愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者 作:だんご大家族
施設で薙切家と関係を築き始めてから数ヶ月が経過した。
全員が揃い活動再開を宣言し復帰初回の生放送でインパクトを与えたB小町はその勢いに乗って快進撃を──遂げることなく、以前と変わらない個々の売りを主にしつつアイドルグループ活動を続けていた。とはいえ、以前よりも仕事の幅が増えているのは間違いない。
ただ──
「今月の給料二十数万かぁ……渋いなぁ」
仕事の幅は増えても、給料の増え方は微々たるものだったようだ。
近くでパソコンに向かっているミヤコさんから先ほど受け取った給与明細を見て、ソファに座るアイが呟く。抱きかかえられてる藍久愛海と瑠美衣が一緒に給与明細を眺めている。
自分はミヤコさんの向かいで家計簿を記入しながら話を聞いていた。
「突然どうしたの? ウチみたいな弱小芸プロの利益が薄いのは前から知ってるでしょ。それに渋いって言ってるけど、それでも昇給してるんだから文句言わないでちょうだい」
「それはそうだけどさー……こないだのシングル、オリコン二位だったよね? 臨時ボーナスとか出ないの?」
「残念ながら無理ね。大手と違ってウチは年二回のボーナスで精一杯なのよ。それこそドームライブ成功とかぐらい達成しないと」
厳しいなーなんて呟きながらクッションにもたれる。
労働内容や職種に目をつむり金銭面だけを見るなら、アイの歳で二十万越えの給料は破格だと思うのは自分の前世が原因か。
前世の給料だが、独身の頃は二十万に届かなかったし、妻と子どもがいた頃でアイより少し多いくらいだった。ボーナスも独身時代は貰っていなかったな。蹴落とされたあとは掛け持ちで日雇いやバイトをしていたが十万いったかどうか──確認する前に借金の
ただし、アイが活動しているのは芸能界だ。人気の子役なら今のアイの給料よりも一つ二つ桁が増えてるとか。確か、ハリウッドじゃ世界一有名な子役が億単位のギャラを稼いだとかどっかで見たことがあったな。それを考えると、アイの渋い発言もあながち間違ってないと言える。
「なに言ってるの。確かにあなた一人だったらそうかもしれないけど、悠の稼ぎだってあるじゃない」
「そうだけどー……そういえばハルカってどれぐらいもらってるか聞いたことなかったかも。確かおじーちゃんの依頼で最近は増えてるんだよね」
「まあそうだね」
言葉少なく肯定する。
見せて見せて、と手を差し出してくるので、受け取っていた給与明細を渡す。アイは遠慮することなく封筒から取り出した明細に目を通し、
「え、ええーっ!?」
予想通りの反応を示した。
なんだなんだ、と藍久愛海と瑠美衣もアイの腕の中から給与明細を覗き込んで、
そりゃあ驚くよな。さっきアイが呟いた自身の給料の倍以上あるんだから。
「え、え……ホントにこんなに貰ってるの!? おじーちゃん、孫贔屓してない?」
「自分もそう思って爺さんに訊ねたんだが、しっかり利益に応じた報酬らしく金額ミスや贔屓はないらしい」
確かに今月は依頼数も多かった。確か、依頼の一つにこれから契約する相手との会食を任されたものもあったな。しかも途中で今ある素材だけで料理を作れ、なんて相手側から
「……ハルカの料理にこんな値が付くのも驚きだけど、お金を払う方もたった一食にここまで出せるってことにもビックリだよ。これが大手って奴なの? ミヤコさん」
「そうね。遠月グループは料理界では知らない人はいないほどの超大手。そのトップである仙左衛門さんが参加する会食となれば、人数や相手にもよるけど、一食だけでも万どころか桁が二つ三つ増えてもおかしくない金額が動くはずよ。ちなみに芸能界でも似たようなことが言えるわね。テレビ番組、ライブ、舞台──なにをするにもお金が掛かるわ」
「……世の中、結局お金かぁ」
「よかったじゃない。早めに世界の真実に気付けて」
知りたくなかった、とアイは明細を自分に返しながら呟く。
「衣食住は当然だけど、税金や娯楽、労働──それら全て、生きる上でお金は絶対に切り離せないもの。世の中はお金だけじゃないって囁くイケメンとかいるけど、そういう奴ほど実家の脛齧って生きてるんだから、近付いちゃ駄目よ。……なぁにが一緒に楽して生きない~? だ、ばかたれがッ。親にもらった金でギャラ飲み払ってたのバッチリ聞こえてんのよ……!」
「あはー、ミヤコさんが黒ーい。ミヤコさんも色々あったんだねぇ」
過去の嫌な記憶を思い出し、ダカダカダカと強めにキーボードを打ち込むミヤコさん。ふうと溜め息を吐くと、自分が出しておいたヘタを取ったキューティクルベリーを口に放り込む。
「お金を気にしだしたのは──二人のためかしら?」
「うん。ハルカとも話したんだけどね、私とハルカだけなら別に宵越しの銭は持たない生活でも全然問題ないんだけどさ」
「また漫画に影響受けてる……そういう言い回しは外で使わないでよ?」
「はーい。──子どもたちが将来どんな風に成長しても問題ないようにちゃんと学校に通わせたり、習い事させたり──そういった人生の経験値や選択肢を増やしてあげるには、お金が必要だなって」
「なんだかんだちゃんと考えてるのね」
「もちろん! アクアマリンとルビーのパパとママだからね!」
アイの言葉にミヤコさんは釣られるように微笑み、自然とアイの頭を撫でた。
「あ、でもハルカだけに頼りっきりになりたくないから、大きい仕事取ってきてくれない? ミヤコさん。ギャラ百万ぐらいの──あたっ」
「高望みし過ぎよ、まったく」
調子のいいお願いをするアイの額を、撫でてた指で軽くデコピンする。冗談だとわかっているので、おでこを擦るアイもミヤコさんも顔は笑っていた。
「──さ、そろそろレッスンの時間でしょ。私も事務所に戻るから送ってあげるわ」
「はーい」
ミヤコさんに促され、レッスンで使う物や三人分の弁当が入ったバッグと顔を隠すための帽子を持って玄関へと向かうアイ。子どもたちが見送りのために
瑠美衣が施設で掴まり立ちができていたが、ここ数ヶ月で藍久愛海と瑠美衣は掴まり立ちから掴まって歩き出し、そして最近ついに一人で歩くことができるようになった。もちろんその時の姿はしっかりとカメラで撮って現像している。ただ、やはり乳児の体は不安定で歩けてると思っても不意に倒れてしまうことがあるので、こうして近くで見守る必要があった。
「見送りありがとね。アクアマリン。ルビー。パパと仲良くお留守番してるんだよ?」
「だあ。いってー」
「しゃーい!」
手を振って見送ってくれる二人に、アイは表情を緩ませ、
「あ~もう! うちの子たち、可愛すぎ~♪」
一人ずつ抱きしめて頬ずりをして、最後に二人まとめて抱きかかえた。
抱きかかえられつつ、仕方ないわねといった様子で見守っているミヤコさんに気付いた藍久愛海と瑠美衣は、アイの肩越しにミヤコさんにも同じ言葉をかける。
「……本当に可愛いわね、二人とも」
「当たり前! ……ミヤコさんは子ども作ろうって思わないの?」
「考えたことはあるわよ。でも、今は大きな子ども二人と小さな子どもたちで手一杯」
「子どもじゃなくて孫なんだけどなぁ……ミヤコおばあ──」
「 ア イ ? 」
「──ミヤコさんはミヤコさんだよね、うん!」
一瞬だけ見せたミヤコさんの阿修羅のような顔に、びくぅっと体を震わせたがテヘとどうにか嘘の笑みを張り付けて言葉を訂正する。よろしい、とミヤコさんの呟きにホッと息を漏らす。いや、あの顔は怖ぇよ。
藍久愛海と瑠美衣は抱きかかえられており、アイが振り向いた時には肩越しに自分の方を向いていたのでミヤコさんの顔を見ずに済んだ。たぶん瑠美衣は泣くだろうな、うん。
気を取り直していってらっしゃい、と二人を見送る。
玄関の扉が閉まり少しの間を置いて、自分の足元で藍久愛海と瑠美衣が話し始める。
「……お兄ちゃん」
「なんだ、ルビー」
「私、アイドルってもっと稼げると思ってたんだけど」
「そうか。よかったな、アイが現実を見せてくれたぞ」
「月収100万ぐらいはヨユーだと思ってたのに……あのママでさえ半分も稼げないなんて」
「仮に出演料とかが100万に届いていたとしても、それがそっくりそのままアイの稼ぎになるわけじゃない。B小町の四人で山分けする形になる。見た感じ衣装代とかそこらへんは天引き……給料から先に引かれてるみたいだし。その他にも保険料や年金、税金とかが差っ引かれるから、月の手取りが100万はマジで一握りだ」
「なにそれー!」
うーん。1歳に満たない子ども同士の会話の内容じゃないな。
二人に声を掛けて抱き上げリビングへ戻る。一度下ろして抱っこ紐で支えて抱えなおし、キッチンに立つ。冷蔵庫から食材を取り出して二人に飛び散らないようゆっくりと調理を始める。気分はアレだな、『トリコ』世界の美容師だ。
まあ、瑠美衣が文句を吐いて憤る気持ちもわからないでもない。
アイのビジュアルは良いのは当然のこと歌も踊りも悪くない。それに胡坐を掻くことなく今出かけたみたいにレッスンにボイトレといった練習にも力を入れている。B小町も個々はもちろん、グループとしても緩やかだが右肩上がりで売れているのは間違いない。実際、ミネとナベは得意分野の仕事を着実にこなしている。
ならばどうしてアイには仕事が来ないのか。
単純な話、B小町アイにくる仕事は厳しめに精査してアイに受けさせているからだ。
施設で爺さんがアイの男性恐怖症に付いて子どもたちの前で口走った以上、話さないわけにはいかず、後日しっかり二人に説明している。
二人が産まれる前にアイが誘拐され、その時の恐怖で男性恐怖症になってしまったと。ただしアイの願いで、誘拐したのはアイの実母ではなく暴走したファンだということにしている。
「──それ以来、B小町アイ単体に回ってくる仕事は必ずお父さんやミヤコさん、壱護さんで内容を確認してからお母さんにできるか聞くようにしてるんだ」
「B小町の握手会やチェキ会は出てるのに?」
「ああ。B小町としての仕事ならミネたちがサポートしてくれるからな。けど、単体は違う。だからできるかぎりお母さんの精神的負担にならない仕事を選んでるから、単体の仕事が少ないんだよ」
特にグラビア撮影は厳しめに見てる。ファッション誌からのモデルの撮影の仕事ならまだいいが、グラビア──水着みたいな肌の露出が多い撮影はアイへの負担が大きい。写真を撮るだけだから大丈夫と楽観視していたアイだったが、表面上は何事もなく済んだ撮影後に「あはは、駄目だこりゃ」と帰りの車内で震える体を抱き締めていたのは記憶に新しい。
「それに、人気が出てるのはB小町というグループとしてだ。まだ個人としての知名度は全員低いから、どうしても個々の依頼は少ないんだよ」
「ミネちゃんとナベちゃんはけっこー仕事入ってるよね?」
「ミネとナベはお母さんとニノが活動休止している間もそれぞれ活動していたからね。その分、仕事が入りやすいんだ」
ミネは舞台やドラマといった女優としての仕事。
ナベはアニメやゲームといった声優の仕事。それと最近はミヤコさんの企画の下で歌ってみた動画といった動画投稿あるいは歌手の方面にも挑戦しているらしい。
「じゃあママはこれからもあんまり稼げないの? ママが落ち込んでる顔なんて見たくないよ……」
「お父さんもそこまで芸能界に詳しいわけじゃないから、これは壱護さんとミヤコさんの会話の受け売りなんだけどね──」
曰く、一口に芸能界といってもその分野は多岐にわたる。アイが凄いのは今現在、アイドルという分野に限った話とのこと。それ以外の分野でも一人でやっていける何かが必要らしい。
先に挙げたようにミネなら女優。ナベなら声優や歌手といった武器を持ち始めている。
ニノは……次期当主として色々やっているみたいだが、詳細までは知らない。
そんな武器をアイも手にすれば、確実にアイドルだけじゃない、芸能界のトップに昇りつめられる──なんて。
「……父さん、その時の社長って素面?」
「いや、酔っぱらった席で聞いた」
「……酔っぱらった社長の言葉か~」
「それ一番信用できないよ、父さん」
「……すまん、言っててお父さんもちょっと怪しくなってきた」
酒が抜けてれば信用度も増すんだが……本人がいないところで孫からの信用度を下げてしまった。内心で壱護さんに謝り、詫び代わりに今度持っていくツマミを何にしようか考えながら、藍久愛海と瑠美衣との会話を続けながら調理を続ける。
トントンと食材を切ったりシャリシャリと擦ったりしていると、規則正しい音と揺れが眠気を誘ったのか、藍久愛海と瑠美衣の言葉が段々と少なくなっていき、いつしか夢の中に旅立ってしまったようだ。
間食代わりに二人の離乳食を作っていたが、寝てしまった以上完成しても起きるまでに冷めてしまうだろう。起きるまで中断するかと決めて包丁を置き、藍久愛海と瑠美衣をベビーベッドに寝かせるのだった。
なお、離乳食は好評だったが、瑠美衣にはアイの母乳の方が美味しいと言われてしまった。贔屓目に見たとしても、普通の料理ではやっぱりアイの母乳には敵わないかぁ。
Tips『給料』:
薙切家の人間として表舞台に上がり、連隊食戟で魅せた技術と料理の数々、依頼を通して料理を食べた者。そういった広がりで悠の名前は着実に料理界に伝播しつつある。それもあって少しずつだが報酬は上昇傾向中。悠は大半を使わずに生活費や双子の養育費の貯蓄に充てている。
ちなみに原作よりもグループの人数の減少、個別の仕事が増えているといった理由で、アイたちB小町の給料も、本来よりも増額していたりする。アクルビが生後数ヶ月の現在、
ミネ>ナベ>アイ≒ニノ
微々たる差だが、上記のような給料の違いが出ている。ちなみに悠の給料はミネより多い。
Tips『ミヤコさん』
原作からして作中屈指の良心的母親として常にトップに位置する聖人。ミヤコ“さん”までが正しい呼び方。“さん”をつけろよデコ助野郎。
籍を入れて早々、アイの義母になり困惑や不満でいっぱいだったが、長年共に暮らし接し続けてきたことで、現在では原作でアクアとルビーに対して母性を開花させたように、アイだけでなくミネたち三人からも信頼できる大人であり、また姉のように慕われている。
アクアとルビーが産まれてからはベビーシッターもすることもあるが、基本的には悠がこなしており、また余裕さえあればミネたちも訪れるので、原作のように精神的に追い詰められることはない。ミネたちが甘やかしまくっているので、自分だけは少し厳しめにしようかと思っているとか。
書類上ではアクアとルビーとは祖母と孫という間柄なのだが、流石に30にも届いていない歳で「おばあちゃん」なんて呼ばれたくないため、「ミヤコさん」と呼ばせようとしている。アイたちが冗談で「おばあちゃん」なんて言おうものなら顔がヤバいことになる。イメージが浮かばない人は「鬼麿」と調べればどういうものかわかるはず。