愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者 作:だんご大家族
転生。あるいは生まれ変わり。
詳しくは知らないけどセンセ曰く、何百年何千年と前から神話とか昔話に登場して、今では未来に転生だけじゃなく、逆に過去だったり、自分に生まれ直したり、果てには異世界に転生とかなんとか──人間の妄想ってすごいなーと思うわけで。
私──天童寺さりなもそんな夢物語を夢想する一人の女の子。他の人と違う点を挙げるなら、長くは生きられない……
言い直した通り、私は死んでしまった。完治する見込みもなく、ただ苦しいだけの生活が続き、最期は何年も過ごした病室で生涯を終えた。
やりたいことがまだたくさんあった、大切な人と交わした約束もあった。辛いことも悲しいこともいっぱいで、とても良い人生だったなんて言えるわけない短い一生だった。
けれど──私は胸を張って言える。
アイとセンセがいてくれたおかげで最期まで頑張れた、楽しかったと。
灰色一色だった私の入院生活で、偶然点けていたテレビに映った地下アイドル時代のアイを見て、私の世界が色付いた。同じ歳なのにステージで歌って踊るアイは、私に推しという存在とアイドルになりたいという夢を与えてくれた。
センセは、患者の中の一人でしかなかった私のために時間を割いて話をしにきてくれた。叶わない夢を笑わず聞いてくれて、応援すると励ましてくれた。両親どころか色んな人たちに頭を下げて、たくさんの人を動かして生ライブに連れて行ってくれた。これで恋しない方がおかしいよね。
そして──手渡されたわけじゃないから本当か嘘かはわからない。けれど、色紙越しに交わしたアイと再会の約束。初めて私は明日を、未来をずっと生きたいと思えた。
夢と約束のために私は頑張った。センセも主治医の先生も協力してくれた。
頑張って、頑張って──私はそれから一年、必死に生き続けた。
主治医の先生は奇跡だ、なんて言ってた。ホントは一年も生きられなかったらしい。
でも、そこまでだった。
アイに会って色紙を手渡しで返したくて何度もライブの抽選に応募し、二回も当たったけど行けなかった。
私の体も一年長く生きて限界を迎えた。
死ぬんだなぁって悔しかったけど、不思議と怖さはなかった。むしろ嬉しかったまである。
だって、最期までお母さんは来てくれなかったけど、
私のために泣いてくれて、
私のために怒ってくれて、
私のために頑張ってくれて、
最期まで寄り添ってくれた
だから、最期の力を振り絞ってお願いと想いを言葉にして──私は死んだ。
底のない真っ暗な海に沈んでいくような感覚。私という存在が海に溶けて消えていく。
何も感じなくなるまでずっと続くかと思った感覚は次第に沈んでいくんじゃなく、引っ張り上げられるような感覚に変わっていった。しばらくすると黒一色以外感じられなかった世界に光が現れた。それはまるで夜空を照らす星の輝きみたいで。
私はその星に手を伸ばして、
──あは~、なにここぉ? 天国? 極楽浄土~? 延長はいくら~?
あまりの衝撃に脳がとろけた。あと、お漏らしもしてしまった。
どうやら、私、天童寺さりなは本当に生まれ変わってしまったみたいで。
生まれ変わった私の名前はルビー。瑠美衣と書いてルビー。
しかも
しかもしかもだ。部屋には私がもらったはずの色紙が二枚とも飾られていたのだ。誰にも聞かれなかったが、思わず呟いてしまっていた。別の日に興味を示したように指差せば、
『あれはね、ママを最期の時まで応援してくれた子が渡してくれた大切な宝物』
『自分のためにアイドルやってた私が、初めてアイドルやることが誰かのためになってるんだって、その子のおかげで知ることができたものなんだ』
『ここに飾っておけば星になったあの子が──
ああ──ああ! 信じられなかった。
一度も直接会うことがなかったのに。何百何千何万といるファンの中の一人でしかないのに。
前世の私をアイが知ってくれていた。私のおかげって言われた! 天国にいる私のためにわざわざ場所まで考えて飾ってくれた!!
こんなの嬉しくないわけがない。
感情が上手くコントロールできなくて、服まで着替えなきゃいけない程漏らしちゃった。そのあとにアイを──ママを抱き締めながら大泣きして、泣き疲れて眠って、起きたらまた大泣きを繰り返した。ママもパパもその時は珍しくおろおろしてたのは本当にごめんなさいだ。
思わず本当のことを言ってしまいたかった。
私がさりなだって。私はここにいるよって。
私の方こそ、私の生きる理由になってくれてありがとうって言いたかった。
けれど、怖くてとてもじゃないけど言えなかった。転生が知られて、気味の悪い子どもだと思われたらどうしよう。また前世と同じような思いを新しい人生でも繰り返したくなかった。
だから私は本当のことを胸に隠して、今日もママに甘える。ママだけじゃない、お祖母ちゃんのミヤコさん──お祖母ちゃん呼びが信じられないくらい若い人だけど──も可愛がってくれて、家に遊びにくるB小町の三人も私に笑いかけて甘えさせてくれる。
ああ、ここが天国じゃなかったらなんだというのだろう。
そういえば生まれ変わった私には双子のお兄ちゃんがいる。前世は一人っ子だったので新鮮な気分だった。名前はアクアマリン。なんと私と同じ転生者だ。気付いたのは前世の意識が戻ってしばらく後だったけど。
転生者と気付いてすぐは警戒してたけど、目が覚めちゃった真夜中とかに暇潰しで話している内に、そこまで警戒しなくてもいい相手だとわかった。会話の感じからして、前世から男の人で歳もずっと上みたいだった。だからなのか、私がオムツ替えやおっぱいを飲んでる時は見ないように別のところを向いていてくれる。それと、ママからおっぱいをもらうのが恥ずかしいのか、どうしようもない時以外は哺乳瓶でミルクを飲んでいた。まあ? 前世が男の人だったから見ないように配慮してくれるのは嬉しいけど、ママのおっぱい飲まずにミルクで済ますのはママのおっぱいに失礼だと思う。ママのおっぱいは粉ミルクなんかよりもずっと味が濃くてコクがある? みたいな。なのに飲み込んだ後は病院で運動したあと、汗を搔い時に飲む冷たい水や経口補水液みたいにスッキリしていてまた吸いたくなっちゃう。その味はまるで、私を天使の翼で包み込んで抱き締めてくれる女神様のような、そんな
そんな幸せな生活に一つだけ不満? じゃあないんだけど、ファンとして納得しにくいことが一つだけあった。
それは私のパパが──アイに男がいるってこと。
モラリストなセンセだったら「何を当たり前のことを」って言うんだろうな。もちろん私だって
もちろんそんな不満、ファンの身勝手な気持ちだってわかってる。それは決して表に出しちゃいけないってセンセも言ってた。
『うん、さりなちゃんの気持ちもわかるよ。確かに推しに相手がいたら辛い。ファンになって日が浅い俺でも嫌だなぁって思う』
『でもね。アイドルだって一人の人間なんだ。さりなちゃんみたいにやりたいことがあったり、夢を持ってる女の子なんだ』
『だからそういうことは思ってもいいけど、決してアイドルに届かないようにするように』
『その気持ちを推しに押し付けたら、さりなちゃんが嫌いって言ってるガチ恋? オタクと同じになってしまうからね』
『俺たちファンは推しから幸せをもらってるんだ。だったら推しが笑顔でアイドルやれるようなファンでいないとな』
ライブに行った後、アイを推すようになったセンセの言葉。
確かにライブやネットで見たアイドルオタクの男の人がアイを気持ち悪い目で見たり、変な言葉や気持ちを押し付けてるガチ恋勢とかなんとか言ってる奴らと一緒にされたくない。あんなのガチ恋でもファンですらない。
けれど、どうしても納得できない気持ちも確かにあるのだ。だから、同じくアイのファンだったお兄ちゃんとの推しの語らいで軽口程度に話して吐き出す。お兄ちゃんも、
『そうだな、ルビーの考えは間違ってないよ。そういうのは僕に言えばいいさ』
なんて理解してくれたし。うん、お兄ちゃんはりょーしきのある良いオタクだった。
それにママもパパと一緒にいる時、パパの作ったご飯を食べている時、すごく幸せそうなのだ。
推しの笑顔を、幸せを守るのはファンとして当然のことだよね、センセ。
逆にそういうアイドルオタクとしての考えを抜きにして、男の人として、または父親としてパパを見るなら──
まずルックス。顔はイケメンというより中性的。でも可愛いよりカッコいい寄り。私たちの遺伝の元となった、男の人としては長めの金髪も不潔な印象はない。正直、職業は俳優って言われてもおかしくないと思う。以前社長が誘って嫌がってたけど。
次にお仕事。パパはママの事務所のスタッフ兼マネージャー見習い兼B小町専属料理人──ってパパの役職多すぎない? お医者さんのセンセもビックリの仕事量だけど大丈夫なのだろうか。あとはよくわからないけど遠月学園? って学校に時々行ってお仕事をしてるみたい。先生かどうかは知らないけど、それもやってるって、パパ万能すぎ。むしろ何ができないの?
最後に家庭的かどうか。イケメンだったりお仕事を頑張っていても、家ではグータラとかだったらアイが可哀そうだし。……そんな心配はきゆーだったけど。
パパは家庭的というかもう完全に主夫だった。ママも洗濯やお掃除は一緒にやってたりするけど、だいたいはパパがやってるし、特に料理なんかパパ以外作ってるの見たことない。ママが食べるのは当たり前で、社長やミヤコさん、B小町の三人もよく食べに来る。B小町専属料理人って役職持ってるし、事務所の人に夜食を持っていくこともあるくらい料理に関しては誰もがぜんぷく? の信頼を置いているみたい。
こんなにすごく忙しそうなのに、更には私やお兄ちゃんのお世話も昼夜問わず嫌な顔をせずに──というか嬉しそうにこなしてる。逆に心配になるくらいだった。
おまけにパパも私たちと同じ転生者だったみたいで、私たちが転生したことに気付いてもママに言わないでくれるし、私たちが夜中起きてもいいようにしてくれるし。
……うん、悪くない。むしろ大当たりなのでは?
ああ……本当に幸せだ。
推しの子どもに生まれ変わったことも、病気に悩まずに生きられることも、パパとママの子どもになれたことも──全部、全部、ぜんぶ!
生まれ変わった私の世界はいつもたくさんの光に溢れている。暗いことなんて何一つない。
ただ一個お願いがあるとすれば、表情や私たちの接し方でわかってるけど、ママとパパに愛してるって言葉で言われたい。
それ以外は……あ、それともう一つ。
吾郎センセに会いたい。センセに会えたら、もう何も言うことはないのになぁ──
Tips『瑠美衣(ルビー)』:
悠とアイの間に生まれた双子の女の子。幸せな赤ん坊ライフを満喫中。
転生者で前世は天童寺さりな。最推しは無論アイだが、転生してから久し振りに見た他のB小町メンバーのパフォーマンスに「何があった!?」と驚きつつ脳を焼かれてる。そんなアイドルが家に来れば高確率で遊んでくれるので、幸せ過ぎて時々夢かなにかだと思うこともしばしば。ついでにニノの変化も夢だと時々疑ってる。是非も無いよネ。
最近一番嬉しかったのは、アイが
原作よりも一年長く生存したおかげで吾郎との会話が増え、当時はまだアイドルオタクなり立てでそこまで入れ込んでなかった吾郎からファンとしての在り方を、一般的な視点からのアドバイスをもらい、厄介オタクとしての感情は胸の内にだけ留めている。原作同様の不穏な感想が出てくることもあるが、そういうのは時々、アクアとの会話で聞いてもらって発散している。なので推しに男がいることに悪感情はあまり抱いてない。精々、ファンとして複雑な感情程度。なお、アクアは「さりなちゃんは変わらないなぁ」と内心喜びながら軽口を聞いている模様。
あとはセンセに会えれば、言うことはないのに……