愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者   作:だんご大家族

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 一話に纏めたらかなりの量になってしまったので、分割しました。見直した後、数日以内に次話投稿する予定です。

 それと掲示板形式で出したプロットですが、書いている途中に思いついたネタなどでプロットとは変更したり、プロット時点ではなかった話が追加されていたりします。(斎藤アイやB小町関連等々)
 ですので、掲示板とは違ってると思っても気にしないでいただけると助かります。


 最後に(たぶん)私以外どうでもいいネタをば。
 この世界の薙切えりなのCVは種〇梨沙です。それと私の趣味で一人称も「わたし」から「わたくし」になっています。


七話

 えりなちゃんを床に下ろし、自分は木製のフェンスに体重を掛けてもたれる。

 突然の侵入者に爺さん以外のざわめきが広がる。部屋の外には護衛等が待機しているはずなので、呼べばすぐに入ってくるだろう。しかし、疑問などを口々に呟くだけで護衛を呼ぼうとしない。

 

「会議中なんだろ。自分はのんべんだらりとここで待ってるから、さっさと終わらせてくれ」

「ぶっ──無礼なッ!」

「若造が突然なんだ!」

 

 自分の催促する言葉に、囁き合うだけだった有象無象は激昂し口々に罵声を浴びせてくる。

 だが、自分には意味がなくとも、自分の隣にいたえりなちゃんには効果があり、ビクッと怖がらせてしまった。

 

「ああ、ごめんな。驚かせたね」

「い、いえ……大丈夫です」

「ちょっと失礼するよ」

「え、あの……悠さん?」

 

 大人の怒鳴り声に怯えるえりなちゃんを引き寄せ、両手で耳と視界を覆う。

 その行動で、またもや罵声を浴びせられる。

 

「貴様ッ、誰に触れている!!」

「その方は貴様のような下賤の輩が触れていい方ではない!!」

「誰かっ! 誰かいない──」

 

 

 

 

「──少し、黙ろうか?

 

 

 

 

 声と共に食圧を部屋に向けて解き放つ。

 普通の人間にしてみれば、自分がしたのは言葉を発することだけ。それだけなら爺さんのように威厳や風格などを感じて気圧される、といった感じだろう。しかし、実際には、

 

「う……ご……!」

「ひぎ……な、なにが……!?」

「か、体が、おもい……!」

 

 自分とえりなちゃん、爺さんを除く他全ての人間が膝を付き、あるいは畳に押さえつけられているかのように藻掻いていた。

 花邑との一件で出来るようになってから、割と頻繁に使うのがこの食圧と消命だったりする。食材に対して一度も使ったことはないが。

 

「ごちゃごちゃと喚き散らかすな──(やかま)しいんだよ

「う、ぐ……ぅ」

「子どもがいる前で下賤だなんだ言いやがって、真似したらどうすんだ? ああ?

「あの、そこまで幼くないのですが……」

 

 なんて説教染みてるが、こんな風に圧を掛けている自分が言うなという話だ。それと、えりなちゃん。塞いだ手の隙間から漏れ聞こえて呟いたのかもしれないが、君はまだ幼いから。

 

「それで? どうするんだ? 会議を再開するのか終わるのか、早く決めてくれないか? ──爺さん」

 

 ただ一人食圧の影響を受けていない爺さんへ問い掛ける。

 はじめは目の前の光景に目を見開いていた爺さんだったが、胡坐で座り直し、

 

「評議はここまでとする」

 

 悩むことなく即答で宣言した。そこに驚きや迷いなど一切見えない。

 宣言を聞いて食圧を消す。少しだけ間を置いて、えりなちゃんの目と耳から手をどかす。視界だけは隠せていたので、えりなちゃんも関わりがある爺さんの部下が倒れている姿を見て驚く。

 

「おに、悠さん、一体何を……」

「せ、仙左衛門様……!」

「残りの議題は全て次に回す。全員、この場を退出せよ」

 

 続けて、部屋の外へ声を掛けて黒服を呼び、手を貸すよう命じる。

 

「ご当主……何故です!」

「……祖父が孫を優先することに何の問題もなかろう?」

 

 大半は怯えた表情で部屋を出て行くが、中には爺さんに自分を排除するよう嘆願する輩もいた。爺さんは何故と問い掛ける有象無象に簡潔に答える。

 

「え、えりなお嬢様を優先するのは当然です……しかし今はっ」

「儂がいつ、えりなを優先すると言った」

「は? ……え、あ、ですが、孫を優先すると……」

「ふぅ……すまぬが、名乗ってもらえるか? できれば誰が親かも教えてくれると助かるのだが」

 

 困惑する有象無象に、爺さんはこちらへ向けて頼み込んでくる。

 断るのは簡単だが、断ったところで有象無象は納得しないだろうし、爺さんから言うだろう。だったら自分で名乗った方が早い。

 えりなちゃんの前に出て、自分は名乗った。

 

名桐(なぎり)悠。父親は不明、母親は薙切未那。ああ、お前らが思い出しやすくなるよう、こう言った方がいいか? ──“薙切の出涸らし”だと」

 

 ざわつきが一層増した。えりなちゃんも背後で「出涸らし……?」と呟いている。

 見た目から年齢を予想しても、ほぼ全員50は超えているだろう。薙切家に仕えている年数も十年や二十年ではないはず。いくら記録を消したところで、人の記憶はそう簡単に消えないものだ。

 

「未那……未那、様だと!?」

「そんな馬鹿な……」

「薙切家の汚点が今更出てきてなんのつもりだ……」

「抹消された身では帰れず、息子を通して財でも求めるつもりか」

 

 ほら、出てくる出てくる。

 聞こえないと思って呟いているのか、無意識に声に出ているのかは知らない。だがな、全部聞こえているぞ。

 

「彼の出生については既にDNA鑑定も含めて結果が出ておる。紛れもなく儂の孫……未那の息子だ」

「し……しかし、未那様は薙切から籍を外された身。いくら実孫とはいえ──」

「未那を勘当した覚えはない」

「は?」

「確かに未那に関する資料は全て破棄はした。が、娘を勘当するほど耄碌はしておらん」

「……」

「これ以上反論する者はおらんな? ならば──即刻部屋を出て行けィッ!!

 

 先ほど自分が出した食圧にも負けない覇気が籠った一喝に、有象無象は反論することもできなくなり、黒服の肩を借りたり、こちらを睨み続けながら、部屋を出て行った。それらと入れ替わりで緋沙子ちゃんを連れた花邑が部屋へ入ってきた。

 

「えりな様!」

「緋沙子」

「これは一体……仙左衛門殿」

「花邑か。──そうなのだな?」

「……はい。紛れもなく、未那様のご子息です」

「そうか。未那もまた、方向は違えど傑物を産んだか」

 

 花邑の肯定に感情の込められた呟きをこぼす。視線が花邑から自分へと移る。先程の威厳に満ちた眼光が嘘のように穏やかになっている。

 悠、と呼んでも? と聞かれたので頷く。

 

「場所を変えよう。二人きりで話したい」

 

 

 

 

  ★☆☆☆

 

 

 

 

 爺さんに案内されたのはさっきまでいた部屋から一階層上がり最上階に作られた茶室だった。こじんまりとした部屋でさっきの会議をしていた部屋の半分ぐらいか。

 茶室には向かい合って座る自分と爺さん。それと入り口近くで待機している花邑とその隣に座っているえりなちゃんと緋沙子ちゃん。

 

「花邑、儂は二人きりと言ったはずだ。えりなもすまないが別室へ行ってもらえぬか」

「未那様のご子息である以上、私も同席する権利があります。また、えりなお嬢様も同様に知る権利があるかと」

「わ、(わたくし)も、悠お兄様のことを……未那、伯母様のことを知りたいです……お願いします、おじい様」

「……そうか。花邑。儂はまた誤るところであった」

「いいえ。今更です」

「……ああ、そうだな。儂は娘に対していつも選択を誤ってきた」

 

 内容はわからないが、互いに秘めた過去を持っているのだろう。おそらく母に向けて後悔の念を抱いているのだろうか。顔色からある程度の想像は立てられるが、内面まではわからない。

 

「悠様。話の前に先日の一件ですが──」

 

 黙っていた花邑から車内でも聞かれたあの日のことを訊ねてきた。そこで、どこに隠し持っていたのか、耳栓を取り出してえりなちゃんと緋沙子ちゃんに渡して付けさせ、更に手で耳を塞ぐ。緋沙子ちゃんは空気を察したのか、自分で耳を塞ぎ聞かないようにしている。動きに淀みがない、よくあるのだろうか。

 二人に声が届かなくなってから、花邑は話し始める。

 

「悠様が去られて、時間はかかりましたが、我らは星野あゆみの住居へ向かいました。そこで見たのは、扉が破壊された部屋で呆然自失になった星野あゆみ、それとゴミの山に埋もれていた同居人の男です」

「あの後来ていたのか。やっぱりあの時、情報を知ってるか聞いておけばよかったな」

「やはりあの状況は悠様が……いえ、続けます。──斎藤アイさんの実母という点を鑑みて、また、現場をあのままには出来なかったので二人は薙切家所有の施設で匿い、他に居住者のいなかったアパートは土地を買い上げ解体することになりました」

 

 なんともまあ、一般人にはスケールの大きい証拠隠滅をするものだ。

 

「アイの母親っていう点だけで保護しているんだったら、その必要はない。ただ……可能であれば、自分たちに関わりのないとこで静かに生活をおくれるようにしてほしい」

「そのように。同居人の男は──」

「二度とこちらに関わらせないようどっかに捨てるなり蟹漁にでもぶち込みやがれ。次に()の目に入ったら──ッ」

 

 最後まで言わないよう口を噤む。流石に子どもの前で感情のままにぶちまけられない。

 深く息を吸って落ち着かせる。食義をマスターしていると言っても、怒りは覚えるし全てのことに感謝なんてできるはずもない。苛立ちを体の内側から吐き出すように自分は理由を話す。

 

「そいつのせいでアイが精神的な障害を負った。だから奴だけは決して許さない。視界に入った瞬間、何をするか自分でもわからない」

「──申し訳ありませんでした。男の方はこちらの方で処理しておきます」

「何度も言わせるな。謝るのはお前じゃない」

 

 視線を爺さんに向ける。言外に上に立つお前に責任がある、という意思をこめて。

 

「──すまなかった。儂の指示によって無関係の少女に必要のない傷を負わせてしまった」

「……受け入れます。こちらも一人潰したので」

「……そうか」

 

 そこで話が途切れ、少しの間、沈黙が部屋を包む。花邑はえりなちゃんの耳から手を離し、二人から耳栓を回収している。

 沈黙を破ったのは爺さん。

 

「悠。聞かせてほしい。君の今日までの人生を」

「……母が自分を抱きながら、父親(アンタ)や兄妹について話していたのが自分にとって最初の記憶だ」

 

 今でもハッキリと思い出せる。おくるみに包まれた自分に向けて、昔話のように家族について話す母の瞳は既に光がなかった。理由はわからずじまいだが、その時にはもう心が折れてしまっていたのだろう。

 話が終わると、何度も夢で見返した別れがやってきた。自我が芽生えていても1歳に満たない体はそこでエネルギーが切れて最後まで起きてはいられなかった。だから母が誰かに自分を託したのか、施設に遺棄したのか、あるいはそこらへんに放置されたのかは、意識が微睡んでいて、よく覚えていない。けれど、次に目が覚めた時には施設で師匠に抱かれていた。それ以降は壱護さんに引き取られるまでずっと施設にいた。

 それ以降の話は振り返る必要がない。

 自分は願われた通りこれまでの人生を話した。流石にえりなちゃんの前で正直に話すことは出来ないので、アイとの繋がりに関係することはぼかしながら。

 所々で確認するように質問をされたが、淀みなく答える。

 

「……そうか」

「別に捨てられたのはいい。だが、母がどうしてああなったのだけは聞きたい」

 

 鞄に入れていたファイルから一枚の紙を取り出し爺さんに差し出す。以前、ニノに聞いた時にもらっていた、母が料理コンクールで優勝した時の画像データを印刷したものだ。

 紙を受け取った爺さんは、印刷された笑顔を浮かべる母の顔を壊れ物を扱うように撫でる。

 

「……懐かしいの。……これをどこで?」

「ニノ──織崎藤乃が調べて見つけてくれた」

「そうか、藤乃嬢が……えりな、これが若い頃の未那。君の伯母だ」

 

 紙をえりなちゃんにも渡す。受け取った画像を見て、

 

「お母様にそっくり……」

「双子ではなかったが、未那と真那は本当にそっくりだった。ああ、本当に懐かしい。笑顔を浮かべた未那の顔など、思い出せなくなってきていたというのに……」

「テメェが自分で処分したんだろう。自業自得だ」

 

 吐き捨てるように言った言葉だったが、爺さんは紙をえりなちゃんから返してもらいながらいいや、と返した。

 

「未那の記録は処分したようにみせて、全て当主しか入れない場所で保管してある。娘の記録だ、捨てられるものか……足を運ぶことも出来なんだが」

「どうだか。食に関しては身内だろうと切り捨てられる少数精鋭主義者──なんて、世間から評されているんだ。才能のない母を切り捨てたと言われた方が納得できるぞ、食の魔王様」

「……否定はできぬよ。事実、未那を追い詰めたのは、儂の判断が招いたことなのだから」

「……」

「未那に料理人としての才能はなかった。よくて二流止まりだ」

 

 視線を母の画像に落としながら、思い出をなぞるように話し出す。

 

「それは本人もよくわかっていただろう。けれど、未那は料理人の道を諦めなかった。どんな時も笑みを浮かべて取り組んでいた。薙切家の仕来たりに背き、分家の者から心無い声を浴びせられたが、それでも未那は外へ出ずに中等部から遠月に入学し、無事に高等部まで進学した」

 

 その話はニノからも聞いたのを覚えている。

 爺さんはそこでしかし、と眉を伏せ続きを話した。

 

「未那は嵐に飲まれてしまった。評価を覆せず、周囲の者からも嘲られ、いつからか“薙切の出涸らし”等と揶揄されていき──」

(しま)いは食戟、だろ」

「それも知っておったか。記録は全て処分したはずだが……流石は織崎と言ったところか」

「だがそこまでだ。そこから先はわからない」

 

 だから教えろ、と視線で訴える。

 優しい目で見つめていた画像を畳に置き、爺さんは腕を組み目を閉じた。

 

「……儂は父親である前に学園総帥として未那に手を貸すことを選択しなかった。むしろ、当時はこれ以上未那が傷つく前に退学した方がいいのではと思っていたのだ。皿から離れてもいい、料理を続けても構わん。だが穏やかに過ごしてほしいと願った。故に儂は、最後通告が未那に送られる際、通告用紙に退学取り消し条件を加えさせた」

「…………おい待て」

 

 嫌な予想が頭をよぎる。同時に以前ニノが話してくれたことを思い出す。

 ──未那様が一度だけ食戟をした記録が残っていたそうです。勝敗は惨敗。その時の審査員の一人に仙左衛門様が務めていたそうです。

 

「まさか──退学撤廃を条件に食戟をさせたのか? 受ける以外の選択を潰した上で負けるとわかった勝負を」

「……」

「おじい様……」

「黙ってないで最後まで言えよ」

 

 

「人伝にしか知ることができなかったが……通告を受け取った未那は諦めぬ意思を宿した表情で食戟を受諾したそうだ」

 

「こちらで用意した相手は当時、一年ながら十傑候補と言われていた生徒」

 

「食戟が始まり、入場してきた未那は儂がいることに気付き、表情を変えた。儂は何も言わず視線も合わせなかった」

 

「予定通りに食戟が始まり──予定通り、食戟は未那の敗北で幕を閉じた」

 

 

「これで未那を救えると思っておった。宣言を聞いた未那の顔を見るまでは」




Tips『薙切仙左衛門』:
 薙切家当主にして原作の舞台『遠月学園』にて総帥を務めると共に日本の料理界のほとんどを牛耳る老人。食の魔王と学園内だけでなく日本の名家、テレビ局等重鎮にも知れ渡り恐れられている。
 原作同様、政府にも圧力を掛けられる程の権力を持っているが、それ故に『父親』よりも『薙切家当主及び学園総帥』を優先、下からもそれを求められ『父親』として動けないことも。
 結果的に長女に絶望を与え、次女は救えず、意気消沈して原作より威厳がやや低下。せめて孫だけはと、低下した威厳を徐々に取り戻しつつ、とある計画を進行中。
 孫に対しては計画を進めながら、料理以外(趣味等)は好きにさせている。少しでも笑顔で過ごしてくれるならば――
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