愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者 作:だんご大家族
この話も書いては消しを繰り返し、また別の話がいいのではと、もう一つ書いては比べてをしていました。それと、あとがきに書いた設定とガンブレが悪いんや。オリジナルの設定やミキシング、俺ガン製作の沼は深い……。
「──けぷっ」
「上手にげっぷできたねアクアマリン。おっぱい美味しかった?」
「あう……」
力なくアイに言葉を返す藍久愛海。心なしか瞳から光が失われているように見える。当然か。
薙切家との邂逅も無事に終わったその日の夜。出掛ける直前に決めたように、藍久愛海には粉ミルクではなくアイの母乳を飲んでもらっていた。もちろん、素直に飲んでくれるはずもなく、手足をジタジタしたり顔をそっぽ向けたり、しまいには「飲まなきゃダメ?」なんて昼間の瑠美衣みたいな表情で訴えてきたものだ。
その可愛さに自分とアイが「明日からにしようか」とくじけそうになったが、時間が経ち藍久愛海自身が空腹感とアイの──推しのアイドルのお願いに負けて、どうにか飲んでもらうことができた。
ただし、これまでと違う点が一つだけある。
以前まで特に何も起きなかったのに、今回はアイの母乳を飲んだ藍久愛海の服がはだけたのだ。ちょうど施設でスープを飲んだ時のように。再び起きてしまったおはだけに、藍久愛海の瞳から光が消えるのも仕方ないだろう。
瑠美衣? 瑠美衣はいつもと変わらず、満足するまで口を離さずに飲み続け、今は自分の隣に置いた一人用のベビーベッドの中で涎が垂れそうなぐらい口元と目元を緩ませて、すやすやと夢の中だ。
自分に藍久愛海を渡し、いそいそ服を着直すアイを横目に、藍久愛海に声を掛けた。
「ちゃんと飲めたな、それにおはだけしても泣かずに偉かったぞ藍久愛海」
「だあー……」
「それじゃあ、その調子で明日からも飲もうな。服が脱げるのは……我慢してくれ」
「……」
「うん痛くはないけど、足はやめようね」
いつもならいいけど、今はお母さんが見てるから。
「いーなー。私もアクアマリンに蹴ってもらいたいな~」
「こんな風にお願いされるから気を付けるんだぞ。──攻撃的なスキンシップは父親だけの特権ってどっかの漫画に書いてあったので蹴らせません」
「だう」
「ぶーぶー」
頬を膨らませて抗議するアイに笑みを浮かべる。
「でも、見た目だけなら全然攻撃的じゃないよねアクアマリンは。このまま大きくなったら運動が苦手な、眼鏡と本が似合う文学男子になりそう」
「はは、かもしれないな」
まだまだ先の話に自分とアイは顔を見合わせ、笑い合う。
けれど、服を着直したアイは少し表情を真剣なものへと変えた。
「……ねぇハルカ」
「うん」
「スープを飲んだ時のアレ、教えてくれる? 今みたいにアクアマリンの服が脱げたおはだけって現象と、ルビーがスープを飲んだ時におじーちゃんたちがショックを受けて呟いた神の舌? のことを」
「……そうだな。アイにはちゃんと話しておかないとな」
アイの言葉に腕の中の藍久愛海も自分を見上げていた。藍久愛海をアイに渡し、瑠美衣を起こさないようベビーベッドを側に近付ける。
立ち上がり、壁に掛けてあるホワイトボードを持って戻ってくる。
「とは言っても、自分もそこまで詳しく知ってるわけじゃない。正直、何言ってんだこいつ? って言われるのも予想できるよくわかんない能力なんだ。そこだけは了承してくれ」
「うん」
「──まずはおはだけ。薙切家の人間が美味しい料理を食べた時に服がはだける……脱げてしまう現象のことだ。爺さんも脱げてたのはアイも見てたよな? ……あの時、大丈夫だったか?」
「距離もあったし、ちょっと鳥肌が立ったぐらいだったから大丈夫! ──美味しいものを食べて感動するのはわかるけど、服が脱げるってどんな理屈なんだろ?」
「なんでも薙切の血に流れる精神力によるものらしい。他にもバリエーションがあって、服が千切れ飛ぶようなイメージを見せたり、さっき言った精神力が空気中に放たれて、薙切家以外の人間にも一時的におはだけを波及させて服を脱がすなんてものもあるみたいだ」
持ってきたホワイトボードに、説明したことをイラストにして見せる。デフォルメした爺さんの顔や矢印でできるかぎりわかりやすくするが、
「? ? ?」
余計わからなくなってしまったようだ。
アイと藍久愛海の頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいるのが手に取るようにわかる。
「さらに困惑させる情報を教えると、人によっておはだけするものが変わるらしくてな。爺さんや藍久愛海は服が脱げたが、自分やえりなちゃんの母親の兄──伯父の奥さんがおはだけすると服じゃなくて言葉がはだけるらしい」
「言葉がはだけるって……どゆこと?」
「確かデンマーク人だったか? 日本語は片言しか喋れないんだが、おはだけすると流暢に喋れるようになるって聞いた」
「……」
「ああそうだ、思い出した。まったく気付かなかったけど、どうやら自分もおはだけしたって爺さんが言っていたな」
「ハルカも!?」
「爺さん曰く、感情がはだけたとか。わけわからん」
「……、おはだけって結局なんなんだろ」
ふふ、とどこか遠いところに視線を向け力なく笑みを浮かべてアイは呟く。さっき授乳を終えた後の藍久愛海のように、輝く星が浮かんでいるはずの瞳から光が消えかかっている。流石のアイでもおはだけは消化しきれないか。まあ自分もあまり理解せずにそういうものかと受け流しているのだが。
「話を戻すとして──要は美味しいという感想を表現する、薙切家のリアクション芸だと思ってもらえればいいと思う」
「身も蓋もない……ええっと、つまり、だよ? これからはアクアマリンも美味しいものを食べるたびに服が脱げるリアクションが起きちゃうってことなんだよね?」
「──」
「有り体に言えば」
「それってリアクションのオンオフって……」
「わかんないとしか言えない……何よりまだ幼い藍久愛海にはしばらく無理かなぁ」
精神が成熟していようと肉体は赤子なのだ。精神では我慢しようとしても肉体が我慢できない、なんて経験は自分も憶えがあった。
「あばー……」
「あちゃー、アクアマリンがショックでナマケモノみたいにぐでーってしちゃった。すっごいきゃわ~だけど」
「その気持ちもわかる。料理を食べるたびに服が脱げるのに、平静を保ってるどころか見せつける爺さんがおかしいんだ」
「ねぇハルカ。どうにかおはだけができないように、もしくは脱げかけるぐらいまで抑えることってできないのかな?」
アイの問いに頷いて答える。
「一応、考えている案が二つある」
「聞かせて?」
「一つは自分が藍久愛海に食圧を……圧を掛けて脱げないよう抑えるっていう方法。これは今日、爺さんが周囲の人間におはだけさせてしまわないよう食圧を掛けて抑え込めていたから、効果はあるって証明されてる」
「でも脱げてたよね?」
「
加減はできるが、赤子の耐久力など紙以下だ。そもそも我が子相手に理由があろうと圧など掛けたくない。
やりたくない理由などを挙げてから、続けてもう一つの案を出す。
「二つ目は藍久愛海に食義を憶えてもらう方法。アイたちに学んでもらったように、食義を憶えて集中力等を増してもらい、服が脱げないよう自分自身で抑えられるようにしてもらう」
「それなら……でも何年も掛かりそう」
「そうだな、それがこの案の問題点だ。何年掛かるかわからないから、その間のおはだけは我慢してもらうしかない」
「……その二つの案だったら、私は食義を憶えさせることに賛成かな」
「ああ、自分もだ」
今はまだいいが、成長するにつれて四六時中側にいることはできない。だからこそ藍久愛海自身が上手く制御できるようになってくれることを願うだけだ。もちろんそのためのサポートは惜しまない。
「それじゃあ、次は──」
「神の舌だな。はっきり言ってしまうと──おはだけより厄介な体質だ」
☆☆☆☆
「神の舌だな。はっきり言ってしまうと──おはだけより厄介な体質だ」
私──ルビーが目を覚ました時に聞こえてきたのは、パパの真剣な声だった。
眠たい目をこすって起き上がろうとしたけど、パパの声に起き上がることをやめて、寝てるフリをして話を聞くことにした。眠いのは頑張って我慢する。
神の舌という言葉は憶えてる。私がスープのあまりの美味しさに喜んでいる時に、おじいちゃんとえりなお姉ちゃんが私を見て驚き呟いているのを見て聞いていたから。それにあの表情は憶えがあった。まださりなだった頃、お医者さんに病名を聞かされたお母さんの顔にそっくりで──
嫌な想像が頭に浮かんでいる間に、パパが話し始めた。
「おはだけと同様に神の舌も薙切家の血筋に現れる特異体質だ。ただしおはだけと違い、神の舌を持って産まれてくるのは数世代、もしくは十数世代に一人。体質として挙げられるのは名前の通り、常人以上に鋭い味覚。なんでも、十種類もの違う種類の塩を味見だけで見分けられるらしい」
そんな神の舌を持つ人が産まれるのは、料理界にとってすごく喜ばしいことらしい。
なにそれ、すご。
思わず呟きそうになった。味見で見分けられるってあれだよね。聖徳太子っていう何百年も昔の人が十人同時に話を聞いて全員にしっかりと答えを返したってやつと一緒だ。前世で見たことがある。
実は私、転生だけじゃなくてそんなすごい能力も持ってるの?
ちょっと興奮してきたけど、そんな私を落ち着かせたのもパパが続けた言葉だった。
「けど、料理界にとって慶事だとしても……神の舌の持ち主として産まれてしまった当人からすれば──神の舌を持つことは生き地獄を宣告されたようなものだ」
「どういうこと……?」
どういうこと?
私とママの言葉が重なるが、それすら気にしていられなかった。
眠気はとっくになくなって、私は聞き逃さないようにパパの話に集中する。
「常人以上に鋭い味覚は味の細かいとこまで気付いてしまうんだ」
「細かいとこまで気付く……」
「アイにわかる例えとして挙げるなら……たぶん、絶対音感かな」
絶対音感って言葉も聞いたことがあった。パパがちゃんと説明もしてくれる。
聞いた音を脳が勝手に分析して、知りたくないのに聞こえてくる音を勝手にドレミ~って音階分けしてしまう。だから色んな音が混ざったりすると脳が疲れて頭痛がしたり気分が悪くなるみたい。
それと同じことが味覚という形で表れてしまうんだ、ってパパは言う。ちょっとでも味付けが悪いとすぐに舌が反応しちゃうらしい。
「それじゃあもしルビーが本当に神の舌を持っていたら……」
「自分の料理は……わからない。グルメ食材はきっと大丈夫。けど、たぶんは他は駄目だろうな」
「じゃあ
「ジャンクフードはほぼ全て、舌が受け付けてくれないと思う」
「そんな……」
ショックを受けたようなママの声。
その声は……嫌、嫌だよ。その声は、私をまた狭い部屋に──
また同じように病室に閉じ込められてしまうのではないかと、無意識に私の体が震えてしまう。
「っ、おはだけみたいにどうにかできないの?」
「もちろんある」
ママを安心させるように断言するパパの声に、私の体も震えが止まる。
「おはだけはともかく、神の舌のことだけはずっと考えていたんだ。えりなちゃんとその母親が二代連続で神の舌を持って産まれてきた以上、自分をすっ飛ばして子どもたちに受け継がれる可能性もゼロじゃなかったからな」
「えりなちゃんも神の舌なんだ……」
「ああ。──考えている方法は四つ。一つは自分がずっと瑠美衣の食事を作り続ける。一番楽なのがこれだが、何十年も経って自分が死んだあとはどうにもならない」
二つ目、と指を折る。
「瑠美衣に料理を憶えてもらう。これに関しては藍久愛海に食義を憶えてもらうのと同様、瑠美衣の技量次第としか言えないし、無理強いはさせたくない」
三つ目。
「というより、これは自分が並行して取り組む案だが、自分がノッキングを上達させて永続的に瑠美衣の舌をほんの少しだけ麻痺させる。一番難しい上に、そもそも独学でそこまでいけるかわからない」
ノッキングっていうのはよくわからなかった。
そして四つ目。
「一つ目から三つ目全部やる」
「それは四つ目じゃなくない?」
「まあ確かに。というか、藍久愛海への対応もそうだけど、元から思いつくことは全部やるつもりだし」
「上手くいくと思う?」
「いかないならまた別の案を考えるさ」
あっさりとパパは言い切る。
「別の案がダメならそのまた別の案。それもダメならさらに別の案を──藍久愛海と瑠美衣が安心して食事を楽しめるようになるまで考え続ける」
「──すごいね、ハルカは」
「そう思い出させてくれたのはアイだけどな」
笑いながら、パパが寝てるフリをしている私を抱き上げる。きっと、私が寝たフリをしていることに気付いているはずなのに、パパは髪を優しく撫でてくれる。
本当に……ああ、本当に──
私、産まれ変われてよかった。ママとパパの娘になれてよかった。
たとえ私の舌が本当に神の舌ってものだったとしても、パパはずっとなんとかしようとしてくれる。ママは私を独りにしないでいてくれると伝わってくる。
それがハッキリと感じられて、嬉しさが後から後から込み上げてくる。
でも、ほんの少しだけ言わせてもらえるのなら──
これ以上、私を喜ばせないで。眠気なんて吹き飛んで、今は泣きそうになるのを必死に我慢してるんだから。
「まあ、まだ本当に神の舌かどうかわからないんだ。しばらくは様子を見ていこう」
「そうだね。……安心したらお腹減っちゃった!」
ママの言葉にパパは笑い返して、私とお兄ちゃんをベビーベッドに寝かせると二人でキッチンに向かった。
少しの間そのまま寝たフリを続けていると、
「……ルビー」
隣に寝かされたお兄ちゃんに話し掛けられた。
「……なに?」
「もう我慢しなくていいよ」
「……」
「声を出したくないなら、僕のお腹に顔をうずめればいいから」
「……ふん、お兄ちゃんのくせにカッコつけちゃって」
そんな風に優しくされるとセンセを思い出しちゃうじゃない。
センセとお兄ちゃんが重なりそうになって、思わずツンとした態度で返してしまう。けど、お兄ちゃんはわかってると言わんばかりに私の頭を撫でてくる。
何も言えなくなり、頭突きするようにお兄ちゃんのお腹に顔を埋める。うぐっ、なんて聞こえたが無視だ無視。でも、頭を撫でる手は止まらなくて。
しばらくそうしていると、だんだんと眠気が戻ってきて、いつの間にか私はそのままお兄ちゃんのお腹に顔を埋めながら寝てしまうのだった。
「──おやすみ、さりなちゃん。明日も幸せな日になりますように」
「──あらら、二人とも寝ちゃってるみたい」
「そうだな。藍久愛海の胸? お腹? に顔をピッタリくっついて眠るのは珍しいが……」
「二人が仲良くなってなによりなにより」
「動かすのも忍びないし、今日はこのままベビーベッドで寝かせようか」
「うん。──それじゃあ子どもたちも寝たし、ご飯食べたらハルカも」
「うん? 二人みたいに寝るのか?」
「おっぱいの時間です」
「……」
「おっぱ──」
「強調しなくても聞こえてるから。……え、なんで?」
「昼間、約束したよね? またするって」
「……、……昼間の今夜は早くない?」
「す・る・よ・ね?」
「……、…………。……はい」
「よろしい。──ごっはん♪ ごっはん♪」
「……うぐぅ」
Tips『名称』:
この世界のお店やSNSの略称等は現実と同じだが、正式名称が少し違うので実際に存在する企業名や動画投稿サイトとは関係ありません。
例:マック→マクロナルド スタバ→スターバーゴー等々
Tips『おはだけ・神の舌』:
『食戟のソーマ』に登場する異能あるいは特異体質と呼ばれるもの。初期段階では『神の舌』が舌ではなく『
能力については原作とほぼ変わらないが、『おはだけ』の上位互換である『おはじけ』だけは服が千切れ飛ぶのを幻視するだけで実際には服が脱げるだけとなっている。
本作は基本、悠視点のため詳細が明らかにならないことが多いのでここで一つ設定を開示。
アクアのおはだけは間違いないが、ルビーに神の舌は
これは二人の中にて異能の枠組みにカテゴライズされているグルメ細胞と薙切の血の比率が原因と設定している。
例えば仙左衛門やえりなたち薙切家であれば、薙切の血が異能枠を100%占めている。その一部が突然変異を起こすことで神の舌に変調してしまう。
え? 血族じゃない配偶者たちの『おさずけパルス』? う~ん……『おさずけパルス』が配偶者に特殊な波動を無意識に発して影響を与えたってことで。(脇が甘いガバ設定
アクアとルビーの場合、誕生後の異能枠は薙切家同様、薙切の血が100%占めていたが、グルメ細胞を受け入れられる体で産まれたこと、唯一の食事である母乳にグルメ細胞が含まれていたこと。そういった理由から異能枠内でグルメ細胞と薙切の血の比率ができた。何もなければ数年ほどで適合力もあるグルメ細胞が大多数の比率になり、悠同様に薙切の血の影響はほとんどなくなるはずだったが、スープを飲んだことで薙切の血が反応してしまい、赤ん坊という制御できない肉体のせいで、覚醒した時の比率に応じて二人の体に影響を与えてしまった。
母乳を飲む量が少なく、薙切の血の比率が多かったアクアはおはだけを。
母乳を飲む量が多く、薙切の血の比率が少なかったルビーは神の舌擬きを。
神の舌擬きは、料理の味に対して善し悪し関係なくイメージが浮かびあがるが*1、それ以外は特に影響はない。なのでジャンクフードを食べても問題はない。(カロリーから目を逸らして
なのでルビーが以降、料理を食べても絶望することはない。むしろイメージのおかげでえりなと話が合うかも?
ちなみに悠の場合、異能枠はグルメ細胞100%。ただし、純粋なグルメ細胞ではなく薙切の血を吸収・適応した混ざりもの。服といった物理的でなく、感情という精神がおはだけしたのはそれが原因。なお転生特典はさらに別枠なので影響もない。
――長々と設定を垂れ流したが、最後に一つ。
この作品は多少シリアスはあっても結局のとこハッピーエンドを迎えたいよくある作品です。
なのでこういった変に凝った設定について深く考えないでください。一昔前あるいは今現在よく挙がるチート転生物の話のように設定については頭を「ば な な」みたいに空っぽにして読んでいただければ幸いです。