愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者   作:だんご大家族

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四話

 アイがアイドル活動に復帰してしばらく。

 

「うーんと……ルビー!」

「あい!」

「やった、名前見ずに言えた♪ ルビー」

 

 アイはそう言うと瑠美衣のお腹に顔を埋める。

 

「きゃっきゃっ」

「はぁ~……じゃあ今度はアクアマリン!」

「あい」

「あ~……いい匂~い」

 

 瑠美衣を降ろし、藍久愛海を抱き上げると首筋に顔を寄せる。瑠美衣のお腹に埋めた時はわからなかったが、どうやら二人の匂いを嗅いでいるようだ。

 気持ちはわかる。子どもたちに使用するボディソープやベビー服を洗う洗剤は特に匂いの良い物を使ってるわけじゃない。なのに藍久愛海と瑠美衣からは甘くいつまでも嗅いでいたい香りがふわりと漂ってくるのだ。

 

 匂いに幸せそうな表情を浮かべていたアイだったが、しばらく藍久愛海に顔を埋めていると、うーん、と悩む声と顔を上げ、藍久愛海を眺める。

 自分が訊ねるよりも早く、藍久愛海に、

 

「アクアマリン、おなか空いてない? おっぱい飲まない?」

 

 コテンと小首を傾げながら聞いていた。

 いや、それは悪手じゃないかなーなんて思っていると、

 

「~~っ!」

 

 ジタジタジタ!!

 

「わわっ、お、落ち着いてアクアマリン!」

 

 案の定、藍久愛海は顔どころか体全体でいやいやする。

 声は慌てているが、アイの腕はしっかり藍久愛海を抱いているので落とす心配はない。

 藍久愛海と瑠美衣が着る服に名前を刺繍しながら訊ねる。

 

「突然どうしたんだ?」

「ああうん。たまたま思い出したんだけどね、アクアマリンとルビーの食事量がだいぶ違うなぁって思って」

「ああ……それは確かに」

 

 藍久愛海を片手で抱っこしながら、壁に掛けたノートを取って、渡してくる。ノートには藍久愛海と瑠美衣が何時に何を食べたか、食事の回数、オムツ替えやお昼寝、その日に何をしたかなどが事細やかに書かれており、自分とアイだけでなく面倒を見てくれた人全員が記入してくれている。そのおかげで家を空けた時に二人が何をしていたか分かるので、いつも助かっていた。

 

 アイが言った藍久愛海と瑠美衣の食事については自分も気になっていた。ノートを受け取り、パラパラと流し読む。

 こっちに戻ってから、藍久愛海は食事のほとんどを粉ミルクを哺乳瓶で飲んでいる。今みたいにアイが母乳を飲ませようとしても、いやいやと嫌がるのだ。飲む回数は日によって違うが十回を超えることがほとんどだ。

 瑠美衣はその逆で、アイが仕事でいなくてどうしようもない時以外は母乳を飲んでいる。授乳回数はだいたい藍久愛海の半分くらいか。

 まあ、転生者とわかってからは藍久愛海の反応も仕方ないと思わないわけじゃない。

 しかし──

 

「う~ん……できれば飲んでほしいんだけどなぁ。触れ合いは大切って書いてたし、それになんだろ、ルビーとアクアマリンで存在感? 言葉にできないけど、そういう気配が違うような気がするんだよね」

「気配……ふむ」

 

 アイ自身も上手く言えないようだが、何か気になる点があるのだろう。

 刺繍する手を止め、裁縫道具を二人の手が届かない場所に片付けて、

 

「瑠美衣」

「あう?」

「おいで」

 

 両手を広げ、瑠美衣を呼ぶ。

 床にペタンと座ってた瑠美衣はハイハイでこちらに近寄ってくる。可愛い。

 自分の足まで到達した瑠美衣の腋に手を入れて抱き上げる。

 

「だぁ!」

「一人でここまで来れたね瑠美衣。偉いぞ」

「むふー」

 

 最近は藍久愛海も瑠美衣も簡単な単語程度を人前でも口にしている。時期的には早いかもしれないが、産まれてすぐに自我が芽生えていた自分の子どもということで、周囲は遺伝やギフテッドということで納得していた。

 褒めると喜んでくれる瑠美衣をジッと見つめる。

 自分譲りの金髪、幼いながらもアイ譲りの美貌。それとアイの言った存在感。うん、しっかりしてる、気がする。

 

「ぱぁぱ?」

「ん、なんでもないよ。お母さん、藍久愛海と交換してくれ」

「はーい。今度はアクアマリンがパパに抱っこしてもらおうね~」

「まぁま! まんま!」

「はぁ~い、ママだよ~♪ お? ルビーはおっぱい? ちょっと待ってね」

 

 アイと子どもたちを交換すると、早速瑠美衣が授乳を希望するようにアイを呼び、胸を叩く。自分はアイの方から向きを変え、瑠美衣にしたように藍久愛海をジッと見つめる。

 ──確かにアイの言う通りだ。瑠美衣より藍久愛海の方が存在感が薄い。いや、言い方が悪いな。よく漫画とかでいる影が薄いキャラみたいに気配がしないわけじゃない。藍久愛海という存在はハッキリとしている。ただ……瑠美衣に比べると儚いと言うべきか。

 意味が合ってるか不安だが、深窓の令嬢や箱入り娘がピッタリ当てはまりそうだ。──藍久愛海は男なので言葉としては間違っているが。深窓の令息? 箱入り息子? なんかしっくりこないな。

 だけど何故だ? どうして藍久愛海だけが? まあ、答えはさっきアイが気になっていた食事の違いにあるのだろう。

 母乳と粉ミルクの違いはたぶんだが、

 

「一応、調べてみるか」

「だぅ?」

「ん、ああ。ごめんごめん。そろそろ下ろすよ」

 

 どうしたの? と首を傾げる藍久愛海を床に下ろし、視線をアイへと向ける。考え事をしている間に瑠美衣の授乳もちょうどげっぷが出て終わっていた。

 いいタイミングだ。アイを呼ぶ。瑠美衣を藍久愛海の隣に座らせ、

 

「アイはこっちに」

 

 胡坐を掻いた足にアイを向き合うように座らせる。対面座位というだっけか。まあいいや。

 

「ハ、ハルカ? 子どもたちの前でこの格好はちょっと恥ずかしいんだけど……」

「調べたいことがあるんだ。協力してくれ」

「え、うん。それはいいけど、この格好と何の関係が……」

「ちょっと母乳飲ませてくれ」

「……。…………、………………はえ?

 

 たっぷり時間を掛けて、自分の言葉を咀嚼していき、理解したアイは素っ頓狂な声をあげる。座らせた藍久愛海と瑠美衣がぶっと吹き出すのが聞こえた。

 うん。その返しは予想の一つだ。

 

「え、え……えぇっと、ハルカが飲むの?」

「ああ」

「ど、どうしてかな?」

「二人の違いの原因が母乳にあると思ったからだ。ああ、母乳が悪いってわけじゃない。たぶん、グルメ(・・・)細胞(なアレ)のせいだと思う」

「あ、あれかぁ……。飲むだけでわかるの?」

「たぶんな」

「う、うーん……恥ずかしいけど、まあ、子どもたちだけだしそれなら」

「じゃあ早速」

 

ガチャ……

 

 許可を貰ったので服をめくり、ブラから胸を露出させる。さっさと済ませるために胸の先端に顔を近づけて、

 

「あっ、ちょっタイムッ、待ってハルッ、──ひゃん!?」

「はむ……ちゅ……」

 

 何かを言われてる間に、口で咥えて──吸った。

 胸を吸うなんて前世含めても初めてのことだが、まあ赤ん坊の頃に哺乳瓶吸った要領でいけるだろう。そんな考えで多少母乳が出たところで胸から顔を離す。口に含んだ母乳を口の中で味わいつつ確認し、飲み下す。

 母乳を飲むのも初めてだ。見た目的には牛乳みたいな味だと思っていたが、アイのは牛乳というより生クリームような濃さと甘さを感じる。けどしつこい感じはなく、爽やかですっきりした後味は悪くない。瑠美衣がいつも美味しそうに飲んでいるのもわかる気がする。

 この味からして、自分の予想は間違いないだろう。

 

「ん、ありがと。なるほどね」

「なるほどね──じゃ、ないでしょうがァッ!!

「──おごぁっ!?」

 

 納得すると同時に誰かの怒号と自分の後頭部から凄まじい衝撃と痛みが叩きつけられる。食戟の合間に壱護さんに殴られた時以上の痛みに、アイを巻き込まないように背中から床に倒れこむ。

 チカチカと明滅してブレる視界には、天井と数人の姿が見えた。

 「はわわはわわ」と慌てるアイ。可愛い。

 自分を殴ったのであろう残心*1を取っていたニノ。

 「お構いなく」とニノの後ろに控えている小鳥遊さん。

 けっ、と吐き捨て、ゴミを見るような目でこちらを見下ろしているナベ。

 「はわわはわわ」とアイみたいに慌て、顔を真っ赤にしたミネだった。

 いつの間に部屋にいた?

 

「なぁにやってるんでしょうかぁ? このヘ・ン・タ・イがっ」

「いっ、てぇ……い、いつ入って、きた……?」

「じゃあ早速、からですね」

 

 胸を吸う直前……説明抜きでほぼ最初からか。

 ……ああ、アイが慌てたのは、ニノたちが入ってきたからだな。

 

そ・れ・で?

「こ、答える前にもう一つだけ聞いていいか?」

「ええ、どうぞ」

「なにで自分を殴った? 叩かれてここまで痛いのは初めてなんだが」

「護身用の超々ジュラルミン製鉄扇です」

「そんな扇子も持ってるのか……」

 

 いや待て。そんなあっさり済ませていいものじゃない。超々ジュラルミンって確か金属バッドに使われてるとどっかで見た気がするぞ!? 自分以外だと無事じゃすまない凶器をどこで買った!? というか売ってるものなのか?

 

「子どもたちの前でおっぱじめた変態には相応しい一撃かと。それと、この扇子は特注品(オーダーメイド)ですがなにか?」

 

 内心絶句する自分の心を読んだのか、扇子を広げて口元を隠して言ってくる。シャキンッと扇子が出しちゃいけない音を出してるんだが。

 

「あー……」

 

 視界が正常になり始めて、ようやく周囲を見渡す。

 まず胸を吸われたアイ。自分から離れながら、いそいそと胸をしまっているが、その顔は茹でられたように真っ赤に染まっている。自分に胸を吸われたことよりもミネたちに見られたのが恥ずかしかったのだろう。

 次に藍久愛海と瑠美衣。こちらも顔を真っ赤にして手で目を隠していた。指と指の間が広がっているので、しっかり父親の痴態を覗いていたが。

 最後に迎えに来た四人。まあ、さっきも言った通り、藍久愛海と瑠美衣と同じように指を開いた手で顔を覆っているミネ。ニノとナベは自分をゴミを見るような冷たい視線を向けている。表情を変えていない小鳥遊さんは藍久愛海と瑠美衣を自分から遠ざけている。

 ……うん、誰がどう見ても言い逃れできない光景だわ。

 

「──何か言い残すことはありますか? ド変態」

「……思った以上に美味でした。マル」

「そうですか。ふふ……去・ね♪

 

 言い訳しようもない状況に、いっそのこと開き直って味の感想を伝えた自分に待っていたものは、ストレートな罵倒と超々ジュラルミン製鉄扇による殴打、ナベのアイアンクローだったとさ。

 

 

 

  ☆☆☆☆

 

 

 

 

「──つまりなんです? アクアくんに感じた違和感解消のために犯行に及んだと?」

「犯行言うな。間違ってないけど」

「……気になったからと言って子どもたちの前でやることではないでしょうが。それで? 答えは出たんですか?」

「一応な」

「ハァ……次からは節度を保ってくださいね。じゃないとわたくしが理性を保てませんので」

「理性が保てなかったらどうなるんだよ」

コンクリートで固めて海に沈めてやる

「んなヤクザ理論……いやわかった。ちゃんと自重する」

 

 光のない瞳にドロリとしたナニかを浮かべ、いつもと違い淡々と喋るのは流石に怖い。冗談だろうと言いかけた言葉を飲み干す。しっかり訂正してから、横で見ていたアイに体ごと向きを変え、正座のまま土下座のように頭を下げる。

 

「すまなかったアイ。もうしない」

「もう……。いいよ。だけど、今度はニノちゃんたちが来ない時にね?」

「いや、もうするつもりは……」

してね?」

「……はい」

「いやいや、そういうことはウチたちだけじゃなくて、子どもたちがいない時も含めなって」

 

 断り切れなかった自分の反応に、ナベがツッコミを入れる。唯一、瑠美衣を抱いて落ち着きを取り戻していたミネが顔を赤く染めながらブンブンと上下に振っている。やっぱり色恋系に耐性がないな、こいつ。

 

「お説教はここまでにしましょう。それで? 結局、どう対処するんです?」

「これからの藍久愛海の食事を、本当にどうしようもない時以外は完母スタイル……完全母乳にするつもりだ」

「~~っ!」

「おっと。アクアマリンくんは嫌みたいですね」

 

 小鳥遊さんに抱えられていた藍久愛海がジタジタと嫌がる。

 だけど諦めてくれ。後でちゃんと説明するから。

 

 ちなみにごく普通に一緒にいる小鳥遊さんだが、この度苺プロに就職──というより織崎家から出向扱いか? 役職はニノの専属マネージャー兼護衛。本名は就職した時に改めて聞いたが、ニノを除いたここにいるメンバーは偽名の小鳥遊の方で呼んでいる。ニノがアイドルを卒業し苺プロを退職するまでの間の期間限定だが、壱護さんは即戦力に喜んでいた。自分とアイの秘密を知っているのも大きい。

 

「ところで皆さん。そろそろ家を出る予定時刻です」

「え、もう? しまった、余裕もって来たのに……名桐のせいでアクアとルビーと遊べなかったじゃない!」

「悪かったよ……ミネお前、ホント子どもたちにデロデロだな」

「この子たちが可愛いんだから仕方ないでしょ! アイ、準備は出来てるわよね?」

「うん。いつでも行けるよ」

 

 一応、今回のことは手打ちにしてもらえたのか、全員切り替えてテキパキと動き始める。

 この後、四人は壱護さんとミヤコさんと合流して、今日の仕事場に行く予定だ。

 

「じゃあ、行ってくるね。また後でねアクアマリン、ルビー」

「名桐ぃ、マジで二人が嫌な思いしないよう連れてくんのよ。いいわね!」

「いってらっしゃい。──わかったわかった。わかったからさっさと行け」

 

 ただし、自分は一緒には行かない。後から合流する。──藍久愛海と瑠美衣を連れて。

 ニノとナベも藍久愛海と瑠美衣の頭を撫でてから部屋を出る。五人を見送って少しして、

 

「なあ父さん。さっきの授乳のことなんだけど……」

「プンプンプン──……」

 

 準備を始めた自分に藍久愛海が抗議してきた。瑠美衣は瑠美衣で先程アイの胸を吸ったことに対する抗議代わりにテシテシと足を叩いてくる。痛くはないけど、やめようね。

 

「藍久愛海が嫌がるのもわかるよ。前世が成人男性だったから抵抗があるんだよな」

「そうだよ。そりゃ今は二人の子どもだけど、流石に精神が大人だった身としては越えちゃいけない一線だと思うし……」

「でも藍久愛海。気付かなったお父さんたちが悪いけど、粉ミルクだとお腹いっぱいにならないんじゃないか? 或いはすぐにお腹が空いてしまうとか」

「え、そうなの? お兄ちゃん」

「え、ああ……うん。その通りだけど……なんでわかるの?」

 

 個人差があるので鵜呑みにはしていないが、雑誌やネットに書かれている一日の平均授乳回数は主に約六~八回。瑠美衣はともかく藍久愛海は飲み過ぎだ。なのにお腹が空くってことは、粉ミルクでは藍久愛海の体には何もかもが足りないはず。

 加えてさっき飲んだアイの母乳。美味しいが、あの味が普通だとは思わない。間違いなくグルメ細胞によって美味しくなったのだろう。

 

 ここから立てられる予想は二つ。

 一つはグルメ細胞を持って産まれたか。ただ、グルメ細胞を宿して産まれたら体のどこかに傷ができるはずなので、この予想はハズレだと思う。

 もう一つはグルメ細胞は宿していないが、グルメ細胞を宿した自分とアイの遺伝子を受け継いだことで、二人ともグルメ細胞を宿せる可能性がある体になっており、それに合わせて栄養や食事が普通のものでは足りなくなってしまっているからか。特にこれは妊娠中のアイとそっくりなので、ほぼこの予想で間違ってないはず。

 

「まだ話すことはできないけど、お母さんの母乳には二人にとって必要な特別な栄養が詰まっているんだよ。例えるなら……あれだ、コアラの子どもの食事」

「なんでコアラ? わかる? お兄ちゃん」

「えっと……確か、コアラの主食がユーカリっていう葉っぱなんだけど、毒を持っているんだ。成長したコアラはその毒を体の中で分解できるけど、産まれたばかりの赤ちゃんコアラは毒を分解できないから、母コアラのうんちを食べることで毒に慣れていって、ユーカリを食べられるようにしてる……そんなだったはず」

「へー……え、じゃあママのおっぱいって毒を消せるの!?」

 

 ママすげー、なんて瑠美衣が驚いているが、違うそうじゃない。

 けど、しっかり説明するのも難しいんだよな。コアラ以外に例えとして挙げられるものあったか?

 

「いやいや、そんな栄養が母乳にあるなんて聞いたことがないよ……」

「深く考えなくてもいいよ。二人が成長したら、その時にちゃんと説明するから」

「その時っていつなのさ」

 

 藍久愛海の疑問に、あらかじめ作っておいたスープ(・・・)を、能力で生み出した『グルメケース』に注ぎながら答える。

 

「……そうだな。二人が母乳や離乳食から普通の食事を食べられるようになってからだね」

「思ったより早かった」

「えー! ずっとママのおっぱい飲んでたい!」

「ルビー……ちょっとは遠慮ってもんを憶えなよ」

「なんで? ママのおっぱいを娘の私が吸うのは当然の権利でしょ」

「……。授乳って意外と乳首に負担が掛かるんだよ。だから、吸い過ぎるのはアイの負担になると思う」

「そうなの!? でもなんでそんなことお兄ちゃんが知ってるの?」

「ぜ、前世で読んだ本に載ってたんだ」

 

 なんて少し話の軸が変わり、別の話題を二人が話している間に、リュックにグルメケースを含めた必要なものを詰めて、自分の準備を終わらせる。授乳の話はまた後でもいいだろう。

 というか藍久愛海の話は自分も初耳だ。今度、調べ直してみるか。

 

「さて。そろそろ二人にとって、はじめてのお出掛けの時間だ。心の準備はいいかい?」

 

 大変かもしれないが、外では隠さなくてはいけないことが多い。

 二人としてはいけないことを約束してもらい、リュックを背負い、藍久愛海と瑠美衣を胸に抱えるように抱っこ紐で固定する。軽く動いて二人が落ちないか一通り確認してから部屋を出た。

 マンションの出入り口──ではなく、屋上へ上がりながら消命を使う。

 

「なんで屋上に来たの?」

「アクア、ルビー。お父さんには秘密が三つある。一つは転生者だということ」

 

 瑠美衣の疑問には答えずに、話をする。

 

「二つ目はさっき言った通り、二人が大きくなったら。そして三つ目は──」

 

 到着した屋上に誰もいないことを確認する。ぐるりと見回しても、いるのはこちらを見つめる一羽のカラスだけ。直観も反応しないので、軽い跳躍でフェンスの上に立ち、

 

「え、え? パパ、今飛んだ……?」

「飛ぶっていうか跳んだ? 一メートル以上を助走なしのジャンプで?」

「常識外の──この身体能力だ」

 

 そう告げながら跳んだ。

 抱っこ紐の上から腕で二人を抱き支え、屋上から屋上へ駆ける。

 

「お、おおわあああ──っ!!?」

「きゃーっ!!?」

 

 最初は本気で驚いていた二人だったが、

 

「──」

「ひゃっほ──っ!! すごいすごい! パパすっごーい!」

 

 泣いて止められたり、怒るかもしれないと思ったが、子どもたちは思ったより肝が据わっているようで、しばらく走ったり跳んだりしてる内に、藍久愛海は無言で流れる景色を目を輝かせ、瑠美衣は楽し気な叫びを上げて笑っていた。

 それを聞きながら、直観に従ってカメラや人の目がないルートを駆け抜ける。

 目的地はB小町の今日の仕事先であり──自分とアイが暮らした施設だ。

*1
読んで字のごとく何らかの行動後も気を抜くことなく、心を残して警戒を怠らない気構えを示すこと。もしくは行動後に余韻を残すということ。例として、弓道では弓を射った後、当たる当たらない関係なく、射った後の姿勢を数秒保つ時間があるが、ここでの姿勢が残心にあたる。




Tips『薙切悠』:
 今回の件で「実は家ではヘンタイだった?」と誤解された模様。自業自得である。
 ちなみにミネたちからは変わらず「名桐」と呼ばれている。


Tips『斎藤アイ』:
 恥ずかしかったが、実はハルカから求められてちょっぴり嬉しかったり。
 悠の想像通り、アイの母乳はグルメ細胞を宿したことにより美味しくなっている。

 グルメ細胞は人体に結合させた場合、圧倒的な生命力を持つとあるが、同時に美味しいものはより美味しくなると説明されている。また、グルメカジノ編ではこんな言葉も出ていた。
「人間も自然界では食材の一つ」
 あくまで賭け金に食材を使用したカジノでの発言だが、これらのことから、狂人的思考ではあるもののグルメ細胞に適合した人間も味だけで見れば美味しいのだろうと妄想し、上記のような設定になった。原作ではそんな説明はないので、あくまで本作独自の設定と思っていただければ。


Tips『藍久愛海(アクアマリン)』:
 前世が成人男性だったので、授乳は流石に……と、どうにかこうにか哺乳瓶で粉ミルクを飲んでいたが、アクア自身もルビーの倍以上飲んでもお腹が空くことに疑問を感じていた。
 これからのことを考えた悠から粉ミルクは原則禁止を言い渡されてしまい、気が重い。
 なお、将来的にしっかり母乳を飲んでたルビーに筋力等、フィジカル面では勝てない模様。
 頑張れ、アクアマリン! 前世がバレたら逃げられないゾ。
 ちなみに彼の事を、
 ミネ・ナベ:アクア
 ニノ:アクアくん
 小鳥遊:アクアマリン(外ではアクア)くん
 とそれぞれ呼んでいる。


Tips『瑠美衣(ルビー)』:
 父親に母乳(ごはん)を飲まれ、ご立腹な様子。それとファンとしても許せなかったので今回は手を出した。悠には ダメージは ないようだ。
 ニノお姉ちゃんの扇子はやりすぎじゃない? と思いたいのに、そんな扇子でビシビシ叩かれてるのに痛いで済んでるパパも頑丈過ぎない? と宇宙猫になってた。


Tips『ニノ(織崎藤乃)』:
 B小町のメンバーの一人で、織崎家次期当主。専属マネージャーとして小鳥遊が付いた。
 護身用の超々ジュラルミン製鉄扇、正装用の江戸扇子、愛用のアイのサイン入り扇子と、いくつも扇子を所持している。どこに隠してるのかは乙女の秘密だそう。乙女(笑)
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