愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者 作:だんご大家族
〈What’s your name?〉
「ガミガミガミ──……」
「朝からテンション高いね~、
座らせた悠の前に立ち、眠っている双子が起きないよう声を抑えて説教をしている壱護を見て、アイはベッドの上でケラケラ笑う。
悠が病室を訪れて十数分後、面会時間になってから壱護は病室に到着した。そして部屋に入ってまずしたことは、
『こんっ……と、おいこら暴走特急、そこに座りやがれ』
悠に説教することだった。
昨日から悠の暴走に散々振り回されたのだ。壱護が説教するのは当然の権利である。
壱護のなが~いお説教は、雨宮吾郎と同じく半ば担当になっている毒舌看護師が見回りに訪れ、アイの問診をしながら白い目を見舞客二人に向けて、病室を出て行くまで続けられた。
「いいか、暴走するのはいい。だけど、俺を巻き込むのは勘弁してくれ。本ッ当に勘弁してくれよ? いいな悠。い・い・な?」
「わかった。次から気を付ける」
「まったく、はぁ~……遅くなったが。よく頑張ったな、アイ……じゃない、藍」
長いお説教が終わり、一息ついた壱護はアイに近寄り、出産を労う。
「うん、ありがと。おとーさん」
「名前はもう決めてんのか?」
「えっとね……じゃーん!」
近くの棚に立て掛けていたスケッチブックを捲り、事前に書いておいた名前を見せる。
「……藍」
「どう、良い名前でしょ!」
「もっかい考え直せ」
「えーっ!? なんでー!?」
「なんでも何もあるか。瑠美衣なら百歩……いや、出来ることならこっちも考え直せって言いたいが、万歩譲るとしてもだ。藍久愛海はないだろ、藍久愛海は。せめて青とか海、宝石繋がりで……蒼也とか海斗とか。宝石はすぐ思いつかないが」
藍久愛海はどっかでグレるぞ、絶対、と。至極真っ当な意見を言う。
「ハルカにも言われたけど大丈夫だよ~。それに悠と小鳥遊さん、センセに相談して決めたんだし」
「そんなに相談相手がいて、なんでその名前になったんだ……おい悠」
キラキラネームが流行ってるのは壱護も知ってるし、もしかしたらアイもそんな名前を考えてるかもな~なんて予想もしていたが、本当に名付けているとは思わなかった。しかも、アイには失礼だが、常識的な面でも問題ないはずの悠と小鳥遊、それに吾郎が相談されていたにも関わらず。訂正、昨日の一件から悠は除外で。
「アイの命名理由を聞いた上で納得した。それにそこまで悪くないと思う」
「……小鳥遊さん」
「お二人で言い争いまでして決めていましたので、護衛とは言え部外者がそこまで干渉するのはどうかと思いましたので口を挟みませんでした。良いと思いますよ? 個人的には」
「マジかぁ……もしかして俺の感性が時代に追いついてないとか?」
俺の名付けは時代遅れか? なんて頭を抱える。大丈夫、間違ってない。
最終的に、当の二人が決めた上、アイが語った命名理由に根負けし、何も言えなくなる壱護。
でも、もし将来、アクアとルビーが名前を変えたいなんて言い出したら、誰もが反対しようと俺だけは絶対味方になってやろうと、壱護は思うのだった。
☆☆☆☆
〈眠れない夜〉
気配を感じて、悠は目を開ける。常夜灯の薄く優しい光が病室を微かに照らしている。
意識を向けるのと同時に泣き声が病室に響く。音もなく忍び寄り、泣き出したルビーを抱き上げた。
「どうした? 瑠美衣」
優しく声を掛けながら抱き上げた腕をゆるゆると揺らし、手早く泣いた理由を探す。排泄はなし、時間は経ってるからミルクか、と当たりを付ける。
作ろうと動こうすると、
「ぅん……ハルカぁ?」
ルビーの泣き声でアイも起き上がる。
双子が産まれてから数日が経った。ずっと付き添ってくれた小鳥遊は、ニノが次期当主に決まったと聞くと一時的にニノの元へ戻った。電話先のニノや悠たちがしばらく休んでくれて構わないと頼んだが、まったく意に返さなかったのは苦笑するしかなかったのは記憶に新しい。
早めてもらうようお願いしているが、双子の一ヶ月検診までは宮崎に残るので、小鳥遊がいない間は悠がアイに付き添っていた。もちろん、あまり人に見られないよう消命を使って気配を消しているが。
夜中だろうがお構いなしに意思表示のために泣き出す双子の世話をしながら、付き添って正解だと悠は実感していた。アイ一人では大変だっただろう。
「すまない、起こしたな」
「うぅん……ふあぁ、おっぱい、かな」
「たぶんな。粉ミルク作るから寝てても……」
「だいじょーぶ。私があげるよ」
光量を抑えたスタンドライトを点灯させてから、貸して、と差し出された腕に慎重にルビーを下ろす。アドバイスを貰いながら何度も経験し段々と慣れてきた手つきで片手にルビーの頭、首を乗せ胸元に引き寄せ抱きかかえる。もう片方の手で服をはだけ乳房を露出させ、先端をルビーの口に含ませる。泣いていたルビーは乳房を口に含んだ瞬間、ピタリと泣くのをやめ、母乳を吸い始めた。
「おっとと……この吸い方はルビーかな? 顔でどっちかはわかんないけど、いつも勢いよく吸うから、おっぱいの吸われ方でどっちがどっちかわかるようになっちゃったよ」
「ふふ、そうか。藍久愛海はどう飲んでるんだ?」
「それ聞くの? ハルカのえっち」
「純粋な興味なのに酷いな」
「うそうそ。アクアマリンはゆっくり味わうように吸ってるよ。なんだっけあれ、ワインの……セラピスト? みたいに」
「ソムリエだな。ソムリエストなんて言うかは知らないけど」
それそれ、と返しながら、ルビーの口の端に指をそっと入れて乳房から口を外し、抱き直してもう一方の乳房を咥えさせる。
「ふぁ──ぁふぅ、深夜でも赤ちゃんはお構いなし……お母さんは一人で頑張ってたんだなぁ」
「……もう、その時には父親はいなかったのか?」
「私ができたらいなくなったって言われたことはあったけど、それが妊娠した時か産んだ時なのかはわかんない」
「そうか。……自分は離れることはあってもいなくなる気はないから。それに自分以外でもミヤコさんたちに頼ればいいからな」
「うん、ありがと」
「……いなくなると言えば、雨宮先生はまだ?」
「うん。あれから行方がまったくわからないって、看護師さんが教えてくれた」
「仕事を投げ出すような人じゃないはずなんだがな……」
出産直前に病室を訪れて以降、一度帰宅すると言った吾郎は行方を眩ませていた。出産間近の患者を放り出すような人間でないのは知っている。看護師は「昔の女に追いかけられてるかも」なんて言っていたが、もちろん本気で言ってるわけではない。けれど探す当てがない以上、どうすることもできなかった。
話している間に母乳を吸わなくなったルビーを、肩にもたれさせるよう抱き上げ、背中をトントンと叩く。しばらくすると、けぷっとルビーの口からげっぷが漏れた。
「ごちそうさまだね~、美味しかった? ルビー」
抱え直してゆるゆると揺らし、悠がティッシュでルビーの口の周りに付いた母乳を拭く。お腹がいっぱいになったからか、ルビーは授乳後、すぐに寝息を立て始めた。
アイからルビーを受け取り、悠は起こさないようベッドに瑠美衣を戻す。
「ありがと、ハルカ」
「アイも深夜なのにお疲れ様。少しでも寝ておこうか──」
そう言ってスタンドライトを消そうとした瞬間。
またもや泣き声が病室に響く。
悠がすぐに泣いてる方を抱き上げれば、今度はアクアだった。手早く確認して、
「……お願いできるか? お母さん」
「あはは、まーかせて。パパ」
顔を見合わせて、互いに笑みを浮かべて藍久愛海を受け渡す。
新米パパさんママさんの、なかなか眠れない日々はもうしばらく続くのだった。