たライブ映像で必死に声援を送っていた顔とまったく同じ顔だったのだ。

 名前、ヨシ。顔、ヨシ。そもそもファンが見間違えるわけないのでヨシ。正真正銘間違いなく、推しの子だったのでヨシ!

 頭の中で何故かデフォルメされた猫が何度も指差し確認してヨシと言っているのをおくびにも出さず、検査の準備のために席を立ち、診察室から出て行く。

 

 ヨシじゃねぇから! ちょいちょいちょいちょい!!?

 

 瞬間、頭の中で指差し確認している猫どもを追い出して叫ぶ。まだ残っていた冷静な部分で口に出すことはなかったが。診察室のドアのわずかに空いた隙間からアイの顔を窺ってもう一度改めて確信する。間違いなく彼女は、自身が推しているアイドル、推しの子であると。

 吾郎は嫌が応にも現実を直視してしまい、勢いよくその場に両手両膝をついた。通りがかった別の患者や看護師、壁際に設置された待合椅子に座る女性が怪訝な目や冷たい眼差しを向けていたが、ショックで思わず今は亡き、さりなに手紙を送ってしまった吾郎に気付く余裕なんて微塵もない。

 

『にしても社長の黒髪、似合ってないね~。毛先が染めきれてないよ?』

『ほっとけ。それと外では……』

『わかってるって、おとーさん』

 

 隙間から室内の会話が聞こえてくる。褒められた行為ではないのだが好奇心は抑えきれず、吾郎は室内の声に耳を傾けた。

 

『ったく……はる、アイツから連絡はきたか?』

『うん。まだちょっとかかるみたい』

 

 名前を言いかけて、アイツと名前を隠したってことは、十中八九お腹の子どもの父親だろう。話から察するに別々で来る予定みたいだ。どんな奴かは気になるが、これ以上は仕事に支障をきたすと判断し、吾郎はドアから離れ、検査の準備に動き出した。

 ただ、子煩悩なのか心配性なのかは知らないが、男性は検査中ずっとアイのことを一人で行動させず見守っていた。

 大丈夫ですよお父さん。いくらファンでも医者としての仕事は全うしますので、と吾郎は内心の昂りを露程も見せず検査を続けていく。

 検査結果は14週目で──

 

『双子……』

 

 吾郎から伝えられた結果に二人の言葉が重なる。

 片や嬉しそうに。片や不安そうに。

 前者がアイで、後者が保護者の感情だ。

 当然だろうな、と吾郎は静かに様子を見守りながら内心で呟いた。さっき盗み聞きしてしまった会話を聞く限り、目の前の男性は保護者であると同時にアイの所属する事務所の代表なのだろう。未成年、それも16歳なんて若さでアイドルが妊娠・出産したのがバレたら、彼女は、彼の事務所もそこで終わりだ。

 

『産むのはいい。だけど、双子ってなると話は変わるぞ……』

 

 だが、男性が口にしたのは予想とは違ったものだった。

 

『先生。先生から見て、この子は双子の出産に耐えられると思いますか?』

『……そうですね』

 

 嬉しそうにしていたアイも、男性の問い掛けに、笑みを消して真剣な表情で吾郎を見つめる。内心で「推しが真剣な顔で俺を見つめてる~! サイコ~!」とファンの自分を頭の片隅に放置して、できるだけわかりやすく粛々と口を開いた。

 リスクやそれによって引き起こされる可能性が高い症状の説明を、一切誤魔化すことなく全てを伝える。

 

『医者としての一見解ですが、正直に申し上げれば……中絶も視野に』

『入らないよ』

 

 最後まで言う前に、アイが遮った。焦った様子は見せず、落ち着いた声だった。

 

『ちゃんと決めたんだ。だから……この子たちは産むよ』

 

 膨れたお腹に手を当てて優しい声音で、まるで双子を守るように言う一方で、その瞳は確固たる決意を持った輝きで吾郎を射抜く。

 焼かれそうな輝きに、実際に脳を焼き焦がされた吾郎の意思は、片隅に放置していたファンの、奴隷(ファン)としての吾郎に奪われた。

 男性もアイの意思の硬さに溜め息をこぼすも、吾郎に向かって頭を下げる。

 

『先生、娘を、お腹の子たちのこと──よろしくお願いします』

『──わかりました』

 

 吾郎もそれに応える。

 全力を尽くそう。推しの子(・・・・)のために。

 

 

 

 

  ☆☆☆☆

 

 

 

 

「──わー、見て見て! 夕暮れなのにもう星がこんなに見える!」

 

 回想に浸って、さりなに報告していた吾郎は、聞き覚えのある声で現実に引き戻される。屋上の出入り口から上着を着たアイと青年が外に出てきた。

 

「そうだな、東京じゃここまで綺麗に見えない。……思ったより冷えるな。早めに戻ろう、アイ」

「大丈夫だよ。厚着してるしもうちょっと」

「……もう少しだけな。その代わり、自分の上着も羽織ること」

「えへへ、ありがと」

 

 二人は見上げたまま屋上へ歩みを進めており、ちょうど吾郎がいる場所は視界から外れていて気付いていなかった。

 吾郎は視線をアイに向け、そこで気付いた。

 

(……あれ? あれあれ? アイの隣にいるの……お父さんじゃなくね?)

 

 外の気温が思ったよりも低かったのか、自分が着ていた上着をアイの肩に羽織らせる青年──悠。一緒に診察を受けていた養父よりも若く、髪も黒のショートではなく、長めのセミロングの先を無造作に束ね肩に掛けた金髪。或いは金に近いハニーブロンドだ。

 二人の距離も近く、声音も優しい通り越して甘い。

 吾郎は察した。嫌でも察してしまった。

 

(推しが男とイチャついてるぅ!? あぁ脳が壊れるぅぅ──あ、でも嬉しそうなアイの顔ちょー幸せそう~! うんうん、そんな顔なら、望まない妊娠じゃなかったんだな。よかったよかった)

 

 オタクとしての雨宮吾郎は崩れ落ちた。

 医者としての雨宮吾郎は幸せそうな少女の顔に満足した。

 二人だけの世界に、吾郎は声を掛けることはおろか物音も立てられず、その場から動けずにいると、

 

「……あれ? センセだ」

「ん? ……ああ、あの医者が担当医なのか」

 

 自分たちを見ていた吾郎に気付いた。

 吾郎とは初対面の悠はアイに向けていた優しい表情がほんのわずかに眦を上げた。それを知ってか知らずか、

 

「だいじょーぶだよハルカ。センセはたぶん、大丈夫」

「その保証はどこから?」

「色んなファンを見てきた私の直感!」

「……そうか」

 

 アイは悠に笑いかける。アイを見つめていた悠もアイの言葉で警戒を解き、吾郎に向かって会釈程度に頭を下げる。

 

「不躾な視線、失礼しました。名桐悠と言います」

「私の家族で、お腹の赤ちゃんたちのお父さんなんだー」

「あ、ああどうもご丁寧に……斎藤さんの担当になった産婦人科医の雨宮です」

 

 やっぱりかー。

 ファンとしてやかましく喚いていた内なる雨宮吾郎が、予想通りの言葉に灰になって風に吹かれて消えていく。でも、たぶんすぐ戻ってくる。

 

「それと、センセは私の仕事のこと知ってるって言ってたよ」

「……声に出したつもりはないんだけどな」

「部屋の外で待ってた身辺警護のお姉さんが教えてくれたんだ。床に崩れ落ちてる姿がお嬢様に似て気持ち悪かったからって」

「気もっ……研修医時代に患者の一人が君のファンだったんだよ」

 

 グサリと飾らない言葉が吾郎の胸に突き刺さる。自業自得だとは思いながらも、どうにか誤魔化す。とはいえ嘘は言っていないが。

 

「研修医……もしかして」

「あちゃー。田舎ならおじいちゃんばっかりで大丈夫かなぁって思ってたけど、バレちゃったか。ナベちゃんの言う通りだったね」

 

 困った困った、とそんな風には見えない顔。

 でも、その言葉から、

 

「君は……アイドルを続けるのか?」

 

 思わず声に出して聞いていた。

 屋上に来る途中、待合室近くの自販機でコーヒーを購入した時に、ちょうどワイドショーに芸人とアイドルの結婚及び妊娠の一報が流れていたのだ。間の悪い情報に加え、そこで呼び出しまで待機している二人組の男性の片割れが相方に聞いたのだ。

 

 ──男と子どもが居るアイドルって、正直推せる?

 

 アイが子どもを産み、その上で芸能活動を続けるのならば、子ども(それ)はある種の爆弾だ。もしバレれてしまったらアイドル生命が終わるのは素人でも分かる。それがアイ個人だけで終わるならまだ良いだろうが、周囲の人間にも被害が広がるのは間違いない。

 加えて、バレた時に彼女に向けられる言葉はきっと、祝福だけではないのだろう。むしろ貶めるような、それどころか攻撃するような言葉が向くのは想像に難くない。一昔前ならばアイに関わる人間だけだったろうが、情報社会の現代で、それは彼女を応援していた全国から届けられるだろう。

 

(ファンの意見ってのは俺含めて身勝手だ……そう思わないかい? さりなちゃん)

「続けるよ。子どもを産んでもやめない」

「でも、それは……」

「大変なのは知ってるよ。もしバレたらヤバいってのも」

 

 でも、と続ける。

 

「みんなにとって『アイ』はそんなモノを求めない完璧で究極の偶像(アイドル)かもしれないけど……斎藤アイは、私だって普通の女の子だもん。欲しい物はたくさんあるし、舞台の上じゃなくても幸せになりたい」

 

 母親としての幸せを掴みたい。女の子としての幸せも掴みたい。

 B小町のみんなともっとアイドルを続けたい。

 斉藤社長(おとーさん)の夢を叶えてあげたい。

 ファンの皆にも愛を返せるようになりたい。子どもを愛してあげたい。

 指折り数えていく姿に、隣で見ていた悠はそんなアイを見てポンと頭を撫でる。舞台の上やテレビ越しで見ていたものとは違う、柔らかい笑顔を浮かべるアイを見て、

 

「──和解した」

 

 脳内でファンと医師の雨宮吾郎がガッチリと固い握手を交わす。

 推しが幸せを望むなら、ファンはその幸せを祝福しよう。望むなら従おう。だってファン()アイドル()奴隷(ファン)なのだから。

 患者が出産を望むなら、医者として全力を尽くして母子(君たち)を守ろう。母子ともに健康に産ませる。だってそれが医者()の責務であるのだから。

 

「斎藤アイさん。名桐悠さん。約束する──僕が安全に、元気な子どもを産ませる」

 

 改めて、今度は声に出し本人に向かって告げる吾郎の宣言に、悠とアイは顔を見合わせ、お願いしますと一緒に頭を下げた。

 

 

 ──アイを、その子どもを守る。それこそ俺が医者になった理由なのかもしれない。

 そう思わないかい? さりなちゃん。──え、飛躍しすぎ? そっかぁ……。




 予定しているプロットの過程・繋ぎが上手くまとまらないので、次の更新は少し遅れると思います。
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