愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者   作:だんご大家族

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 あまり気にならないよう書くつもりですが、幕間は時系列がバラバラになります。とは言っても多少喋る頃~今章最後の話を双子の誕生日にするので、その間になりますが。
 また、幕間では表記していたタイトルも今回から消しました。


十五話

「……すぅー……はぁー……」

 

 えりなは何度か深呼吸を繰り返し、

 

「……、……よし、押すわよ緋沙子!」

「はい」

 

 意を決して目の前の玄関に備え付けられている呼び鈴のボタンに手を伸ばす。かと思えば押すことなく指を引っ込める。そんな動きが何度か繰り返されていた。

 まあ無理もないか、と眺める緋沙子はそう胸の内で呟く。

 

 前回、悠たちと会ってから約数ヶ月。別れ際に仙左衛門が伝えた通り、えりなの味見役の仕事は断りづらい依頼先や予定日が近くキャンセルできないものを除いて、半数以上をキャンセル或るいは延期を宣言。当然、方々(ほうぼう)から疑問や不満の声が挙げられたし、心無い極々わずかな人間は後ろ暗いことを考えていたと情報が仙左衛門の下には届いていた。もちろん、そんな相手を放置する薙切家ではなく、えりなや緋沙子等、未成年者が気付かぬ間に対処されている。

 

 加えて、これまでえりなは仙左衛門に連れられてパーティーなどには参加したことはあっても、親しい間柄の人物の家を訪ねるなんてことはしたことがなかった。唯一親しかった従姉妹(いとこ)の薙切アリスとは同じ家で暮らしていたので、屋内を移動するだけだったと聞いたことがあった。今日みたいに花邑や護衛が隠れて護衛し、二人だけで誰かの家を訪れるのはえりなにとって初めての体験なのだ。ましてや目的地はえりなの推しが住んでいる場所。緊張するなという方が難しいだろう。

 でも、そろそろ荷物が重くなってきたら押してくれませんか? なんて考えてたり。

 

 繰り返しに繰り返して、五度目の正直。緊張した面持ちでようやく押した呼び鈴はピンポーンと軽快なチャイム音を響かせる。

 少し待つと、扉が内側から開けられ、

 

「──いらっしゃい。よく来たね、えりなちゃん。緋沙子ちゃん」

 

 笑みを浮かべた悠が二人を出迎えるのだった。

 

「お、お邪魔します!」

「お邪魔します悠様。こちら、仙左衛門様から遅ればせながら出産祝いとして渡すよう預かってまいりました」

「ありがとう緋沙子ちゃん。結構なおもたせ、痛み入ります」

 

 リビングに入る前に緋沙子から渡された手土産を受け取り、悠はリビングへ二人を案内する。

 室内でえりなと緋沙子を待っていたのは、

 

「あ、いらっしゃいえりなちゃん。えーっと……秘書子ちゃん」

「お、お邪魔します! えと……アイ、お姉様」

「ひ、ひしょこ……!?」

「うんうん。二人とも~、えりなちゃんにご挨拶しよっか」

「いらしゃい」

「えりなおねちゃん! ひしょこちゃん!」

 

 床に座っていたアイとアクア、立ち上がっていたルビーだった。てとてとと危なげない歩みでえりなに近付く。

 驚いたえりなだったが、すぐに膝をつき胸に飛び込んできたルビーを抱きとめる。

 

「えへへー、いらしゃーい」

「す、すごいわルビー! (わたくし)と会わない内にもうこんなに歩けるなんて……!」

「ええ、本当に。でも、なんで秘書子……」

「ひしょこちゃんもいらしゃい!」

「うぐ……、……お出迎えありがとう、ルビーお嬢……ルビー」

 

 変な呼ばれ方を訂正したかった緋沙子だったが、ルビーの屈託ない笑顔の前には何も言い返すことができず、諦めてお礼の言葉だけ伝えた。ちなみに呼び方は、悠が仕事で遠月学園を訪れた際に偶然出会って会話をした時、アクアとルビーに呼称を付けて呼んだのだが、悠から普通に呼び捨てで呼んでほしいと願われ、現在呼び方を修正中だったりする。

 

「アクアも久し振りね。元気だったかしら?」

 

 抱きしめていたルビーを離し、えりなはアクアへ声をかける。

 

「うん」

「アクアはアクアで、赤ちゃんとは思えないほど落ち着いてるわ……」

「だよねー。ルビーは私似だけど、アクアマリンはハルカそっくりでしょ?」

「はい! ……あの、アイお姉様」

「ん? 何かな?」

「施設でも耳にしましたが、本当にアクアのフルネームはアクアマリンなんですか?」

「そうだよ。薙切藍久愛海。それがアクアマリンのちゃんとした名前」

 

 外ではアクアって縮めてるけどね、と続けると、

 

「そうなのですね。宝石が名前の由来なんて素敵です」

 

 えりなは二人にピッタリね、とアクアとルビーに微笑んだ。

 

「もしかして二人の名前は、お姉様が活動中に着けているピアスが由来だったりしますか?」

「お、せいか~い。二人の名前を決める理由になった一つだね。もちろん、ちゃんとした命名理由もあってね──」

「──わぁ……」

 

 なんて、アクアとルビーを囲みながら、名前という話題で盛り上がるアイとえりな。

 それを遠巻きに眺める緋沙子と、もてなしの準備をしている悠。

 

「──」

「どうした? 緋沙子ちゃん」

「あ、いえ……えりな様が楽しそうで何よりだと思いまして」

「そうだな。君も見てるだけじゃなく、一緒に話を聞いたり二人と遊んだりすればいいよ」

「そんな……恐れ多いことです。私はえりな様の従者である身。本来はお傍に控えているだけの立場ですから……」

 

 常日頃からえりなに付き従う緋沙子。しかし、二人の間には如何ともし難い身分の差があることを幼い身ながら緋沙子は教わり、かつ理解していた。だからこそ緋沙子は一部を除き、公の場や人目がある所では分をわきまえ、従者として一歩引いた態度を示していた。

 

「そんなこと言ってるけど、施設でB小町のライブを見てた時は主人だとか従者だとか関係なく、並んで盛り上がってたみたいだけどな」

「び、B小町に関してのみだけです。最初は由緒ある薙切の者がアイドルなんて低俗な芸能活動に現を抜かしているなんて──そう屋敷の者にバレてしまった時のために、私が勧めたということで責を負う覚悟で共に見ていましたが……」

「いつの間にか二人してハマっちゃったと」

「うぐぐ……それもこれも全て、えりな様にB小町を知られる原因となった花邑殿のせいです!」

 

 ぐうの音も出ず、緋沙子はつい責任転嫁してしまう。

 えりながB小町を知ったのは、まだ父親の『教育』の影響から抜け出せきれていない時期だった。あまり感情を浮かべることができず、淡々と一日を過ごし、味見役の仕事ではふとした拍子に『教育』の影響が出ることもあった。

 そんなある日、花邑がえりなの前で手にしていた書類を落としたのだ。仙左衛門の命で調べていた悠の身辺調査──その中の身近な人間の情報が記された一枚に、

 

『……きれい』

 

 アイドルとして活動している時のアイが写った画像が書類に添付されていたのだ。

 偶然──わざとだったと、後に花邑は悪びれずに言ったが──それを拾い上げたえりなはその輝きに目を奪われ、口頭の説明ではなくライブ映像を見せられたことで、産まれてから一度も見たことがない歌って踊るアイドルの姿に魅了されてしまい、緋沙子が気付いた時には、

 

『やっぱりアイは素敵ね。他のメンバーも綺麗で可愛く、カッコいいけど、やっぱり(わたくし)の推しはアイしかいないわ。緋沙子はどのアイドルが好みかしら?』

『──く』

『え?』

『くぁwせdrftgyふじこlp!!??』

 

 敬愛するえりなは、すっかりアイドルにハマってしまっていた。一度観客がやっていたヲタ芸をえりなが知らずに真似した時など、緋沙子は感情がファンブルしてしまい不定の狂気に陥りかけたほどである。えりなにアイドルを教えた犯人が花邑だと知った時は憤死しかけたほどだ。

 結局その後、えりなに付き合ってライブ映像等を見続けていた緋沙子も魅了されてしまい、ナベを推しにするほどアイドルにハマってしまったのだったが。

 

「私もハマってしまった以上、強く言えませんが、花邑殿は由緒ある薙切家の令嬢になんて物を教えているんだと思いましたね……」

 

 光が消えた瞳で遠い場所を見つめるように当時のことを思い出す緋沙子に、悠は苦笑を浮かべて用意したカップにお茶を注ぐ。

 

「でも、その結果が目の前の光景なんだろうね」

「──はい。あんなに楽しそうにしているえりな様はなかなか見ません」

 

 ──ところでアクア? アクアも(わたくし)のこと呼んでみてくれない?

 ──アクアマリン~。えりなお姉ちゃんがごしょもーだぞ~。

 ──……えりなねえちゃ。

 ──ふふ、うふふ……!

 ──いいねいいね。その調子でママのことも呼んで呼んで?

 ──……、……アイ。

 ──う~ん、ダメかぁ。二人の前ではできるだけママやお母さん呼びしてたんだけど、アイ呼びで憶えちゃったみたい。

 ──お姉様……。

 ──おにちゃん……(ジーッ

 ──ぅ……、…………お、おかさん。

 ──え? アクアマリン、今……。

 ──い、今……聞きましたか!? お姉様!

 ──うん……うん! ありがとうねアクアマリン! ママだよ~!

 

「本当に……楽しそうです」

 

 母と呼んでくれたアクアを嬉しそうに抱きしめて頬ずりをするアイを見て、楽しそうに笑っているえりなを見つめて呟く緋沙子。その姿にどこか寂しさを感じる悠は、

 

「……さ、緋沙子ちゃんも距離を置いて自分と話してないで、あの輪に入っておいで」

「いえ、ですから私は──」

「もう一度見てごらん。あの中に身分や立場ってものが含まれてると思うかい?」

 

 そう指摘され、改めて緋沙子はえりなたちを見る。

 確かに本来アイとえりなは立場が違い過ぎる存在だ。しかし、目の前の光景からは微塵もそんなことは感じられず、ただ仲のいい年の離れた姉妹のようにしか見えない。

 いいえ、と返すと、

 

「じゃあもし、外でアイとえりなちゃんが会ったらどう対応すると思う? アイはアイドル、えりなちゃんは薙切家の人間という立場で会ったとして……今みたいに接すると思う?」

「それは……それもいいえ。えりな様は薙切家に相応しい対応をされますし、アイドルとしてのアイさんは予想でしか言えませんが、きっと関係を(ほの)めかすこともないと思います」

「自分も同じ考えだ。──要はね、その場に適した嘘を本当のように見せるのが大事ってこと」

「嘘……」

「切り替えって言った方がわかりやすいかな」

 

 感情や立場、その他様々な理由から、人は誰に対してもまったく同じ態度で接することはできない。仙左衛門が普段は身内に優しいが、こと食のことになれば身内だろうと容赦がない。料理関係者や部下に対してはさらに切り替えているだろう。また、えりなも同様だ。幼い頃共に過ごした従姉妹のアリスとは仲が良かったが、料理にはハッキリと不味いと言っていたと緋沙子は聞いている。

 

「普段はこれまでのように従者という立場でえりなちゃんに仕えればいい。けど、オフの時間は従者としてだけじゃなく友人という立場にも切り替えて接してほしいんだ」

「ゆ、友人なんて……私のような者が」

「自分がえりなちゃんと会ってから二年も経ってないから知らないけど、えりなちゃんは君以外に仲のいい子はいるかい? 君のように同年代で長年過ごしてきた友達は」

「それは……いえ、でも……」

 

 いない。はっきりと言い切れるその言葉を口にするのは流石に躊躇った。

 学校でも授業以外で同級生と話す姿は見たことがないし、何より薙切という立場が相手方からも話しかけ辛くした。正直、緋沙子の知る限り、えりなと仲がいい同年代の相手なんて自分自身を除けば、アリスしかいなかった。

 

「……」

「それに──」

 

 スッと向けられた手の先で、

 

「緋沙子! お兄様とばかりお話ししてないで、こっちにおいでなさいよ。B小町の裏話なんて滅多に聞けないのだから!」

 

 えりなが自分の膝に座らせたルビーの腕を振って、緋沙子を呼んでいた。えりなの向かいではアイがアクアを同様に膝に座らせ腕でこっちこっちと誘いながら微笑んでいる。

 

「──」

「従者の君がご主人様のお願いを無碍に断るのかな?」

「その言い方はズルいかと。……悠様」

「うん?」

「私はえりな様の従者であることを曲げることはできません。これはえりな様のお立場の問題であり、薙切・新戸家の問題でもあり、また私自身の気持ちの問題です。でも……」

 

 誘ってくれている二人の姿を見つめながら緋沙子は思い出す。

 以前もこういう風にえりなに誘われたことがあった。当時は従者であることを理由に断った。しかし、憶えている──断った時にえりなが一瞬見せた寂しそうな表情を。

 あの頃も胸が痛んだが、薙切家に仕える新戸家の人間として正しい選択をしたと思っていた。

 けど──

 

「えりな様の笑顔が増えるなら、自分自身に(・・・・・)えりな様は友達(・・・・・・・)だという嘘をつくのもありかもしれませんね」

 

 そう宣言して失礼します、と悠に頭を下げてえりなの下へ向かう。えりなの隣に腰を下ろして会話をして笑い合う。

 今はそれでいいさ、と内心で呟いた悠は、用意したおやつを並べたトレイを持って、輪の中に入るのだった。




Tips『薙切えりな』:
 他人の家に、大人の護衛を付けずに、遊びに行く、等々はじめてだらけの経験に興奮してなかなか寝付けなかった。帰ったら帰ったで楽しかった記憶を思い出して寝付けなかった。当然、翌日は寝坊した。
 また、その日以降、色々誘っても従者だからと断っていた緋沙子が受け入れてくれるようになったことに若干の疑問を浮かべたが、一緒に楽しめたのですぐに気にならなくなった。


Tips『新戸緋沙子』:
 秘書子って呼ぶな! ……は相手が幼子だったため言えず、受け入れるしかなかった。
 悠の意見を参考に、えりなのためにえりなとの関係を見直し始める。どう変化するかはこれから次第。

 えりな中心の話にするつもりだったのに、書いてる内に秘書子中心の話になってしまった。


Tips『薙切悠&斎藤アイ&アクア&ルビー』:
 B小町や斎藤夫婦以外の人が遊びに来るのは初めてだったので全員、えりなと緋沙子が来るのを楽しみにしていた。
 アイは妹分の相手が出来たり、アクアが初めて母親呼びしてくれたので終始ニコニコ顔。
 アクアは母呼びやそれに伴うアイのスキンシップに照れつつも幸せそうにされるがままになっていた。まだだ……まだ幸せが足らんよ……!
 ルビーは頬ずりされたアクアを羨ましく思ったり、同じように頬ずりされて顔をだらしなく緩ませたり、えりなと緋沙子に遊んでもらえたなど、ご満悦の一日だった。

 悠は基本、一歩引いた場所から眺めたりカメラで楽しそうな光景を撮っていた。ちなみに出産祝いで貰った物がかなり高価なものだったため、内祝いの品を考えるのに苦労したそうな。
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