愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者   作:だんご大家族

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 どうにもまとまらず短めです。


十一話

「──おっはよ~」

 

 ところ変わって、レッスンスタジオ。

 ミヤコの運転する車で送ってもらったアイが部屋に入ると、すでにミネたち三人が準備運動をしている姿があった。

 

「おはよう、アイ。……?」

 

 一番に挨拶を返したミネは言葉の途中で疑問符を浮かべ、アイの顔を見ながら首を傾げる。

 

「アイ……なんか元気がないわね」

「そうかな? あ、もしかしたら家を出る前にミヤコさんにおばあちゃんって言いかけた時の恐怖が残ってるのかも?」

「それはそれでアンタの恐れ知らずに呆れるしかないけど……」

 

 パタパタと手を振って否定するアイを見て、呆れた表情を浮かべるが疑問は解消されず、パチンと指を鳴らす。

 

嘘発見器(ニノ)、出番よ」

「その呼び方には悪意しか感じられませんが……はいはい、声音と表情からして本音四割、嘘六割といったところですね」

「聞いておいてなんだけど、え、怖っ……ニノ、アンタ。どんどんアイに対しての変態度が増してるんじゃないの?」

「アイ、早くこっちに来な。今日はアイツの手が届く距離に一人で近付いちゃダメだからね?」

「はーい」

「振られて答えただけなのに辛辣すぎません!?」

 

 もはやお約束と言ってしまえるやり取りを済ませ、コホンとニノが咳払い。

 

「──それで? アイちゃんは何を気にしているんですか?」

「……相変わらずニノちゃんには嘘が通用しないなぁ。あ、でも今日気付いたのはミネちゃんか。私、嘘が下手になってる?」

「いえ、これっぽっちも」

「そっか……」

「そうですね。付き合いが長い分、アイちゃんのことがある程度わかるようになった──という感じでしょうか。このまま仲を深めていけば、いずれツーカーでも分かり合えるように……なにそれ最高では?」

「あ、うん。ニノちゃんとそこまで仲良くならなくていいかな」

「ひどい!? もっと仲を深めましょうよ!」

 

 B小町が結成されてだいたい四、五年の歳月が経過している。最初の二年間で出来ていた溝も今ではすっかり別の感情で埋め立てられており、公私共に仲がいいという、アイドルグループとしては比較的珍しい関係を築けていた。

 アイは三人に対し嘘をついて接することが少なくなり、ミネとナベはアイの言動が嘘か本当かなんとなくわかるようになってきた。ニノは相変わらずアイのことになると言動が怪しくなるが、そこはご愛嬌といった感じになっている。

 

「はいはい、いったん話はここまでにするわよ」

 

 パンパンと手を叩いて仕切るミネ。

 

「アイの元気がない理由とかは後でお弁当食べながら聞くとして、練習はじめるわよ」

「聞かれるのは確定なんだ」

「悩んでたせいで練習を疎かにして、本番で最高のパフォーマンスができなかった、なんてことをされたくないのよ」

「パフォーマンスに支障をきたすぐらいの悩みじゃないけど……」

「だとしてもよ。それに……悩みぐらい聞くのが友達ってもんでしょ」

「ミネちゃん……」

「ツンデレ」「ツンデレですね~」

「そこ、うっさい! ──ほら、さっさと準備運動済ませなさい!」

「──うん!」

 

 

 

 

  ☆☆☆☆

 

 

 

 

 アイはレッスン等の休憩や送迎の合間といった空いた時間にSNSなどで挙がっている自分の評価をエゴサ──エゴサーチをよくしている。最初の頃は暇潰しのための興味本位だったが、今はそれに加えてファンから自身がどう見えているのか、参考になる呟きがないか、情報収集も兼ねるようになっていた。

 今日も同じだった。ミヤコが運転する車の中でミヤコと会話しながらエゴサしている時に、とある呟きを目にしたのだ。

 

 ──アイの笑い方ってなんかプロがやる笑顔

 ──人間臭さがないっていうか…イマイチ推しきれない

 

 その呟きはある意味正鵠を射ていた。

 B小町アイは嘘で出来た偶像だ。ファンがどんな笑顔が好きか調べ、鏡の前で目の細め方、口角、全てミリ単位で調律し、自分に劣情を含めた視線を向ける男性に対する恐怖をぎゅうぎゅうと裏に詰め隠してそんな感情など微塵もないと言わんばかりに、ファンやカメラに向けて笑顔を浮かべる。

 嘘をついてアイドルをしているのは自分の意思だ。けれど──

 

「B小町アイがこういうカタチになったのは、ファン(みんな)欲望(願い)の結果なんだけどなぁ……とか、色々と変な方に考えちゃって」

 

 弁当箱に詰められたタコさんウィンナーをむにむにと箸で摘まみ、口に放り込みながらアイは語り終える。

 切り込みを入れて作った足だけでなく黒ゴマで目を作り、また丸くくり抜いてそこに同じサイズにカットしたカマボコを埋め込んで口まで表現してるという芸の細かさだ。さらにはタコだけでなく蟹やペンギンを模したウィンナーまで入っている。

 

「正直ちょっとどんな重い話かと思ったけど、昔聞いたことより軽そうで安心したわ。──このハンバーグ、豆腐を混ぜてあるわね。ヘルシー目的か嵩増しか……どっちにしろ美味しいから文句ないけど」

 

 以前聞いたアイドルになった理由等から若干警戒していたが、まだミネ自身でも悩みそうな話だったため、安堵しながらハンバーグを食べる。

 一口大に形成された今日のハンバーグは、ひき肉七割、豆腐三割、その他材料でタネを作っており、豆腐の味はするものの肉々しい食感と味を損なうことなく仕上げられており、ヘルシーながらも十分に食べ応えを感じられる一品だ。

 

「ウチも似たようなことしてるから人のこと言えないけど、エゴサはほどほどにしときな、アイ。匿名だからって好き放題言うだけなんだから、意見の一つとでも思っておかないと吞まれるよ。──この出汁巻き卵、どんだけかき混ぜてんだろ。白身が一切ないんだけど」

 

 自分自身もエゴサはしているため、エゴサ自体は否定しないもののやんわりと釘を刺しておくナベは、白身の部分が一切ない出汁巻き卵を眺めて口に入れ、味を覚えるようにゆっくりと咀嚼する。

 作り置きしている悠お手製の出汁と塩、砂糖を加えて溶いた卵を焼いては巻いてを繰り返して出来たそれは、ナベが呟いたように白身の部分が一切なく黄金(こがね)色と呼んでもいいほど綺麗に仕上がっていた。

 

「はぁ~、相変わらずお兄さんの料理は美味しいですねぇ」

「ニノはなんかアドバイスとかないわけ?」

「そう言われましても。自分自身のエゴサはしたことありませんし……ぶっちゃけ、アイちゃん関係ならばわたくしってどちらかと言えばアイドル(こちら)側ではなくファン(あちら)側ですし」

「「それはそう」」

 

 声を揃えて言わないでくださいな、とニノは食事の手を止めずに返す。ハンバーグの横に添え物のように詰められていたレタスとトマトを食べ、

 

(……相変わらずお兄さんが入れる野菜は産地がわかりませんね。時間が経っているにも関わらず瑞々しさが一切損なわれていない。本当に一体どこで買っているのでしょうか)

 

 その美味しさにいつも疑問が浮かんでくるが、まあいいかとそこらへんに投げ捨てる。気にはなるが詮索して料理に使われなくなるかもしれない方が問題だ。ニノはそう判断し弁当の中身には何も触れず満足そうに舌鼓を打つ。

 ニノが感じたように、今回の弁当に入れた生野菜はグルメ食材を使っている。とはいえ、以前に出したベジタブルスカイ産の野菜ではなく、『トリコ』世界の人間界で一般的に流通している野菜たちだ。それでも調理せずともこの世界の野菜より一段上の代物だが。

 ちなみに──ミネたち三人の弁当は生野菜以外はこの世界の食材を使っているが、アイの弁当だけは全てグルメ食材を使用している。アクアとルビーを出産してからは妊娠中のように普通の食材を使った料理を食べてもすぐにお腹が鳴るといったことはなくなったが、それでも空腹になる速度は比較的早くなっており、ライブ活動やレッスン等、激しく体を動かす時はグルメ食材を使った料理を食べる必要があった。

 

「ところで自分自身の(・・・・・)って言ったけど、他のエゴサはすんの? 聞かなくても予想はつくけど」

「当然、アイちゃんのエゴサです」

「まあ、アンタはそうよね」 「知ってた」

 

 すりすりと座ったまま半歩程ニノから距離を取るアイに三人とも気付かないフリをする。

 

「とはいえそこまで頻繁にはしてませんよ。ここのところ実家の方も忙しくなってきていますので。時々、あや……こほん、小鳥遊も休みを取ってどこかへ出掛けるので、特にその間はネットを見る余裕もありませんし」

「え、小鳥遊さん休み取ることあるの? 私が出産した(病気が完治した)後、休んでってハルカと一緒に言ったのに休憩なしでニノちゃんの方へ行ったから、休みなんかないブラックな仕事だなーって思ってたんだけど」

「ああいう仕事も不定期で少ないですが、ちゃんと休日も有休も設定されてますよ。……でもそうですね。アイちゃんの護衛任務後から昔に比べて休みを取ることが増えたと思います。何をするか聞いても誤魔化されるので休んで何をしているのかは知りませんが」

 

 肩を竦めつつも箸の動きは止まらない。

 

「話を戻すとして──申し訳ありませんがわたくしから言えることはありません。先にも言いましたが、B小町アイに関してはアイドル(こちら)側ではなくファン(あちら)側目線なので」

「むぅ」

「ああ、アイちゃんのふくれっ面──カワイイッ」

「そういうのいいから──むしろファン(あっち)側目線だからこそ言えることもあるんじゃないの?」

「それこそナベちゃんの言葉通り、意見の一つとして捉える、としか言えませんね。ファン全員の言葉を聞き入れていたらイタチごっこの話どころじゃありません。先にアイちゃんが潰れてしまいます」

「それはそうね」

 

 ニノの言葉に三人が頷く。

 

「というか何よ、プロがやる笑顔って。こちとらプロなんだけど!?」

「気持ちはわかるけど匿名に怒っても無意味よ。……いややっぱムカつくわ。文句言うならアイの表情の調整一回やってみろっての。あれマジでムズイんだから」

 

 ミネの文句を窘めようとしたナベだったが、アイが常日頃やっている表情の調律方法を教えてもらい実際にやってみたことを思い出し、一緒になって文句を言い出す。内心、食禅と張り合えるぐらいの難易度だと思っていた。ちなみにニノも自前の調律方法を持っていたりする。

 

「……文句とかは出るけど、具体的な意見は出ないわね」

「ぶっちゃけ、そういった悩みの答えって出にくいもんよ。仮にウチらが答えを知っていて、それをアイに伝えても、それはアイ自身の答えじゃないから納得できるかどうかはわかんないし」

「それは……そうだね」

「ありきたりな答えだけど、自分で見つけるしかないんじゃない? 案外、ふとした拍子にあっさり気付いたりするもんよ、そういった悩みって」

「そうなの?」

「ウチらは機械じゃないから悩みが無限ループすることは絶対ない。延々と悩み続けても、何かのはずみで考え方が変わったり、もういいやとか思ってどうでもよくなったりするもの」

「お肉食べたい。でも魚も食べたい。でもでもお肉も食べたい。うーん……やっぱり両方食べる! ──みたいな?」

「……まあ間違ってはないけど。アイ、もしかして似たようなこと名桐に言ってない?」

「……てへ」

「……」

「いひゃい痛い。無言でほっへひっぴゃらないへぇ」

 

 アイの頬をぐにぐに引っ張るナベ。

 無理もない、この末っ子アイドルの食事量は四人の中で一番多い。

 具体的には三人の弁当箱が一般的だとして、アイのだけは倍のサイズなのだ。もちろん、中身はしっかり入っているので弁当箱だけ大きいというわけではない。

 にも関わらずアイの体形はアイドルとして相応しいプロポーションを維持しているのだ。実際に計ったわけではないが、妊娠したことで崩れたはずのウエストもほぼ戻り切っている。食事制限をしたわけでもないし、むしろたらふく食べていそうなのに、だ。

 ──クッソ羨ましいからもうちょっとだけ。

 なんて思いながら、ナベはしばらくの間、アイの頬を引っ張ったり揉み込むのだった。

 

 結局、段々と話がズレていってしまい、この日の相談ではアイの悩みは解決しないまま終わってしまったのはご愛嬌と言うべきか。




Tips『アイ』:
 エゴサして見つけた一文が原因で悩む。それはそれとしてみんなでお腹むにってしないで。


Tips『ミネ・ナベ・ニノ』:
 アイの悩みを聞き出して、一緒に考えるぐらい関係は良好。
 ちなみに三人の食事量は、歌ったり踊ったりとアイドルとして激しく動くこともありエネルギー消費が大きく、一般的な量よりも多め。
 アイの食事量は以前はミネたちと変わらなかったが、ここ数年ほどで倍以上に増えた。なのにお腹周りや体重に変化は見えない。疑問を覚えたミネたちがアイのお腹をむにっと摘まんでも許されるだろう。

「なん、ですって……!」
「嘘でしょ……」

 実際にやって、そこまで摘まめるウエストでもない現実にショックを受けるだろうが。

「はぁはぁ」
「うん、鼻息荒くしながら近づかないでね? ニノちゃんじゃなかったら逃げてるからね」
「推しのウエストをむにっ……むにって。うふふ、そんな大それたことできるファンは世界広しと言えどわたくしだけ、くふ、くふふ……はっ、アイちゃん!」
「なに?」
「レッスンで汗掻いてますよね? 今から一緒にお風呂に行きま──じょう゛っ!!?」
「はーい、一線を越えた変態一匹かくほー」

 メギィ──ッ!!(顔を握り潰す音)

「──」
「よっ……と。ちょっと粗大ゴミ捨ててくるから、先にレッスン始めてて」
「いってらっしゃーい」

 こんなことをしてても、四人の中は日常茶飯事であり、仲は良好なのであった。


 最後に蛇足的に。
 悠はというと──食没を習得しているので好きなだけ食べられる。が、食べた分だけチャージして体重がとんでもないことになるのが嫌なので、70~80Kg前後に体重をキープして食べている。
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