愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者 作:だんご大家族
「つ……疲れた……」
控え室として借りた部屋の机にミネが突っ伏す。
四人掛けの机の斜め向かいに座っていたニノも腰掛けた椅子に
アイとナベが苦笑を浮かべて、飲み物が入ったペットボトルをそれぞれ置く。施設を出た後も時々子どもたちと交流していたアイ。幼い頃から弟たちの世話をしていたナベの二人は、肉体的疲労は元より精神的疲労もミネとニノほどではなかった。
「大人とはまた違った勢いがありましたねぇ……」
「どこからあの体力は湧いてくんのかしら。特に幼稚園児や小学低学年ぐらいの子たちがすごかったわ……」
「グイグイ来てましたもんね。お目目をキラキラ輝かせて可愛かったですが」
「あ~いたいた。質問コーナーで『お姉ちゃんたちみたいになるにはどうしたらいいですか?』って聞いてきた子もいたし」
「男の子もアイドルになるって追随してましたしね」
そこで話を一度切り、のろのろと上半身を起こし、施設からの好意で置かれていたお菓子の入った入れ物に手を伸ばす。もぐもぐと咀嚼して味わってから、飲み物で喉を潤し一息つく。
「でも、ま、たまにはこういう感じも悪くなかったわ」
「ええ」
「ほんと? じゃあ定期的にやる?」
アイの言葉に、忙しくなければね、とだけ二人は返す。
とは言ったが、この一年で個人の仕事が増え始めたミネとアイドル稼業の他に次期当主としての予定も組み込み始めたニノに、そういった余裕はあまりなかった。
アイもそれは知っていたが、それでも楽しみ楽しみとだけ言うのだった。
「んー……っしょっと。んじゃあそろそろ、アクアとルビーと合流しましょっか」
大きく伸びをして立ち上がり、ミネが片付けながら言う。
同意した三人も片付けを済ませ、部屋を出る。
部屋の外には待機していた小鳥遊と、迎えに来たのだろう四條がいた。
「休憩はもうよろしいのですか?」
「ええ。あなたもご苦労様、あみゃ」
「お嬢様?」
「ぷはっ……ったく、小鳥遊。これでいいでしょう?」
「よろしい。──それでは四條様、案内をよろしくお願いします」
「ええ、こちらへ。斎藤夫妻は既に案内してますので」
四條に先導され、歩き出す。
時々、職員と共にいる子どもとすれ違い、声を掛けられるが、特に立ち止まることもなく進む。
「正直言うとさ、もっと暗い雰囲気の場所だと思ってたわ」
「施設のこと?」
「ええ。アイがいた頃からこんな感じだったの?」
「うーん……どうだっけ? あんまり憶えてないけど変わってないと思うよ?」
てへへ、と笑って誤魔化すアイに、ミネは呆れる。
代わりに四條が答えた。
「暗くはありませんが、いつもはもう少し落ち着いていますよ。今日はアイさんが来ると知っていたので、楽しみにしていたのでしょう」
「そうなんですか」
「それとここに来た時は大抵、共に来た悠が食事を作ってくれてましたので、それを楽しみにしてる子どもたちもいました。今日、彼はお忍びで来て、子どもたちには来ていないと伝えているので、いないことに残念がっていましたが」
「ここでもあいつの料理は人気なのね……」
「ええ。5歳頃から毎日一回食事を作るのを手伝ったり、一食を任せられるようになって、施設を出る頃は朝昼夕と全部作る日もありましたね」
「へぇ……って5歳!?」
四條が教えてくれた悠の過去に驚くミネとナベ、それとニノ。
アイはうんうんと頷いている。
「どこで憶えたのか、あっという間に一品を作って料理が出来ることをアピールして……ふふ、将来は料理人になるかもしれないと職員の間で話題になっていましたが、まさか遠月学園の生徒相手に食戟で勝つとは思いませんでした」
「……食戟?」
「以前話した、お兄さんが人生賭けて勝負した料理勝負のことですよ。──しかし、四條様は会場にいらっしゃらなかったはずですが……」
「遠月学園
「……ふふ、四條様のお耳にも入ってしまうとはお恥ずかしい限りです」
扇子で口元を隠し、笑みを浮かべて答えるニノ。しかしそれは精一杯の虚勢であり、彼女の背中には冷たいナニかが滑り落ちていた。
確かに次期当主としてお披露目パーティが開催された際の紹介で、“にしき”を継がないと決めていたニノは本名ではなく『ニノ』と名乗ったが、それはパーティに参加できた織崎家に連なる者たちだけしか知らないこと。
(各地での児童養護施設の経営は表の顔。裏では日本を陰から支える諜報機関を束ねる一族──四條家。その情報網は対諸外国を基本とした国防のためとして張り巡らせていると噂には聞いていましたが、当然、国内はもちろん名家にも網を掛けていますか……。集めた情報は全て国防以外に使用できないという制約が課せられてはいますが、はてさて、どこまでが真実なんでしょうね。知ろうとは思いませんが)
胸の内でだけ呟くニノ。違和感を感じたアイが、
「ニノちゃん?」
と尋ねたが、
「どうしました? アイちゃん」
逆に聞き返して、うやむやにした。
それ以降は軽い雑談を交わしながら施設内を歩き、さっきまで歌やレクリエーションをしていた講堂の上のフロアの一室に到着した。
「到着しましたよ」
「ありがとうございます。──アクアー♪ ルビー♪」
ミネは代表して丁寧にお礼を返す。──瞬間、バァン! と擬音が付きそうな勢いをつけつつ、だけど実際には音がしないように開けるという離れ業でドアを開け放つ。
真面目な表情もハキハキとした声音も一瞬で引っくり返り、アイドル以前に女性が人前で見せてはいけないだろう緩んだ表情で、語尾にハートマークも浮かんでいそうな甘い声。
──あのデロデロ具合……どうしようもないわね。
ナベは白い目を向ける。
──ようこそミネちゃん。こちら側へ。
ニノは相手は違えど、生暖かい目で同志となりそうなミネを歓迎する。
──普通は親の私が一番最初に入るものでは? ミネちゃんの子どもじゃないんだけど?
アイは不思議がりつつ、ほんの少しムスーッと頬を膨らませるのだった。
☆☆☆☆
「──ただいま戻りました……なにかあったんですか? 悠お兄様」
部屋に戻ってきたえりなちゃんが不思議そうに自分に聞いてくる。
「はは、なんでもな──」
「ばぶ!」
「いて──なんでもないよ。ほら、ルビー、えりなお姉ちゃん帰ってきたよ」
「だぁぶ! だぁ!」
「……なんでもないようには見えないんですが?」
なにやったんですか? と目で訴えてくる。
うん、誤魔化せるとは思ってない。瑠美衣も「話をそらさないで!」とでも言うかのように声をあげ、ぺちぺちと叩いたり、頬を引っ張っている。さっきまでは藍久愛海も抗議していたが、今は爺さんの腕の中で大人しくしている。視線だけは文句を言っている気がするが。
まあ、うん。至極単純な話だが、
「──つまり、もっと近くでライブが見たかったと?」
「二人ともB小町が大好きだからね。窓越しで小さな音量じゃ不満だったみたいだ」
以前、相談に乗ってもらった師匠にだけは二人を見せたが、それ以外の他の職員や施設の子どもたちには子どもができたことは秘密にしている。そうなると流石に子どもたちの前には出れないので、今日は遠くから見てもらうだけで勘弁してもらおうと思ったのだが──
『ばぁぶぅぅ!! アイおねちゃ! みりゅぅうう!!』
『ぬ、ぬぅっ!?』
「仙左衛門殿! ルビーお嬢様を落とさないよう」
『助かる花邑……落ち着こうルビー。お爺ちゃんが困ってる……!』
『ばぶばぶばぶぶ』
『アクアも抗議しないでくれ。うん、お父さんが悪かったから』
二曲目、アンコールの三曲目でもうすごかった。あの爺さんでさえ、暴れる瑠美衣を落とさないようにするので精一杯だったのだから。
どうにか藍久愛海と瑠美衣を入れ替えてなだめたりしてようやく落ち着いてくれたのだが、未だにこうして叩いたりしてくる。興奮してママと呼ばなかっただけ良しとするか。
「ルビーもB小町見たかったの?」
「ばぶ!」
「ぶんぶん頭を上下してる……そんなに見たかったのね」
あはは、とえりなちゃんも苦笑を浮かべている。
まあ、B小町もといアイの大ファンな二人なのだ。むしろ、こうなることを予想できなかった自分が悪いか。……仕方ない。
「ルビー?」
「ぷーん」
「ふふ、まったく……瑠美衣」
「……あい」
「今日の埋め合わせというわけじゃないが、少し先だけどミニライブの仕事があるんだ。それに連れて行ってあげる」
「ばぶ!?」 「ばぶ!?」 「え!?」
「だけど社長が知ると絶対ダメって言うから、バレないようにすること。いいかい?」
「あい!」
「うん、いい返事だ。約束だよ」
予定として組み込まれている販促イベントで行うミニライブ。一応、スタッフとして参加できるのでそこに連れていくと約束する。壱護さんにバレたら大目玉だろうが。
あと、澄ました顔してるが、驚いた声も喜んだ顔も隠せてないぞ藍久愛海。
「いいなぁ……」
「……花邑」
ポツリとえりなちゃんが呟く。
一応、花邑に日付を伝えてみると、花邑ではなく緋沙子ちゃんが手帳を取り出して予定を見たが、残念ながらえりなちゃんの方で仕事が入っているのか首を横に振られてしまった。流石に薙切家のことには口は挟めない。まだ小学生の子どもに自主的ならともかく小遣い稼ぎ以上の仕事をやらせるなとは個人的に思うが。
ちょうどそこでドアがノックされる。
応えると、壱護さんとミヤコさんが入ってきた。……あっぶね。
自分に気付いて手を挙げた壱護さんだったが、爺さんがいることにも気付くと、
「お、お久し振りです!」
慌てて頭を下げる。
急に頭を下げた壱護に驚くミヤコさんだったが、壱護さんに倣って爺さんに一礼する。
爺さんは藍久愛海を自分に渡すと居住まいを正す。
「そなたと言葉を交わすのは初めてだったな。薙切家当主、薙切仙左衛門だ」
「い、苺プロダクション代表取締役、斎藤壱護と申します! こっちは妻のミヤコです」
「うむ。今日は──否、先日の件も含めて謝罪と礼をしたいと思って、悠に頼んで来てもらった。忙しい中、よう来てくれた」
「い、いえいえ! そんな滅相もない!」
ブンブンと手を振る壱護さんだが、それを無視するかのように爺さんは、
「まずは感謝をさせてほしい。悠を、我が孫を育ててくれたことを。ここでの生活もそうだが、お主のおかげで悠は良い方向へ育つことができた。──ありがとう」
深々と頭を下げた。
これにはえりなちゃんや緋沙子ちゃんも驚き、壱護さんは驚き過ぎて言葉を失っている。
その姿勢のまま、
「そして謝罪を。先日の無茶な連行もだが、それよりも──儂の指示でお主の娘に精神的な障害を負わせてしまったと聞いた」
「ぁ……」
「謝って済む問題ではないし赦されたいと思うてない。しかし、ケジメはつけねばならん。でなければ儂は親として娘に不義理を強いたばかりか……祖父として孫に顔向けできん」
「──」
「責任は全て儂にある──本当に申し訳なかった」
話をしたいとは言っていたが……その件は初めて遠月学園で会った時に済ませたと思っていた。
それと自分が言える立場ではないが、そういったことは前もって言ってほしかった。アイとも話し合って、男性恐怖症のことは子どもたちには内緒にしておこうと決めていたのだ。以前は耳や目を塞いでもらって聞こえていなかったえりなちゃんたちにも知られてしまったではないか。
「ぱぁぱ?」
ほら、爺さんが謝罪している相手がアイだと気付いた子どもたちが「どういうこと?」と言わんばかりに見上げている。流石にこの場では言わず、帰ったらねと囁くようにこの場を誤魔化す。
壱護さんは慌てていた様子が嘘のように落ち着きを取り戻し、ミヤコさんの方を見る。
「思ったことを言えばいいのよ、壱護」
「……そうだな。助かる、ミヤコ」
頷くと、壱護さんは一歩爺さんに歩み寄る。
「仙左衛門殿、とお呼びしても?」
「好きに呼んで構わんよ」
「では仙左衛門殿と。──まずは顔をお上げてください」
請われ、爺さんは顔を上げる。
壱護さんはサングラスを外し、真っ直ぐに爺さんと視線を合わせて言う。
「あの一件については経営者としても、あいつの父親としても言いたいことはあります。ですが、今この場では一つだけ言わせていただきたい」
「聞こう」
「仙左衛門殿──謝る相手を間違えてはいませんか?」
「む……?」
「被害を受けたのは私じゃない。娘のアイなんです。どうか、謝罪はアイにしてください。私があの一件で言えることは、今はそれだけです」
お願いします、と、今度は壱護さんが頭を下げた。
「──そうであったな。斎藤壱護、お主の言う通りだ。誰よりもまず当人に言うべきであった」
「……」
「斎藤アイに謝罪後、非公式になってしまうが改めて場を設けさせてもらいたい」
「今ので十分過ぎるんだけどなぁ……いえ、わかりました。日程を確認し後日、こちらからご連絡させていただきます」
これで話は終わりだと言う代わりにサングラスを掛け直す。
話がまとまったところで花邑が壱護さんとミヤコさんに椅子を勧め、部屋に用意していたお茶を
二人の前に並べる。お礼を言って口を付ける二人。
「二人が来たってことは四人もそろそろか?」
「ん、ああそうだな。休憩を挟んでから向かうよう指示したから、もうそろそろだろうな」
「そうか。──えりなちゃん、緋沙子ちゃん。これを」
腕に抱えた藍久愛海と瑠美衣をパズルマットに降ろし、リュックから何も描かれていない色紙を取り出して二人に手渡す。
「少し違う形になってるけど、以前した約束のサインだ」
「何も書いてませんが……」
「せっかく本人たちが来るんだ。目の前で書いてもらった方がいいかなと思ってね」
アイとナベには事前にサインを書いてもらうことの承諾は得ている。ミネは自分のサインは欲しくないのか、と少しむくれていたが、そこはもう一枚のサプライズ品に協力してもらうことで妥協してもらった。ニノ? あいつはえりなちゃんを知ってるから特に何も言ってこなかった。
「ありがとうございます。悠お兄さ──」
受け取ったえりなちゃんがお礼を言う、その時だった。
「……──アクアー♪ ルビー♪」
勢いよく、だけど藍久愛海と瑠美衣を驚かせないよう音を最大限に抑えてドアが開け放たれる。
甘く緩んだ声音とノックもなく突然ドアが開け放たれたことで各々が反応する。
えりなちゃんは驚きで振り向き、緋沙子ちゃんは驚きつつえりなちゃんの前に躍り出る。
壱護さんとミヤコさんは声音で誰なのか気付き、頭を抱えている。
花邑は一歩爺さんの隣に立ち、爺さんは、
「──」
無言で闖入者の方へ眼差しを向ける。
入ってきたのは声からしてミネだったが、
「……、……ぴぃ!? ま、間違えましたぁ~……」
「待て待て、合ってる合ってる」
爺さんを見て、小声で謝りながら開け放ったドアを閉めて廊下へ戻ろうとする。
まあ、うん。爺さんからすれば何気なく視線を向けただけだと思うが、その視線は一般人には鋭すぎるのだ。ジロリとかじゃない。ギンッと擬音がしたり集中線が出そうな眼光だもんな。ミネが廊下に戻るのも仕方がないだろう。
「名桐……あ、社長たちもいる。よ、よかったぁ……」
「ノックしないミネが悪いでしょうが。ほら、後ろが詰まってんだから入った入った」
「返す言葉もありません……」
後ろから言われたナベの正論に肩を落とす。
師匠を含めた全員が部屋に入ると、
「おねちゃ!」
瑠美衣がハイハイでミネたちの下へ駆ける。
ドドドドなんて擬音が聞こえそうなほど、ハイハイで猛進していく。
「ルビー♪」
先頭にいたミネが笑顔でしゃがみ込んで手を広げる。
そのままミネの腕の中にゴールする──ことはなく、
「だっ!」
「んえっ!? ドリフトハイハイ!?」
手が届く直前に急ブレーキを掛け、前にではなく横にハイハイする。
転ばないよう弧を描いてミネをかわすと、
「だぁ!」
「おっとと……」
最後は飛び込むようにアイの下まで辿り着く。転生云々抜きでもすげーな。
足元に到着する寸前で気付き、アイはしゃがんで瑠美衣を抱き上げる。
「できればお前は真似しないでくれよ、アクア」
「だー……」
できないって、とばかりに首を横に振るアクアを抱き上げながら成り行きを見守る。
えりなちゃんと緋沙子ちゃんは瑠美衣の変則的ハイハイに驚いて言葉を失っていた。気持ちはわかる。
「まうー♪」
「あはは、ミネちゃんをあんな風に避けるなんて、すごいねルビー!」
「なんでアタシの腕に来てくれないのルビー!?」
「私の方が良いってことだよ。ねー? ルビー」
「あう!」
アイの頬ずりに笑顔を浮かべる瑠美衣。そんな娘の様子にアイはミネに向かってふふんと胸を張る。少し自慢げだが、何かあったのか?
一方、そんな二人を見て、
「くっそぉ~……母は強しってこういうことかぁ」
本気で悔しがっていた。……って、まてまて。
何を口走ってる、とフォローの言葉を発しようと口を開く、
「……母? え、B小町アイがルビーのお母様……?」
──前にえりなちゃんが呟いた。緋沙子ちゃんも目と口をこれでもかと開いている。
一拍置いてミネが口を抑える。ナベやニノはもちろん、壱護さんたちも頭を抱えている。爺さんと花邑はあまり驚いている様子は見られない。たぶん、子どものことを知った時点で少ない交友関係から予想を立てていたののだろう。
薙切家に教えるとは前もって話し合って伝えてはいたが、流石にこういう風にバラすつもりはなかったぞ。
「……あっ、これは……」
「は、悠お兄様? 本当なんですか? アクアとルビーの母親がアイで……あれ? ということは悠お兄様とアイが……? 悠お兄様がアクアで、アイがルビーで、アクアとルビーがパパとママってこと?」
「しっかりしてくださいえりな様!? 何一つ合ってませんよ!?」
自分に訊いてくるが、ぐるぐると思考がまとまらずに混乱の極みに陥る。どうにか緋沙子ちゃんが正気に引き戻そうとしているが効果はない。
「ミネ……バラすとは言ったが、ちょっと口が軽くなり過ぎだ」
「わ、悪かったわよ……緩めすぎてたわ」
「ったく……」
「まあまあ、こうなったらしょうがないよ」
落ち込むミネの肩を優しく叩き、瑠美衣を預けたアイはえりなちゃんに近付いた。
トントンと緋沙子ちゃんを叩く。
「なに──あ」
「私に任せてもらえるかな?」
「は、はい……」
素直に横へズレた緋沙子ちゃんの代わりにえりなちゃんの前に立つ。
未だ混乱中のえりなちゃんに手を伸ばすと、
「えい」
「ぶふしゅっ」
両頬を挟み込みタコチュー顔にする。
その衝撃で正気を取り戻したのか、アイにタコチュー顔にされたまま目を白黒させ、
「──あ」
目の前の推しの子に気付いた。
「はじめまして。……えれなちゃんだったかな?」
「え、あ、え、えりなです……」
「えりな……えりなちゃん。うん、B小町アイ改め斎藤アイです」
「な、薙切えりな、です」
「それと、もうちょっとしっかりした場で言うつもりだったんだけど──アクアとルビーのお母さんだよ」
落ち着いたえりなちゃんの頬から手を離して自己紹介する。
「……」
ただ、落ち着いたからこそ、しっかりと事実を呑み込んで、
「……──きゅう」
「ああ、えりな様ぁ!!?」
「ありゃ」
キャパオーバーしてしまい、気を失って緋沙子ちゃんの方へと倒れてしまうのだった。
Tips『四條家』:
児童養護施設の経営は表の顔。裏では日本を守るため日夜暗躍している諜報機関を束ねる一族。
戦争やテロといった日本に被害が及びそうな物事だけに対処し、普通にニュースで報道される事件事故等には一切関わらない。
漫画やアニメでよくある『裏から日本を支えている謎の機関』的な感じ。一部の名家には知られており、敵対してはいけない相手と認識されている。
ちなみに仙左衛門は原作同様、現在進行中の計画のために法務省に接待や圧力を掛けて海外の孤児に日本国籍を与えていたので、やりすぎないよう四條から電話越しに注意を受けている。