愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者   作:だんご大家族

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 ということでお待たせしました。再開します。
 しかし、次話が書いては消してを繰り返してますので、また少し空くと思いますが。


記録⑤ 新しい生活と知らない感情
一話


 ──もし芸能人の子どもに生まれていたらって、センセは考えたことある?

 

 なんて、あの子に聞かれたことがあった。

 俺は話半分で聞いていた。そんな非科学的なこと起こりうるわけがない。

 夢がないなぁ、なんて言われても、俺は意見を曲げなかった。

 次があるかもとありもしない願望で、今を必死に生きているあの子を──『天童寺さりな』を否定したくないんだ。俺は、さりなちゃんのままで元気になってほしいし、さりなちゃんを推したいんだ。

 俺が推したいのはさりなちゃんが転生した誰かじゃない。さりなちゃん本人なんだ。それに芸能人は顔がいいとか言ってるけど、さりなちゃんだって十二分に可愛いのは間違いない。

 その旨を伝えると、さりなちゃんは顔を綻ばせ、俺に抱き着いてくる。

 

 ──センセ、好き! 結婚して!

 

 社会的にマズいんで勘弁して。16歳になったら真面目に考えてやるよ。

 ……なんて言って、のらりくらりと追及を逃れる。けれど、心のどこかで願っていた。

 どうか16歳まで元気に生き続けて、また同じことを言ってほしいと。

 結局、その願いは叶わずに彼女は星と還った。

 

 改めてさりなちゃんに聞かれたことを思い出す。

 

 ──もし芸能人の子どもに生まれていたらって、センセは考えたことある?

 

 きっと、同じことを聞かれても真面目に考えもしなかっただろう。医者として、現実を生きる一般男性として、そんな非科学的で非現実的なことなんて起こりうるわけがない。

 そう──考えていた。

 

 

 自分が、推しの子に転生するまでは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だいぶ端折ってしまうが、雨宮吾郎は死んだ。

 死んだ時の記憶が曖昧なためハッキリとしたことは言えないが、後ろから衝撃を受けたのはほんの微かに覚えている。倒れた時の打ち所が悪かったのか、崖とかから落下したのかもわからない。けれど、あの時の意識が冷たく真っ暗になっていく感覚はきっとそうなんだろう。

 さりなちゃんと違って、俺は死んだら地獄かなぁ──なんてぼやいた時期もあったが、

 

「あ、起きたみたいね? おはようアクア」

 

 眠っていた意識がハッキリとしていき、目を開ければ、そこは天国だった。

 母親でもある推しのアイドルに抱かれ、母親と同じく目を開けた赤ん坊に笑顔を向けてくる、アイドルグループB小町の一人、ミネ。

 この赤ん坊こそ俺、いや、()──藍久愛海。

 ……改めて聞いてもすげぇ名前だ。それが自分の名前だと余計に。

 とは言っても、名前を決めたのは母親であるアイだが、漢字を考えたのは藍久愛海(ぼく)たちの父親と警護のため半年近く共にいた小鳥遊という女性、そして担当医だった雨宮吾郎なのだ。半分、いや三割は前世の己の責任である。アイに責任? あるわけないだろ。(オタク理論)

 

 そもそも、この状況はなんなのだろう。生まれ変わり……今風に言えば転生だろうか。どういう原理でこうなったのかはいずれ解き明かしてみせるが、今の赤ん坊の状態では何をするにも不都合だ。

 だから──何もできないからこそ、今はこの赤ちゃんライフを存分に堪能しよう。

 

「ばぶ~」

 

 恥ずかしい? 知るか。

 意識がハッキリしてからもオムツ替えに入浴、授乳といった三大試練を継続中の今、ばぶばぶ言うことになんの抵抗もない。むしろ赤ん坊として喃語(なんご)は正しい姿なのだ。

 僕が声をあげると、アイとミネは嬉しそうに微笑みを返す。

 ああでも……いいな。推し云々抜きでも、周りから祝福されて生まれるって。

 

「おぎゃー! おぎゃー!」

 

 前世でも得られなかった幸せに浸っていると、側に設置してあるベビーベッドから泣き声が聞こえてくる。

 

「おっと。ミネちゃん、アクアマリンお願いできる?」

「任せなさい。よっと……えへへ、相変わらず可愛いわねえ、アクアぁ」

「ものすっごいデロデロ顔。はぁい、よしよし。どうしたのかなー? ……ルビー」

 

 抱いていた僕をミネに預け、アイはベビーベッドにいたもう一人の赤ん坊を抱き上げる。僕を抱いたミネはデロデロに顔がとろけている。流石B小町メンバーで一番僕たちに甘い人。

 さて、今しがたアイに抱っこされ、すぐさま笑顔になった赤ん坊は、僕とは双子という間柄で共にアイから生まれた子ども。アイたちは特に決めていないみたいだが、産まれた順番だけで言えば僕の妹ということになる。いや、兄と主張する気はないが。

 名前は瑠美衣。ややダメージの少ない名前の女の子だ。

 そして、この子は──

 

「相変わらず、どっちか迷う時があるわね。ほら、こっちがアクアでアンタが今抱いてるのがルビーよ。いい加減覚えてあげなさい」

「あはは、ごめんごめん」

「笑いごとじゃねぇだろ、バカ娘。悠がせっかく覚えやすいように服にでっかく名前の刺繍してくれてんだ、双子とはいえ名前と顔が一致できるよう憶えてやれ」

「あ、おとーさん。来てたんだ。でも、アクアマリンとルビーの名前を間違えたことはないよ佐藤社長」

「俺の名前は斎藤だ、わざと間違えんな……まあ、名前を憶えてるだけでも上々なんだろうけどよ」

「絆されないでちょうだい壱護。……早く憶えてあげなさいね、アイ」

「はぁい。ごめんねー、アクアマリン。ルビー」

 

 部屋に入ってきたのはアイとミネ、それとここにはいない二人が所属している事務所の社長。加えてアイの養父、僕たち双子の祖父でもある斎藤壱護さん。

 それと、その夫人でありアイの養母、僕たちの祖母、斎藤ミヤコさん。……前世の俺の同年代か歳下の年齢なのに祖母ってのはあれだな。本人も一度、アイが「おばあちゃんだよ~」なんて紹介した日は引き攣った笑みを浮かべていた。それから時々、ミヤコさんが僕やルビーをあやしてる時、耳元で、

 

ミヤコさん、ミヤコさん……ミヤコさんよ~

 

 お祖母ちゃんと呼ばれないように、呼び方を覚えさせようと小声で囁いていたし。

 それにしても、だ。相変わらずすっごい美形の集団だ。ミヤコさんは言わずもがな、アイもミネも同年代のアイドルの中でも飛び抜けているし、この場にいない残りのメンバー、そして僕とルビーの父親もイケメンの部類だ。当然、僕たち双子も両親からその美貌を遺伝としてしっかり受け継いでいる。素人目で見てもやべーな、この事務所の顔面偏差値。とても中小事務所の所属メンバーとは思えない。社長? ……チョイ悪でカッコいい、とは思うよ。うん。

 

 なんてどうでもいいことを考えている間に、社長は壁に掛けてあるホワイトボードに書き込んでいく。

 

「あいつがいないから、一先ず今日の活動について話すぞ、いいな? B小町メンバー、アイとニノが本日を以って復帰する。復帰一発目は今夜の歌番組、それも生放送だ。……出産してそんなに経ってないが、本当にいけるんだな?」

「もちろん。そのためにしっかりリハビリしたんだし」

「一応どれだけできるかは見たが、それでも無理はするなよ。ミネ、いつも頼んで申し訳ないが……」

「アタシはリーダーだからね、任せなさい。もちろん、前と変わらず変なこと言いそうになってもアタシらがフォローするわ」

「えー、ミネちゃんひどーい」

 

 ミネの頼もしい言葉にアイがぷくっと頬を膨らませる。母親になっても可愛い。

 社長はそんなアイを見て、溜息を漏らす。

 

「本当に頼むぞ。アイが仕事の間、基本はあいつが子どもたちの面倒を見ているが、今日みたいに依頼があっていない場合はミヤコが見る。……ミヤコ、今日は夜には帰ってくるんだったか?」

「確か、生放送中の時間帯には帰ってこられるって言ってたし、書いてあったはず……そうね、書いてあるわ」

 

 今使ってるホワイトボードとは別に掛けてある、それぞれの今日の予定表には『遠月学園へ。帰宅予定〇〇:〇〇頃』と書かれている。遠月学園といえば、雨宮吾郎()が学生だった時代にも存在した超を何個付けてもいい調理関係の名門校だったはず。

 その後も色々と仕事や僕たちに関することの話し合いが続けられ、あっという間に、

 

「ほら、アクア、ルビー。ママにいってらっしゃいしましょうね」

「ばぶあ」 「きゃう!」

「手を振るうちの子きゃわ~。じゃあ、行ってくるね~。ミヤコさんと仲良く、いい子で待っててね、アクアマリン、ルビー」

「行ってきまー……やっぱあと五分だけアクルビ吸いを──あ、(いった)っ! 行く、行くから引っ張んないで! なんか力強くなってない!? ちょっと~……

 

 ミネの首根っこを掴んで引っ張っていくアイを、ルビーと共にミヤコさんに抱き上げられながら見送るのだった。

 

 

 

 

  ☆☆☆☆

 

 

 

 

 ミヤコさんを相手にしたり、ミルクをもらったり、お昼寝をしたりと。自由気ままな赤ん坊ライフを過ごせば、時刻はあっという間に生放送の時間。

 B小町もといアイがテレビに映れば僕とルビーが大人しくするのを知っているミヤコさんはソファで休憩していたが、いつの間にかすやすや寝息を立てている。ルビーも床に置いたベビーベッドの中で寝ていた。

 テレビに映るB小町は次が出番なので、ステージの準備の間、司会者と話をしていた。主に話すのは活動再開するアイとニノ。アイは社長の心配をよそにしっかりと受け答えし、ニノは相変わらず会話のどこかでアイを話題に挟んではアイに笑顔で突っ込まれている。

 ちゃんとできて何より、と思っていたら、

 

『そうそう、うちの子が──』

『ウチノコ?』

 

「ぶーっ!?」

 

 安心したそばから!?

 

『うちの子っていうか施設の弟分と妹分でしょ』

 

 焦る素振り一つ見せることなく、苦笑を浮かべてフォローに入るミネ。

 アイが施設出身だということは苺プロの公式サイトにしっかりと記載されているので、ミネの言葉に驚くゲストは少ない。

 

『ありゃ?』

『ありゃ? じゃなくて。普段からそう呼んでいるのはいいけど、迷惑かけないようオンオフはしておきなさい』

『あはは、ごめんごめん』

『まったく……ああ、アイが生活していた施設の子どもたちのことです。この子、定期的に訪問してるみたいで、よく会話に挙げられるんですよ』

 

 淀みなく答えていくミネ。

 ナベも頷き、ニノもふふ、と笑みを浮かべている。

 なるほど、と司会者は納得する。

 

『えー、それでは! B小町さん、パフォーマンスの準備をお願いします!』

 

 司会者は話題を切り、B小町に移動を促す。移動の様子を一瞬だけカメラが接近して四人を映す。アイとニノがカメラに向かってピースやウインクを返し、ナベが溜息を吐きながらやれやれと首を振る姿を、そしてミネが微笑みを残しながら堂々と歩いていき、そこで音楽と共に画面が切り替わりCMに入る。

 ……し、心臓に悪い。

 だけど、あの流れは四人の間で予定したものだろう。きっと誰もさっきの話を疑っていない。

 

 さて、と。そろそろやらなきゃいけないことがある。

 僕はハイハイで床に置いた一人用のベッドに眠っている妹の方へ向かう。ベッドの端を掴んで立ち上がってベッドに上半身を突っ込み、寝ているルビーを揺すったり、ぺちぺちとほっぺを叩く。

 

「起きろ、ルビー。そろそろアイの出番だぞ」

「すぴー……すぴー……」

 

 ゆさゆさ揺するが、ルビーは気持ちよさそうに寝て起きそうにない。とはいえこのまま放っておいて起きた時アイの出番が終わってたら、録画してるとはいえ何を言われるかわからない。

 仕方ないので、ミヤコさんとルビーがしっかり寝ていることを確認してから──僕はもう一度、今度は絶対に起きる魔法の言葉で声を掛けた。

 

「ほら、もう時間だ。起きて──さりなちゃん(・・・・・・)

「すぴー…………んぇ? せんせ……?」

 

 魔法の言葉を口にすると、ルビーは少し遅れて反応する。ベッドの中で起き上がり、目を擦り辺りを見渡す。

 

「……あれ、今……」

「起きたか。ほら、もうすぐアイの出番だぞルビー」

「えっ、うそ! ありがとうお兄ちゃん!」

「ミヤコさんが起きないようにもう少し声を落とせ」

 

 アイの出番だと聞いた瞬間、僕の魔法の声も忘れ、微睡んでいた目もしっかりと冴え、転がるようにベッドから飛び出してくる我が妹。

 本当にベストタイミングだったのか、ルビーがテレビの前に陣取った瞬間、B小町の新曲『サインはB』が初公開される。センターのアイとミネが披露するダンスを見るたび、四人の歌を聞くたび、目を輝かせ、オタク顔負けの感想を早口で捲し立てる。その熱量はいつ見ても凄いものだ。

 

 凄いと言えば、アイたちのパフォーマンスもだ。

 長期間、散歩やヨガ程度の運動しかしてこなかったはずなのに、しっかり妊娠前のパフォーマンスを──いや、(ファン)の目が確かなら、さらに輝きが増している。誰もが一目見たら、振り返ってしまうほどの強い光。魅了されずにはいられない。

 そしてそれはアイだけじゃない。アイと二人でセンターを担うミネにも引きずり込まれる。

 

 ──アイじゃない、アタシを、アタシだけを見ろッ!!

 

 よくあるアイドル系の歌詞とテンポなのに、見る者にそう訴えてくると思わせるほどの熱量とダンスのキレ。

 アイが夜空に輝く星なら、ミネは炎だろうか。輝きでファンの目を潰されようと、その熱でアイへ向ける意識を自分へと奪い取ろうとしている。

 一方、センターに選ばれなかったナベとニノはバックダンサーかと言われたら、そんなことはない。二人ともアイとミネの引き立て役を担いながらも、ここぞという瞬間に自分を主張してる。

 とても復帰直後のアイドルグループとは思えない完成度だ。

 今頃スタジオで社長もほくそ笑んでるだろう。復帰後の掴みは完璧だ。必ずこのアイドルを使いたいというオファーが舞い込んでくるはず。

 

 アイたちを心行くまで堪能しながら、僕は隣で騒ぐルビーを横目でこっそり眺める。

 ルビー。僕と同じく前世の記憶を残したまま生まれ変わった双子の妹。

 僕たちは互いに自分の前世のことは話していない。けれど、僕はルビーの前世を知っている。

 この子の前世の名前は──天童寺さりな(・・・・・・)。前世の俺が研修医時代に出会い最後まで看取った女の子だ。

 ルビーがあの子であることに気付いたのは、意識を取り戻して割とすぐの頃。ちらりと視線をテレビとルビーから、壁に造りつけた棚に飾っている色紙に移す。B小町四人が映り、それぞれのサインが入ったものと、アイ単体が映り、サインと直筆の言葉が描かれたものの二枚。

 俺がさりなちゃんから預かり、アイへと渡すことができた色紙。

 事情を知らない人が見れば、何の変哲もないアイドルのサインが描かれた色紙だが、

 

『……センセ、アイに渡してくれたんだ』

 

 特定の誰かにとって、あれは格別の思いが込められたものになる。

 それを知っているのはアイと名桐くん、小鳥遊と雨宮吾郎、そして──さりなちゃんだけ。

 加えて、本当に小さく呟かれたルビーの言葉に含まれたセンセという特定の敬称。

 疑う余地も妄想と断じる必要もなかった。

 雨宮吾郎が藍久愛海に生まれ変わったように。

 さりなちゃんは瑠美衣は生まれ変わったのだ。

 

 ──ああ、本当に()は何て幸せなんだろうか。

 推しのアイドルの子どもに生まれ変われるだけでなく。

 生まれ変わることができたあの子をまた見守ることができるなんて。

 あまりの幸せに、雨宮吾郎が死んだことなどどうでもよくなるくらいだ。

 ズレてる? 構うもんか。

 こんな幸せに浸れるのなら、いくらでもズレよう。非科学的なことも受け入れよう。

 だから──

 

 どうか。どうかお願いしますと、僕たちを転生させた誰かにお願いする。

 僕の隣で推し(アイ)を堪能するさりなちゃん(ルビー)の新たな人生が、今度こそ善きものでありますように──




Tips『藍久愛海(アクアマリン)』:
 悠とアイの間に生まれた双子の男の子。幸せな赤ん坊ライフを満喫中。
 転生者で前世は雨宮吾郎。出産当日に何かが起き、落命。
 推しの子に生まれ変わり、さらには双子の妹が自分が看取ったさりなの生まれ変わりだと気付き、気分はもう最高潮。シスコンになるのはほぼ確定。
 ルビーがさりなちゃんだと気付いたが、自分が雨宮吾郎だと伝える気はない。


Tips『ミネ』:
 アイドルグループ『B小町』のリーダー。
 アイとニノが活動休止中は主に女優のノウハウを、ワークショップから縁ができていたララライ所属の女優、姫川愛梨から叩き込んでもらったり、壱護に頼み込み舞台や撮影に紛れて参加し役者の姿を観察し、魅せ方を学んでいた。結果、アイのような輝きで魅了するのではなく、一挙一動で想いの熱量を魅せつけ、見たものを焼き焦がしていくアイドルへ成長を遂げた。全ては彼方に輝く一番星に並び立ち、飛び越えるために──
 なお当の本人はアクアとルビーに魅了されてメロメロな模様。
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