愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者   作:だんご大家族

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 これにて今章及びこの物語の前半は終了。後半はようやく原作開始となります。
 幕間を書いて投稿したら、また書き溜めのため日が空きます。特に『彼』に関してはもう少ししっかりと煮詰めないと駄目ですね。……ダラダラと平和な日常だけ書いてたいなぁ。

 それでは最後に原作ネタバレにならないネタバレを一つ。
 ピザポテ●×すし●こは割とハマるぐらい美味しかったです(個人的感想)
 ただ、ザバーッとは入れず、普通サイズに小さじ2ぐらいがベター(個人的感想)
 気になった方はお試しあれ(自己責任でお願いします)


十四話

「何やっているんですか、あの──(ピー)は!」

「おいニノ……子どもがいる前でその発言は流石に」

「知りませんよ! なぁにが無茶はしないさ(キリッ)、ですか! がっつりしてるではありませんか!!」

「括弧はなかったと思いますけど……」

 

 パシーン、パシーンと畳んだ扇子を手のひらに叩きつけながら、ニノは怒りを隠すことなく人気のない廊下を歩く。それに続く壱護、えりな、緋沙子の三人。えりなと緋沙子は壱護の指示で一歩引いて歩き、壱護がどうにかニノをなだめようとしているが上手くはいっていない。

 

 休憩を挟んで始まった3rd BOUT。悠の選択した行動は──2nd BOUT同様の本物を越えた模倣(パーフェクト・トレース)だった。

 しかし、2nd BOUTと違い、何人かの遠月生徒は悠の本物を越えた模倣(パーフェクト・トレース)に対して対抗策を休憩時間の間に取ってきていた。とはいえ策というほどのものではない。ただ調理台や調理風景をカメラに撮られないように布や板等で簡易的な屋根或いは仕切りを作っただけだ。何も対抗策を練らずに開始前に抗議した者もいたが、休憩時間に動いた者がいたことで全て仙左衛門の一喝で切って捨てられた。

 対策を取られた以上、悠はその生徒の料理を模倣(トレース)しなかった。まあ、だからどうしたと言わんばかりに、対策された生徒とのテーマ料理は1st BOUTのように一般家庭に出すような料理を作ったのだが。ただし、2nd BOUTで模倣(トレース)した技術を使い、普通のように見える料理に様々な工夫(アレンジ)を加え、より評価の高いものに仕上げており、審査員を悦楽に浸らせていた。

 結果、2nd BOUTより五人も多く、1st BOUTの実に四倍もの人数相手に全てに完封を収め、3rd BOUTは終了した。残りは遠月学園最強の生徒、遠月十傑評議会に所属する十人との最終試合──FINAL BOUTのみを残すのみとなった。

 

 与えられた一時間の休息の時間の合間、ニノはえりなと緋沙子と共に悠が待機している控え室へ向かっていた。前回とは違い、今回は壱護も一緒に来ている。

 ニノの怒りが収まらないまま、一行は控え室へ到着する。扉の前には前回の休憩と変わらず花邑が立ちふさがっていた。一行に気付き、頭を下げる。

 

「花邑殿、わたくしたちの前に誰か来る、もしくは来る予定はありますか?」

「来訪の予定はありません。ですが先程、舞鶴様がお一人で悠様へ取次ぎを求めてまいりました。藤乃様を通したのだから是非自分も応援のほどを、という理由でしたが、悠様の疲労を考え私の方からお断りさせていただきました」

「紗耶香さんめ、相変わらず鼻の利くこと……わたくしたちは入っても?」

「構いません。ですが、前回より消耗しているご様子なので、お早めに……」

「わかりました。おそらく、わたくしが会ったことで再び来るかもしれませんが、追い返してください。何か言われてもわたくしの名前を出して押し通してくださって結構です」

「かしこまりました」

 

 横にズレた花邑に、壱護だけ頭を下げつつ部屋へと入る。

 部屋では悠がソファに横たわり、タオルで目元を覆っていた。

 

「……また来たのか」

「ええ、ええ。来ましたよ、下郎め♪

「楽しそうにキレてんじゃねぇよ」

「むしろ何でキレてないとお思いですか? この──(ピー)野郎。人の話聞いてませんよね」

「無理はしてる。だが無茶はしてないから勘弁してくれ。えりなちゃんたちもいるんだから、そういうのは控えろよ。足音からして花邑、か……」

 

 ニノの言葉に悠は起き上がり、目元を覆っていたタオルを外して目を開ける。視界に入った情報に目を瞬かせる。ニノもそうだったが、それ以上に遠月にいるはずのない人物の──壱護の姿が見えているからだ。

 

「は……なんで壱護さんが?」

「……今日は朝から突拍子なことばかり起きてよ。文句の一つでも言って、あとは帰ってから、いつものように酒飲んで愚痴ってやろうとか思ってたんだ」

「なにを……?」

「けどよ、お前のそんな姿見たら全部どうでもよくなったわ」

「そ、そうか」

「ああ。全部どうでもよくなって──怒りしか湧いてこねぇよ」

 

 ごつっと鈍い音が悠の頭頂部から鈍く響いた。

 ニノは目を丸くし、えりなは口元を抑え驚いている。いや、一番驚いたのは殴られた悠だった。痛みがあるわけではなかったが、目を白黒させていた。むしろ痛がってるのは壱護の方だったりする。

 

「ってぇ……悠、お前、一体ここで何してやがる」

「……食戟、料理対決」

「なんのために、んなことやってやがる」

「……家族を守れるように」

「守りたい家族に何一つ言わずにか」

「……」

「薙切の嬢ちゃんから全部聞いた。答えろっ」

「……止めるだろうとは思ってたからな」

「ったりまえだ馬鹿野郎が!」

 

 珍しく真面目な時に目を逸らす悠に、壱護は怒鳴り散らす。

 キレていたニノも、壱護に任せるようにえりなを引っ張り距離を置く。

 

「勝ち目があるからって勝手に自分(テメェ)の人生を質に入れて家族を守るだ? 誰がそんなこと頼んだ!」

「……それは悪いと思ってる。だけど」

「だけどじゃねぇんだよ! ……なあ悠。そりゃあ、権力とか金はありゃ困るもんじゃねぇけどよ、なくたって別に構わねぇんだ。それより大事なもんがあるだろ」

「壱護さんに言われるとは思わなかったな」

「茶化すな。まあ、お前の言う通りだけどさ。けどよ……それを俺が気付けたのは、お前とアイのおかげなんだぞ」

 

 養子としたアイ、後見人として引き取った悠。二人の存在が壱護の少女達への見方を変えたのだ。だからこそ、今があるのだと。

 そう以前言ったことを言外に伝えると、悠は薄く笑う。

 

「壱護さんなら自分がいなくても気付けたさ」

「んなわけねぇよ。……頼むから、自分を粗末にするような行動はしないでくれ。バカ娘だけじゃない、俺も、ミヤコも、ニノたちだって悲しむんだ」

「さっきニノにも言われたよ。……悪い、壱護さん」

「ホントだよ、馬鹿たれ……」

 

 悪態をつくも悠の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でる。撫でんな、と悠は呟くが嫌そうでなく、抵抗することなく受け入れていた。

 

「んで、だいぶボロボロだけど勝機はあんだろうな。次の最後の試合に出てくるのはこの学校のトップ十人(テン)なんだろ」

 

 一人用のソファに座り、壱護は聞いた。

 後ろで待機していたニノとえりなも悠の対面のソファに座る。

 

「なんとかなる、はず」

「はずってお前……絶対じゃねぇのかよ」

「自分の能力(ちから)を疑ってるわけじゃない。けれど、相手は同年代どころか世界でも通用するはずの実力者だ。負ける気はないが確実なんて言葉は言えない」

 

 手のひらに視線を落とし、握り締める。

 

「それより、どうして壱護さんがここにいるんだよ。いや、予想はしてるけど」

「薙切家の黒服に連れてこられたんだよ。ミヤコに引き継げたから支障はないけど」

「クソジジィ……いや、このお節介は花邑か」

「お、穏便にしてくださいね? 悠お兄様」

 

 溜め息をこぼす悠にえりなが懇願する。

 

「……社長。本題を」

「ああ、そうだな。ニノは嬢ちゃんを」

「はい。えりなさん、申し訳ありませんが事務所の極秘事項のため、わたくしと一緒に離れてもらえますか」

「あ、はい、わかりました」

 

 えりなを連れてニノが距離を取る。反対に壱護は悠の隣に座り直す。

 

「なにかあったのか?」

「悠。お前、スマホは?」

「電源落として金庫の中に置いてある」

 

 取ってこい、と言われ、疑問を覚えながらも言う通りに金庫から取り出して戻ってくる。

 

「電源つけて連絡用のアプリ開け。……いいか、絶対に動揺すんな。気持ちを強く保て」

「一体なに──」

 

 聞き返そうとして気付いたのだろう。アイの方で何かがあったことを。直観が反応していないので悪い内容ではないだろうが、それでも不安が頭をよぎった。

 無言になり、急いでスマホの電源をつける。立ち上がるまでの短い時間がやけに長く感じる。

 そんな悠の様子を隣で見ながら、壱護は3rd BOUT前に電話した小鳥遊の言葉を思い出していた。

 

『ああ、斎藤社長ですね。今どちらに?』

『は? 遠月学園? 悠さんの食戟? ……訳がわかりませんね』

『ですが、近場にいるのは都合がいいですね。いえ、こちらの話です』

『問題はありません。ええ、無事に終わりましたよ』

『……はい。なので斎藤社長に一つ頼みごとが』

『いえ、こちらに来るのでなく、悠さんに伝えてもらたい事が』

『スマホのトークを開くように伝えてください。後はそれで伝わります』

『はい。……はい、では。ああ、それと──おめでとうございます、おじいちゃん』

 

 スマホが立ち上がりホーム画面が表示され、悠はすぐさまトークアプリを開く。いくつかトーク相手がある中で、アイの名前の横に未読のマークが浮かんでいる。

 一呼吸置いて悠はタップし、表示された言葉と写真を見て──

 

「──」

 

 言葉を失った。

 目を限界まで見開き、口を小さく開いたま動かず、ただジッと映し出されるものに目を奪われ続けた。

 それを横から悠の顔とスマホのモニターを盗み見るように覗いた壱護も、自分の胸の内にこみ上げてくるものを押さえつけ、悠の頭をもう一度くしゃりと撫でて立ち上がった。

 

「俺たちは客席に戻る。……絶対負けんじゃねぇぞ悠」

 

 壱護の言葉に悠は何も答えない。

 

「ニノ、嬢ちゃん。二人も出よう」

「え、で、でも……悠お兄様が……」

「大丈夫。俺みたいな奴が言っても信用ないかもしれませんが、どうか信じてください。あいつには負けちゃいけない理由ができた」

 

 動かなかくなってしまった悠を心配するえりな。壱護の言葉に少し悩んだが、ニノにも肩を優しく叩かれると、ぺこりと頭を下げ部屋を出て行く。

 壱護が続き、最後にニノが部屋を出る直前、

 

「ニノ」

「はい? ──っとと」

 

 呼ばれて振り向くと、放物線を描いて何かが飛び込んでくる。反射的に受け止め、手に収まった物を見れば、それは悠のスマホだった。

 何故、と思い、問い掛けようとして、悠の顔を見たニノは言葉を失う。

 

「お兄さ──」

「預かっててくれ。これ以上見たら、正気じゃいられなくなる」

「──」

 

 何も言えず、ニノは無言で部屋を出る。しばらく放心していたが、壱護の呼び掛けに正気に戻った。すぐに全員から距離を置き、悠のスマホを開く。パスワードを設定しておらず、ワンタッチで開いてニノの目に飛び込んできたのは。

 

「──ああ」

 

 閉じていなかったトークアプリの一文と画像として送られた写真。

 ああ、これは確かに正気を保てないでしょうね、と緩みそうになる頬を扇子で隠して呟く。

 汗に(まみ)れ、額に貼りつく髪。ライブでも見せないような疲労を浮かべて弱弱しく見えるが、それでもなお美しい(かんばせ)は、涙を流しながらあふれんばかりの笑顔をカメラに向けている。

 その腕に抱かれているのは小さな──同年代でも小柄な彼女が抱けるほど小さく、だけど写真越しでも聞こえてきそうな産声をあげている二つの新たな命。

 そして、写真と共に送信された一文はたった一つ。

 

 ──ごめんね。でも、待ってる。

 

「……本当に、いつもあなたたちはわたくしを焼き焦がすのですから」

「ニノさん……?」

「ああ、ごめんなさいね、えりなさん。さ、行きましょうか」

 

 社長もこちらに、とえりなの手をとって声をかける。

 向かう先は観戦していた部屋──ではなく、会場の方へと足を向けていた。

 

「いやいや、二人はともかく俺は無理だって」

「構いやしませんよ。もう誰にもお兄さんを止めることはできませんから」

「いや、悠を止められないことは関係ないだろ」

「あら、では社長は息子同然の彼の完全勝利を近くで見たくないんですか?」

「そりゃ見たいけどよ……」

「あの、ニノさん。その発言は……」

 

 えりなの疑問に近い呟きに、ニノは笑みを浮かべて歩き出す。

 渋る壱護だったが、後ろから緋沙子と花邑に促されたことで諦め、付いて行くのだった。

 

「ええ、もう名桐悠に負けはありません」

「それは何故ですか?」

「だって……あの(輝き)を浮かべてしまったお兄さんは──誰にも止められませんから♪」

 

 

 

 

  ★☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    

 

 

 

 

 ──人には生きている中で、生涯どんなことがあっても忘れられないであろう出来事や人の出会いというものが少なからずある。薙切えりなにとって、真っ先に思い浮かぶ出会いは、ある三人(・・)との出会いだった。

 

 一人は才波丈一郎。

 幼少より神の舌を持つ者として、何十何百もの不出来な料理の味見役を務め、絶望と倦怠の日々から逃れられないと諦めかけていた頃、偶然が重なったことで出会った、祖父が内密に家に呼び料理を振舞っていた料理人。

 今まで食べてきた料理とはまったく異なる、楽しいとさえ思える美味しい料理の数々。それらを食べて、初めてえりなは素晴らしい料理は、料理人はいるのだと思え、彼の姿に憧れた。

 

 一人は薙切──名桐あるいは■■悠。

 教育(・・)から解放され、新戸緋沙子や花邑たちの助けによって『薙切えりな』を取り戻しつつあった頃に出会った、えりなによく似た青年。その時初めて知ることとなった、存在が隠されていた母の姉の子どもで、産まれてすぐに施設に捨てられ薙切家とはまったく無縁な場所で暮らしていたそうだ。

 彼が作る料理は才波丈一郎ともまた違った美味しさで、誰かを想って作ったと言ったおにぎりはとても優しい味がしたのを先日のことのように覚えている。

 

 

 

 

『も……模擬連隊食戟。しょ、勝者は──……』

 

 あの日、FINAL BOUTで悠お兄様は観客に、十傑に、審査員を務めたお爺様やにしき様たちに、お爺様の後ろで見ていたニノさんや社長さん、そして(わたくし)に、全力を魅せ(・・)つけた。

 

 会場に戻ってきたお兄さんは髪を留めることも忘れ、俯いていた。

 疲労困憊だと思ったのであろう第一席の生徒は、開始の合図がある前に悠お兄様に話しかけた。そんな悠お兄様の返答は──

 

「……──は。はは。ははハ、ハハハハ──!!」

 

 会場に響き渡るほどの笑い声だった。笑って、笑って、涙を流していることに気付かないまま、笑っていた。

 誰もが、当時から悠お兄様を知っているニノさんと社長さんすら驚きと困惑のまま、笑い声を聞いていた。

 唯一、お爺様だけは声を震わせながら「感情をはだけたか……!」と言ってましたけど、あの時は何故ああなってしまったのかわかりませんでした。というか、感情がはだけるってなんですか。レオノーラ伯母様の片言のおはだけなら、まあ、わかりますが。*1

 ですが、今ならわかります。食戟前に見たお姉様(・・・)からのメッセージ。それが悠お兄様にとって、それだけ喜ばしいものだったのだ。自分の感情を抑えきれず、感情をはだけさせずにはいられなかったのでしょう。*2

 

「きっ……君は、一体何なんだ──?」

「ハハハハハ──()が何かなんてどうでもいいだろう」

 

 ピタリと笑いを消し、髪留めで髪をまとめる。

 俯いていた顔を上げ、手を合わせ合掌し、閉じていた瞼を開いた時、

 

「さあ──さあ、さあさあさあッ! 全ての食材に感謝を込めて──始めようかッ!!!」

 

 わたくしは推しの方の瞳を幻視するのでした。

 

 

 

 

「──……、お前は。お前は一体何なんだ──!!?」

 

 当時の十傑たちも間違いなく素晴らしい技術を持った料理人たちだった。誰もが国内のみならず国外でも名を轟かせるだろう実力を持っていた。

 けれど、あの時の悠お兄様の前では、十傑もただの料理人に、悪く言えば名も知らない一般料理人にまで蹴落とされていた。

 1st BOUTのように普通の料理ではなく。

 2nd BOUTのように模倣された料理でもなく。

 敢えて言葉にするなら──薙切悠の料理を、感情のままに作り上げた。

 その料理を、

 嬉しそうに、踊るように調理する姿を。

 何よりその瞳に宿(・・・)る星のよ(・・・・)うな輝き(・・・・)を。

 会場に集う人々は目に焼き付けてしまった。

 夜の帳を照らす一番星が如き輝きは、まるで完璧で究極のアイドルだったお姉様(・・・)のようで、誰もが十傑の調理に目もくれず、悠お兄様の調理から目を離すことができなかった。

 それはFINALBOUTで審査員を務めたお爺様、にしき様を含めた三名も同じ。

 

『模擬連隊食戟!! 勝者はッ──挑戦者、薙切悠!!!』

 

 ただ一度の敗北もなく、ただ一つの判定すら渡すことなく。

 お爺様たちが忖度なく選び抜いた遠月学園生徒を、遠月学園最強集団である遠月十傑評議会を地に墜とした。

 

 確か、この時でしたね。

 

「ハハハハハ──いぇい☆」

 

 わかる人はわかるお姉様(・・・)の決めポーズ*3まで取るほど浮かれている──いえ、あれは暴走といっても過言ではない。そして、決着がつくと、

 

「後のことは任せてもいいな? いいよな? 爺さん」

「う、うむ……」

「よし、じゃあ行くぞ社長!」

「いやよしじゃねぇ! 行くぞじゃねぇ! あ待て襟掴むな首が締まるううぅぅぅ……!」

 

 先程まで競っていた十傑のことなど気にも留めず、嵐のように社長さんを連れて会場から消え去ってしまう。あまりのことに誰も悠お兄様を止められず、後のことを任され──押し付けられてしまったお爺様は収拾に苦労していました。唯一、ニノさんだけ手を振って見送ってましたが。

 

 

 ──遠月学園に突如現れ、人が抗えない災害の如く遠月を蹂躙していった埒外の天才。

 『 天 災 』──

 畏怖と共に呟かれた一言が悠お兄様の通り名となったのは。

 

 だけど、(わたくし)は知っている。

 あの方は、ただ家族を愛し、お姉様(・・・)を愛し(・・・)。平和に過ごし──食卓を囲みたいだけ。

 天災なんて似つかわしくない、どこにでもある幸せだけを望む人。暴走したのだって、それぐらい悠お兄様の中でお姉様(・・・)の存在が大きかったからこそ。あの時の悠お兄様は気付いていなかったみたいですけど、感情が振り切ってたからこそ自分の奥底の気持ちが溢れ出ていただけ。

 まあ? そんな小さな幸せのためだけに、遠月学園もといお爺様に食戟を挑むのは、改めて考えるとニノさんの言う通りどうかと思いますが。

 

 でも、同時に羨ましく思う。

 色々あったけど、この日常を楽しいと今は感じている。

 けれど、いつか……いつか、あの家族のような──

 

 

「──おー、いたいた。薙切ぃ、食戟しよーぜ」

「………部屋に入る時はノックするよう何度も言ってるわよね。幸平くん」

「悪ぃ悪ぃ、次からは気を付けるわ」

「まったく……。それで?」

「おう。司先輩と食戟やった後で面白れぇ料理を閃いてな。これなら今度こそお前に美味いって言わせてやれると思ってよ」

「……そうね。この後は確か予定に空きができていたから、その挑戦を受けてもいいのだけど……」

「じゃあ、早速……」

「その前に幸平くん。先日渡した書類を提出してほしいのだけれど?」

「……あー」

「ちなみに言っておきますと、本来幸平くんが担当する書類をギリギリまで減らしてあげた上で、どうしても第一席(あなた)を通さないといけない案件だけを回しているんです。ですので最低限の仕事はしてもらわないと困るんです」

「……」

「提出してくれるのなら、あなたからの食戟を受けてもいいですが……それで幸平くん? お返事は(書類、はよ)?」

「……あ、これから葉山と食戟するの忘れてたわ。悪ぃ薙切。お前との食戟はまた今度ってことで!」

「今さっき食戟したって……あ、こら待ちなさい幸平くん!」

「書類は後で出すからよ~」

「……はあ、まったく」

 

 溜め息を吐く。本当に仕方ない人。

 やれやれ、と呟きながら、(わたくし)はサボり魔を捕まえるため、緋沙子や十傑に指示を出すのだった。

 

 ……え、三人目?

 …………。

 それはまた、別のお話ということで。

*1
悠お兄様「いや、それも意味わからないからね?」

*2
撮られていた動画を見たお姉様「ニヨニヨ」 宝石妹分「にやにや」 宝石弟分「どんまい」 悠お兄様「恥ずい……ミナイデ」

*3
イメージ的には原作:番外編40をテンション高く嬉しそうにした感じ




Tips『薙切悠』:
 アイから送られてきた、アイと双子の写真で覚醒──というより感情を抑えられず暴走した。
 ちょうどアイが誘拐された時とは真逆の感情に、アイに向ける時にのみ瞳で輝く黒星も反転。白星となり観客全てを引き付け、感情に任せこれまで以上の圧倒的な調理を魅せる。その結果、十傑の追随を許さずに勝利。十傑は泣いていい。
 ただし、最後の一線というべきグルメ食材の解禁だけは、なけなしの理性でギリギリ耐えた。グルメ食材を使えば瞬殺できたが、後が厄介なことになるからと直観が働いた結果である。

 感情の昂るまま、疲労さえも吹き飛んだ悠が作った料理は、
 1st BOUTの料理が50%以下で作られたとして。
 2nd BOUT以降の料理は60~80%で作られていた。
 そしてFINAL BOUTでは、抑えのない感情が無意識に掛けていた制限を解除してしまったため、120%の制限なしの状態で作ってしまった。早い話が火事場の馬鹿力という奴である。
 今回の制限解除というのは単純に肉体のリミッターも挙げられるが、一番は「漫画と現実は別」という思い込みである。確かに肉体能力は向上したり、何もないところから物を生み出したりできるが、それでも悠は心のどこかで「現実ではあり得ない」と無意識に思っていた。故にこれまで悠はナイフやフォークといったエネルギーを物質化したり、食材の声も聞こえることがなかった。
 今回の一件で食材の声が解禁されたた。
(釘パンチやエコーロケーション、消命等はアイの誘拐時で感情が昂っていたので使えるようになった。食圧は使う機会がなかっただけで食義と共に覚えていた)



















 走れないことをもどかしく感じながら、早足で急ぐ。
 まだ面接時間外だが、待ちきれずに消命で気配を断ち、医者や看護師たちに見つからないよう廊下を歩く。どれぐらいの距離か分かっているはずなのに、今日だけはやけに遠く感じてしまう。

 食戟の決着がついた後、すぐにでも向かいたかった。それを壱護さんに全力で止められ翌日の面会時間前に到着する便で宮崎に戻ってきた。けれど、そこで我慢できずに空港から出た瞬間、駆け出してしまい、一緒に来た壱護さんを空港に置いてきてしまった。すまない、タクシーとかでゆっくり来てくれ。
 スマホの電源を切ってなかったら、山のように着信がスマホに掛かってきてただろう。

 ようやく到着した病室の前で息を整える。
 周囲に人の気配がないことを確認し、ドアを叩いた。

「はい。……お早い到着ですね。まだ面接時間外ですよ」

 当然、ドアから顔を出したのは小鳥遊さんだった。
 ジト目でお小言をもらうが「冗談です」と続け、病室から出てきて、どうぞと促される。
 もう一度息を整え、病室へ入る。小鳥遊さんはそのまま廊下からドアを閉める。
 二人きりとなった病室。彼女は既に起きていて、病室へ入ってきた自分に気付くと──

「──おかえり。それと、ごめんね」
「ああ、ただいま。俺だって──すまない」

 挨拶を交わし、互いに謝る。
 視線をズラすと──アイが使っているベッドの隣に新たに設置された小さなベッドで眠っている小さな二つの命。

「ああ……」

 言葉にならなかった。
 かつて、前世で初めて子どもと対面した時は何も感じることができなかった。でも、今回は違う。言葉として見つからないが、胸の内からこみ上げてくる。

「こっちが……たぶん、藍久愛海。それであっちが瑠美衣」
「……大丈夫。双子なんだ、ゆっくり覚えていけばいい」
「うん……ごめんね」
「謝らないでくれ……ああ、でもこれだけは言わないと」

 自分が今どんな表情を浮かべているのかわからない。けれど、胸からあふれそうになる万感の思いを精一杯伝えるのだった。

「ありがとう、お疲れ様──アイ」

「そして」

「はじめまして──藍久愛海、瑠美衣」
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